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第17話 落ち着かない帰国

成田空港に到着し、僕はほっとした。


「やっと東京に着いたね。」

「一年半ぶりだ。こっちは寒いのかな?」

「うん、もう十一月だしね。あっ、そうそうこの前フォンカード使って事務所と連絡取ったときに言われたんだけど、ちゃんと変装しなさいって。あと、何を言われても黙っていることって。」

「え?何でだい?」

「多分、私たちの帰国を待っている記者がいっぱい居るからでしょう?私、事務所には裕紀のこと言ってなかったの。だからこうして余計に大ごとになっちゃって。」

「そうなんだ。」

一応彼女の言うように帽子を深く被って到着ロビーに出るとやはり、報道カメラばかりだった。僕らはそれを避けるように歩いたが、彼女のスタイルが良いこととそれに不釣り合いな僕が一緒に並んで歩いているせいもあって、結局バレてしまった。


「川崎さん、この方が交際をしている彼氏ですか?」

「川崎さん、事務所では交際は一切無いとのことですが?」


記者はしつこかった。次の瞬間、前から彼女のマネージャーらしき人が来て、彼女を連れてさっさと行ってしまったのである。「裕紀!」彼女は僕を呼んでいた。


質問の嵐は僕に降りかかってきたのは言うまでもない。


「川崎遥香さんについて、どう思っていらっしゃいますか?」僕は彼女が最後に何も喋るなと言った言葉を守れず、とうとう言ってしまった。


「私は…私は彼女のことが好きです。彼女はこうして歌手として忙しい中でも僕に会いに海を越えて会いに来てくれました。僕は彼女のそんな思いを台無しにしたくはありません。」


そう、インタビューに答えていると「おーい、こっちだ。迎えに来たぞー。」と陵がやって来た。陵は連日の報道を知っていてわざわざ車で迎えに来てくれたのだ。

一人になってしまった僕にとって心強かった。


「陵〜。久しぶり。」

「おい、挨拶は後だ。とにかく急ぐぞ。あいつらは自宅でも待ち構えていると思うから、とりあえずうちに車で直行するぞ。来い。」

「悪いな。」「松島さん、松島さん」と後ろから記者達の僕を呼ぶ声が聞こえたが、僕と陵は急いで車に乗り込んだ。


「はーとりあえず、助かった。」

「お前、こう言う時に二人で帰ろうとするのは危険だ。」

「そうなのか?」

「実はお前の親父さんが迎えに行くって言っていたけど、親父さんの家はもう完全包囲されていたみたいで、代わりに行ってくれって言われたんだよ。でも、今親父さんは君を迎えに行くふりをして、おとりとして撮り鉄に出掛けたんだよ。ちょうど今頃、親父さんの車を追った記者たちは騙された〜って後悔しているんだろうな。」

「あはは。相変わらずオヤジらしいな。」

「しばらくうちに泊まると良い。記者たちが諦めた頃にご両親が連絡をくれるって言っていたから。」

「そうかー。」


結局、その日の夕方にはほとんど撤収したみたいで、一年半ぶりに我が家に戻った。


「おう、元気だったか?」

「まぁね。」

「それにしても、留学から一時帰国しただけでフラッシュを浴びるようになるなんて、すばらしい息子だ。」

「何馬鹿言ってるのよ。おかげでうちは迷惑しているんだから。」

「本当に悪かったね。」

「父さんのおとりは記者達が腰を抜かしたよ。息子が留学から帰ってくるというのに、鉄道の写真を撮りに行っているなんて馬鹿な父親だって。」

「でも、それが父さんらしくて良いじゃない。」

「そうそう、おかげでこんなの撮れたぞ。原色のPF!」

「また始まった…。」


まぁこの先は皆さんも分かる通り、母もこのように飽きれ始めたということはマニアックな話になる訳なので一先ずこの辺で中止。


でも、僕は一言父を紹介させて下さい!


「こんな人ですが、僕にとって世界一でたった一人の父です!」


こうして、久しぶりにゆっくりとした家族団欒を楽しんだ。


遥香と連絡が取れないまま、日本に帰って数日経った。朝の情報番組をつけたら、遥香のニュースであった。


「歌手の川崎遥香さんが、交際関係を巡って所属事務所と対立していることが分かりました。川崎さんは、交際を認める記者会見を開かせないのなら事務所を辞めると言っており、事務所側はオリコンで常に上位を記録している川崎さんを手放さまいと交渉を続けているようです。」


僕は驚いた。つい何年か前までは他人事のように思って来たことが今自分と遥香の問題として目の前で起こっている。その時、彼女が電話を掛けてきた。


「裕紀、今何してる?」

「ん?テレビ見てるよ。」

「何か迷惑かけちゃってごめん。」

「いや、良いんだよ。」

「ねえ、今から高校で会わない?」

「そっちは大丈夫なの?」

「うん。今、由美ちゃんの家だから。」

「そっか。じゃあ高校のどこで?」

「河原のところで。」

「了解。」


僕は、家の前に群がっている記者たちを何とか振り切って約束の場所に辿り着いた。

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