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第15話 異国での再会

留学してから一年半が経った、十月。毎月一度の陵から便りが届いた。


―裕紀、元気か?

こっちは楽しい大学生活を始めて半年が経った。由美も同じ大学だしね。そうそう、この前久しぶりに学校に行ったら、スクールバスの会社の社長とかが「会長どこに行っちゃったの?」って未だに言っていたよ(笑)。ちゃんとオーストラリアで勉強していますと伝えておいた。あっそうそう、封筒の中に二枚CDが入っているでしょ?それが遥香の出したフォースシングルとファーストアルバム。ドラマのエンディングとかにも使われているぐらいだから知名度は高いよ。テレビのインタビューとかでも度々見たりとかね。俺は音楽に疎いから、詳しいことは由美に聞いて頂戴って感じなんだけど。ジャケ写は何か別人っぽいよな。ついつい見とれちゃった。さすが、お前の彼女だな。羨ましいぜ。

そうそう、まだ遥香と連絡つかないんだよ。お前のこと忘れてないと良いけど…。お前はそっちで可愛い彼女作るなよ。―リョウ


陵はメールが苦手なものだから、こうして手書きの手紙を送ってくれるのだ。こういうのを見ると何だか温かみを感じる。僕は以前に送って貰った遥香のファーストシングルのCDをパソコンに入れて聴いてみた。


「はぁー、やっぱり歌手になると連絡取れないものなんだなー。今頃、雑誌の取材とか神曲を考えたり、大変なんだろうな〜。」


そう溜息をついて、僕は退屈な授業を受けに学校へと出掛けて行った。



…私は次の曲のイメージがどうしても湧かなくて、挫折を感じていた。私は、あれから一年半経ったある日、久し振りに由美ちゃんに電話を掛けてみた。その時、初めて彼が海外へ行ったことを知った。どおりで、ずっと彼の携帯電話は繋がらない訳だ。私はどうしても彼に会いたくなってマネージャーに暇を貰い、関空からブリスベンに飛んだ。


「はあー暑いなあ。着いたけど、本当に裕紀に会えるのかしら。」

「この場所に行きたいのですが…。」


私は、高校時代一番好きだった科目が英語だった。この日の為に習った英語を使って、一人の駅員に教えて貰った住所を見せながらこう言った。電車で中心街まで行って、バスで大学まで行き、別のバスに再び乗り換えるということだった。私は電車とバスに揺られ、お昼前にバスの乗り換え地点に着いた。

バスから降りて、次のバスを待っていた時、私は次にどこで降りれば良いのか分からなかった。地図を片手に困っていると一人の学生らしい女の子が話し掛けてきた。


「何かお手伝いしましょうか?」

「ええ、ここに行きたいのですがどうやって行ったら良いのでしょうか?」

「ここから、130番か140番のバスで五つ目のバス停がその住所の近くです。」

「ありがとうございます。」

「ところで、こちらには観光ですか?それともお仕事で?」

「実は私の大切な人が一年半前にこの大学に留学したんです。これが彼で。」

「私、この人知っていますよ。私の友達です。」

「本当ですか?」

「ええ、でも彼は私よりも三歳年下なので彼を弟代わりによく面倒を見ているんですよ。もしかして、あなたが彼の彼女ですか?」

「ええ。」

「彼は今でもあなたのことが好きみたいですよ。あなたもこうしてブリスベンまで飛んでくるってことは、彼のことが好きなんですね。」

「はい。もちろんです。」

「彼はまだ授業があるのですが、もうすぐ帰ってくると思います。」


そう言いながら、彼女は私と一緒に一時間近く待ってくれた。授業が終わったぐらいの時間を見計らって、彼女は彼に電話してくれて、この場所に来てくれるように言ってくれた。

夕日に輝くこのバス停はとても心地が良かった。ふと、光の向こうから一人の青年がやってきた。


「もしかして裕紀?」私は目を疑った。


彼のようで彼っぽくない。なぜなら、学校に行っていたというのに短パンにサンダルというラフ過ぎる格好で現れたからだ。彼は、学校と言うと私服登校が許される休日でも必ず制服だった。


