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超能無職  作者: まーくん
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6.『危険人物伊東秀明』

 少年はまず、成人男性一人を満遍なく炭化させると、次に人間と思われる物を不可視の力ですり潰し、ひき肉よりも酷い状態にしてその場を血の海へと変えた。端的に言えば、彼が起こした事件と言うのはそういうものだった。

 いや、正確には彼が起こしたものではない。少年は重要なトリガーではあったが、完全武装で少年を襲って拉致しようと企んだのは、人間と判断するのも難しい状態になってしまった連中の方だった。少年はそれを返り討ちにしたに過ぎない。

 まったくもってお笑い種だが、その事件を受けて検察がしたことと言うのは、少年を過剰防衛で起訴することだった。当時の検察が何を考えていたのかは分からないが、相当に無理をして進めた案件であったらしい。担当検事の何かしらの信念に基づくものであったのかも知れないが、アサルトライフルやグレネードと言った重武装を相手に、過剰防衛を問えるかは当時としては無理筋に思えた。結果、検察は数々の苦労を重ねて超能力の実在は認めさせたものの、それが過剰防衛と言う判断に至らせるまでは行かなかった。

 この超能力を巡っての裁判に、世間は大いに興味を寄せたが、その端に横たわった大きな疑問に関しては、この国の人間は大きな関心を寄せることはなかった。つまり、重武装の謎の襲撃者たちは一体なにものだったのか。

 残された遺体は完全に炭化したものと、どれがどの部位で誰の物なのか判断つかないようなものばかりで、男女の違いすらも判断が難しく、ましてや個人を特定するような要素と言うのはほぼ皆無だった。何とか行えたDNA鑑定で、その人間がこの国の人間ではないと辛うじて判断できる程度で、一体どこの連中なのかは未だに謎のままであった。

 後の調査で分かったことだったが、その事件が発生するまでにはもう、国内ではその少年を巡った外国勢力の諜報合戦が既に行われていたらしい。まったくもって笑えない冗談だ。自分の腹の中で起こっていた出来事を本人たちが知ったのは、全てが終わってからだったということだ。この国の人間と言うのは呑気な連中ばかりだ。

 それ以来、この男は少年と共にあった。周囲の人間からはボスと呼ばれ、彼の警護および監視の任務で少年をずっと見守り続けていた。少年を脅かすものがあれば守り、少年が罪を犯せば彼を拘束するのが男の任務だった。

 彼が任務に就いてから今まで、色々と苦労は多かった。だがその大半は実質的な護衛任務の内容よりも、この超能力少年の危険性を理解していない能天気な人間たちのケツを叩いて回る事の方だった。

 その件に関しては検察はまだマシだったが、所詮は自分らの領分の範囲でしか物を考えない視野の狭いバカだったと言わざるを得ない。当時の検察が何を考えていたのかは推測するしかないが、おそらくは法律と言う自分たちの力の及ばない不倶戴天の敵に対しての恐れであったのではないかと思う。だから何が何でも少年を牢にぶち込んで判例を勝ち取りたかったのだろう。そうすれば、後に現れるかも知れない超能力犯罪者に対抗できるかもしれない。と考えたのかも知れない。一部その考え方は正しいが、それだけでは足りない。今の科学で超能力犯罪を完璧に立証するのは難しいが、超能力の存在を司法に認めさせたことで、事実の積み重ねを立証していけばある程度の成果は上げられるだろう。彼らにとってはそれで満足なのかも知れないが、男にとって重要なのはその先にある戦いだった。

 犯罪集団、外国勢力、革命思想を持った者たち。力を欲する者たちが、伊東秀明と言う人物を渇望している。それらから、彼とこの国を守らなければいけない。

 そんなことは大したことじゃない、と言う者が居るだろうか?

 居るかもしれない。世界が滅亡するような危機に比べれば大したことではない。そんなことを言う輩に限って国の秩序を守るのは他人任せで、日々平和を貪って暮らしている。それを考えると男はいつも怒りに震えていた。

「これから誰と会うんだ?」

 バックミラー越しに伊東秀明を睨みつけながらボスと呼ばれる男は尋ねた。

「誰だっていいだろ」

 面倒くさげに車中から窓の外を眺めながら、頬杖を突いた秀明が漏らすように吐き捨てる。

「いいわけあるか」

 彼がどこで誰に会うかと言うのは決して軽い出来事ではない。数多ある組織が固唾を飲んで見守る重要案件だった。誰がこの超能力者と言う稀有な才能を持った人間を先に引き抜くか。おそらく、彼を引き抜いた者たちが、超能力という新世界の先駆者となれるのだろう。

 馬鹿らしいと思われるかもしれないが、現状このスカウト合戦を止めることは現体制のこの国においては不可能である。どの組織に渡ってもこの国の脅威にしかなり得ないのに、止めることができない。自由と人権と言う名の下に、手も足も出ない状態だった。精々が彼の交友関係を監視して記録し続け、不法な行為で彼を支配下に置こうとする者たちから守り、遠ざけておくくらいのことしかできない。

 まったく笑えない冗談である。国を守る仕事と言うのが、ただ見ているだけだなんて。まったく笑えない。

 まだまともな国の機関に引き抜かれるならば良い。多少超能力の分野においてイニアシチブを取られる程度で済むかも知れない。だがこれが敵対国や非合法組織に渡ったならばどうなるだろう。その混乱は計り知れない。

「誰と会うんだ?」

 感情を隠さずにもう一度訪ねる。低く唸るような殺意の籠った声音に、車内の空気がヒリつく。

 さすがにこの剣呑な雰囲気に堪り兼ねたのか、ため息を吐いて秀明は言葉を漏らした。

「レイチェルだよ。そんなに心配しなくても大丈夫だっての」

「……あの女か」

 それは良く知った女だったが、彼が言うほど安心できる女ではなかった。

 いや、そもそも良く知っているなどと言うべきではない。女の底深さを垣間見れば、そのようなこと軽々しく言えなくなる。女と言うのは永遠の謎である。

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