第14話 僕の進路
私は、起きて裕紀が居ないことに気が付いた。時計を見たら、もう十時。
「裕紀〜?」私は彼を探したけれど、机の上の一通の書き置きしか見つからなかった。
「裕紀、頑張るわ。頑張って皆に好かれ、一人前の歌手になったら、あなたと結婚したい。」
そう心に決め、私は母に会ってから神戸へ帰った。
僕は、家に帰って一先ず親に謝った。
「ごめん。言い訳なんて出来ないのは分かってる。全部ダメだった。」
「でも、裕紀はよくやっていたよ。」
「そうそう。気を取り直してもう一年頑張りなさいよ。」
「でも、もう一年は無理だと思う。自分でそう思う。」
「父さんたちももしものことを考えたんだけどな、こんなのはどうだ?」
ふと父が徐に留学のパンフレットを取り出して見せてくれた。
「これは?」
「オーストラリアに留学なんてどうだ?」
「オーストラリアのどこ?」
「ブリスベン。」
「え?」
「俺も色々考えて、お前は実は経済学なんてやりたくないんじゃないかって思ったんだ。お前は鉄道も好きだけど旅行も同じように好きだろ?観光学なんてどうだ?」
「そんな学科があるの?」
「ああ。裕紀が一生懸命にやるというなら、俺は行かせてやりたい。」
「本当に良いの?」
「お前の将来の為だ。本当にやりたいことをやりなさい。」
確かに経済学とかは大まかな感じで自分としてはあまり気に入って無かった。父は家から通える範囲の大学なら受けて良いと言っていたのに急に海外の大学を提案するなんて本当に予想外だった。
数日後、その留学に関する面接に行き四月には日本を発つことになった。日本を発つ前に陵が壮行会をしてくれた。
「裕紀、お前英語苦手なのに大丈夫なのか?」
「ちょっと心配なんだよな。」
「そういえば、遥香先輩には連絡したんですか?」
「うん。しようと思ったんだけど、彼女はいつも電源を切っているみたいで。」
「そっか〜。最後に会いたいだろ?」
「まぁね。次にいつ帰れるか分からないしね。」
「うちらもお前が留学するって決まってから連絡してみたんだけど、全く繋がらないんだ。」
「仕方ないよ。もうすぐCDを出すアーティストなんだから。それにこの前会ったしね。」
「あー言ってたな。元気そうだった?」
「相変わらずな感じだったよ。」
「じゃあ、遥香先輩のことは心配なさらずに、気をつけて行って来て下さい。連絡がついたらちゃんと伝えておきますので。」
「ありがとう。」
こうして、僕はブリスベンへ留学した。