感動の死に様
新作出して息抜きを図る(クズ)
意識が途絶えていく、文字通り魂を込めた一刀。断末魔を上げて倒れる異形の化け物。今まで手こずらせてきやがった『魔王』がやっと息絶えた。そして、自らの命ももうすぐ蝋燭の火のように消えてしまうだろう。
それほどの技を、身の丈に合わぬ渾身の一振を放ったのだ。矮小な自分の身体など壊れて当然だろう。
だが目の前の奴らは認めることは出来ないといった表情ばかり。
「おい!目を開けろ!死ぬな!」
「嘘...回復魔法が効かない!何で!
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!私を置いていかないで!」
「クソが!なに俺より先に死のうとしてんだ!ふざけるんじゃねぇ!」
「貴方にはまだ恩を返せてないのよ!早く起きて!起きなさい!」
「先輩!先輩!!イヤっす!こんなの、こんな別れ方イヤっす!!」
黒髪のイケメンに金髪の乳デカ女、ロリ系妹と赤髪筋肉達磨、あとはクールビューティとやかましい後輩。
本当に全員やかましいな、俺が居なくなったら誰がツッコミ入れるんだろうか。なんて、呑気なことを考える。
「なぁ…」
「!!喋らないでください!傷が開きます!」
「聞けよ…最後の言葉くらい...」
「やめろ!!縁起でもないこと言うな!」
「お前ら...俺が居なくなっても街の人に迷惑かけんなよ…特に師匠には世話になってんだか...ら...」
「お前が居なくなったらその師匠はどうすんだ!悲しむぞあの人は!それに俺達じゃお前の穴は埋めれないだろうが!」
「しょうがねぇだろ...ずっと人斬って生きてきたんだ...こうなることぐらい予想してたよ…因果応報ってやつだ...」
「生きる為だったじゃない!あんたは幼馴染を守ろうと仕方なくやってただけ!」
「そんなの言い訳にもなりゃしねえよ...結局やってたことは人殺しに変わらねえよ…」
「お兄ちゃん...やめて...そんなの嫌だよぉ...」
「先輩...嘘っすよね…いつも通り、からかっただけだよって言ってくださいよ!まだ、まだ何にも返せてないのに!私達を置いていかないで!」
「お前ら...元気でな…」
そうやって俺はこの世から消えた、まあ後悔は無い。かなりヤバい孤児院で育ち、そこから幼馴染に汚い仕事がいかないように全ての仕事を請け負った俺は幼い頃から殺し、盗み、騙し、生きてきた。
恵まれた容姿を生かし潜入、翻弄し、敵を騙し暗殺。万が一バレても化け物じみた剣の才能を生かし全て殺した。
だが、幼馴染が勇者の適正があり、そいつと一緒に行くことになって、殺しはほとんどしなくなった。
そこで、今の勇者パーティと出会ったんだっけか。
そういえば師匠と出会ったのも勇者パーティ結成同時くらいか、あの年齢詐称チートロリババアともこれでお別れと思うと寂しいな。
そして仲間を守るため、魔王を倒すため、自らの魂の大部分を刀に込めて叩き斬った。これは後世まで語り継がれたことだろう。だから今はいっそ清々しい気持ちだ。ん?でも、あれぇ...何かやり残したような...
そうだ!!
「俺、童貞だぁぁぁぁあ!!!」
「天使です、転生の手続きをしに来ました...ってうわぁ!!」
お?何か生きてる?マジか、めっちゃかっこいい感じに退場したのにめっちゃ恥ずかしい、やだ〜、絶対赤髪筋肉達磨が馬鹿にしてくるやつじゃ〜ん。
「あ、あの貴方が死んだことは間違いないですよ?」
え、誰?めっちゃ可愛いけど誰?髪サラサラ過ぎないか、光に反射して天使の輪っかみたいになってる。ていうかリアルに天使の輪が見える、天使か。
「だから天使って言ってるじゃないですか!」
あ、自覚してるタイプね。別にいいと思うよ、やっぱりそこまで顔がいいと自画自賛したくなるだろうし。
「あー!!この人話聞かないタイプだ!」
「いや、聞いてはいたぞ」
「しゃべったぁあああ!!」
なんだコイツ、俺は喋ったら駄目なのか。まあ大量殺人鬼には発言権は無いのだろうな。本当に俺は死ぬべき人間だと思うよ、もっと惨い死に方がお似合いだったかもな。
「あぁあ...ごめんなさい!ごめんなさい!!ていうか分かって言ってますよね!?私が心読めてるの分かって言ってますよねぇ!?」
「ああ分かってるぞ、お前が可愛くて面白いから悪い、俺は悪くない」
「かわっ...!?いきなり何を!コッコッコッココココ!?」
「にわとりかな?」
「こ、こんなことしてる場合じゃないんですよ!」
「そっか、俺はずっとお前と喋っててもいいけどな」
「ふえっ」
変な声が漏れてるぞ、これはチョロい。あの後輩ぐらいチョロい、年々戦闘力が上がってはいたがチョロさは変わらない後輩ぐらいチョロい。
