冒険者ギルドのあれそれ《前編》
とりあえず天使ちゃん、冒険者ギルドの場所わかる?五年経ってるから所々変わりすぎてわかんねぇからな。
『えっと、大通りに出て右ですね』
おぉ、凄い。ちゃんと仕事出来てるじゃんか、俺はもっと空回りしてドジっ子アピールみたいな展開になるかと思ったぞ。
『私のこと何だと思ってんですか…これでも一応天使の中でも秀才と呼ばれる程には優秀ですからね!』
はいはい、秀才秀才。あれ天ぷらにすると美味しいよね秀才。
『それは旬菜です!どんだけ天ぷら好きなんですか!言っておきますけど本当ですからね!』
天ぷらだけに天丼ってな!うまい!誰か座布団持ってきて!あっ、誰も居ない...これが孤独か…俺にはお似合いだな…
『勝手に卑屈にならないで下さい。ほら、もうつきますよ』
いや、天使ちゃん、場所間違ってない?これはポンコツ案件だよ?
『いや、そんなはずありません!そこが正真正銘冒険者ギルドです!』
いやいやいやいや、おかしいだろ!
何でこんなクソ豪華でクソでかい建物が冒険者ギルドなんだよ!?冒険者ギルドっていったら汚い・臭い・気持ち悪いの3Kが揃った地上最低の掃き溜めだぞ!?
『ですが本当にそこが冒険者ギルドのようですよ?』
えぇ...まじかぁ…時の流れって怖ぇな、マジであの最悪の場所がこんな国の役所みたいな建物になってんのか…
『とりあえず入ってみましょうよ!』
そうだな…入らなきゃ始まらないし、少し見てみたい気持ちが湧いてきた。どんなふうになっているのか見ものだな。
「こちらのクエストはランタンが必須となっておりますのでこちらの道具屋で購入なさるようにお願いします」
「今日はワーウルフの群れが来てるらしいな、いっちょどうだい?」
「ばーか、歳を考えろ、歳を」
「誰かパーティ組みませんかー!魔法使いです!」
言葉も出ないな、ほんとに。あの頃の冒険者ギルドは何処に行ったんだ。クエスト行こうとしたら尾行されて、目的のモンスターを倒した瞬間人間に襲われるぐらいに治安が悪かったのに…修行の一環とか言って師匠に襲ってきた人間とひたすら戦わされた日々が懐かしいな。
平和ボケしすぎじゃないか?俺が襲った方がいいか?
『やめてください!ジェネレーションギャップで人殺しとか笑えませんからね!?』
いや、それにしても凄い変わりっぷりだ。
何故こんなにも治安が良くなったのだろうか、考えても答えは出ない。
当たり前だ、誰が世紀末ブラック企業から爽やかな香り溢れるホワイト企業に数年で変えられるなど想像するだろうか。
少なくとも俺は無理だ、全員叩き斬って働いてるやつ全員変えるぐらいか?俺に思いつくのは。
『何も思いついてません、それ。思考放棄してます』
まあいい、今日はこのぐらいにしといてやろう。そもそも冒険者登録しに来たんだ俺は。こんな外観だけ取り繕ってもいつかボロが出るだろう。冒険者になってじっくり監視させてもらう。
『もう負けフラグ立ってますよ、その言葉』
うるさい、兎にも角にも俺は受付に並んだ。天使ちゃんが色々言ってくるが聞き流そう。多分今日の晩御飯のことだろう、俺も気になるからな、お揃いだ。
「いらっしゃいませ、今日はどのようなご要件でしょうか?」
「冒険者登録をしに来たんだが」
「えっ」
「えっ」
えっ、なになになに、怖いんですけど。敵対か?敵対しちゃうか?やっぱりブラック企業じゃねーか!予想通りだよコノヤロウ!
「しょ、少々お待ちを」
「おい、あの坊主冒険者になりたいんだとよ」
「マジかよ、何だってそんな...」
「何か訳ありか?」
おいおい、遠巻きから結構な人数に見られてるぞ。やめてくれよ、俺はそんな趣味は無いんだ。確かに俺の顔はカッコいいがな。おっさん達の気持ちに応えることは出来ない。
『ふむ...おじさん×美少年、アリですね』
何をおぞましい妄想してんだ!この堕天使が!お前の両目とうに腐りきってるじゃねーか!
『い、いや?他意はないですよ?ただの友情の話です。ええ、美しい友情が育まれればと...』
おせーよ、弁解が時すでに遅しなんだよ、バッチリ聞いてんだよこっちは、リアルの人間で妄想すんな!貴腐人が!
『〜♩︎〜♪〜♬︎〜♩︎』
口笛吹いて誤魔化すな!無駄に上手いのが腹立つ!
『し、しかし何故あんなに焦っていたのでしょうかあの受付嬢さんは』
相変わらず話題変えるの下手くそだな、まあいいや、後でエロ妄想しこたま見せてやるからな。
だが、天使ちゃんの言ってることには同感だ。俺のときはこのギルドに迷惑かけねえなら何処でも誰でも何歳でも歓迎状態だったあの冒険者ギルドが、何故?
