パン屋と蒼い瞳の少女
ベルカイム王国の関所を抜けると、すぐに商店街が見えてきた。とても活気に溢れていてその場にいるだけで落ち込んだ気持ちがすぐに元気なるような、元気が貰えるような商店街だ。
そう言えばそろそろお腹が減ってきた、どこかに寄ろう。あんまり所持金は持ってないからあまり贅沢はしないようにしないと...
少し歩くと焼きたてのパンの香りがしてきた。なんという芳香なのかしら...。
思わず普段使う事のないお嬢様口調が出てしまった事にほんの少しだけ驚きつつ、店内へ入店した。
「いらっしゃい、お嬢さん。」
「あ、こんにちは...」
パン屋さんの店主さんはとてもハンサムで思わず動揺してしまった...。最も油断している時にイケメン視線ビームを撃たれ、もろに受けてしまった。
「お使い...ではなさそうだね。」
店主が凝りずにイケメン視線ビームを撃ってきたが、今回は覚悟を決めていたので目に見える動揺はしなかった。
「えっと、今、冒険していてちょっとお腹が減ったので、こちらのお店へ...」
「なるほど、そういうことね。...う~ん、ちょっとだけ待っててくれるかな?後ちょっとで焼きたてのクロワッサンが出来るんだよねぇ...」
クロワッサン!!あはぁ〜聞いただけでもう幸せ〜パンの中でも大好物なんです
「是非、下さい!」
私はこれ以上ない誠実な声で答えた。
「ふふふっ、かしこまりました。」
イケメン店主は、はにかみながら工房へ戻って入った。
店内を見渡すと一人の少女がいた。金色の髪は肩まで長く、私と同い年位だと思うけど、こちらを見る視線がとてもクールだった。私が店主にした、気持ちが舞い上がった返事がうるさかったのだろうか、じっと少女はずっとその透き通った蒼い目でこちらを見続けている。私は謝るかのように軽く会釈をした。相手もしてくれた。
「お待たせ、お譲さん。出来上がったよ。」
「わあああ♡美味しそお♡ありがとうございます!頂きます!あっ代金...」
「タダでいいよ。」
「えっ!!そんな...でも...」
「大丈夫、もともとこの店は僕の趣味で始めたようなものでね、本業は別の事をやっているんだ。」
「と言うよりむしろこっちが感謝したいくらいだよ。自分のパンをこんなに喜んで食べて貰う訳だからね。やってて良かったって心から思ったよ。ありがとう。」
イケメン店主はお辞儀した。なんと心までイケメンだったとは...私はこの店主さんのお嫁さんになろうかと一瞬考えるくらい動揺した。取り敢えずお礼の言葉は言っておこう。
「あ、ありがとうございます!」
「こちらこそ。」
お礼を済ませたところで私は早速クロワッサンを手に取った。ああ、もう香りからしてゼッタイ美味しい。頂く。美味しい、美味しすぎる。パンの焼きたての温かさを通して店主の熱意が伝わってくる。
店主はクロワッサンを頬張る私を見てニコニコしていた。金色の長髪の少女は相変わらずこちらを見続けていた。
クロワッサンを頂いた後、私は店主にお礼を済ませ、お店を後にした。するとさっきまで私を見つめ続けていた少女も出てきた。そして落ち着いた声で話しかけてきた。
「貴方、本当に美味しそうにクロワッサンを食べるのね。」
「えっ、う、うん。」
「少し私と話さない?」
少女はクールな視線で私を見ていた。
商店街の中心に広場があり、そこで私達は話した。
「貴方、勇者様なの?」
「うん、まだ駆け出しだけどね...」
「そうなんだ...」
「国王様からご命令を受けてね...これからダンジョンへ行くメンバーをベルカイム王国で集めてくるのがいいだろうってね。」
「そう...大変でしょう...」
「う~ん、そうだねえ〜...。あっそうだ。まだお名前を聞いてなかったね。私はリーヴィア、あなたは?」
「私はエルザ、ソーサレスよ。」
「!!エルザも冒険者だったんだ!」
「まあね」
少し沈黙した後、私はエルザに話しかけた。
「エルザってこの辺りに氷の塔があるって知ってる?」
「ええ、まあ。」
「そこの敵ってフレイムライオンより弱かったりするかな?」
「まあ殆どそうね、頂上にいる塔の主だけ、特別強いけど...」
「そっか...う~んでも迷っててもしょうがない、エルザ、もし良かったら私と一緒に氷の塔へ行かない?」
エルザは特に迷う様子もなく、答えた。
「ええ、いいわよ付き合うわ。」
「ほんとに!?ありがと〜!」
「ふふ、別にいいわよ。リーヴィアと一緒に冒険したら面白そうだなぁって思っただけだから。」
今日初めて出会ったばかりだけど、私はエルザと意気投合した。
「ちょっと聞いていい?」
エルザが問いかけてきた。
「うん、いいよ。」
「フレイムライオンってかなりの強敵だと思うんだけどどうやって撃退したの?」
「ああ、それはね。この勇者の剣のおかげなんだ〜♪」
私は勇者の剣をなでなでしながら取り出した、
「攻撃力が高いの?」
「それは分かんないんだけど、フレイムライオンを対峙した時ね、光ったんだ。」
「光った?」
「うん、そうしたらお座りを始めたの。可愛かったなぁ。」
「ただ魔王に通用するだけの剣ってわけじゃないようね。」
「うん!あ、よかったらこれ読む?勇者の剣についての本なんだけど...。」
「そうねぇ貸してくれる?」
「うん!いいよ〜。」
その後私達は宿屋を探し、明日の氷の塔探索に備えて早めに休むことにした。そろそろ所持金がなくなってきた頃だから、ここで少し勇者の剣の恩恵を受けさせてもらわないとね。イケメンパン屋さんに毎日お世話になりますなるわけにも行かないし...。よーーし明日から頑張るぞーー!