幸せな日々
「最近起きてる辻斬り事件、ほんとに何なんすかねー」
「そういえば冒険者の奴らにまで被害がいってるんだって?」
イリキさんがコーヒーを飲みながら話を聞いている、話の内容はエグいのに呑気っすね。
ともかく最近辻斬り事件が多発しており何人か知っている冒険者の人がやられている。近いうちに本格的に捕縛するためのチームが組まれるとのことだ。おそらく自分も入れられるだろう。
「けどなーんかヤバい予感がするんすこの事件。私の第六感が危険だーって言ってるっす」
「俺は別件で調査に行かないと行けないからな、わりぃがついて行くのは無理だ」
「別についてきて欲しいって訳じゃないっす、ただ」
「ただ?」
「覚えてるっすか、先輩が使ってた刀」
「ああ、あの禍々しい刀だろ」
「あれ誰もどこに行ったか知らないっすよね」
「そういえばそうだな」
「先輩の死体と一緒に回収した、そう聞いてはいたっす。でも次の日には無くなっていたらしいです」
「盗まれたのか」
少し不愉快そうな顔をするイリキさん、友の遺品を盗まれたと聞いたら黙ってられないという顔だ。
「違うっす」
「じゃあ何で無くなったんだ?」
「消えたんすよ、まるで幻みたいに」
「そんなわけないだろ、刀が勝手に消えるわけ」
「あれは魔法道具です、何が起こっても不思議じゃない」
「結局お前は何が言いたいんだよ」
「私は一回あの刀について先輩に聞いたことがあるっす」
「なんて言ってたんだ」
「『こいつ、生きてんだよ。自分にふさわしい奴を探してる』って」
「ふさわしい、奴」
「もしそんな刀が血に飢えたような殺人鬼に渡ってしまったら、どうなるか考えるのは容易っすね」
「俺達の仲間の刀を勝手に辻斬りに使ってるってのか、ふざけんな!」
「まだ予想の範囲内でしか無いですけどね、ただこの事件の詳細を聞いてから先輩の刀の話がずっとぐるぐる頭を回ってるんすよ」
「だからヤバいと」
「そうっす」
「なら誰か勇者パーティから連れていけ、マイとかどうだ」
「不幸なことに私以外も全員仕事なんすよ」
「それは」
「まあ気の所為ですって、さっきの話は忘れてください」
「だがよ」
「もし本当にやばかったら逃げますから」
「絶対だぞ」
「はいっす!」
イリキさんはまるで血の繋がった兄のように心配してくれる、このパーティの頼れる兄貴分の名は伊達じゃない。
「死人に口なしで情報はゼロっすから大変だと思います」
「調査から帰ったら俺も協力する」
「いいんすか?」
「お前の勘はよく当たる、それだけで信じるに値するんだよ」
「ありがとうございます」
「それに」
「それに?」
「もしあいつの刀が使われていたら、俺が真っ先に相手の顔面に拳を叩き込まなきゃ気がすまねえ」
「それが本音っすか」
「ハハハ!当たり前よ!」
「タリナイ」
「やっやめてくれ!」
「タリナイ」
「ひっ」
「タリナイ」
「う、うわぁぁぁああ!!」
「赤色ガ、タリナイ」
「カムイドコニイル」
「オマエガコナイト」
「ミンナシヌゾ?」
「うわぁ!」
「うひぃ!」
変な夢を見たから飛び起きてしまった、それに驚いたキリカも起きてしまったみたいだ。申し訳ない。
「どうしたの、怖い夢でも見た?」
「ああ、ちょっとな。別に気にしなくてもいいぞ」
「本当に?何かあったら教えてね」
何だったんだあの夢、全て赤色の夢だった。あんな夢見たことがない。
「おはよう、新しい朝が来た」
「うおっ、メリーおはよう」
「おはよう」
「うん、ハンゾーは朝から元気な私を見習うべき」
「ああすまんな、死にそうな顔して」
「大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
「ならいい、朝ご飯出来てる」
おおどんな朝ご飯だろう、楽しみだ。昨日の飯も美味かったからな。
「今日は焼きたてのパン」
「嬉しいな、キリカ」
「うん!楽しみ!」
そう言いながらリビングに入る。
「おお!ハンゾー君!おはよう!」
「あら、おはよう二人とも」
「おはようございます」
「おはようございます!」
さあ食べよう、それでは手を合わして。
「「「「「いただきます」」」」」
「もう今日は帰るのかい?」
「はい、もうすぐ馬車が来るらしいのでそれに乗って」
「そうか、またいつでも来てくれ」
「ありがとうございます」
「あと、娘をよろしく頼む」
「はい」
「ハンゾー君」
メリーのお母さんが呼び止めてくる。何だ、何かしたか。
「わかっているとは思うけど娘は感情を表現するのが苦手なの、だから顔を隠してる。けどそれに甘えて娘にいい加減な態度をとるのなら」
「とるのなら?」
「タマ取りにいくから覚悟しなさい」
「は、はい...肝に銘じときます」
「そんな怯えなくても、別に恋人になれって言ってるんじゃないの。あの子の気持ちに整理がついたとき、向き合って話を聞いてあげて、それだけでいいの」
