第9話 君に捧げる…
クリスマスに陵の家でパーティーがあって、僕は一人で無理やり参加させられた。とにかく、今は遥香の邪魔になってはいけない。僕は彼女に連絡することも罪悪感があった。
「何だかお前は一人だと暗いな。由美が裕紀にプレゼントだってさ。」
「部長さん、これ私から。」
「ああ、ありがとう。」
「そして俺からも。」
「何か僕から渡すものなんて無いから悪いな。」
「いや、良いんだよ。だって、お前に無理強いして来させたようなものだもの。二人だったらお前も来やすかっただろうにな。」
「良いんだ。気にするな。」
この日は静かに過ごせた。陵たちのプレゼントは僕の心を和ませた。なぜなら、久し振りに見る鉄道模型のキットだったから。同封された手紙にこう書かれていた。
「お前は、別れるってことを知らないから別れた時のショックを考えて今のうちに対策を考えておけ。一応、これでも作って何とか気を紛らわせてろ。お前は不器用だから心配になったらいつでも呼べ。」
「何だよ、別れる前提でこんなもの寄こしやがって。」
こうして、僕はそのキットを作り始めたのである。
一月、ちょうど三学期が始まった頃にオーディションの結果が彼女の家に届いた。
結果は…「合格」。
そして、手紙にはこう書いてあった。事務所は神戸にあるので、二月の下旬までに神戸に引っ越してくることと。
しかし、このことを遥香は僕になかなか言えなかった。合格という結果は、僕との別れを意味するからである。僕はある休み時間に彼女に直接聞いてみた。
「そろそろ結果来ただろ?」
「うん。あのね…。」
「合格したのか?それとも?」
「あの…合格したんだけど、素直に喜べないの。」
「合格して、実際歌手になってもいつでも会えるじゃないか。」
「そんな簡単な話じゃないよ。」
「遠くに引っ越すのか?」
「うん。事務所が神戸だからそっちに行かないといけないの。」
「そうか…。」
僕はやっぱりショックだった。それから、遥香は神戸にアパートを探しに行ったりする為、度々学校を休むようになった。もちろん、学校側も事情を知っていたようだった。
僕がしてやれることはもうこれ以上何もないと思った時、先日陵たちに貰って組み上がったばかりのキットを見てふと気が付いた。
「何で灰色なんだ?」
僕はとりあえず組み立てようとして肝心な塗装を忘れていたのだ。
塗料を買ってきて僕は思いついた。
「ここにI love youって書いて彼女に持たせよう。」
それから、放課後を使って陵に塗装を手伝って貰った。
完成した車両はやはり彼女と同じぐらい美しかった。
「お前なかなか良いこと思いついたな。」
「思いつきは良いかもしれないけど、技術がないから。」
「でも、これは遥香が見たら泣いちゃうぞ。」
「渡す時はちゃんと箱に入れて向こうで辛くなったら開けろよって言うから。」
こうして、これで最後になるかもしれない彼女へのプレゼントを用意したのだった。