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不穏な空気


今日も一日冒険者稼業、ゴブリンやら薬草やらを刈り取りながらコツコツお金を貯める。特に買いたいものがある訳でも無いけどな。



「ねぇハンゾー、今日はちょっと遊びに行かない?」


「別にいいぞ」


「やった!」



もう完全に俺に対してはキリカはどもったり、挙動不審になることは無くなった。それだけ俺を信頼してくれてる証だろう。嬉しいな。



「どこ行く?ボクは最近出来たこのパンケーキ屋に行きたいんだけど…」


「いいんじゃないか?俺も甘いもの好きだしな」


「でも、ここカップル御用達って言われててちょっと入りづらいかもしれないから...」


「まあ別に友達同士で入ったらダメって訳じゃないだろ?それに、キリカなら恋人に見えても俺は全然大丈夫だから安心しろ」


「は、ハンゾー...!」



可愛い子には優しいんだよ、俺は。だからといってブスに厳しいって訳でもないけど。



「じゃ、じゃあ行こうか…それであのさ、恋人に見えても不自然じゃないように手を、繋がない?」


「え?」


「あっ、駄目だったらいいんだよ!ごめんね、気持ち悪いこと言って!」



俺はキリカの手を掴む、細くてまるで白魚のような手だ。普段何食べてるんだろ。あ、同じもの食べてるな最近は。



「あっ...」



「俺はそのパンケーキ屋を知らないから、案内してくれ」



「う、うん!わかった!」



今日もいい日になる気がした、隣で良い笑顔を振りまいてる友達がいる時点でそれは確定事項なのだが。



『あぁ、あっ、うっ、あっ』



どうした、天使ちゃん何か苦しそうな声出して。



『尊い…尊すぎて心臓止まりかけましたよ…』



またそれか、飽きないなぁ天使ちゃんも。リアルの人間に対して妄想出来る逞しさは見習いたいものだよ。



『そんなに褒めなくても...ふへへ』



皮肉が通じてない...だと。まあ可愛いからよしとしよう、可愛いは何よりも優先されることだから。



「もうちょっとで着くよ!」


「あぁわかった」



あれか、めっちゃ並んでるやつ。木の看板にめっちゃ可愛い文字でいろいろ書かれてるけどほとんどわからん。何だこのクソ長い名前の飲み物。



「凄い人だねー...やめとく?」


「キリカが行きたいなら待つぞ?」


「いいの?長くなるかもだけど」


「大丈夫、キリカとなら何時間でも待てる」


「ふえっ、そんな、いきなりずるいよ…」



仲のいい友達なら全然苦にならない。そういうもんだろ?友達って。



「よし、じゃあ待つか」


「うん!」



そうキリカが返事した瞬間、後ろの方で悲鳴が上がった。腐女子が湧いたか?と思ったがどうやらそうではないらしい。

俺達は一先ず列から外れ、急いで悲鳴の方に行ってみることにした。そこには



「!!これは酷いな...キリカ、目閉じてろ」


「えっ、ハンゾー?何があったの...」



言いつけを守りきちんと目を閉じてるキリカ可愛い。ってそうじゃない。そこあったのは、右肩から左の腰骨の辺りまでを鋭利な刃物で両断された女性の死体だった。



「キリカ、駐屯所にいる騎士に連絡してきてくれ、殺された女性の死体があるってな。俺は犯人がまだここの近くにいるかもしれないからここら辺を見てくる」



「えっ、そこに死体があるの...?」



「あぁ、だから早くしてくれ」



「わ、わかった!行ってくるよ!」



だが、見れば見るほど凄まじい殺され方だ。これは...俺が孤児院で殺し屋やってるとき、いわば殺しの全盛期のときだってここまで上手く殺せるかどうか…そのとき、俺はあることに気づいた




「ん?何だこれ、手紙?」


『ええ、手紙のようですね、血塗れですが』




その手紙にはこう書いてあった。



《思い出せ、思い出せ、思い出せ。あのときの衝動を、興奮を、殺意を。受け入れろ、受け入れろ、受け入れろ。その力を、その技を、その宿業を。そして、お前自身の狂気を。》



誰に当てた手紙だ?これは。

まさか殺された女性ではないだろう。死人にそんな無意味なことはしない、少なくとも俺が犯人なら。

ならばこうやって派手に事件を起こし、自分の存在を誰かにわからせたかったのだろう。ここに俺は居るぞーってな。アホくさ。









『ハンゾーさん!横!来てます!』






あ?




刀が迫る、反射的に、奇跡的に避ける。天使ちゃんが居なけりゃ死んでたな。鈴のなったような声でそいつは話しかけてきた




「避けた?完璧な斬撃だった筈、何故?」




そいつは目だけが赤く光る全身黒ずくめの人間だった、こいつが犯人か!こちらに刀を向け続ける。ヤバいなコイツ...俺より強い!




