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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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四十五話

早いものだ

もう間も無くマイの卒学が来てしまう

毎日の様に送り迎えをして居た日々が万年続いて居た気すらする


子供の仕事と言うものは一にも二にもまず育つ事だ

育つためには寝る事だ

なのにスズは毎朝マイを不必要に早く起こす


飛行など一秒でも遅れなければそれで誰も迷惑などせんだろうに急げ急げと

もし仮に飛行時間に間に合わなかったとして、私がマイをおぶって一走りすれば良いことではないか

例えそこが地の果てでも私なら瞬く間に着いてやるものを


そのうえスズは私に絶対走るなと言い

それが私がマイを送り迎えする条件だなどと言う

おかげでこのワンワンが銀輪に娘を乗せ道を走るなどと言う事をせねばならなかった

まあ道々鳥だカエルだとマイが指差すのを聞きながら行くのも悪くはなかった


そもそも私は主人様のお許しを経てマイを送り迎えしているのだ

スズ如きにとやかく言われる筋合いは無い

無いがあいつを怒らせると何をされるか分からん


マイを学舎に送り他の子の親に一声かけるとひとまずキイの家で時を待つ

親どもは最初、私が何者かを知り這いつくばり畏れ多いとかしこまって居たが己の子が私を取り囲むのを見て私の寛容さと慈悲深さを知った

今や親どもは私の事を畏敬を込めて「マイちゃんのパパ」と呼ぶ

私も親どもを誰それのママやパパと言っているのだがそれを知ったスズは腹を抱えて笑っていた


兎も角、私はマイのお迎えまでキイの屋敷の縁側で辺りを注意深く観察して時を待つ

たまに気配を感じ畑へ向かいカラスへ声をかける

お前達は相変わらずだなと


羽ばたく二人目と呼ばれ我々一族と時を同じく主人様にお声がけを頂いた鳥達

二人目が主人様とした約束

勝手にしてくれ

自分達も勝手にする


主人様はその約束を守り大森林の各地に野鳥の森や水場を残し

自然の営み以外での鳥の殺生を禁じた

なので我々は家畜以外の鳥を口にする事はしないし大森林の内と外を二人目が自由に出入りしても誰もそれを咎めない


だが二人目達がその自由さ故に大森林の営みに害をなす時、我々は彼らに声を掛ける

それはダメだと

今やそれを知っている者も私と主人様、それにおふくろ様くらいのものなのだが


私は畑の実りをついばむカラスに声を掛ける

そこまでにしてくれ

それは我々地べたが食べる為にそこに生やしたのだと


カラス達は実りにお前達のものも私達のものも有るのか?と何時も不思議そうに首をひねる

虫やカエルの時はお前達地べたは何も言わないのになぜ実りはダメなのだと

飛べぬ私達はコレで喰ひ繫ぐしか無いから仕方ないのだと言うと分かったと言い、今日はもう一つでやめる、私にも子がいるからと言って私の尻尾を引っ張って遊ぶ子ガラスの事を言った


