冒険者ギルドのあれそれ《後編》
何かすぐブックマークついてて感謝感激雨あられです。ありがとう...!ありがとう...!
新人の冒険者にとってゴブリン狩りはいわば真の入社試験といっても過言ではない。その依頼で首を飛ばされたらお祈り手紙が家族に届く。相手の首を飛ばしたら一生馬車馬の如く働かせられる。どっちに転んでもクソだな、冒険者。
『ではゴブリン討伐任務を受けないのですか?』
いや、受けなければ他の任務をまわして貰えることが少なくなる。実力も無いやつに仕事が来るほど甘い世界じゃない。
『ひぇえ...冒険者って恐いんですね…』
まあその代わり、強ければ正義だ。仕事も沢山貰えるし報酬もたんまり貰える。それに自分にしか出来ない技能を持っていたらそれだけでパーティに入れてもらえるしな。
『ある意味実力が認められやすい職場なのでしょうか…ですがかなり危険な仕事も押し付けられそうですね…』
あぁ、だから戦闘狂の奴らはこぞって冒険者になることが多い。
強いモンスターと戦いたいって言ってな。何人かそんな知り合いが居たよ。
もう生きてるのは1人しか居ないけどな。
『ヒエッ』
それはそうと、このゴブリン討伐任務を受付に出してこないとな。昔はこういうボードに貼ってあると取り合いだったんだけど本当に変わったな。
「あの」
「はい、何でしょうか」
「ゴブリン討伐に行きたいんですけど」
「えっ」
「えっ」
またかよ!何だよ!今度は何もおかしいこと言ってないだろ!ただ稼ぎたいからゴブリン倒しに行きたいって言っただけだろ!
「あの...一人で...ですか?」
「はい、そうですけど」
「バカっ!!」
「うぉお!?」
何だ!いきなり罵倒されたぞ。やめろよそういうの、普通に傷付くわ。泣きそう、あっ泣くっあっあっ。
『馬鹿なこと言ってないで真面目に話聞いてください』
「何もそんなに生き急ぐことないじゃない!?まだ君は外で元気に遊んだり、美味しいものとかで一喜一憂する年頃だよ!?お小遣い稼ぎに薬草取りに行くとかならまだ分かるけど一人でゴブリン討伐は私が許しません!というかお父さんとお母さんはどうしてるのよ!こんな可愛い子を置いて...本当に可愛いわ!ちょっとほっぺたとか触っていい?」
いや最後で己の欲望丸出しじゃねーか、このショタコンが。途中まで頼りになるお姉さんで、だったらやめとこうかな、なんて思ってたのに。最低だよ。
「家族は誰も居ません」
「えっ...あっ...ごめんなさい...凄い酷いこと言っちゃって…」
「別に気にしてません」
「あっ、お詫びに昼ごはん奢ってあげるね?ここの食堂美味しいから!」
「怪しくて知らない人から何も貰うなと死んだ両親から言われてたので遠慮しときます」
「いいご両親ですね…」
「はい」
ざまあみろショタコンがぁ!ちょっと美人だからってホイホイついて行くと思ったか!美人は勇者パーティの奴らで慣れてんだよぉ!俺を含め美男美女揃いだったからなぁ…俺は近寄り難いイケメンって言われて女の子誰も寄ってこなかったけど。悲しいね。
「で、でもゴブリン討伐は駄目だからね!私の目の黒いうちはそんなことさせないから!これは絶対!」
うーん、どうしたものか。確かに薬草集めの依頼っていうのがあるからそれしてもいいんだけど、一応この身体での戦いに慣れておきたいんだよなぁ…
「と、ところで名前とかって...あ!先に名乗らないとね!私はリンネっていうんだ!よろしくね!君の名前は?」
「ハンゾー」
「ハンゾー君かぁ、カッコイイ名前だね!」
「ありがとうございます」
「あっ、えっと今日は良い天気だね!」
おのれは童貞か!どんだけ話題無いんだよ!ていうか俺が童貞だったわ、死にたい。しかしこのショタコンさんガンガンくるな、犯罪者予備軍かな?
