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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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四十話

雑用を始める前に主人様のお茶をお取替えしようと主人様のお部屋へ向かうときゃーきゃーと甲高い声が聞こえる

私がため息混じりに主人様のお部屋を覗くとワンワンがいたずら者めどこに隠れたと言いながら大袈裟にあちらこちらを覗いて回っていた


小さな靴が見え隠れするカーテンの前を何度も通り過ぎながらええぃ何処だいたずら者めと言って壺を覗き本棚の陰を覗き

ワンワンがここか?こっちか?と言いながら主人様の寝台の中などをこれまた大袈裟に覗いてみせると、小さな影がカーテンから飛び出しシタタタとシジュウ様の後ろに隠れ、おやまあと見下ろすシジュウ様にシーと指を立てる

ワンワンは誰もいなくなったカーテンに近づきははんここだなと言ってカーテンに手を掛けもう逃がさんぞと恐ろしい声を出した

そのワンワンの背中めがけシジュウ様の後ろから飛び出した小さな影が飛びつき、きゃーきゃーと喜声を上げ

ワンワンはそんなところに隠れていたかと言って背中に飛びつく私の娘を肩車した


“お茶をお持ちしました”


主人様に声をかける私を見つけた娘はかーさんかーさんと叫びながらワンワンの頭をぺちぺちと叩き

ワンワンはさあもう逃がさんぞ、今からこのワンワンと庭で散歩だ、今日は橋を越えて蛮族館に行くか?それとも温室で花を眺めるか?と私の娘を甘やかす

娘はワンワンのヒゲを手綱の様に引っ張り主人様の前に向かうとワンワンから下り主人様の膝の上へと向かい、主人様の手を借りその膝の上に乗ると満足そうに笑う

主人様はそれを見て、ああ良い子だと言って娘の頭を撫でて下さる

不敬な事に娘は主人様の膝の上で立ち上がると、ばぁばと叫び万歳をする

するとシジュウ様が娘の手を握りほーらと言って持ち上げ、またワンワンの肩の上に娘を乗せる

さあ冒険だと言ってワンワンは娘を連れて部屋を出た


“申し訳ございません”


私が娘の粗相を主人様に謝ると主人様は笑って騒がしくない子供などいるものかと仰られ

私があまり甘やかさないでくださいませと頭を下げお願いすると主人様は私の頭を撫で、可愛いお前の可愛い子供じゃないかと言って下さった

私はシジュウ様もワンワンも、ああも甘やかしては大人になった時に困りますと嘆く


主人様は寝台に私を腰かけさせ私の手を取ると、あの二人は子供ができるたびに何時もああなのさと言って笑う

なに、お前がしっかりしていれば大丈夫さ

主人様はそう仰ると私をお前は本当に良い子だともう一度褒めて下さった



テラスでシジュウ様と《館》の経営についてお話をして頂く

シミン君の所に作らせている豆は利益が薄すぎる、今の五倍は作らせないとダメだ

銅の収集も蛮族が飽きぬうちに何かもっと安価な嗜好品を蔓延させるべきだ

それとは別にいくつかの廃れた技術を蛮族に広め抜け出せぬ様にするのだ

ではどうすべきだと思う?


シジュウ様はそう仰られ

私は、豆は時間が掛かると思います

うまく行かぬ様なら他の領主にも手伝わせるべきでしょう

二つめと三つめは私に考えがありますとお答えし

シジュウ様は笑って任せますと仰られた


私は《館》の家計簿を開きあれやこれやと書き込んで行く

その私の耳にきゃっきゃと笑う娘の笑い声が聞こえた


チラリと声のする方を見るとお庭の池のほとりからパン屑を投げ込む娘の姿と娘と一緒に池を覗き込み笑うワンワン

それを東屋に腰掛け眺めるシジュウ様のお姿が見えた


「もう決めたのですか?」


娘を見つめる私にシジュウ様がそう語りかける


“まだ決まりません、決まりませんがやはり通わせようと思います”


私の言葉を聞きシジュウ様は、私は一向に構わないのですがと言われたがそれでは甘やかすばかりですと私はにらむ

シジュウ様はそうだろうかと少し残念そうにされた


私は娘を幼学舎に通わせようと考えている

当たり前だが此処には娘と同じ年頃の子はいない

そんな所で育っては娘が可哀想だ


だから何処か通えそうな幼学舎に二年ほど通わせ

それから小学舎へ行かせようと思うのだ


シジュウ様は自分が幼学舎がわりにと申し出て下さっているのだがそれはあの子のためにならない

アコヤ君が来るたびに喜んで駆け寄る娘を見てはムッとした顔をするワンワンなどは論外だ


盾の皆とヒバナさんに相談したのだが

ヒバナさんは《村》はここから近いが何にしても子供が多く幼学舎の面倒見が悪いと文句を言っていた

テイの《大大都》は遊びに行く所であそこの学舎に娘を通わせるのは不安だ

リヨの《台地》は良い所なのだが空気が薄く子供に通せるには不安な所だ

センは《大樹》の幼学舎に入れてやると胸を張っていたが《大樹》の人口のほとんどはエルフだ


やはりキィの所だ

キィの住む《山田》だ

《館》は悪い意味で何もないが《山田》は良い意味で何もない

私も何度か遊びに行ったのだがのどかで良い所だった


キィの話では学舎も一学年二十人も居ないくらいの人数らしい

寂れた飛行場も有るし通学に飛行代はかからないからお金の心配もない


うんそれがいい


私が考えを巡らせていると、シジュウ様がマイに呼ばれてしまったと言って立ち上がり、ばぁばと叫ぶ娘の所へ駆け寄って行く

当然向こうにもシジュウ様はお一人いらっしゃるのだが娘は、何人でも呼べるだけシジュウ様を呼ぶ気らしい


私は頬杖をつきそれを眺めた

ワンワンは蛮族はばっちいぞ?と笑う

何の話をしているのやら


シジュウ様は娘を抱え犬達を呼びその上に乗せて喜ばせる

娘を落とさぬ様にそろそろと歩く犬をシジュウ様が追いつかぬ様に追いかけ

ばぁば早くと言われて喜んでいる


子を産んで分かったことは

シジュウ様が嘆きたくなるほど娘に甘い事

ワンワンがおしめ交換の天才を自称している事

盾の皆が子育てに手馴れている事

そして主人様が私の事を愛して下さっている事


私は最後の一つだけで充分だ

きっとマイを立派に育てて見せれば主人様は私のことをもっと愛して下さるに違いない


私はかーさんと言って駆け寄る娘を抱き上げるとお昼にしましょうかと言って娘の鼻をつまむ

娘は笑ってあそこで食べるとお庭の東屋を指差した


そうしましょうか

私が笑うと、シジュウ様は早速小さな小さなお弁当作りに取り掛かられた

お前が一番マイに甘いと笑われながら


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