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超能無職  作者: まーくん
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8.『国立超能力開発研究所主任Mrマリク』

 真理久マリク氏は基本的には優秀な男だ。それは彼の研究レポートを読めば分かる。伊東秀明に対する研究は、考えうる限りのアプローチをしていることも分かる。ただそれでも、結果が上げられないこともあって、彼の立場は危ういものになっていた。

 まず真っ先にDNA検査が行われた。これによって数多くの疑問に答えが出るのではないかと期待されていたが、数か月掛かりで分析されたその内容には、驚くべきことに常人との大きな差異はまるで見受けられなかった。

 これによって超能力に対して何かしらの欺瞞があるのではないかと疑われた。トリックの介在を危惧して、研究所は考えられる限りの観測機器を駆使して、伊東秀明による超能力のデータを収集していった。結果は、懸念されていたようなこともなく、伊東秀明がただ何も存在しない空間からエネルギーを発生させる姿を、ただ淡々と映し出しているのだった。

 結局それらから分かった事実と言うのは、良く分からないという事が分かっただけだった。研究はすぐに行き詰った。現象に対して色々と理論はくっ付けられそうだが、それを裏付けられるデータもない。

 マリク氏は、伊東秀明からの聞き取り調査や研究結果から、一つの仮説を打ち出した。その内容がより彼を危うい領域に推し進めていった。

 レポートにはこのように記されている。


 伊東秀明が超能力を説明する場合、世界を覆う霧についてよく口にする。この霧のような粒子は我々の住む世界の空間を埋め尽くしており、この粒子こそが超能力を実現する要なのだと言う。

 私はこの存在をゼロ粒子と仮称することとした。

 この粒子は現実世界においてすべての値がゼロであり、他へ影響を及ぼすこともなく、観測することもできない。しかしながらそのゼロは確実に存在し、あらゆるものに変じる可能性を持っている。ゼロであるその粒子はこちらの世界に現れると何か意味のあるものへと変じようとする。その可能性に意志を反映させる術と言うのが、伊東秀明の扱う超能力である。彼の話を総合して、私はそう仮説を立てた。

 しかしその場合、ゼロ粒子はその性質上、どんな観測機器でも捉えることができないと言うジレンマが存在することになる。観測も計測もできず、どのようにしてそれの実在を証明するのか。これを可能にすることが目下の研究課題と言えるだろう。

 伊東秀明がこの粒子をどのように認知できているのかは不明である。彼に対する身体検査も行ったが、常人と特に変わった差異は見られないように思える。しかしながら彼の認知能力は特殊であり、人の気配に敏感で、視覚外の人間の存在も知ることができるようだった。彼の様子から、まだ何か能力を隠していそうであったが、彼は全てを明かしてはくれないようだった。

 彼の超能力に関して重要なのは、むしろ彼の持つ超感覚の方なのかも知れない。言うなれば、ゼロ粒子とは宇宙に存在するパワーであり、彼はその力や性質を利用しているに過ぎない。その粒子を観測する能力こそが、ゼロに変化を与える鍵のように思える。

 この粒子が利用可能となれば、もう人類はエネルギー問題を抱えることもなくなるだろう。粒子は宇宙全体を満遍なく覆っており、それが利用できるという事は宇宙の全エネルギーを利用できるのと同等の意味を持つ。

 しかし、その道のりは長くなることだろう。それの存在を捉える糸口すら今は見つかっていない。伊東秀明のゼロを観測する超感覚を解析していくしかないだろう。だが、遺伝的にも、身体的にも常人との違いは見られないことを見ると、その能力は我々の考える生物的なものに起因する力ではないのかも知れない。

 否、もう一つ可能性がある。伊東秀明と我々に大きな違いが無いという事は、本来人間が備えている隠された能力なのだと言う示唆なのかも知れない。その能力を開眼させることができれば、我々は新たなる境地に至るのかも知れない。

 追記しておくが、伊東秀明に対する超能力の出力実験はもう行わない方がいいだろう。前回行った時でさえ、施設と人員に多大な被害をもたらした。理論上、ゼロ粒子はこの宇宙を消滅させるだけのエネルギーを有している。彼が無制限に力を行使できるのであれば、制御に失敗した時の被害は予想不能である。

 

 彼は基本的には優秀な人間である。若き天才とさえ呼ばれ、カリスマ性もあった。ハーフとしてこの世に生を受けた彼は、父親から異国文化の影響を受けながらも、この国の国民としての自覚を持ち、世のため人のために働くのだという、好感の持てる男だった。だから彼に人々はついていくのだろうと思う。

 レポートから目を上げて、部屋のほぼ中央で瞑想するマリクに、研究所の所長はため息を吐いた。その様子に彼は気付いた様子すらない。

 彼は日々、粒子ゼロの存在を観測する『研究』をしている。森羅万象と一体となり、その存在を感じ取るために努力を惜しんではいなかった。在るか無いかも分からない、仮説でしかないモノに対して、ただじっと部屋の中央に座り続けていた。

 冗談のような光景だった。気が狂ったのかとも思った。さらに笑えないのが、その人数が日増しに多くなっていく現実だった。彼の理論の賛同者が、一人、また一人と増えていっていた。これも、彼の持つカリスマ性の賜物なのだろうか。今では、まるで宗教施設のような人数にまで膨れ上がっていた。

 研究成果は上げられず、瞑想施設と化したこの研究所は今、閉鎖の危機にさらされていた。研究費は大幅に削られ、研究員の大部分を彼に握られてしまった。今更彼等を追い出すのは難しいだろう。マリク自身も危うい立場にあったが、所長自らも既に窮地に立たされていた。

 果たして、彼はどうするべきなのか。研究を支持するべきなのか、それともマリク等内部勢力と争う姿勢を見せるべきなのか。

「妻よ、子よ、私は挫けない。君たちの未来のために……」

 所長はそっと涙を流した。レポートを投げ捨て、別の紙束をめくる。めぼしい求人情報は載っていなかった。

この小説、あんまり話の展開ないしゆっくり進めたいので投稿頻度低めで別の小説書こうか検討中。

気が向いたらもう一つと並行して投稿していこうかな。

まあ趣味みたいなモノですし適当にやっていきます。

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