「何者だ、お前」


「通りすがりの人」



そう言って不気味に笑う、殺気はあまり感じられない、だが殺す気はなくとも充分にこいつは脅威だ。


そいつはタンっと跳ぶと、斬りつけてくる。速い!凄いスピードだな、少なくとも今の俺より遥かに速い!防御で精一杯だ!



「ちくしょう!俺ってこんなに弱かったっけか!?」



後ろにバックステップで下がり態勢を立て直す、もちろん相手も追いかける、



「かかったな!」



そこに横薙ぎ、伏せてかわされる




「読まれてた!?」




すかさず相手からの掌底打、刀でガードするが隙間を縫うように抉りこまれる。息ができない。




「ガッ!オエェ!」


「弱い、森で見た時はもっといい勝負出来ると思ってた」



こいつ、森での戦闘見てやがったのか!てかそのとき助けろよ!クソが!

俺は森のときと同じようにスイッチを切り替えた、無慈悲な人斬りモードだ。覚悟しやがれ。




「クソアマがァ!!調子ノッテンジャネェ!!!」



「何か出た、期待」



俺は速攻をしかけ、思いっ切り飛び蹴りを見舞った、相手は読んでいたようだがそこに思いっ切り刀を投げる!



「オラァ!!!」



「これは予想外...けど対処はできる」



弾き返す、流石だな。だが隙だらけだぜ!弾き返すことに気を取られている最中に間を詰める。

今日はもう何も食べられなくしてやるよ!そう悪態をつきながらボディを打ち込む!だが



「それも大丈夫」



右手を掴まれ捻り挙げられる、だが、それは悪手だな、




俺を相手にこの距離を許したな?




完全に関節を決められる前に右手を回転させ脱出、左手で相手の服を掴み、右手で相手の首を掴む。そして、




「しゃおらぁ!!」





投げる、それだけの行為。だが技術と正確な体運びに裏付けられたその攻撃は地面さえ武器にする。




「かハッ!」




空気が全て肺から出ただろう、お返しだ、腹思いっ切り殴りやがって。




「魔法の才能無くてな…剣だけじゃなく格闘技も出来なきゃやってられないんだよ」


「な...んで、右手捻り挙げた筈...」


「ただの護身術みたいなもんだ、覚えりゃ小さい子供でも出来る」



こいつはただ殴るとかただ蹴るとかただ捻るとかしかしてこなかったんだろうな。

剣の才能と魔法の才能がありゃあんまり考えないところだし。

昔は格闘技は結構覚えられてたらしいんだけど、魔法が活発になるにつれてどんどん衰退していったらしいからな。



「でも、凄かった。すぐに外れて投げられたから。教えて欲しい」



相変わらず全身真っ黒の黒ずくめで目だけ見えてるけど何処と無く赤い目がキラキラしてるな。



「駄目だ、別に人殺しどうのこうの俺が言える権利は無いけどよ、俺の技術が人殺しに使われるのはもうゴメンだ」


「人殺し?何言ってるの?」



ん?何か話が噛み合ってないような...



「いや、だからそこの女の人をお前がやったんだろ?」


「え、死体がある、怖い。私やってない」



お前じゃないんかい!!ややこしいわ!いや、まだ誤魔化してる可能性もある。



「じゃあ何で俺を襲ったんだ?」


「森で見かけたとき強そうだったのと、街でまた見かけて、いてもたってもいられなくて」


「何でそんな黒づくめなんだ?」


「顔見られるの恥ずかしい…」



本当に通りすがりの人でした。



「何で森にいたんだよ…」


「あそこ私の修行場だから」



あぁ、納得...取り敢えずこの子はやってないみたいだ。それにこの子の剣は速いけど軽い。それに対してこの切断の仕方はかなりの力の乗った斬撃だ。この子じゃまず不可能だろう。



「ハンゾー!騎士の人連れてきたよ!」


「ありがとな、キリカは離れててくれ!」


「報告ありがとう、私は騎士、ギルバートだ」


「来てくれてありがとございます、この死体です」


「ぐっ!?惨いな、これは」


「ええ、悲鳴が聞こえ、向かったときにはもう遅くて...すいません」


「あぁ、君達は悪くない。むしろ助けようとしてくれたんだ、立派だよ」


「犯人はかなりの使い手だと考えます、人間の身体を両断するなどよっぽどでないと…魔法を使ったならば魔力で分かるんですけど、魔力を感じないということは純粋な剣技でしょうね」


「そうか...情報ありがとう、これはうちの騎士団で全力で当たってみるよ」


「はい」



そう言ってギルバートさんは死体を処理するための応援を呼び、犯人捜査が始まった。



「ところでハンゾー?」


「何だ?キリカ?」


「その人誰?」


「通りすがりの人だ、気にするな」


「えぇ...」




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