ゴブリン討伐、後輩の影《後編》
地震が怖いですね…取り敢えず出せるときに小説出しときます…皆さんも気をつけてくださいね...
避ける、避ける、避ける。今ばかりは余計な思考は削ぎ落とし、生にしがみつくために紙一重で避け続ける。四方八方から飛んでくる噛みつきや爪による攻撃。反撃の暇すら与えてはくれないが、キリカを信じて待つ。
「ふっ!よっ!ほっ!」
気分はサーカスだ、次々くる犬っころを飛び越え、潜り、時間を稼ぐ。反撃の一手を考えるが、何も思いつかない。
「こうゆう時は…リズムを崩さず心は冷やし、身体は熱く!」
師匠の言葉だ、いついかなる時も冷静さを保ってれば死なんっていうのはあの人の口癖だった。まあ俺はあっさり死んだけどな。本当に師匠孝行が出来ないバカ弟子だ、俺は。
『ハンゾーさん!めちゃくちゃ囲まれてます!』
わかってるっての。見りゃわかる、そんな焦るな。生きる可能性があるとしたらここで俺が凌ぎ続けること。それしかない。余計なことは考えるな、黙ってろ。
『は、はい...すいません...』
別に怒ってねえよ、そっちに思考を割く暇が無いだけだ。
『っ!ハンゾーさん!一際でかいワーウルフが!あれがボスです!』
何だと!あいつ倒せば少しは群れのバランス崩れるか?
『はい!ワーウルフは群れを何よりも重視する生き物ですから!ボスを倒せば統制が崩れます!』
「なら...やるっきゃ無いな…」
俺は自分の中でスイッチを切り替えることが出来る。
人間というのは不思議なもので人格や性格をいくつも持っている人がいる。俺もその一種だった。
自らのスイッチと呼ばれるものを切り替えると、少しの間荒々しくなり、興奮状態になるのだ。
幼少時代に殺しの重圧に耐えられなくなり、考えた苦肉の策だがな、これするとめちゃくちゃ技のキレが良くなるんだよなァ!
「いくゾォ!犬畜生共ガァッ!」
走る、斬る、走る、斬る、斬る、斬る、走る、斬る。
筋肉の千切れる音がする、無理やり子供である自分の身体を酷使してるのだ。負担がかかるに決まっている。だがボスは目の前、あと二回跳べば、届く!
「ぐっ!」
足に噛みつかれる、だが止まらない。斬りつけて無理やり振り払う。腕を引っ掻かれる、だが相打ちの斬撃を見舞う。あと一跳びで、終いだ!
「うおおぉおおお!!」
「グルゥウ!!ガウッ!!」
俺の技はほとんど人殺しで得たものだ、だがそれでも確かに師匠に教えて貰った技はある、体に染み込んだその技がボスに向かって放たれた。
「《一閃》」
ボスの倒れる音が後ろの方でする、だが自分にはもう振り向く元気すらない。ただ、自分が勝利したという充足感と満足感でいっぱいのまま、気絶した。
「どこら辺っすか〜、そのハンゾーとかいう子の場所は」
「ここら辺の筈なんです!」
「周辺を探してみるべきっすね...」
レイスはそのハンゾーとかいう子の生存は絶望的だと考えていた、この状況でそんな期待させるようなことを軽々しく口に出来るほどレイスは子供ではなかった。
自らの先輩が目の前で死に、仲間達にどこか陰りがある現状、自分はしっかりしていないと、と色々なところに救援しにきているのだ。
沢山の人の今のような状況を見てきたレイスが、今回は胸の痛むような結果になることを半ば予想していた。
「ハンゾー!ハンゾー!何処ー!!返事してー!」
目の前で悲痛な叫びを上げてる、女にしか見えない少年。自らの姿と被りチクリと胸が痛くなる。
その時、何か犬の鳴き声のようなものが聞こえてきた
「ハンゾー!」
これは、この子を連れて行っていいのだろうか。悲惨な現場を見せることになるんではないか、そう考えてるうちに音のする方へ走る少年。慌ててついて行く。そこでレイスが見たのは
「《一閃》」
憧れであり初恋の人でもある先輩にそっくりの、少年であった。
「ん...何だここは…」
たしか俺はワーウルフのボスを倒して...気絶して...ダメだ、そこから記憶が無い。
『ハンゾーさーーん!!起きましたか!ここはギルドの医務室です!身体は大丈夫ですか!?』
おぉ、天使ちゃん。天使ちゃんは元気そうだな、身体は所々痛いけど何とか大丈夫そうだな。
『それは良かったです、二日起きなかったので心配で…』
え、マジで?俺そんなに寝てたの?
『はい、医者もいつ起きるか分からない的なこと言ってたので焦りましたよ!』
あぁそっか天使ちゃんは死んでるか、意識あるかのときしか俺とコミュニケーション取れないからね。
『一応夢さえ見てたら干渉出来るんですけど、夢は見てなかったようなので…』
うん、ごめんね?心配かけて。あと戦ってる最中も素っ気なくてごめん。
『べ、別に大丈夫です。あれは貴方は悪くないですから』
やっぱ優しいな、天使ちゃんは。おかげでいろいろなところに元気が湧いてきたよ。
『ちょっ!?何を元気にしてんですか!ぶち折りますよ!?』
ひえっ、縮んだ…くそぅ男なら誰でもなる生理現象じゃないか...そんなにきつく言わないでも....