「あの」
「う、うん!何かな!」
目が怖ぇな、マジで、獲物を狙う奴らと同じ目をしてる。
「一人じゃなかったらいいんですか?」
「え?ま、まあ頼れる子が一緒にいるとかならまだいいかな...」
「わかりました」
よし、もう誰にするかは決めてる。最初に来たとき大声で叫んでたあの魔法使いにしよう。何かパーティ組みませんかって言ってたし
「パーティ組みませんかぁ〜、ぐすっ、パーティ、くみ、ませんか〜!うっ、ひっく」
うわぁ、急に行きたくなくなってきた。ていうか何で誰も行かなかったんだよ、この状況で。まあ仕方ない、俺が行こう。
「あの」
「はひぃ!」
おお、いいリアクション。俺は好きだよそういうの、天使ちゃんに通じるものがある。
『第二の犠牲者が...』
失礼な、それに後輩が第一で、天使ちゃんが第二だからこの子は第三の犠牲者だ。
『結局犠牲者じゃないですか!酷い!悪魔!鬼!ハンゾー!』
俺を悪の権化の代表みたいに言うな、俺はちゃんと清く正しく美しく、清廉潔白に生きてるだろ。
『ど、童貞を捨てられなくて後悔してる人は清廉潔白とは言いません!』
童貞を言うのが恥ずかしくて照れちゃってる天使ちゃんカワイイ。
『ま、また可愛いって!可愛いって言った!』
はい、可愛い。俺が悪の権化なら天使ちゃんは可愛いの権化だな、あっ、目の前の子のこと忘れてた。いけないいけない。
「パーティ募集してると聞いたんですけど」
「あっ、はい!してます!あの...もしかして…」
「はい、俺と組みませんか?」
「えぇぇ!やったぁ!いいんですか!?ほんとに!?」
何だ、皆遠巻きに見てるだけだったからどんな奴かと思ったら可愛らしい子じゃないか。本当にこんな子をいじめるなんて俺が許さない!
『洗脳されたかの如く変わりますね、ハンゾーさんは』
可愛い子は立ってるだけで相手の気持ちを変えれるから、そう言われても致し方ないよ。
『何か、あれですね。嫉妬という訳では無いんですけど、そんな色々な子に可愛い可愛いって言ってると複雑な気持ちですね…』
お?天使ちゃんも可愛いよ?可愛い子には可愛いって言わないと。何か恥ずかしいから可愛いなんて言えねえよ!って男居るけど俺に言わせればただのヘタレだね、可愛いなら可愛いって言う、これはマナーだから。
『変態のマナーには詳しくないので知りませんでした』
おぉ、辛辣ぅ!あ、興奮してきた。新たな扉開いちゃう!
『その扉で今すぐ消えてください』
まあまあ、冗談だって。ちゃんと天使ちゃんのことも見てるから安心してよ。
『だ、だから嫉妬じゃないですから!』
兎に角この魔法使いのこと一緒にゴブリン討伐に行こう。そこで認められれば一人で行ってもショタコンは許してくれるだろう。
「ど、どんな依頼に行くんですか?」
「ゴブリン討伐」
「えっ」
驚いた顔してるな、ゴブリンじゃ程度が低かった?まあ我慢してもらう、俺の試し斬りの為だ。
「あ、あの薬草集めとか行きませんか?」
「いや、どうしてもゴブリン討伐がいいんですけど、駄目ですか?」
「い、いえ…二人なら多分大丈夫...かな?」
「じゃあ行きましょう、今すぐ行こう。あと敬語で話さなくてもいいですよ」
「う、うん分かった。ボクに対しても敬語じゃなくていいからね」
ボクっ娘だとぉおおぉ!!その時、ハンゾーに電流が走る。自信なさげなボーイッシュ美少女という新たな開拓地が見つかったことに対する歓喜である!
「あ、その前に自己紹介しようか、俺の名前はハンゾー。よろしくな」
「ぼ、ボクの名前はキリカ、よろしくね」
よし、キリカね、覚えた。この子は俺の守るべきものリストに入れておこう。
『そんなものあったんですか!?』
いや、今作った。天使ちゃんも入れてるから安心して。
『え、あ、まあ、ありがとうございます?』
そんな本気で困惑しなくても...お兄ちゃん傷ついちゃいますよ。
『いや、住んでる場所が違いますし』
大丈夫だよ、天使ちゃんに何かあったら自分の腹かっさばいてでも会いに行くから。
『〜!!やめてください!』
え、本気の拒絶じゃん。何かごめんなさい。
『違います!自分の命を軽々しく扱わないでと言ってるんです!もう貴方は自分を犠牲にして誰かを助ける必要は無いんです!辛いことがあったら逃げてもいいんです!悲しいことがあったら泣いてもいいんです!だって今の貴方は子供なんですから!』
う、ごめんなさい。天使ちゃんは天使ちゃんでちゃんと俺のこと考えてくれていたようだ。まだ短い付き合いだけど、何となくこの子とはうまくやっていけそうに思った。
「ど、どうしたの?ハンゾー」
「ん?何かなってたか?」
「いや、凄く嬉しそうな顔してたから...」
「...あぁ、俺はそんな顔してたか」
「う、うん。あっ、そういえばポーションとか買っていこうか、ボクがお代出すよ!」
案外、人に本気で叱られるというのも嬉しいもんだな。
「ポーションのお金は俺が出すから大丈夫だぞ、お金はちゃんと持ってるし男の甲斐性ってやつだ」
「そ、それならボクも払わないと!」
「いや、だから」
「ボクも男だからね!」
は?何言ってんのこの子。おとこ、オトコ、男。こんな可愛い子が男?そんなわけないだろ!いい加減にしろ!
「ボクは男らしくなる為に冒険者になったから!ちょ、ちょっと知らない人には弱気になっちゃうけど...でも将来はもっとマッチョでナイスガイになるんだ!」
そのままの君でいて。お願い致します。本当に。
男の方が可愛くなる気がしたから(小並感)