三十八話
昨日も今日も明日も忙しいのだが
何とかワンワン殿に稽古をつけて頂く時間を作り迎賓館を訪れた
殺す気で構わんよとさらりと言ってしまうワンワン殿
このひと月で少し何かをモノに出来そうなのだが
私の突きも払いもカスリもせぬ
私とワンワン殿の差は月と海の底ほどある事は承知しているが、せめて父は超えて見せたい
「疲れてきたのなら此処までにするか」
ワンワン殿の言葉にまだまだと言って私は答える
そこでここひと月、気になっている事を口にしてみた
ワンワン殿は私の心を読んでいるのですかと
何だそれは?ワンワン殿はそう仰られるが
私は気になるのです、ここ数回で気がついたのですが、私の突きをワンワン殿は避けているのではなくワンワン殿が避けた後を私が付いているのではないかと
私がそう言うと、ワンワン殿は私が避けた後をお前が突くのは合っているがお前の心など読んではいないと鼻で笑われてしまった
愚かなお前に教えてやろう
人の身体はあそこが動きここが動きして行動に至る、それが私には見えているだけだと
では目を瞑っていても避けられるのは何故ですと聞くとお前が動けば風が動く、ならばそれはもうそう言う事だと
詰まる所私が動くかぎり永遠にワンワン殿には届かないと言うことですかと聞くと別に私は無敵でも最強でも無いぞと笑った
主人様やおふくろ様にドヤされれば縮み上がるし死んだ兄達などは皆私より強かった
と、そこまで言ったところでワンワン殿はクルリと身を翻しはっしと振り下ろされたほうきを掴む
“コレはお兄様、カンが鋭い”
「一体何が望みだ」
ほうきを持った白姫様はワンワン殿の手を振り払うと恐ろしげな声で笑う
もうすぐ赤札市ですと
ワンワン殿は驚いた様に飛び退き
まさかまだ買わせる気か⁈と身ぶるいした
えいやと白姫様が振り下ろしたほうきを砕くワンワン殿
コレで勝負あったかと思ったその時
“ワンワンがほうきを壊しました!”
白姫様は告げ口する様な声を上げ
ワンワン殿は狼狽える
“さあお兄様諦めて財布を開けなさい”
「あの人混みで何時間も荷物持ちをさせられる身になれ!」
問答無用と飛びかかる白姫様と重いから降りろと叫ぶワンワン殿
ワンワン殿は私をちらりと見て続きはまた今度だと言って毛を引っ張る白姫様を抱えたまま、ため息混じりに御屋敷へ戻られた
成る程、四剣最強の我が父も母の前では手も足も出ない
それは四剣など羽虫の如くなお方でも変わらぬと言うことか




