第3話 僕の秘密
ゴールデンウィークが終わり初めての部活で、彼女が居なかったので僕は部員たちにいきなりこう怒鳴った。
「お前ら、本当に部員か?その日は空けとけって言っていたのに、何でこうなる?おかげで、父親には誤解されるしとんだ災難だ。」
「でもさー部長、俺らは部長の為を思って…。」
「何が部長のためだ。部長のためなら部活のためにちゃんと参加しなさい。」
そう言っていた時に、遥香が入って来た。
「楽しかったわ。また部長とデートに出掛けたいわ。」
「そんなに部長と一緒が楽しかったんですか?」陵はすかさず聞いた。
「松島部長は、遥香先輩に対してどんな風に接するのですか?」後輩部員達も聞き始めた。
「おいおいストップストップ。だいたいデートじゃないし〜。お前ら何考えているんだよ。計画通りのコースで行っただけだぞ。」
しかし、彼女はこう言った。「私答えたいわ。部長はね…。」
「だからストップ。どうしてそうなるかな。もう帰るよ。」
僕はあまりにも自分が恥ずかしくなってしまい、学校のスクールバスの事務所に避難した。
「社長〜、久し振りに遊びに来たよ〜。」
「おう部長。ずいぶん来てなかったね。そうだ、夏休みに新車が入るよ。」
「え?マジですか?」
「今度は観光バスだよ。今度のはスモークガラスで格好良いぞ。」
「ええ。これも普通のバスと同じ塗装にしちゃうんですか?」
「いや、あれはダサいからうちで考えることにしているんだけどね。」
「そうですか〜。楽しみです。」
こんな会話をしているさなか、部活ではこんな会議をしていたそうだ。
ずばり、『シャイな部長をどのように変えていくかについて。』
「やっぱり、裕紀は鉄としては優秀な人間だけど、男としてはそこまでじゃないから、俺は部長にもっと男らしくなって欲しいんだ。」
「そうそう、部長にはもっと色々な世界を見て欲しいって自分も思います。」
「鉄ばっかりの部長も良いですが、恋愛をして困ったときの部長を見てみたいですね。」
部長が居なければこういう話になってしまうのである。
「そこまで部長って恋愛に無頓着なんでしょうか?」急に遥香が口を開いた。
「実はね…ある時までは凄く恋愛にも興味を持っていた人だったんだよ。」
「というと?」
「中学二年ぐらいだったかな、裕紀はその時はまだ部長じゃなかったけど、文化祭の時に一人の女子に声を掛けられたんだ。」
「文化祭のお客さんですか?」
「そう。それで、そのお客さんがどうしても裕紀の連絡先を知りたいとしつこく言って来て、仕方なく教えたそうなんだ。」
「そしたらどうなったんですか?」
「デートに誘われて行ったらしいんだけど、その後のことはよく知らなくて。とにかく、それから部長は恋愛には全く興味を示そうとせず、ただ鉄道ばっかり部活ばっかりっていう生活をしていることは確かだよ。」
「ということは、デートで何か嫌なことでもあったのかしら?」
「さあ?それ以上のことを聞くとまた機嫌が悪くなるから。」
それでも、部員たちはどうにかして部長がどうしてそうなったのか?ということを知りたかった。
「じゃあ機会があれば、私が聞いてみましょうか?」
「お願いします。こっちは真面目に心配しているのに、あんな状況だから…。もうちょっと青春して欲しいんです。せっかく共学になったのに…。」
数日後、遥香は僕を呼び出した。
「ねーもうすぐ文化祭の準備を始めるって副部長が言ってたけど、中学の時の文化祭とかどうだったの?」
「中学の頃はたいしたことをしなかったよ。」
「お客さんとかの傾向はどうだったの?」
「中二の時に凄く女子が来てたなー。思い出したくもない。」
「何かあったの?」
「いや、なぜかあの連中は僕の連絡先を知りたがっていて、ある数日後に食事に誘われたんだ。」
「それで?」
「それ以上は話せないよ。だいたい何でそんなことに興味を持つの?」
「いやただ、部長みたいな人がなぜ恋愛とかに興味を示さないのか気になって。」
「僕は興味がないとは一言も言ってないよ。ただ、もし恋愛をしたとしても自分はもう価値がないのに等しい人間なのだから。」
僕は言えなかった。三年前のあのことを。
「そこまで言うのなら…」その日はそれで別れた。
一週間後、また二人で話す機会があった。
