第20話 蘇る記憶
ある晩、確か京子の四十九日の晩であっただろうか。僕は夢を見たのだ。それは、遥香との思い出を振り返るような夢だった。
僕は次の朝、妻が亡くなってからずっと誰にも会いたくは無かったがその夢を見て、ふと友人の陵に会いたくなって、うちに招いた。
「裕紀、久しぶりだな。大変だっただろう。」
「ああ。自分が悪かったんだ。」
「そう、自分を責めるなよ。自分を責めたって前に進めないぞ。」
「分かってる。」
「それより、何か話があるから呼んだんだろ?」
「ああ。実は昨日の晩に遥香との思い出を振り返る夢を見たんだ。」
「そうか。あれから彼女は新曲を何枚か出して、それがまたヒットしたから誰も遥香と連絡が取れなかったな。」
「でも、こんな話していたら京子に申し訳ないから。ただ高校の時が懐かしくってな。」
「そうだな。もう十年も経つんだな。あっ、お前覚えているか?」
「え?」
「二回目にブリスベンに行く時、彼女が高校の時にお前に充てて書いた手紙があってお前に渡しただろう。」
「ああ。」
「もしかして、捨てたか?」
「分からない。実は仕事が忙しかったから、部屋の片付けとかも全くしてなかったんだ。もしかしたらスーツケースの奥にあるかも。」
「じゃあ持って来いよ。」
「ああ。」僕は、留学の時に使っていたスーツケースを納戸の奥から取り出し、開けてみた。
「あった。」僕はその場で開けられなかったので、陵に開けて貰い呼んで貰った。
―裕紀へ
朝のやわらかい光がカーテンから差し込んでくる部屋で今、私は作詞をしながらこの君への手紙を書いています。毎日見かけているのにこうして手紙を書くのは何だか照れくさいですね。私が君と出会ってもうすぐ一年ですね。私にとっての君はかけがえのない存在だけど、君にとってはどうなのかな?次の一年はどう過ごすのかな?また、一緒に電車に乗って出掛けられるのかな?私に何回好きって言ってくれるかな?そんなことも考えちゃいます。こんなに近くに幸せがあるのに、私は夢を追う必要があるのだろうか?なんて考える時もしばしば。そんなこと言ったらあなたに怒られちゃいますね。
ねぇ十年後の気持ちって変わるのかな?十年経ってもずっと歌手で居たいって思うのかな?十年後の君はどんな人になっているのかな?どんなに離れてしまったとしても、君は私のことを忘れないで居てくれるかな?どんなに会えない時間が多かったとしても、君は忘れないで居てくれるのかな?そんな不安を思っても私はいつも、君を思っています。
「そうだお前、小説でも書いてみろよ。俺ら、高三の時に皆で書こうって言ったけど、結局書
けなかったじゃないか。でも、お前はこうして時間に余裕が出来たことだし、書いてみろよ。気持ちの整理もつくだろうし、若返るかもな。今のままじゃあ、五十代のおっさんだ。京子さんにこんな所見せていたら、あの世で浮気されちゃうぞ。」
友人の陵に言われたこの一言がきっかけで小説を書き始めた。終日ずっとパソコンに向かってひたすら遥香との思い出を書き続けた。
二週間掛かって、やっと原稿が完成した。




