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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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四十一話

東屋での昼食を済ませ一息いれる間も無く勝手口に来客があった

シャンがやってきたのだ

街の噂では正堂にも私にも文句を言えるただ一人の夫人

何とも大袈裟だと思うのだけど


私が勝手口に向かうと娘とワンワンがあとをついて来る

娘はシャンを見るとおばちゃんと言ってシャンを指差し

シャンはおばちゃん言うなと何時もの様に娘を睨んだ

ワンワンは蛮族はばっちいからお花を見に行こうと言って娘を連れ温室へと向かう

ばいばいと手を振る娘をシャンは寂しそうに見つめて居た


“シャンにも早く子が授かれば良いのに”


そんなシャンを見て私が呟くと、シャンはコレばっかりはなと笑う

世間はフウの事をタネなしと影で言うが

私は溜息をつきシャンにお茶をすすめた


「で、考えてくれたか?」


シャンはお茶を飲み私に話をふる

すでに私の中に答えは出ているのだが少し勿体ぶっているのだ

それが交渉と言うもの


“出来なくはないと思う”


私は焦らす様に答えた

シャンの願いとは医院を増やして欲しいのだ

やはり上部の知識しかない蛮族の薬師では限界がある

だから頼むと頭を下げられているのだ


シャンは最初はシジュウ様に頼み

シジュウ様は既に《館》の長は私で有るから私に許可を取れとシャンに言い

もうふた月もシャンは私の説得を続けている


既に医療用歯車の手配と新たな医院の設置場所の目星もつけて有るが、それはシャンには伝えない

シジュウ様が部品取りの為に何百年も腐らせておいた歯車なのだが、蛮族の街中に置くにはそれなりに気をつけたい


“場所は?”


「国中にと言いたいがせめて人の多い王都とシミンの混住地は何とかしてやりたい」


“医院の守りは?”


「王都も混住地も正堂隊に話をつける、賊には指一本触れさせねえよ」


“貴族ばかり来る様では出す意味はないとおもうわ”


「決まりは守らせる、特に王都には私が出向いてもいい」


シャンが居ないのは寂しいわねと私は悩んで見せ

その二カ所ならと呟いてみせた


途端、シャンは身を乗り出し出来るか⁈と大きな声を出し

私は答えずに外を見た


シャンはそれを見て何をすれば良いとさらに身を乗り出し

私は困った様に呟いてみせる

シミン君の所で頼んでいる豆の収穫量が少なすぎ医院手配の交渉材料にならないと

シャンは王子に掛け合ってシミンの所の十倍の畑を用意させると言って椅子に座った


「確かにあの豆は美味いけど、あの豆お前んところじゃそんなに人気なのか?」


シャンは魔法使いは豆ばっか食うのか?と不思議そうに首をひねる


“それともう一つ、コレを禁制品から外して欲しいの”


私はそう言ってタバコを一本テーブルに置いた

大森林ではエルフも、もうあまり吸わなくなり、産業保護とか言う制度で細々と各地で作られるだけになっている

各地の役所には売るあてのないタバコが転がり邪険にされている

大森林の民が要らぬと言うなら蛮族にでも押し付ければ良い

私はシジュウ様にそう言ったのだ


レーダの街で少し撒いて見たところ、いともあっさりと受け入れられたのだが

その理由はシミン君がそれまで隠れて吸っていたかららしい

ヒバナさんには文句を言って良いのか感謝すべきなのか


ところが直ぐにコレが中毒性のあるものだと分かり

表向き禁制品とされ人目のつかぬところでやり取りされる様になってしまったのだ

全く王様まで煙をふかしているのに何が禁制品なのかしら

私はお酒に続きこのタバコを領主に堂々と取り扱わせ、新たな《館》の収入源の柱にしたいのだ


「あー紙巻かぁ、フウも暇さえあればふかしてゴブリン達に文句言われてるよ、でもよ、リヨに聞いたけどコレ毒なんだろ?大丈夫か?」


“お酒も飲み過ぎれば死ぬでしょ?”


