第12話 ひとりの自分
高校三年になって、僕は進路で悩んでいた。
何せ、鉄研ばっかりやって来たので、高校三年になったら卒業へ向けて就職か、受験か、留学か、その三つの中から選ばなければならない。彼女のことなどすっかり忘れていた。それでも、一か月に一度は鉄研にも顔を出すようにしていた。同学年の陵も同じように。
「ああ進路なー。どうするかなー。」
「本当に。もうこの学校も卒業だもんな。」
「久しぶりに鉄研に出たって愚痴ばかりじゃ楽しくないですよ。」
「本当にそうだね。それで今年の文化祭どうする気だよ?新入部員も入ったことなんだし、うまくまとめろよな、新部長。」
「分かりましたよ、会長。」
僕の愛称はいつの間にか会長になっていた。部長を退いた後でも存在価値を保ってほしいとの後輩たちの粋な計らいだったが、やっぱり恥ずかしい。
「それより会長。僕たち、今良い案を思いついたんですよ。」
「何?」
「会長と遥香先輩の話を小説にして、文化祭で発表するっていうのはどうでしょうか?」
「いくらなんでも今の裕紀の心理状況を考えるとそれは無いぞ。俺だって、彼女と別れていきなり思い出を小説として書かれたら嫌な気分になるぞ。」
「でも、面白そうだな。俺さえ我慢すれば良いんだろ?もし、これが出版社の人の目に入って漫画化、アニメ化、ドラマ化、映画化されればもう学校から出される部費なんて頼らなくても良いしな。やってみろよ。」
最初は抵抗があったが結構乗り気だった。
「でも誰が書くんだ?」
陵の発言で、その場が凍りついた。結局その話も無くなった。
高校三年の夏は短い。
夏休みの間、僕の進路は定め、予備校に通いながらひたすら志望校の過去問を解き続けた。一方その頃、遥香はデビューへ向け毎日ギターやピアノやボーカルの練習を欠かさなかった。お互いに連絡を取ることも忘れていた。
そしてまた今年も文化祭がやって来た。今年は特に何も手伝うことはなかった。ただ、会長として来て欲しいと言われたのでぼうっとただ抜け殻のように座っていただけだった。
昨年の遥香が居た頃を思い出しながら…。