僕はそう、ただ友達に呼び出されてこの場所に来た。いつも通学に使っているこのバス停に。僕の眼下には思いもよらない光景が広がっていた。友達の隣にはスーツケースを持った若い女性が一人。どこかで見たことのあるような、でも雰囲気が違う。


「ほらユウキが来たよ。」彼女が教えてくれて、私は見上げた。



「遥香?」


「裕紀?」



お互いに顔を合わせながら呼び合い、熱い抱擁をした。


「ごめんね。連絡出来なくて。」

「いや、良いんだ。僕こそ勝手に留学しちゃって悪かった。」

「でも、夢を叶えるためなら仕方ないよ。私にだって好きにさせてくれたでしょ?」

「そうだね。」

「次日本にはいつ帰って来てくれる?」

「当分、帰れないよ。休みがあっても一週間とか二週間じゃ帰れないしね。それより、泊まる場所はどうするんだ?」

「仕事は休みを貰ったから良いし、泊まる場所はあなたの部屋で十分じゃない?」

「またー。僕の部屋は狭いから、駄目だよ。」

「案外広かったりして。」


僕は遥香と再会させてくれた友達に感謝の言葉を述べ、僕は彼女を連れホームステイをしている自宅に帰った。ハウスメイトやホストマザーはみんな目を丸くした。


「ただいま〜。」

「ユウキ、その人は?」

「僕の彼女の遥香。」

「ええ?どこで知り合ったの?」

「その話はまた後で。」

「うちに泊まって行きなさいよ。と言っても空き部屋がないからユウキの部屋に泊まって。」

「ありがとうございます。」


ホストマザーは驚いたようだ。この家の留学生のうち彼女が居ないのは僕だけだと思っていたのに、突然彼女を連れて家に帰って来たからだ。無論、ディナーの時にこう言われた。


「彼女はどこに住んでいるの?サニーバンク?ロバートソン?それともランコーン?」

「いえ、神戸っていう日本の都市に住んでいます。」

「じゃあわざわざ来てくれたんだ?」

「はい。彼女はこう見えても歌手なんですよ。」そう言うと遥香は顔を赤らめた。

「今、歌えるの?」ハウスメイトはやはり鋭かった。

「彼女は休暇で来てくれたから、今は歌えないよ。」僕は彼女をフォローした。


その夜、僕は彼女と語り明かした。


「実はね、裕紀に会いに行きたかったのと仕事から逃げ出したかったの。」

「そうなんだ。」

「今、ファーストアルバムを出した所だったんだけど、その先の曲のイメージが湧かなくて、これからも歌手としてやっていけるのかなって急に自信が無くなったの。」

「でも、気持ちを切り替えてやって行くしか無いよ。誰でも自信が無くなることは一度や二度ではないはず。僕だってたくさんあったよ。でも、乗り越えて行かなくちゃ。」

「うん。」

「寝てしまえば新しい明日が来るし、何か美味しいものを食べればちょっと元気の出る自分になるし、自分に自信を持つ為に何か小さい目標を見つけてそれを達成するのも凄く良いと思うよ。」

「何か、先生みたい。」

「僕はいつも自信を失くすから、そういう時はどうしたら良いですか?って留学エージェンシーの先生に聞いたら色々教えてくれたんだ。」

「そうなんだ。何かこっちに来てから雰囲気変わったんじゃない?」

「そう?確かに言いたいことははっきり言うようになったかもしれないね。相変わらずShyだけどね。」

「そっか。でも、ちゃんと他の国の友達も居たし、安心した。」

「そこまで心配していたの?」


僕は久しぶりに彼女に会ったので、自分の経験を全て話したかった。自分が急に海外へ来て、困ったことや、悩んだこと、あと彼女についてずっとどう思っていたのかも。

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