『う、うるさいですよ!静かにしといてください!』
まあいい、そういうことだから静かにしとこう。あーつまんねーなあ…寝てるだけっていうのは。
そのとき、ガラッと部屋のドアが開いた。
「は、ハンゾー?」
「キリカ、おはよう」
「は、ハンゾぉおおおお!」
飛びついてきた、傷が開いちゃいます。どうやらキリカにはかなり心配をかけていたようだ。申し訳ないことしたな。
「ごめんね、ハンゾー、ボクが、弱かったから、うぐっ、ひっく、ごめんねぇ...」
「別にキリカが悪いわけじゃないだろ?あんまり気にするなよ」
「だって、だってぇ…」
「なら、一つお願いがあるんだ」
「な、なに?何でも聞くよ!ボク!」
「改めてだけど、俺とパーティーを組んでくれ」
「えっ、ウソ、だってボク、逃げちゃって...」
「強さも度胸も後でどうにでもなる、だから俺はキリカと組みたいと思った、そんなもの度外視でお前が欲しいって、思ったんだ」
「そんなこと、言われて、断れる、人いないよぉ?」
嗚咽混じりだが、かろうじて笑顔を浮かべ、了承してくれたようだ。良かった、これでトラウマになったから冒険者やめるなんて言われたら凄く悲しいからな。
「取り敢えず傷癒えたら申請しに行こうな」
「うん!」
よしよし、笑顔が一番だ、お兄ちゃんが撫でてやろう。
「あっ.....えへへ...」
可愛すぎか!本当に今まであった人間という種族で一番可愛いと言っても過言ではないな!
「そうだ、ハンゾー」
「何だ?」
「ボク達を助けてくれた人がいるんだ。その人にお礼言っておかなくちゃ」
それは早くしないとな、素直に礼を言える人に俺はなりたい。
「ちょっと待っててねハンゾー、呼んでくるから」
あっ、行ってしまった。別に歩いて俺が行くのに。だけど助けてくれた人って誰だろ?ムキムキマッチョだったりしてな。頼もしい。
「いやいや、お目覚めっすか〜おめでたいっすね〜」
聞き覚えのある声がする、チョロくていつも後ろをちょこまか歩いてた美少女盗賊の声がする。
「私の名前はレイスっす!一応勇者パーティーの中で盗賊をしてるっす!」
《悲報》帰ってきて一日も経たずに仲間に会った。
いや、朗報か?けどこいつ一部分以外成長してないな、身長伸びてないし顔も変わらない髪も綺麗な金髪でセミショートの俺の最も好きな髪型だ。
けど、お前あきらかに胸でかくなってね?
あんなに絶壁だったのに!よく自分で自虐ネタにして、半泣きになってたお前はどこいったんだよ!返せよ!貧乳返せよ!
「いや〜新人にしてはかなり強いんすね、ハンゾー君」
少し探るような視線を入れてくるレイス、こいつ何か勘づいてないか?
「ええ、鍛錬の賜物です」
「そうっすかぁ〜、真面目なんすね〜」
そこで少し話を切り、ニカッと笑う。
「ところでハンゾーくん、私達のパーティーに入らないっすか?」
ほう、そう来たか。こいつ俺が怪しいと感じてるな。何が琴線に触れたかは知らんが、パーティーに誘う=監視だろうな。
けど久しぶりにコイツに本気でイラついたぞ、こんな奴だったか?こいつ。
「は、ハンゾー」
キリカが不安そうに見てくる。安心しろ。
「丁重にお断りさせていただきます」
「!!」
「へえ、そりゃまたどうしてっすか?」
「そこに居るキリカとパーティーを組む約束をしているのと、もうひとつ」
「もうひとつ、なんすか?」
「俺は俺のこと仲間と思ってねえやつと冒険する気はねえよ、二度と勧誘すんな」
礼儀もクソもねえ勧誘に何か誰が靡くかよ。俺のこと舐めてんのかコイツ。
「.............ぶっ、あっは!あっはっはっはっはっ!!ふっは!ははははは!!」
うわ!いきなり笑いだした!やっぱストレスか!?ごめん!キツイこと言って!胸膨らんだ分脳味噌さらに縮んだか!?
「ご、ごめんなさいっす...笑いが止まらなくって...ゴホッゴホッ!エホッ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「ありがとうございますっす、いやぁハンゾーくん面白いっすね、まさか予想してた答えと同じものが帰ってくるとは…」
「俺は面白くないですけど」
「ああ!ごめんなさいっす、ごめんなさいっす!さっきのは冗談っす!ちょっと確かめたいことがあってわざとあんな態度をとってただけっす!」
何だ、やっぱりか、こいつが無意味にあんな態度取るわけないからな。けど、いつの間にかこいつもそんなことやるようになったんだな。
昔はスカスカのスポンジみたいな脳味噌か筋肉でできた脳味噌が詰まってるのかと思うぐらい馬鹿だったのに…
「お詫びにご飯奢るっすよ」
「え、そんなの悪いですよ!勇者様のパーティーの方にそんな...」
「いや、ここは奢ってもらおうキリカ。向こうが奢ると言っているからこれは大丈夫だ。」
「ハンゾーくんの言う通りっすよ、遠慮しなくてもいいっす、私稼いでるっすから」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて...」
さて、何を奢らせようか。今は立場的にあちらが先輩だし戦闘力もあちらが上だ、下手なこと言うと半殺しにされかねん。そう思いながら思考の波に乗った。
「やっぱりおかしいね、今回の現象は」
「やはりですかギルド長」
「リンネも気づいてたのかい?」
「はい、今回は違和感だらけだったので」
「そうだね、まずはワーウルフがいきなり現れたこと、そして死体の中に居たワーウルフのボス、こいつはまず巣から出てこないからね、これも異常だ」
「極めて人為的なものを感じます、警戒レベルを上げるべきかと」
「そうだね、調査をする前に安全確保の為動こうか」
「はい!」
「まさか魔王の再来か…?何てね…魔王は《剣聖》様がその魂を使い、倒したんだから。あるとしたら魔王軍の残党か...厄介極まりないね…」