カラスと話す私を見てアコヤは不思議そうに何故もう来るなと追い払わないのですかと聞き

私は笑って答えた

二人目は私の次に偉いのだぞ?と


過去を忘れた毛無の子は二人目とは翼人と言う滅んだ種族と聞きましたと

それはお前達が創り出したお話だと言ってしまうのは哀れなので、私は同じ事だよと言って実りをひとつもいでかぶりつく

青臭いばかりの実りは昔を思い出し

アコヤはそれを見てまだ熟れていませんと笑う

そんな事をする内にお迎えの時間になり学舎へ向かう


そう言えばマイも最初のうちは学舎に慣れられず、私が居ないと言って泣いて居た

私は心を鬼にしてその度にアコに任せたものだ


流石に熱を出した時はアコを走らせ、私は屋敷に必要な物を取りに戻ったのだ

私の姿を見てスズは大袈裟だと怒鳴ったがアレはまだ病の恐ろしさを知らん

その昔穢れの何とかとか言う奴らが大森林を襲った時など我が一族すら次々と病に倒れ苦労したのだ

その時倒れた者達を救ったのが再生浴槽で得られる抗体であり

如何なる身体の傷も癒す歯車達

そしてそれを指揮するおふくろ様なのだ


それにやはり枕は慣れたものの方が良い

何時も有るものが有ると言う事は弱った者には心強いのだ

まあまだスズには分からんだろう

何せ私は幾万もの我が子を育てたのだ


学舎へ迎えに着くと、マイはまた後でねと学友に手を振り私に早く早くと言ってキイの屋敷へ銀輪を走らせる

キイの屋敷でアコの用意した軽食を食べると着替えもそこそこにマイは遊びに走る

幾日に一度などは学友と買い食いをするからと言って小遣いをねだる

店どころかな蛮族相手の経済活動しか行われていない《館》にいては買い物などをする事もなく

それでは将来困る事になる

コレも立派な学習なのだ

なのだがスズはそんな事も分からずマイを甘やかすなと私に言う

まあ良い、将来私に感謝するだろう


子供には色々な経験が必要なのだ

休みの前の日などはマイを連れて映写館へ向かい子供向けの映写を見る

スズに言わせるならそんなもの手配すれば《館》でも同じ値段で同じモノが見れると言うがアレも子供心をわからん親だ

皆が見ている所で見るから連帯感が生まれるのだろうに

まあ毎度同じモノを見るマイもよく飽きぬとは思うが

マイに言わせるなら前回見た「黒猫の冒険」と今見た「黒猫の冒険」は別のものらしい

私には区別がつかんが言われてみれば今回のは密林の中で前回のは海の底だったような気がするが

だいたいネコは泳がんのだが

まあ良い


そう言えば《館》で行われた「お泊まり会」は楽しかった

主人様も正体を隠し子供達を自由に遊ばせて下さった


親どもは店も無ければ病院もない

壁一枚隔てて蛮族に囲まれる《館》へ子をよこすことに反対したが

この私が大丈夫だと言っているのだと親どもを黙らせ

病院は無いが医者はいるし一応私の他に盾が四人いると伝えると親どもは顔を見合わせそれならばと言って子を送り出した


やって来た学友達は何故か皆正装だったし、主人様はどちらにと口にしていた

はて?何故此処に主人様がいらっしゃると親どもは感づいた?


よく来たと喜ばれるおふくろ様は学友達を歓待し、学友達はマイちゃんは本当に御屋敷に住んでるんだと驚いた

この屋敷の主人が誰なのかと聞かれればそれは勿論主人様なのだが、ならばマイの屋敷では無いのかと聞かれれば隅の隅までマイの屋敷である事は間違いなく


屋敷の中を学友達に案内して廻るマイはアレは何コレは何と指差し、それを中々立派では無いかと見ていると主人様のお部屋に入りコレが主人様と言って主人様を指差し主人様も笑ってようこそ《館》へと仰られた

私は頭を抱え必死にごまかしたが、何せ子供のする事だ怒ってはいかん

結局《山田》の皆んなには内緒だぞと学友達に言って聞かせた


その後も学友達は庭に出て本当に何も無いと驚き、蛮族を見たいと言うので明日合わせてやるがばっちいぞ?と言って脅してやった

そんな私を気にする風でもなくマイは皆に菓子を渡し、付いて来いと言って正門へ向かい、正門の前を勝手に守る正堂隊とか言う奴らに門扉越しに菓子を渡す

これは勿体無いと畏る蛮族を指差しコレが蛮族と学友達に言い

学友達もマイを真似し蛮族に菓子をおそるおそる渡しきゃあきゃあ言って跳ねた

マイが門前に居る蛮族を餌付けしているのは知っていたが何と豪胆な事か


その後は皆で庭を駆け巡り犬や魔獣と戯れ温室の中でかくれんぼなどをしては遊んでいた

魔人の子が蛮族館を見たいと言ったがそれは明日のお楽しみだと言って橋の上から眺めさせた

今日は蛮族館の開館日であるので流石の私も不安が有るのだ


その後は皆で映写を楽しみ夕食を振舞い盾どもに手伝わせ学友達を風呂に入れた

スズは食堂を片付け皆の寝床にしようと言ったがそれでは《館》が《山田》から軽く見られる

私はおふくろ様と主人様に頭を下げ主人様のお部屋に学友達の寝床を作りたいと申し出、主人様は賑やかで良いねと快諾して下さった

そしてはもう一つのお願いをおふくろ様に申し上げたのだ


主人様の御部屋は寝床で埋め尽くされ

主人様は隅に追いやられながらも愉快そうにマイや学友達を眺める

部屋一面の寝床の上を子供達が走り回る

昔はこの様にして我が子達を寝かしつけたものだ


そんな中マイがやって来たおふくろ様を見てでっかいババと喜んだ

そう、おふくろ様への願いとはあのお美しいお姿で昔の様に子供達を寝かしつけて欲しいとお願いしたのだ


寝床の真ん中で横になり丸くなるおふくろ様はマイを手招きし、マイはおふくろ様に飛びついてその毛に埋もれる

おふくろ様はほらお前達もと言って学友達を手招きし、子供達は次々とおふくろ様に飛びつきケタケタと笑い

その内に糸の切れた人形の様に眠りに落ちた


それを見た私もおふくろ様の横に丸まり、気がつけばいつの間にか寝相の悪いのが私の上にまで転がり込んでいた

スズはその光景を何か言いたげに見ていたが、その内己の部屋に戻り寝息を立てた


翌日、隣の蛮族を蛮族館に呼び出し約束通り子供達に見せてやる

子供達は蛮族だ蛮族だと言って奴を囲み質問責めにし

隣の蛮族は蛮族で魔人の子を見て驚き私の世界はまだまだ狭いと言っていた


夕食に間に合う様に学友達を親元に帰し、またみんなとお泊まりしたいとせがむマイに良い子にしていたらなと言って笑い、気苦労ばかりでしたと言うスズにご苦労と声をかけた

スズは何を偉そうにと私のヒゲを引っ張りマイの手を引いた


間も無くサクラの花が咲く

そうなればマイは小学舎だ

子の成長を喜ばん親はいない

私とてそうだ

だがなぁ

しかしなぁ

小学舎にはアコヤも通うと言う

これからはよほどのことがなければマイの送り迎えも許されん


心配である

マイは同級が1人増えると喜ぶが

心配だ


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