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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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四十一話(あ)

困った

本当に困った

コレはアレだ

迷子と言うやつだ


私は仕方なく大通りで腕輪を使い逸れてしまったワンワンを呼び出す

まったくお前は、今どこにいる

自分から迷子になっておいてなんて言い草だろう


私はそれはこっちのセリフと呆れ

大きなサクラの木が見える大通りにいると伝える

どっちのだ?と呆れた様な返事

あきれるのはこっちなのに

私は辺りを見渡し青い看板の店の前だと伝えると、この町だけで青い看板がいくつ有ると思っているのだと嘆かれた


少し間を置き、ワンワンはああ見えたと呟き、うろちょろぜずに待っていろと言って腕輪からの声が切れた


私は街路樹の木陰に入り道行く人を眺めた

通り過ぎる人は皆毛深く

すれ違いざまに私をちらりと見ては通り過ぎる


大森林の中心に有る大きな田舎

それが《中央》

外では獣人と呼ばれ

ここでは毛人と呼ばれる主人様に選ばれた最初の住人達の末裔が住む所

《大大都》などから見ればこじんまりとし、道ばかり広い所で

少し町を外れれば森と集落ばかりの長閑な所


「あれ?君ひとり?迷子にでもなっちゃった?巡視の所に連れて行ってあげようか?」


ぼぉっと迎えを待つ私に二人組の毛深い男がどこか軽薄な感じで声を掛けてきた


私は迎えが来るのでと申し出を断ると

まあそぉ言わずにと私の腕を取る


本当に大丈夫ですと断ったその時

私の手を取った男はグエッと声を上げ後ろ首を持たれそのまま持ち上げられる


「それは私の身内だ」


やって来たワンワンは男を横に下ろすと、私を見て勝手にふらふらするからはぐれるのだと溜息をつき、行くぞと言って私の手を取る

その時、先程の二人組がなんだこのチビ、毛無の前だからってカッコつけてんのかと言いながワンワンの前を塞いだ

ワンワンは気にした様子もなく、それでは風上には立てんなと言ってひとりの腕を指でつまむと男は声にならない悲鳴をあげて崩れ落ち

私の耳には男の腕の骨が軋む音が聞こえた


私はワンワンの頭を叩き、行きますよと言って手を引き

ワンワンはへたり込む男に、いいか?忘れるな?私達は誇り高いのだぞと言って私に引きずられた


「お前ももう少し気をつけろ、一族の中には毛無の裸を見て楽しむ変わり者もいるのだ」


私はもう一度ワンワンの頭を叩き

兄様こそ風上には立てませんと言ってやった


ワンワンとシジュウ様から、この《中央》では絶対にワンワンの事を名で呼ぶな、大騒ぎになると釘を刺されているのだ

ワンワンはおふくろ様もお待ちだと言って逆に私の手を引き返し町中を抜ける

その先でシジュウ様はテラスに腰掛け茶を飲まれていた


そのシジュウ様も二人組の毛人の男に声をかけられていて

私達を見ると子供もいるが良いのか?と言ってワンワンと私を指差し男達を驚かせ

私は退散する男達とすれ違い、シジュウ様の横に腰掛けた


“お待たせしました”


美しく着飾り毛を風になびかせるシジュウ様は笑って迷子にでもなっていましたか?と私に仰り、私が兄様には困ったものですとしれっと言ってのけるとシジュウ様はワンワンを見てお前が迷子だったかと笑われた


「では行きましょう」


立ち上がるシジュウ様はいつもの倍ほどはあろうかと思う背丈に美しい黄金の毛をなびかせ、七色に輝く瞳で私を見下ろすと美しい爪をした手で私の手をとりコレならば逸れまいと言って歩き出す


サクラの花を見たことがない私のためにシジュウ様のお誘いでワンワンの故郷である《中央》を訪れたのだ

ワンワンに言わせると、とっくの昔に産まれ故郷は土の下に埋もれているのだがと笑い

あんな山も昔は無かったぞと指差している

ワンワンの言う『昔』などは山の頂上が海の底だった頃まで遡るのでいちいち驚いていては疲れるだけなので聞き流す


それにしてもシジュウ様は皆の目を引きすれ違う男達は皆目を奪われていた

人間の私が見てもそのお姿は美しく

毛人達から見れば絶世の美女そのものなのだそうだ

私がそれほどお美しいのなら色々と危ないのではと言うとワンワンは、おふくろ様を組み伏せれる奴などいるものかと腹を抱えて笑い

私がお強いのですか?とシジュウ様に聞くと程々にと答えるばかり


そんなシジュウ様が立ち止まるとあれですよと言って山を指差す

そこには山を埋め尽くすサクラの木と辺りを染めるサクラの花

《中央》に来て最初にサクラの木を見た時は、葉もなく咲き乱れ、それを気持ち悪く思ったがコレが山一面となるとなんとも美しく

そのまま花の森を歩けば妖精にでもなった気分だ


私は上機嫌にこの木を御屋敷の庭にも植えたいと言うとワンワンは笑ってやめておけと言い

シジュウ様もそれはどうだろうと仰る

私が手入れが大変なのですかと聞くとワンワンはニヤリと笑いこいつは花の季節が終れば毛虫の巣だぞ?と言ってサクラの木を揺らしサクラの花びらの吹雪をふらせながら何かを呟いた


なあ?サクラ


そう聞こえた気がしたが気にはしなかった

ここに来てから聞き飽きた

何もかもがサクラサクラサクラ

コレでよく他の奥さんはワンワンに文句を言わなかったものだ


食べるものも飲むものも

通りの名前も店の名も

はては地名まで


先程ワンワンにそれとなく聞いて見ると妻達の名は皆何処かに残しているぞと言っていたが、白々しくそう言えばサクラだけは花の名になってしまったなと言って笑った

シジュウ様が言うにはサクラはサクラの花から名を取ったのだそうだが、いつの間にか話が入れ替わってサクラ姫から名を取ってサクラの花と呼ばれる様になったと伝わってしまったそうだ

主人様のお部屋に並ぶ本棚にある絵本にもそう書かれていた


「さて、何か食べて宿へ戻るか」


子供の様にサクラの木の枝にぶら下がるワンワンはそう言うと辺り一面の花を見て桜肉にするかと呟く

私は溜息をつきワンワンの尻尾を引っ張った

食べたいほど好きなのねと言って


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