「それよりも話があるんだろ?お兄ちゃんに言ってみろ」
「お兄ちゃん...?まあいいです、そうです!貴方は死にました!本来なら地獄に送られ、強制労働ですが魔王という邪悪な存在を倒したのに加え、本人は反省してる、どのことで情状酌量の余地ありです!ですのでもう一度チャンスをあげるとのことです!」
「チャンス...?」
「はい!それは...」
「それは?」
「もう一度元の世界で記憶を持ったまま一からやり直してもらいます!」
「は?」
「聞こえませんでしたか?ですからもう一度」
「いや分かってる、けどおかしくないか?何で元の世界なんだ?」
「神は言っています、もう汝の罪は消えている。しかし、最後の別れのシーンだけバッドエンドみたいだから何とかしてくれない?気になって夜も眠れないんだけど、とのことです!」
「神、適当過ぎない?」
「まあ自由奔放な御方ですからね」
「はぁ...まあいいや…で、俺は何すりゃいいんだ?」
「えっと、何かいい具合にハッピーエンドにしてきて、鬱エンドにさせたら無間地獄に送り込んで廃人にするから、という...」
「神らしいっちゃ神らしいな。この神、クズだ。」
「ちょっ!?天使の前でそんなこと言いますか普通!?」
ダルいけどやるしかないようだ、今更行っても特に何ともなってなさそうだけどな、案外忘れてるかもよ?俺のこと。
「貴方は...どんだけ自己評価低いんですか…」
「親の愛を知らずに育ってるからな、俺以外の勇者パーティは優秀すぎたし、俺は剣の腕と思い切りの良さと天ぷらの揚げ方くらいしか誇るとこなかったのもある」
「天ぷら揚げるのうまいんですね、凄いです」
「シリアスが苦手だからって話題変えるの下手くそだな君。まあ冗談だから安心しろよ」
「くっ...馬鹿にして...あ、あと一応ガイド役として私がつきますから」
「ガイド役?」
「向こうも結構な時間が経ってます、そこに子供になった貴方が一人だと色々不便でしょう?」
「待って、俺子供になって一人でほっぽり出されるの?酷くない?」
「ですからガイド役に私がつくんですよ」
「いけんの?」
「バッチリです!任せてください!」
「何か不安だけど、とりあえず頑張ってくれ」
「ふふん!」
こうやって張り切ってるときほど上手くいかないんだよなぁ…まあ余程のことがない限り死んだり怪我したりすることはないだろう。
「そういえば何年か経ってるって言ってたけどどれくらい?」
「五年ほどですね」
「結構経ってるのな」
「まあ少し心の整理がつき始めたくらいが一番面白いって神が言うので」
「うわぁ、清々しいほどクズ」
「仕方ないですね、神ですから」
遠い目で天使ちゃんが言う、これは昔から何かあったな。苦労してる顔だ。
「そろそろ送ろうと思うので手を握って貰っていいですか?」
「え、そんな俺達御付き合いもしてないのにそんな、駄目だよ」
「そういうのいいですから早く」
冗談が通じなくなってきたか、進化してきたな天使ちゃん。チョロいなんて言ってゴメンよ。
「では、送りますね。一応武器として小刀を送っときます、身長は140センチほどです。最初は慣れないかと思いますが貴方なら大丈夫でしょう、適応能力が人外でしたから」
「酷い言い草じゃないの」
「それでは行きますよ、ほいっ!」
掛け声適当だな、そんなんでいいのか天使。そんなことを考えた瞬間視点が360度まわり、気がつくと俺は、懐かしの故郷に居た。
「うおっ、視線が低い」
『仕方ないですよ、実際小さくなってますし』
あっ、天使ちゃんの声だ。これは普通に喋ったら独り言言う不気味な奴になってしまう。どうしよう。
『大丈夫ですよ、ちゃんと考えてることは分かりますから』
おお、優秀。けど思考が読まれるのは少し、いやかなり恥ずかしいな。エロいことを考えただけでセクハラになってしまう。
『な、何言ってるんですか。...私のことを考えたときのみ思考が分かるので安心してください』
そりゃありがたい、じゃあ天使ちゃんでエロいこと考えるね。
『うわぁぁぁ!!何やってるんですかぁあ!』
よし、一通り満足した。これからどうしようか、住む所も食べるものもないからな、そしてそれを買うお金も無い。
『お金ならポケットに入ってますよ…10万ゴールドほどですが…』
おお、10万あれば一週間は宿で暮らせるだろう。この間に仕事を探そう。仲間に会いに行く前に一応生活基盤は整えておく。何かあっても安心だからな。
『仕事のあてはあるのですか?小さい子供がつける仕事となると限られてくると思うのですが...』
決まっているだろう?人が死のうが居なくなろうが、自己責任。荒くれ者と浮浪者の最後の受け皿と言われてる《冒険者》だよ!