三十五話
王家から借り受けた一千
我が領軍二千
そしてゴブリン兵団
これらを率い私は聖堂諸国との国境を目指している
王家からの軍勢は僅か一千だがそれを率いるのは宰相様だ
その上この小勢に六体ものストーンゴーレム
これは頼もしい
我が領兵もレーレン時代からの強者
そして私の近習
「おい けなし あとどれくらいあるく」
「まだまだだ」
私に続く獣人の三兄弟は面倒くさそうに歩きながらカリカリと呼ばれる物を摘んでいた
あの日以来私はこの三兄弟を我が家の庭に住まわせワンワン殿に躾を手伝って頂きながら近習として使っている
ツクモ三兄弟と名乗った彼らは余程ワンワン殿が恐ろしいのか、その言葉を守り日頃庭を出ることも無く今の所人や家畜を襲うこともない
する事と言えば、兄弟で戯れるかカリカリを食べるか私の首を狙うかを
精々そんなところだ
ゴブリン兵団は私達とは別行動で
日が昇る間は休み、日が暮れれば進む
彼等は初陣だが正堂隊の時の様な心配は要らない
何せ彼等はゴブリンなのだ
日が沈めば我々の倍の速さで進み
日が昇る前に身を隠す場所を見つけそこに潜む
そして森に自由に立入れるこちらの優位は揺るがない
これに白姫様の旗が一本でもあればもっとよかったのだが
旗の貸し出しは断られてしまった
白姫様のご機嫌取りに御生れになった村の整備や御生家の再建などを行なったのだが
旗の代わりだと言ってワンワン殿から盾は頂いたが
槍だけでは格好がつくまいと言われながら
盾の使い方も習ったが
コレはどうなのだろう?
夜営をし、私の寝込みを襲うツクモ三兄弟をあしらいながら考えた
ワンワン殿はなぜ人を襲わないのですかと聞いた時のことを
ワンワン殿は怒りもせず答えてくださった
その必要がないからだと
逆に聞くがお前は勝てるからと言ってスズメをいちいち襲うか?
まあスズメなら襲うかもしれんがそれが家族だと言われて家で飼っている小鳥ならどうだ
襲われる小鳥を守ることは有っても小鳥を襲うことはあるまい?
大森林と言う家に集った家族
まあそんなところだと
私はツクモ三兄弟の喉笛にナイフを突き立てその先でツンツンと喉をつつきながらまだ家族には遠いなと笑い
見張りに戻れと言って天幕から追い出した
翌朝国境まで軍勢を進め、我が目を疑った
国境の向こうに見える聖堂側の砦が燃え落ちており我がヒバナの旗が翻っていたのだ
宰相様は一応は交渉に来たのだがと笑い
私は血相を変え砦へと向かった
呆然とした表情で落ちた砦を囲みながら眺める国境の警備兵達は口を揃えてこう言う
昨夜敵方と私の旗を掲げる一団の小競り合いがあり
私の旗を掲げる一団はコレを打ち破ると、勢いそのまま逃げる敵を追って砦に雪崩れ込み瞬く間に乗っ取ってしまったと
私はコメカミを押さえ私の旗を掲げるゴブリンに話しかけた
「コレは一体?」
「がつんといっぱつなぐってやれといったのはあなただ」
私はああそうだったなと答え、開き直った様に宰相様に向き直ると戦さになりましたとだけ告げ
宰相様は苦々しく笑い、王にでも来て貰えばよかったと仰られた
砦が落ちたのが昨晩ならば夕暮れまでには此処に敵が押し寄せるだろう
全くなんて事だ
国境の警備兵達も動員し陣形を整える
私が一度こちらの砦まで下がりましょうかと言ったが、宰相様はそれは勿体無いと言って敵地での野戦を望む形となった
ゴブリン兵団は陽のあるうちの活躍は難しいので後詰めに回し
宰相殿のストーンゴーレムをこれ見よがしに並べる
これを見て怯んでくれれば良いのだが宰相様はそれはあるまいよと笑うばかり
暫くすると敵の進軍が見える
騎兵が駆け回りこちらを脅かし陣形を整える時間を稼ぐのだろう
やはりというかその通りとなり、ストーンゴーレムの天敵、火球砲が並ぶのを指をくわえて待つしか無く
これはマズイかなと宰相様を見たが
宰相様はまあ待ちましょうと言って敵の陣形が整うのを待たれた
陣形を整えたトゥティモ軍の数は此方よりも多く見えた
コレは厳しい事になりそうだ
そう考えた時
宰相様はお先にと言ってゴーレムを先頭に前進を始めてしまった
とても戦さの天才と呼ばれる方とは思えぬ軽率さだ
脇を固めねばストーンゴーレムなど素通りされなんの役にも立たぬと言うのに
とその時、私は我が目を疑った
走り出したのだ
あの巨体が
あのストーンゴーレムが
敵の驚きようは此方の比では無く
走るストーンゴーレムを見てめくら撃ちの様に火球砲を打ちだしたのだ
その中の一発が運良くストーンゴーレムを捉えたが私はそれを見て笑ってしまった
走るストーンゴーレムは己に向かい飛んで来た火球を上体を逸らしてかわしてしまったのだ
ストーンゴーレムは駆ける勢いそのままに
枯葉で遊ぶ童の様に
人も物も蹴散らし
逃げる馬を踏み潰す
あの巨体で飛んだり跳ねたり
操る賢人は一体何処から
「これならば相手が一万でも同じ事でしたね」
「ああ、多い方がよかった、一度で済むからな」
私にサラリと言ってのける宰相様
「王家にはあと何体、あのゴーレムが有るのでしょう」
私の問いに宰相様はあれで全部だよと笑うばかり
ああ、そう言うことか
あれの何倍の走るストーンゴーレムが居るのかは知らないが
アレを我々に見せつけると言うことか
「おい けなし ひとあばれしてきていいか」
私の後ろで三兄弟が楽しそうに唸る
「皆殺しは駄目だぞ」
「おぼえていたらな」
三兄弟は逃げまどうトゥティモ兵目掛け駆け出す
いかんな
足りない
コレではあのストーンゴーレムには届かない
私は魔槍を見つめた
だが何があっても諦めないと私はこの槍に誓ったのだ
それから二ヶ月にわたり私はトゥティモの地を転戦し
王家のさらなる援軍と
何かを嗅ぎつけたドゥクディモ大公の軍を率いトゥティモ城下でトゥティモ公に屈辱を味あわせた
私はこんなに居たのかと呆れるゴブリン達に解放者として迎えられ
何だこれはとゴブリン兵団の者に聞くと、どうやら私はゴブリンに育てられた人の子で自分たちをエルフや人間のくびきから放ってくれる救世主だと噂が広まって居るらしい
一体誰がそんな噂をと思ったが直ぐにおばばの顔が浮かんだのでそこで考えるのをやめた
三兄弟はゲラゲラと笑いながら人の手足の様な物をかじりお前も食うかと私に聞く
「これはいかんな」
私は屋敷に戻ると直ぐに王のもとへ出向き褒美を願い出た
「果てにある天使に滅ぼされた国へ行くことをお許し下さい」
王はそんなに獣人が見たいのかねと首を傾げ
構わんよと言い許しを頂いた
「君が帰らぬ時の跡取りは決めてあるのかね?」
王の言葉に私は内縁の妻にと答え部屋を後にし
王は笑いながらどちらのかねと私の背中に言葉を投げかけた




