第16話 消えた歌姫
その翌日、僕は学校を休み、彼女を連れてシティに出掛けた。
「せっかく来たんだから、観光して行ってよね。」
「楽しみだな。」
「でも小さい都市だから、あんまり期待しないでよ。」
そう言いながら、二人で街を散策した。その場面をカメラで撮られているとは知らずに…。
「歌手、川崎遥香。超遠距離恋愛発覚!」平成の歌姫、川崎遥香さん(十九歳)に恋人が居ることが発覚しました。お相手は歌手活動を心の底から応援してくれた高校時代の同級生松島裕紀さん(十九歳)。彼との出会いは高校二年生。彼は当時、鉄道研究会の部長で、彼女はその部員だった。何とアプローチは彼女からだったとか。彼女のファーストシングルは始め、彼へ思いを告白した時のフレーズだったそうだ。卒業後、松島さんはオーストラリアブリスベンへ留学。連絡を取っていなかった川崎さんは、友人を通して彼が留学したことを知り、一年半ぶりに会いに行ったようだ。しかし、所属事務所側は単なる休暇であり、相手の男性は単なる現地のツアーガイドであると説明している。(写真、十七日昼、ブリスベンのシティの街中を仲良さそうに歩く二人。)
翌日、日本ではこんな紙面が世間を賑わせていた。彼女の事務所も対応で大変だった。なぜなら、彼女は今海外に居るので連絡が取れない。僕もそんなことを知らずに。
その朝刊が出版された日の夕方、僕のこっちで買った携帯に母親から電話が掛かってきた。
「もしもし。ねー裕紀、ちょっと大変大変。」
「何?どうしたの?母さんがこっちに電話してくるってよっぽど大変なんでしょ?」
「決まってるじゃない。ねえ、そこに 遥香ちゃん居るでしょ?」
「うん。居るけど。何で知ってるの?」
「良いから。とにかくちょっと変わって貰える?」
「良いよ。」
「もしもし。お電話代わりました。」
「ちょっと、大変よ。あなたと裕紀の写真が今朝の朝刊に載っちゃったのよ。事務所の人はあなたと連絡取れないから困っているみたいだし。」
「え?」
「何か、あなたを追跡していた記者が撮って記事にしたみたいよ。」
「はー。私どうしたら良いんでしょうか?」
「ちょっともう一回うちの子と代われる?」
「何?」
「裕紀、遥香ちゃん連れて日本に帰ってきなさい。」
「はい?」
「だから、帰って来いって言っているの。」
「何を言い出すんだよ。急に。」
「来週、再来週休みでしょ?一年半も帰ってないんだから、そろそろ一回ぐらい帰ってきなさいよ。お父さんも寂しがっていることだし。」
「はいよ。」
「じゃあまたね。」
母はそう言って、電話を切った。僕は急いで、フライトの予約を取った。
それから出発の日まで、授業が無い時間は彼女と買い物に出掛けたりして過ごした。授業中は、日本人の女の子の友達に頼んで遥香と一緒に居て貰った。やっぱり心配症だからである。
その五日後、僕は彼女と共に飛行機で帰国した。