外見が綺麗になろうとここは変わらないと思ったんだがな。
「お、お待たせ致しました。実は成人に満たぬ方でまだ発育も充分では無いと判断された方はギルド長から面接というか、お話をさせていただきます。宜しいですか?」
へえー、今そんな感じになってんだ。まあいいんじゃない?無闇矢鱈に子供が死ぬことが無くなるし、調子に乗ったイキリボンボンもこれをすれば少しは落ち着きを取り戻すだろう。
「ええ、構いませんよ」
「でしたら、二階でお待ちください。すぐにギルド長が向かいますので」
そう言われたので二階に登る、割と急な階段を登ると客間のような場所が広がっていた。ソファが向かい合わせで置いてあるので座っておく。
『中々いいソファですね、お昼寝しやすそうです!』
食っちゃ寝してると豚になるぞ、飛べない天使なんて笑いの種にもならないから気をつけろよ?
『うっぐぅうぅ!今凄い心に矢が突き刺さりましたよ!太ってないもん!ちょっとお腹が膨張しちゃっただけだもん!』
それを世間的には太ってきた、と言うんだ。いい加減認めろ。
『うわぁぁぁぁあ!うわぁぁぁぁあ!』
嘘だよ、嘘。むしろ天使ちゃんは痩せすぎくらいだからよく食べなよ?本当にダイエットで身体壊したりしちゃダメだよ?
『え、本当ですか!?良かったー!いぇい!』
可愛い、天使ちゃん可愛い。すぐチョロくなっちゃうところ本当に可愛い。
『だ、だから可愛いって言うのやめてください!もう!...ん?もうそろそろギルド長が来ますね』
あ、分かるんだ。便利だね、ちょうだい。その力。
『駄目です、天使サーチは天使だけのものです』
天使サーチ、可愛い名前だね。自分で付けたのかな?
『いえ、神が付けました』
クソ雑魚ネーミングセンスだな、生きてることを恥じるレベルだよこれは。
『手のひらがサイクロン並に回りますね』
「いやー!待たせて済まない少し書類で手間取ってね」
軽薄そうな笑みを浮かべる胡散臭い男がいきなり入ってきた。実力もかなりのものだ、部屋に入って来てから動きに隙が全くないし重心もぶれてない。いい殴り合いができそうだ。
「君が冒険者になりたいって子かい?」
「はい」
「名前とかって教えてくれるかな?」
本名はまずいな、偽名でどうにか凌ぐか...
「ハンゾーと言います…」
『ぶっ、ふっ、あっは!ぶっふふ...クソ雑魚ネーミングセンスじゃないですか…ハンゾーって...』
天使ちゃんでエロ妄想中...天使ちゃんでエロ妄想中...
『うぇえ!?うひっ、えぇ!?そんな、あぁっ!そんなところまで、あっ、ひえぇ...』
「ハンゾー君か、いい名前じゃないか。それでハンゾー君、君に聞きたいことがあるんだ」
「なんです?」
「何で冒険者になりたいんだい?」
「お金を稼ぐためです」
「やはりそうか…でも今は冒険者以外にもいっぱい仕事はあるよ?」
え、そうなの。マジか、でも今更知りませんでしたは恥ずかしいな、このまま通そう。
「自分は正体をあまり知られたくないです」
「!!何故かは聞いても大丈夫かい?」
「少し会いたい人が居るんですけどその人達が幸せそうなら何も言わずに帰ろうと思うんです。ですが他の職業につけば見つかったり噂されたりするかもしれないと思ったので」
「そうか…」
『ねえ!ハンゾーさん!私全然そんなこと聞いてないですよ!』
言ってないからね、ていうか幸せそうならそれは神の想像通りのハッピーエンドだろ。俺はもうあの世に帰る。
『いや、仲間の方々が幸せそうなら神がハンゾーさんを寄越してきたりしないでしょうよ』
それもそうか、けどまあ、あの赤髪筋肉野郎は全然へっちゃらそうだな。俺の墓に指さして笑ってそうだ。泣かれるよりはよっぽどいい。いや、やっぱりムカつくわ、死ね。
「ふむぅーん」
ギルド長が悩んでいる、不合格だろうか、まあそれでもここ以外に職場があるらしいから少し安心したからいいけど。
「うん、合格」
えっ、マジか。まあ当然だ、俺はイケメンで剣の腕もあってイケメンだからな。
「強かそうな感じが気に入ったよ、カード発行するからちょっと待ってね。これでランクを記録するから無くさないようにね」
どうやらランクが出来たようだ、俺の時は倒せるやつは突っ込め!って言われてたから感慨深いな?
「はい、最初の色の銅プレート。まずは金を目指して頑張ってね」
おお!よし、早速ゴブリン狩りでもいくかな。そう思った俺はギルド長に礼を言い、早速受付嬢の元に急ぐのであった。