「わかりました」
「何かあったら言ってきなさい、もう家族みたいなものなんだから」
「ありがとうございます」
怖いけど優しい人なんだな、けど多分この人が一番この家で強いな。権力的にも、武力的にも。当主のものなど比べ物にならないほどの威圧だった。直系のブラッド家はやはり違うようだ。
「夫には別に強さで惚れたわけじゃないから、そんな不思議そうな顔しないの」
考えていたことがバレていたようだ、そういえば最初の出会いはこの人が辻斬りしたって聞いたな。どっちが勝ったのかも何となく理解したよ。
「ではまた今度」
「ええ、頑張ってね」
「ハンゾー君、キリカ君。また来るのだぞ!」
「はい!ありがとうございました!」
そう言ってメリーの家を離れた。いろいろあったけど楽しかったな。
「ハンゾー、キリカ。楽しかった?」
「ああ」
「うん!」
「それは良かった」
相変わらず黒づくめで顔は見えないが、メリーが微笑んでいることだけはわかった。
少しの間馬車に揺られ、空も夕方になり赤くなってきた。ようやく宿についた。
「私は先に部屋に戻っている」
そう言ってメリーは帰ったので俺とキリカは二人きりになった。
「あ、あのハンゾー」
「お、おうどうした」
「ちょっと外歩かない?」
「いいぞ、どこだ」
「行き先は決めてないから適当に歩こう」
「そうだな、それがいい」
そう言っていつもよりぎこちなく歩く俺達。夕日のせいか二人とも顔が赤く見える。
「行く前にさ、話があるって言ってたよね」
「ああ」
「聞いてくれるかな」
「いくらでも」
「そっか、じゃあ話すね」
「おお」
「ハンゾーと出会った日、実はボク他の冒険者に男なのにナヨナヨしてるからパーティに入れたくないって言われて断られ続けてたんだ」
「それは」
「別にその人たちが悪い訳じゃない、パーティメンバーの命がかかっている以上得体の知れない男か女か分からないやつを入れようとは思わないから」
「そんなこと」
「でも、ハンゾーは声をかけてくれた」
「!」
「嬉しかった、本当に。ボクはまだここに居ていいんだって思えたんだ」
「別にそんな大層なことはしてない、パーティメンバーが欲しかっただけだったから」
「うん、わかってる。けどその後ボクを生かそうとハンゾーは殿を務めてくれた、ボクは怖くて逃げたのにその後正式にパーティメンバーになって欲しいって言われたときは喜びと驚きで涙が出てきた」
「お前だからパーティに誘ったんだよ」
「ふふっ、ありがとう。それでまたその後もいろいろあったよね。一緒にお風呂に入って、一緒にご飯食べて、一緒にクエスト行って、全部初めての体験だった。」
「楽しかったな」
「うん!それでね、ボクは君に憧れてた。そう、最近までは憧れで済んでた」
「キリカ...」
「ボクは普通じゃないみたいなんだ、男が好きって訳じゃない。けど君のことが好きで好きでたまらない、もう自分を誤魔化すのは苦しいよ...だから、ハンゾー」
「なんだ」
「ボクをこっぴどく振ってくれないかな。そうしたら諦められるから、ハンゾーにもう近づかないから」
「なあ」
「どうしたの?ハンゾー」
「お前は馬鹿か」
「なっ」
「今さら離れられるかよ、知ってしまったんだよ、泣き虫で気弱でドジだけど一生懸命で優しくて、人の為に泣くことの出来るキリカっていう人間をな」
「なんで」
「なんでもクソもない、わかんねぇならもっと直接的に言ってやる」
「えっ」
「俺もお前のことが好きだ、キリカ」
「なんで、ボク、男だよ?」
「偶然だな、俺もだ」
「なんで、なんで」
「俺も最高に楽しかった、お前との冒険が」
「え?」
「いつもいつも負い目を感じて、信頼出来る仲間は居ても眩しくて、自分だけ壁を作って逃げてた。自分に価値なんてあるのかって。お前にもそうなりかけてた、けど」
「けど?」
「いつも泣いてたんだ、お前が。」
「ハンゾー...」
「自分を犠牲にしようとするたび、縋り付くように泣いてた。それを見て、俺は今まで最低なことをしてたんだなって」
「ハンゾーは悪くない!ボクが弱いのが...」
「いや、本当に弱いのは俺だ。過ぎたことを捨てられなくて、ウジウジ女々しく考えていた俺だったんだ。そう気づかせてくれたのはお前だよ、キリカ」
「じゃあ、ボクはハンゾーと一緒に居てもいいの...?」
「当たり前だ、嫌って言っても離さねえからな」
「あ、あ、う、うわぁぁぁ!うわぁぁぁん!!ハンゾーぉ!!」
抱きついてきた、鼻水やら涙でびしょびしょだが気にもならない。今日は気の済むまでこのままでいよう。俺は明日からの幸せな日々を思い描き、微笑んだ。
エンダァァァァアアアアイヤァァアァァアアアアア!!!書いててめっちゃ楽しかったです。やっぱ小説は書いてて楽しくないとね!(白目)