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第7話 夏の暑い一日

その一週間後、僕は部室で色々な雑誌を見ながら、今回の旅行のレポートの原稿を書いていた。


真夏でクーラーの無い部屋で一人きりでやっていた。すると、後ろからガラガラと戸を開ける音。遥香だった。


「こんな暑い部屋でやっていたら熱中症になっちゃうよ?」

「いや、クーラーに頼ると、冬になって風邪をひきやすくなるってうちの担任が言っていたよ。」

「そっか。はい、これ差し入れ。冷たいよ。」

氷いっぱいに敷き詰めたクーラーボックスには桃と梨が入っていた。彼女はその場で剥いてくれた。甘酸っぱく水気のある桃は、すぐに喉を潤した。

「今、何書いているの?」

「乗った車両を全部調べているんだけど、途中で副部長が記録を取るのを忘れちゃったみたいで、携帯の画像とかから調べている途中なんだよ。」

「どれどれ?大阪から環状線…だったね。うーんとその区間は…。」

「え?分かるの?」

「分かるわよ。ここは201系の体質改善車だった。そうそう、ここは関西地区の201系のトップナンバーの編成だったわ。」

「よく覚えてたね。というか、いつの間に車両の形式とか覚えたの?」

「私だって勉強しているもの。そりゃ、電車と私はライバルですもの。(私は彼に本当のことを話そうか迷った。実は私も鉄子だったということを。)」

「ふふふ。面白いこと言うね。大丈夫だよ。電車よりも君が好きだから。」

「そうやって頻繁に言ってくれると嬉しいんだけどな。そうそう、あと今日は見せたいものがあるの。」

「何だい?」


遥香は徐に部屋の外に置いておいたギターを持ってきた。


「曲を作ってみたの。それでどうしても聴いて貰いたくて。」

「そっか。楽しみだなー。どんな曲?」

「聞いてからのお楽しみ。じゃあ聴いて下さい♪」


―May I love you♪

 私は君に出会った瞬間から、運命を感じていた

 君はいつも、ホームで電車を見ていた

 そんな後姿が素敵だった

 そんな君を私は好きになっても良いですか?

 君とずっと一緒に居ても良いですか?

私は君の返事をずっと待ってるわ♪


彼女の歌は僕への思いでいっぱいだった。今更ながらこんなことを歌われると妙に恥ずかしかった。彼女の歌に酔いしられ、レポートの原稿もだいたい定まった後、僕は彼女を連れ、祖母の家を訪れた。叔母の家族が一緒に住んでいて、叔母は不在だったが従姉の泰子が居たので、入れてくれた。泰子は年が近いせいもあって、急にふらっとやって来る僕にはいつも優しい。


「裕紀、外暑かったでしょう?」

「うん。そりゃ夏だもの。」

「あはは。あれ、そちらは?」

「一応…彼女。」

「ああー。この前言っていた。どうも初めまして。裕紀の従姉の泰子です。」

「初めまして。遥香です。」


こうして、紹介している場面が不思議だった。どうも結婚したみたいで若干笑えた。彼女は祖母の仏前に手を合わせてくれた。この日は、何だか幸せだった。普通の彼女なら、こんなことまでしてくれなかっただろう。今となって思うけれど、やっぱりこの年の女の子では、遥香にしか出来ないことだったんじゃないかと思う。

そして、この頃がお互いに幸せを感じていたのかもしれない。


この先どうなるか知らずに。



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