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第18話 辛い別れ

「遅くなってごめん。」僕はそう言いながら、彼女の前に現れた。


「大変だったでしょ。」

「まぁね。」

「私、どうしたら良いと思う?」

「僕に聞かれても。」

「私はあなたを好きなのに、あなたを諦めて世間体を気にする事務所のせいで歌手を続けなければならないのよ。」


「それなら…それなら、僕を諦めろ。それしか方法は無い。」


帰国して彼女と会えなかった数日間、ずっと考えていた。もうこの時が来たのだと。


「それでも良いの?」

「良いはずがない。でも、前に言ったよな。好きなことと恋愛を同時にやって行こうと思っても上手く行くことはないのが普通だって。」

「そうだけど。」

「自分なりに考えてみたけど、一度に何事も上手く行ってしまったら人生で与えられた運を使い尽くしてしまうからなんじゃないかな?人生ってずっと幸せっていう訳じゃないでしょ?辛い時だって悲しい時だってある。色々なことがあるよ。大人になるにつれ、自分の世界が広がっていくし気付くことも多くなる。だから悩ましいし難しいけど、その分喜びも楽しみも大きくなるよ。」

「そうかもね。」

「僕は、遥香に自分の世界を広げて欲しい。僕のことは気にしないで。歌に集中すれば、もっと楽しいかもしれないし、もっと良い曲を作ろう心掛ければもっと君の曲を聴いてくれる人が増えるかもしれないし。」

「裕紀、あなたは本当にそれでも良いの?」

「それが運命なら仕方ないと思う。もし、これで君と縁が無ければもう二度と会えないだろう。縁があればもう一度会えると思う。僕はそう信じる。」

「でも、まだ別れるって決めた訳じゃないんだから、そんな寂しいこと言わないで。」

「君が曖昧な気持ちだからみんなに迷惑を掛けているんだろ!僕の気持ちなんてもう考えなくて良いんだよ。」


僕は彼女の言葉にじれったさを感じ、ついカッとなって怒鳴ってしまった。すると、彼女は突然泣き出してしまった。


「ごめん…。でも、私が居なくなったらあなたはまた一人になるでしょ?ほっとけないの。」

「僕は、留学してからずっと一人だったからもう慣れてる。心配されなくても大丈夫。遥香は、せっかくこうやって有名になったんだから名前を捨てて逃げ出しちゃいけない。僕なんか忘れろ。そして、自分のレールを進めよ。もう、僕たちはポイントは通り過ぎて、それぞれ別の道を歩もうとしているんだから。もしかしたら、もう一つポイントがあって、合流出来るかも知れない。その時があったら一緒になろうじゃないか。」


僕は彼女を宥めながら、そう言った。それでも、彼女は別れるか、別れないでこのままかはっきりとした答えを出さなかった。しかし、僕の心は決めていた。たとえ彼女がどんな答えを出そうとも僕は彼女と同じ世界に居る人間ではないと分かっていたからだ。僕はその日、彼女と別れてから何だか切なくなった。


とうとう彼女ははっきりとした答えを出さないまま、ブリスベンに帰らなければならない日が来て両親と空港で話していた。


「もう行っちゃうのか?」

「うん、そりゃ長居したら英語喋れなくなるもの。」

「そうだな。次はいつ帰って来る?」

「もう、卒業まで居るよ。また荷物とか送ってよ。」

「分かった。」

「ねぇ、遥香ちゃんのことはどうなったの?」

「もう考えない方が良いみたいだ。うちにだってあれだけ迷惑掛けたんだからもううんざりだよ。スターになったら一般庶民とは付き合ってはいけないんだ。」

「本当にそれで良いの?」

「諦めない限りは、父さんや母さんにも迷惑掛けるだろ。後はもう本人の気持ちと縁だと思うから。」

「おーい裕紀。」出発する直前に陵がやって来た。

「また当分帰って来れないんだろ?」

「ああ。」

「ちょっと、これを渡したい。」

「何だ?」

「実は、遥香が高校の時にお前に宛てて書いた手紙だ。」

「今更なんだよ?」

「お前が辛くなった時に開けると良い。」

「お前読んだのか?」

「いや、遥香がそう言ってたから。」

「でも、諦めようとしている時にこんなものを渡されても。」

「忘れた頃に見ても良いじゃないか。とりあえず、持って行け。」

「そうか。ありがとう。」

「じゃあ気をつけてな。」

「うん、泰子にもよろしく。あと、由美にも。」


その晩、ブリスベンへ行く飛行機に乗った。


着いてから数日、やっぱり、しばらく遥香のことが忘れられなかった。友達にもハウスメイトにも「何かあったのか?」と言われた。僕は姉のように接してくれて僕と遥香を再会させてくれた友達にこう言われた。


「あなたがもし本当に彼女のことが好きならば、待つべきでしょう。しかし、私はこういう場合どうすれば良いか分からないから、時の流れに任せる。もしかしたら、彼女以上にあなたのことを思ってくれる人が出来るかもしれない。今は辛いかもしれないけど、きっと辛い思いをした分、良いことがあるから。」彼女の言葉は大きかった。

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