「この前話していたことだけど、私の過去の話と交換にしない?」と遥香はいきなり言ってきた。女の子の秘密を聞き出すパターンだ。
「そんな交換するに値する話でもないかもしれないしそんなのでも良いの?」
「別に。私の話は友達にもしたことない初恋の話なんだけどね。それで良い?」
「そこまで言うなら。」
「じゃあ話すね。」
―私の初恋は、中学二年の夏だった。私は、真夏のテニスコートでラケットを振る一人の男子に一目惚れした。私は、その日から何度も何度もその人がテニスの練習をする姿に惹かれて見に行った。ある日、その人は私が毎日見に来ていることに気が付いたようで、「ねえー君、テニス部入りたいの?」と話し掛けてきた。それが最初の会話だった。私はびっくりして、思わず逃げようかと思った。何せ良いなと思った人にいきなり話し掛けられたから。でも、「私は、テニスを見るのが好きなんですが、自分でやるのはどうも…。」と答えた。それから、しばらくこの彼のテニスをしている姿を見る為だけに学校に通った。たまに、彼はジュースを奢ってくれた。それが彼へ近づける唯一の時間だった。
ある日、いつもの通りにテニスコートに見に行ったら、彼の姿が無かった。もしかしたら部室に居るのかも?と思って、私は部室の方へ向かって歩いていた。そしたら、彼が一人の女子と抱き合ってキスをしていた。私はショックだった。あんなにテニスに打ち込んでいる人にも彼女が居たなんて…と。
「男ならやっぱり恋愛の一つや二つはあるんだと思うけどね。それが何かに打ち込んでいる人やそうでなくとも。でもその気持ちは分かるよ。やっぱり好きな人が別の男と一緒に居るとか耐えられないもの。」
「そっか。じゃあ部長の話を教えて。」
「仕方ない約束だからね。」
―三年前、文化祭の時に女子が数人でうちの部活に来たんだ。それで、あの時にまだ部長でもなく、普通の部員だったから奥の方に座っていた。でも、彼女たちの中の一人がそんな自分にこう話し掛けたのだ。「鉄道面白い?」って。「ええ、人の生活にとって必要な存在でもありますからね。だいたいの人が毎日会社に行くにも学校に行くにも電車を使うじゃないですか?休日や連休には町に出掛けたり静かな場所に出掛けたり。列車も色々な種類があるし、鉄道は面白いですよ。」と僕は答えた。彼女は、「あなたのお話、もっと聞きたいです。もし良かったら連絡先教えてくれませんか?」と言われたのだ。それから数日後に、食事に誘われた。最初は、色々な鉄道の話について質問され、その度に答える形だった。食事が終わってから彼女は散歩に誘った。人影の少ないような公園に辿り着くと彼女は突然、抱きつきキスを始めたのだ。僕はあまりにも急なことだったのでショックが大きかった。それ以来、彼女には会わなかったし、携帯のアドレスも電話番号も変えた。自分はもう価値のない人間なんだよ。何とも思っていなければ、名前も知らないような女にもうすでに女に手をつけられている。自分が浮ついていたから自分で未然に防ぐことも出来なかったし、こうして突然起きたことにも対応しきれなかったんだ。だからそれ以来、鉄道のことばかり考えるようにして自分を追い詰めたんだ。
「そんなことがあったんだ。逆に聞いて悪かったような気がする。」
「いや、いつかは分かってしまうことだから。」
「価値が無いなんて言わないで。一回ぐらいなら仕方ないじゃない。」
「今、こうして同じクラブの部員としては良いのかもしれないけど、それ以上になるときっと自分の価値の無さが分かるはずだよ。」
すると、遥香はいきなり目の色を変えてこう言った。
「そんなの実際に付き合ってみないと分からないじゃない!もしかしたら相手がもっといい男に変えてくれるかもしれないじゃない?それが誰であっても、私であっても。」
「え?今何て言った?」僕は目を丸くして、聞き返した。
「…えーっとー」
「今、君は誰かもしくは君自身が僕を良い男に変えられるかもしれないって言ったよね?」
「(あーやっちゃった…)つい…何だか…。」
「いや、良いんだよ。それが君の考え方なのだから。色んな考えを持つ人は世の中には居るさ。」
彼女は自分に悪いと思ったのか、「じゃあまた今度ね」と行って立ち去ってしまった。




