四十四話
娘の一日は忙しく支度をするところから始まる
もちろん忙しいのは私だ
お弁当を作り今日の支度をし
忘れ物がないかを確かめる
娘は急いでいる時に限って出がけにトイレと言い出す
時計を見ながらワンワンを呼び出し談話室の隣にある御屋敷の飛行場へ二人を押し込む
いくら《山田》の飛行場が寂れた、お爺さんが一人いるだけの田舎の飛行場でも朝の忙しい時間には《館》が割り当てられた飛行時間を過ぎて仕舞えば臨時飛行を受ける空き時間まで待たねばならない
娘はのんきに行ってきますと手を振り
ワンワンと二人光の渦の中に消える
私はそこでようやくひと息入れ朝食を取り主人様にお茶をお持ちする
月に何度かワンワンの代わりに娘を連れ幼学舎へ向かうことがあるが、やはり《山田》は良いところだ
飛行場につくとお爺さんがおはようと出迎えてくれ娘はぴょんぴょんと跳ねて返事をする
その後は飛行場に預けてある銀輪に娘を乗せ、かろうじて舗装されている田舎道を幼学舎へ向かう
幼学舎には娘と同い年の子が娘を入れて八人
毛人の双子と六本腕の魔人の子がひとり
それと人間の子供が四人
気が向くまで学びに来ないエルフの子の姿はない
娘を幼学舎へ預けると私はアコさんの家へと向かう
普段ワンワンと娘が迷惑をかけているのでアコさんには頭が上がらない
アコさんは耳無の子は手がかからなくて良いと笑うが
最初のうちは私もワンワンもいないと
ただそれだけで泣き出す娘をなだめに幼学舎まで何度も走ってくれ
突然熱が出た日などは天馬にリヤカーを引かせて迎えに行ってくれ熱が引くまで看病してくれた
ワンワンは何をしていたのかと言えば
オロオロしていただけらしい
まあ本当はオロオロした後、私を迎えに《館》まで戻り再生浴槽と医療用歯車とシジュウ様をお一人引きずり、娘の枕と絵本をかかえいちいち飛行などしていられるかと走ってアコさんの家に戻ろうとして私にバカかと止められていたのだ
まあワンワンは何もない日は幼学舎が終わるまでアコさんの家の縁側でぼーっと時間を潰し
お迎えの時間になると銀輪で幼学舎へ向かい
一旦荷物をアコさんの家に下ろすと友達のところに遊びに行く娘を見送る
《山田》の人達は最初、ワンワンがあのワンワンだと知って大騒ぎしたそうだが
直ぐにワンワンはただの心配性なおじさんの扱いになった
一応人別帳ではマイの父はワンワンという事になっている
ただし大森林世界にはワンワンの子供は沢山いる
「ワンワンの子達の家」と言う施設があちこちに沢山あり
親の居ない子達をそこで預かり
その全ての子達をワンワンの子として育てている
ワンワンが言う「給金を主人様にお返ししている」と言うやつの一部がそれに使われているそうだ
そんな話をするとワンワンが人格者の様に思えてしまうので話はここまでとするが
娘が駄菓子が欲しいと言えば私には内緒だよと言って小銭を渡し
休みの前の日には幼学舎帰りの娘を連れて子供向けの映写を見に行く
子供達の間で流行りのおもちゃがあると聞けば《山田》に有る小さな町へ出向き、それを何としても買い求める
元気一杯に遊んで居たのに日が暮れると家に帰ると言ってぐずる娘を見ると飛行場へ向かい木造の寂れた、人が疎らどころではない臨時飛行し放題の出発場から《館》へ戻る
シジュウ様が言うにはいつものことらしいし
主人様がおっしゃるには今回は子供がひとりだからおとなしい方だとの事
そんなワンワンが何時も迷惑をお掛けしますとアコさんとアコヤ君に感謝し
娘を家族の様に面倒を見てくれることにも感謝した
使ってないからと空き部屋を娘のために整理し
おもちゃや着替えを置いてくれているし
我が家のごとく友達を連れてくる娘の遊び場にもしてくれている
たまにワンワンが片付けて目も当てられなくなるらしいが
いつも娘のためにちょっとした食事を用意してくれるし
もう遅いからと娘とついでにワンワンを泊めてくれる事も珍しくない
勝手に畑の実りをもいでかじるワンワンなど射殺ろして良いと言っているのだが畏れ多いと笑ってくれる
申し訳ないとは思うがこのまま娘は《山田》の小学舎へ通わせようと思うとアコさんにお願いすると何を今更と笑われ
こちらこそお願いしますと頭を下げられた
何のことかと聞き返すとアコヤ君をマイと一緒に小学舎へ通わせると言ったのだ
アコヤ君は見た目は子供だがもう百十何歳だかで
私はとっくに小学舎位は終わっていると思い込んでいた
嬉しいことにマイの同級生は八人から九人へ増える様だ




