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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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四十六話

名はマイ

住まいは《館》

身分は学舎生


父はワンワン

職業は主人様の拳


母はスズ

職業は《館》の長で小さな牧場主もしている



小さな頃は本当にワンワンの事を父だと思っていた

そんな事を口にすれば父は、私は親として何が足りないのだと泣きながら縋られるので口にはしないが、兎に角小さな頃は自分は父と母の間に生まれたのだと疑いもなく思っていた


では我が父ワンワンの事をどう思っているかと聞かれればお父さんとしか答えようが無い

小さい頃から母の真似をして父の事をワンワンと呼んでいるがそれは私にとってお父さんと同じ意味の言葉


母は蛮族の生まれなのだそうだが兎に角口うるさく卑しい

卑しいと言っても産まれがとか意地汚いとかでは無く

周辺の蛮族がどうなろうが知ったことでは無いと言わんばかりの商売を蛮族相手にしている所がだ


小さい頃から仲良しのアカリちゃんの様に蛮族に優しい人は母のやる事を幾ら何でもひどいと影で言う

私個人としては蛮族がタバコでどうなろうがお酒で手が震えようが腐った様なクスリや治すならちゃんと治せと言いたくなる様な医療器具を身体に埋め込んでいたところでどうとも思いはしないし、何年も倉庫で廃棄を待っていた保存食を売りつけて何が悪いのだろう


母の事をどう思っているかと聞かれれば、それはもう口うるさい

見た目は若いが中身は立派なおばさん


蛮族と言えば私も何人か蛮族に知り合いはいる

母の商売を手伝うシャンおばさんと父が隣の蛮族と呼ぶおじさん

周りを蛮族に取り囲まれた《館》に育ったのだからさぞ蛮族と仲が良かろうと言われるのだが、私は壁の外はほとんど知ら無いし蛮族に興味もない

いつも父に蛮族は汚いと言われていたからか

おぼろげな記憶で蛮族に泥だらけにされた事があったからか

とにかくよくわから無いけど


《館》には私達家族の他に居候が数名

居候と言っても家族みたいなもので

何かあれば「何を⁈生意気なお前のへその緒を切ったのは自分だぞ!」と笑われる様な関係だ


それとお庭のワンコ達

親犬は私が子供の頃に死んでしまったが子犬達は今でも元気で、アカリちゃんの所から貰ってきたお嫁さんとたくさん子供を作ってお庭や蛮族館を駆け回っている

母さんやばばさまから犬には犬の名前があるから名前をつけてはダメと言われているので毛並みや色で呼んでいる


そうそう、それからばばさま

御屋敷を切り盛りし母さんの手助けをしてくれる万能の歯車で

遥か大森林の奥地からの指示を受けて働いている

そして母さんの母親でもあり私の祖母でもある


万能なので頼めば何でもやってくれるのだが、母さんに見つかるとばばさままで母さんに怒られるのでお願いはいつも母さんの居ない所まで、おいでおいでと手招きし、それから聞いてくれる

ちなみに私も母さんも歯車と人の区別はつか無いし

ばばさまが人でないのなら学舎の先生などの方がよほど歯車に思える


そして主人様

大森林そのものにして私達大森林に暮らすすべての主人

主人様がここで暮らすことは絶対の秘密なのだが、小さい頃の私がペラペラと喋ったらしく、今でもその事でよく怒られる


私にとって主人様はもう一人の父の様なもので、小さい頃からよく遊んで貰っていたし今でもよくお話を聞かせて頂く

それに母さんが父さんと喧嘩をするといつも主人様のところに行って父を叱って下さいと少女の様に甘える姿を見ているので偉いと言われてもピンとこ無いし、父も主人様の偉大さを理解するのに何十年もかかったと言うのでこれが普通なのだろう

母さんは出会ったその日から主人様の事は偉大だと思ったそうだけど


そんな家族と暮らす私も今年で17になる

毎年この季節になると今年は何をおねだりしようかと思い悩む

母さんは毎年誕生日になると父にとんでもない物を用意させ

主人様にもっと甘えさせて下さいとお願いする

もちろんそんな言い方ではないけどずっとお側にとかなんとか


今年は何をお願いするのかとばばさまが私の耳を掻きながら声をかける

ちょっと考えてると答えるとばばにも内緒なのか?と言って聞き出そうとするが、ばばさまにはごちそうを作ってもらうから安心してと言うとばばさまは困った様に手が四本で足りるだろうかと笑った


ばばさまが部屋から出て行くと私は窓から外を見下ろし洗濯物を眺める父を見た

女だらけのこの屋敷で洗濯物を眺めている姿は一つ間違えば変質者なのだが

アレはアレで楽しめるらしいのでほっておく


父はなんでも反対する人だか最後には私の言う事を聞いてくれる

十二の年に自分の部屋が欲しいと母さんに言い

贅沢だと怒られ

ばばさまが地下に小屋を建ててやると言われたが、私はそうじゃないと怒り

主人様にひとつ空き部屋が有るのだから自分にくれと泣き付いた

主人様はそれはお前達家族で決めなさいと仰られ

主人様の横に侍る父は不敬だぞと私を叱った


その夜、父を寝床から追い出し主人様の部屋でふて寝していると母さんの金切声と父のそこをなんとかと懇願する声が響き

私は「ああまたやってる」と思いながら眠りに落ちた


朝、ガンガンとうるさい音で目が覚めると、もんくをいってやろうと音のする方へ向かい言葉を失った

父が作業着を着た歯車を従え己もねじり鉢巻を締め

それはあっちそれはこっちと言いながら自分も走り回っていたのだ


呆れる私の横に立ったばばさまは顔を洗いに行こうと私を誘い、洗面所へ着くと私にそっとこう言った

ワンワンがスズを説き伏せたのだ

子供に部屋を与えるのが贅沢ならば部屋に仕切りを立ててそこを使わせてやろうではないか

少し部屋を広げれば手狭になることもなかろうと


少し部屋を広げる

私はポカンと口を開き大袈裟なと呆れ

学舎から帰ってくると私達の部屋の横にあったテラスが大きく広がり、不恰好に突き出していて、私達の部屋と繋がっていた


そして次の日にはテラスはサンルームに変わり内装が施され、広い窓のある部屋に生まれ変わっていた

父は寝れば星空、起きれば青空だと言って私をそこに招き、狭くはなかろうと笑った

私の部屋は明かり取りのある板戸で出来たアコーディオンカーテンで仕切られる様になっていて

そこはまさに私が欲した「私の部屋」だった


私は早速ばばさまと父に手伝わせ机や本棚をそこに移し、父のお下がりのゴロ寝用のソファーを置いた

母さんはワンワンは本当に甘いと嘆き

私にちゃんと部屋を毎日片付けますと約束させた


その日の夕食の後、センちゃんが私になかなか面白い喧嘩を見れたぞと言い

私がいつものことでしょう?と答えると、センちゃんはそれはそうだがなと言って私の耳元で囁いた

いつの間にかな、話が変な方に転がってスズは自分とお前のどっちが大事なんだと言ってワンワン様を問い詰めていたよと笑った

私はふーんと答えると

で?父さんはなんて答えたの?と聞き返すと、センちゃんは笑ってスズは機嫌を直しお前は部屋を手に入れた、それでいいじゃないかと私の肩を叩いた


まあ答えは聞かなくてもわかる

父は

お父さんはいつでも母さんが一番なんだから


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