「そんなもんか?」


“そうよ”


シャンはふーんと言ってタバコをつまみ咥えてみせた

私が火をつけてあげると流石魔法使いと言って笑い、煙を吸い込んで咳込み

こりゃ毒だわと言って投げ捨てた


シャンは暫く咳き込み

意地悪そうに、お前のチビが紙巻吸いたいって言ったらと言い

私は絶対許さないと答えると、笑ってだろうなと言い、地面でくすぶるタバコを見つめた


シャンは、分かった、国中紙巻の為に必死になる奴だらけにしてやるよと笑い、お茶を飲んで口直しをし

私は笑って頷き

それでも王都と混住地の二カ所が精一杯よと言い

無いより何倍もマシさとシャンも笑った




程なくして王都での医院開設の話が広まり、同じく王様の領土で大規模な開墾が始まった


それから直ぐシミン君が見捨てないでくれと泣きながら這いつくばり

豆なら作ります

何倍も作ります

どうかどうかと


私は相変わらず面倒くさいなぁと思いながら笑ってシミン君の所と取引を辞めるつもりはありませんよと言ってタバコをひと握り渡す

これは?と言いながらシミン君はタバコを受け取る


“コレが禁制品から外れればもう一軒医院を置くことができます”


私がそう言うと、シミン君はハッとなり王都以外にでしょうか?と真面目な顔で私を見た

私はもちろんと答え

シミン君はお任せくださいと言って颯爽と帰っていった


直ぐにタバコは量を守れば問題ないと言う声がシミン君から上がり、王様がこれに応えた

陽のあるうちの紙巻の販売と喫煙を許可すると


暫くして、私は王領での開墾開始を確認し王都への医療用歯車の手配を行なった

最初の十日はシャンが着いて見る


話では広い敷地に大きな待合室とポツンと小さな診療室に術室があるらしい

診療室と術室、それに歯車はシジュウ様にお願いして廃村に保管されていたものを格安で手配して頂いた

医院の周りには柵が立ち浅い堀が巡り正堂隊の若者達が昼夜を問わず固めている


わざとふた月ほどずらし混住地に次の医院を開設する予定だ

医院がポンポン出来ては次はウチにもと安く見られる

高く売りつけるのだからそれなりに焦らさねば


しかしまったく蛮族というものは

医院で診察を受け薬を貰えば何でも治るとでも思っているのだろう

薬がそんなに便利なら娘のおねしょを治して欲しいのに


シジュウ様は子供のおねしょなど日が昇って沈む様なものだからしない方がおかしいと仰るし

毎夜娘の寝床になるワンワンなどその毛並みを濡らされるたびに眠いと目をこする娘を抱え風呂場へ向かい、娘を流してやり一緒に湯を浴びている

こっちはその度に夜中に突然枕が居なくなって目を覚ますと言うのに

盾のエルフ達も自分らは今のお前の年頃まで寝小便をして居たと笑うばかり


いざとなれば牧場があるといつも言われるが

私は《館》で娘を育てたい

私がしっかりしなくては


さて、そろそろ領主がタバコを受け取りに銅貨を抱えてやって来る頃だ

初回分五千本

あの業突く張りならさぞ高値で売りさばいてくれるだろう


シミン君には貴族達にばら撒かせる為にタバコと、あなた達は庶民とは違うと思い込ませるための葉巻を渡してある

半分くらいシミン君が懐に入れてしまいそうだけど

貴族達が味を締めればタバコや葉巻を買い求めに走るだろう


葉巻はシミン君に売らせる約束もしてあげたし

精々お腹も膨れない煙で楽しんで頂戴


あなた方が必死に穴を掘って異教徒に頼み込んでまで集めた銅が、この《館》の数少ない収入源なのだから

マイのためのお金になるのだから


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