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第19話 幸せと絶望

それから数年後、僕は無事に大学を卒業して、旅行会社に就職した。


その翌年に、僕は大学時代に同じキャンパスで出会った日本人、京子と結婚した。彼女は、高校時代マレーシアに留学した後、同じ大学へやってきた。彼女は日本人と言っても、ただ単に両親が日本人で日本語が喋れるだけで日本でのニュースなどは全く知らない。もちろん、僕の身に起こったこの大騒動も知らなかった。


彼女は遥香のようにとても優しかった。僕が彼女に惚れたのは、僕が自信を失くしていた時に、彼女が「裕ちゃんなら大丈夫。」と手を握りながら言ってくれた言葉だった。彼女を両親に紹介した時、やっぱり両親は喜んだ。遥香とのショックから立ち直れないんじゃないか、口ではもう良いやと言っていた僕がそれでもずっと遥香を待ち続けているのではないか、とにかく両親は心配だったようだ。


結婚して五年、彼女は子供を身ごもり幸せの絶頂だった。

僕は仕事が忙しく、出張する日がたくさんあった。なるべく時間を見つければ、彼女を産婦人科まで車で連れて行っていたのだが、その日は大事な会議があって休めずに普通に会社に行った。

「忘れ物は?」

「大丈夫。ごめんな、今日は休めないんだ。タクシー呼んで病院行って来いよ。」

「大丈夫。心配しないで。今日も早く帰って来てね。」

「うん。じゃあ行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」


妻はこうして玄関で毎日「忘れ物は?」とか「早く帰ってきてね。」と言いながら手を振るのが日常的だった。まさか、この日常的な光景がこれで最後とは露知らず、僕は会社に出掛けた。


会社で会議の準備をし終わった後、昼休みの食堂で、いつものようにテレビを見ながら妻が作ってくれた弁当を食べていた。

ふとニュースの速報が流れた。


「東京都内で飲酒運転の車によるひき逃げで妊婦が死亡。 …松島京子さん(二十七)」


そのニュースを見て僕は急いで、家に帰った。やはり、妻は居なかった。

家には、警察が居てやっとのことで変わり果てた京子と対面出来た。信じられなかった。


「もし、僕が会社を休んで、ちゃんと京子を病院に連れて行ってあげて居ればこんなことにはならなかったのに…。」自分に責任を感じた。


僕は京子の通夜と告別式が済んだ後、その罪の重みから仕事のやる気も失くしてしまい、とうとう仕事を辞めてしまった。


一日中部屋にひきこもり、何度も自分を傷つけ、自分も京子の所へ逝こうと試みた。両親や従姉の泰子が心配して、毎日交代で面倒を見に来てくれるようになった。


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