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ひとりぼっちの世界、たった二人だけの星  作者: 鈴木りんご
三章「人類の樹」
34/51

34話

☆☆☆


 今日、ナリアにお別れを言ってから、もう四時間くらいたった。今の時間は十一時十二分。真夜中だ。それはいつもだったらとっくに寝ている時間。


「そろそろかな……」


 つぶやいて、僕は窓を開いた。


 十二月のきんと冷えた空気が暖かい部屋の中に入り込んでくる。


 だけど大丈夫。ナリアに風邪をひかないようにと口すっぱく言われたので僕は充分な厚着をしている。顔がちょっと冷たいくらいだ。


 僕は窓から身を乗り出して、空を見上げた。


 冬の夜空に星が満開だった。


 部屋のほうに振り返って、蛍光灯から垂れた紐を引っ張る。部屋の明かりが消えた。


 そしてもう一度、夜空を見上げる。


 真っ暗な空間からだと、より近くに星の輝きを感じることができた。それはまるで自分もまた空の中に在るような気分。


 ひとしきりそんな気分を味わってから、手に持っていた目覚まし時計の頭をぽんと叩く。するとバックライトが点灯して僕に時間を教えてくれた。


 今の時間は十一時十六分。後、二分でふたご座流星群の天体ショーが始まる。


 きっとナリアも今、空を見上げているはずだ。


 僕たちは約束をした。今夜、一緒に流れ星を見ようって。


 僕はナリアがどこに住んでいるかを知らない。僕の隣にナリアはいないし、今はパソコンでつながってもいない。


 それでも僕たちは今、同じ空を眺めている。


 真っ黒の夜空に小さな光が線を引く。それはほんの一瞬の出来事だった。


 流れ星だ。僕は生まれて初めて流れ星を見た。


「あっ――」


 また星が流れた。


 本当に一瞬のうちに消えてしまう。


 ナリアの話によればその一瞬の間に願いを三度言うことができれば願いが叶うらしいけれど、これはかなりの難易度だ。


 でもそれくらい難しくて当然なのかもしれない。だってそれだけで願いが叶うのだから。


 また――流れ星。


 僕は願う。


「…………」


 しかし……肝心の願い事をまだ考えていなかった。


 願い事。僕の願い……そんなこと決まっている。普通の人間になりたい。こんな出来損ないの欠陥品じゃなくて、みんなと心がかよわせられる普通の人間になりたい。


 僕だけじゃない。僕とナリア、二人いっしょにそうしてほしい。


 でもそんなことが可能だろうか。星に願ったくらいでその願いが本当に叶うのだろうか。


 きっと無理だ。


 だからもう少し現実的な願い事を考える。


 僕は今、幸せだった。僕は今、一人じゃなかった。僕には友達がいる。ナリアが一緒だから僕は幸せだった。


 そんな僕の願い……


 また流れ星。


「早く、明日に……」


 あせっていたのでこんな願いになってしまった。


 でも確かにそれこそが今、僕が一番望んでいることなのかもしれない。


 だって早く明日になってほしかった。早く、少しでも早くナリアと一緒に遊びたかった。それ以上の願いなんてない。


 だからそれから僕は流れ星を見つけるたびに「早く明日になりますように」と願った。


 だけど何度やっても三回も言い切ることはできなかった。


 手の中で目覚まし時計が鳴った。


 もう十二時六分。タイムオーバーだ。


 しかし――気がついた。


 目覚まし時計を見る。


 願いは叶っていた。僕は今、昨日の僕が願った明日にいた。


 さぁ、今日はもう寝よう。今日は遅くまで起きていたから、寝て起きてご飯を食べる終わる頃にはナリアと会えるだろう。


 そしてナリアが来たら、まず流れ星のことを話そう。


 あぁ……僕は今、幸せだった。

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