無呼吸薬
「目が霞む...意識も朦朧としてきた...私...は、もう...。」
エルザは半ば諦めの境地であった。
勢いよく飛んできた蔦だったが、突如としてエルザの手前で勢いが止み、そのまま地面へ落ちた。
「...思いつくのが遅かった...、私ではもう出来ない、リーヴィアでないと...。」
コンヒューズプラントの葉の上にリーヴィアが立っていた。
〜〜〜
「エルザ、これって何かの薬かな...。」
数日前リーヴィアとエルザは氷の塔の宝物庫に居た、
「アナライズで調べてみるわ。」
エルザは続けた。
「無呼吸薬...使用すると10分間無呼吸状態になっても酸欠にならなくなる。らしいわ。」
「海で泳ぐ時に使う薬かな...。」
「そうね、主に潜水目的で作られた薬だと思うわ。」
「それじゃあ戦闘にはあまり関係ない物かな?」
「おそらくね、海洋の魔物と戦う時は余程のことがない限り船の上だし、現時点で酸素を操る魔物は確認されてないから、他に戦闘で使う場面が思いつかないわ。」
エルザは続けた。
「まあ、でも一応持っていってもいいんじゃない?何かの役に立つかもしれないし。リーヴィアと私で海水浴に行くかもしれないしね。そういう時に10分間潜水出来ると、なかなか面白いんじゃない?数もたくさんあるし。」
「そうだねぇ、じゃあ貰っちゃうね!」
「うん!」
リーヴィアとエルザは無呼吸薬を10個手に入れた。
〜〜〜
「ディアーヌさんの言うとおり、コンヒューズプラントの花粉は呼吸で体内に吸い込んだ時に効果が出る...。ならば花粉の粉塵が舞っているエリアだけ息を止めればいいってことね...。」
エルザは続ける。
「しかし花粉粉塵エリアはかなり広い...走って範囲外に逃れるとしても5分はかかる。そこで無呼吸薬の出番って訳ね...。呼吸も息切れもせず走り続けられる。」
エルザは更に続けた。
「常識に囚われない柔軟な発想とそれを実行する勇敢な性格...リーヴィアはもう立派な勇者よ...。」
エルザは微笑みながらそう言った。
「ふう〜上手くいって良かったぁ〜!」
リーヴィアは続ける。
「これでコンヒューズプラントさんの花粉攻撃は効かないよ!」
コンヒューズプラントはすぐさま、自身の身体の上に乗っているリーヴィアに対して蔦の狙いを定めた。
「もう遅いよ!」
蔦攻撃が当たる前にリーヴィアは最大火力にまで燃え盛っている炎の剣をコンヒューズプラントに向かって振り下ろした。
コンヒューズプラントは燃え盛り、ゆらゆらと図体を揺らしたと思うと、一つの花弁を落として消滅した。
「んっ...ここは...。」
エルザの回復魔法によりディアーヌは混乱状態が治癒された。
「あっ!ディアーヌさん!調子はどうですか?」
リーヴィアが心配そうにディアーヌを見つめた。
「良好よ♡」
「そうですか!ああ...良かったぁ...!」
リーヴィアは心の底から安堵していた。
「コンヒューズプラントは...?」
「あっ...撃退しました!今はエルザが持っているのですけど、コンヒューズプラントの花弁を持っています。」
「ホントに!?よくやったわねっ♡凄いわ〜♡」
ディアーヌはリーヴィアを抱き寄せ、頭をなでなでした。
「えへへ...///」
リーヴィアは喜んでいた。
「それにしてもごめんなさい...私、本来の役割を全うにできなかったわ...。」
ディアーヌは反省しているようにそう言った。
「いや、それを言うなら私の方ですよ...ずっと混乱してたし...はぁ...。」
エルザの魔法で回復したドレイミーはネガティブな感じでリーヴィアとディアーヌの元にやってきた。
「でも今回は完全にランダムだと思いますよ、相手がはじめに私を狙ってくる可能性だって十分に考えられた...。気にすることないですよ。」
エルザがこちらに向かいながらドレイミーをフォローした。
「本当に?うぅ...ありがとう、エルザさん!」
ドレイミーがエルザに抱きついた。
「えっと...よしよし...。」
エルザはドレイミーの頭をよしよしした。
(ドレイミーさんの方が年上なんだけど...これ失礼よね...)
エルザはそう思っていたが、ドレイミーは凄く安らいだ表情をしていた。
エスケープでフォルトンの森を脱出した4人は、馬車でベルカイム王国へ向かっていた。
「何はともあれ、無事目的を達成しましたね!」
ドレイミーは笑顔で皆に喋りかけた。
「そうですねぇ...。」
エルザは、うとうとしながらそう答えた。
リーヴィアも、うとうとしながら頷く。
「お二人共、お疲れのようですね、ベルカイム王国到着まで仮眠を取られても構いませんよ!お知らせしますので。」
「あぁっ...すみません...それではそうさせていただきます...普段昼寝をしているので、寝ないでいると午後はずっと眠くなってしまうのですよねぇ...すぴー」
リーヴィアはそう応えながら眠った。
エルザは既に夢の中であった。