三十三話(え)
私の二十二年目の誕生日は今年も主人様を迎え華やかに執り行われた
主人様にシジュウ様
エルフの皆に我が兄ワンワン
ヒバナさんにハナビさん
レーレンさんにアコヤ君
皆が祝ってくれる
「足掛けでは有るが十年か」
シジュウ様はそう仰って私を見ると
これくらいだったかと私の腹の辺りに手をかざす
“さすがにそこまで小さくは”
私が笑うとシジュウ様は私には手のひらに乗ってしまうように見えたと笑い、飾られたカブを眺めていらっしゃった
エルフ達は笑い
さあ今日からお前も大人だと言って酒を並べる
それを見たワンワンがコホンと咳払いをするとテイが、おっとそうでしたと畏まり皆がそれに続いた
「それでは主人様、あなたの僕にしてあなたの娘スズに酒を振舞って頂けないでしょうか」
上座に座る主人様はシジュウ様のその言葉に頷かれ
こちらへおいでと私を呼ぶと、ワンワンに酒をひとつ持っておいでと命じ
ワンワンが一つの瓶を奥から持ち出しシジュウ様が細くて綺麗なグラスを私に差し出した
主人様はワンワンから瓶を受け取ると私のグラスに淡い桜色の弾ける液体を注いで下さる
私がそれを押し頂き口をつけようとするとワンワンが少し待てと言い
主人様が何か粒の様なものをグラスに落とされる
するとそれはみるみる膨らみ
グラスの底で花を咲かせた
「サクラ吹雪と言う飲み方だ、ワンワンが昔始めたのだったかな」
私はグラスに満ちた酒と花びらに見とれ
ワンワンは昔のことですと言って笑った
私は改めてそれを頂き
口に運んだ
甘くスッキリとし
何処か少し大人の味がする
これならば何杯でも行けそうですと私が言うとシジュウ様は笑われ
ワンワンは酒飲みはモテんぞと苦笑いをした
「さてスズ、何か望みがあれば言ってごらん」
主人様は優しく微笑み私の手を取って下さる
“何もございません、ただ一つ願うのならばいつまでも主人様のお側に置いてくださいと”
主人様は笑って分かったその願い叶えようと仰り
それでは楽しむといいと言ってお部屋へ退がられた
皆でそれをお見送りするとそこで酒宴が始まった
この場で酒を飲めぬ者はアカリちゃんしかおらず
生意気にもアコヤ君も手にグラスにを持ち酒を飲んでいた
“若いうちからお酒など飲むとああなりますよ”
私はそう言って何故かシジュウ様と飲み比べを始めるキィを指差し
二人で笑う
ワンワンはさてそれでは私はこれでと席を外そうとするので逃がさんとばかりに捕まえ座らせる
「何だ、私が居なくとも賑やかだろう」
私はワンワンの膝の上に腰掛けグラスを眺める
“ワンワンは随分とサクラの事を思っているのですね”
「いや?そんな事はないぞ?嫁達は皆同じ様に愛した」
“先日遊びに行ったワンワンの故郷にはサクラと名がつく物がたくさんありました”
「それはサクラの花の季節だからだったからだろうに」
可愛らしいいい訳ですことと言って立ち上がり
それではカブ以外にも私の名を付けてくださいと言ってワンワンを困らせ
難儀なやつだと言いながらワンワンはようやく解放されたと部屋を出た
ヒバナさんは果物に刺さっていた剣の飾りを持ってはしゃぐアカリちゃんの手を引き、おめでとうと言って私にグラスを傾け
アカリちゃんも手にしたコップで真似をして見せた
“会っていくんでしょう?”
「せっかく来たから」
アカリちゃんを見てヒバナさんにそう声をかけヒバナさんは苦笑しながらそう答える
アカリちゃんはとてとてと走り出し、センを剣の飾りでつつくと「しねばんぞく!」と叫び、センはぐえーやられたーと言って白目を剥いて見せる
センと酒を飲んでいたレーレンさんはそれを見て笑い、炎がゆらゆらと揺れた
見かねたアコヤ君が、お姫様ケーキを食べましょうと言ってアカリちゃんの手を引きアカリちゃんは笑いながら駆け出した
「姫騎士二世だな」
死の淵から蘇ったセンはそう言って笑う
子供には優しいのですねと私が言うと子は宝だからなと言って酒を煽った
でもアカリちゃんのお父さんはと私が言うと、センは何だ知らんのかと驚いた様に言って私を見る
「母が大森林の女であれば父が誰かは問われん、それが大森林では普通だ」
センはそれよりと言ってレーレンさんを指差す
「コレはなかなか頼もしいぞ?昨日もひとり、大森林に仇なす蛮族を滅したそうだ、炎の力もこうなると頼もしいな」
センは笑って酒を飲み
レーレンさんもあら嬉しいと言って酒を飲む
“お酒なんか飲んで消えたりしないの?”
私がそう言うとレーレンさんはかぱっと口を開け
するともうもうと湯気が立ち上り
それを見た皆が声を出して笑い
レーレンさんはアルコールは燃えるのよとおどけて見せた
ヒバナさんは眠いと言い出したアカリちゃんを連れて下がったが
その夜は遅くまで皆と騒ぎ
何杯もお酒を飲んで楽しんだ
翌朝、シジュウ様にお前もですかと笑われながら浴室へ向かうと皆が朝風呂に浸かり汗を流していた
レーレンさんは湯に指を付けて沸騰させてはアカリちゃんを喜ばせ
リヨはその沸騰した湯船の中で真っ赤に茹で上がりながらコレはなかなかとやせ我慢
一体何があったのかは知らないがキィは脱衣室の長椅子でアコヤ君に膝枕されながらババ気を確かにと言われ扇がれ
センは死体の様に湯船に浮いていた
ヒバナさん姉妹と何かを話しながら笑うテイに何事かと聞くと
いつものことさと笑い
私もそうねと笑う
テイは私の乳房を見るとしかしだらしのない身体だなと笑い
それではモテんぞと揶揄うと
それを聞いたヒバナさんは私達の男はエルフの様な身体よりこちらの方が喜びますよと言った
“主人様はどちらがお好みなのでしょう?”
私の呟きにいつの間にか湯船で仰向けに泳ぐセンがうーんと言って天井を見たまま話す
「私が知る限り主人様の母様は私の様な姿だったからな、どちらもお好みではないかもしれん」
私がそうなのですか?と言うと私が見た姿はなと言ってスイスイと泳ぎ
飛び込んで来たアカリちゃんにぐえーと撃沈された
「まあ主人様の母様の事は気にするな、見た者皆が違う姿を言うのだ」
テイはそう言うと沈没したセンの上に足を乗せもがくセンを楽しそうに眺めていた
“ワンワンなら知っているでしょうか?”
私の言葉にようやく解放されたセンが知ってはいらっしゃるだろうが教えてはくださらんと思うよと言い、言葉を続ける
「大森林にある主人様の御屋敷だがな、主人様のお部屋の奥にシジュウ様のお部屋があり、主人様の母様のお部屋は更にその奥にある、私達盾ですら主人様のお部屋から先へは行けんのだ」
だから私達はシジュウ様の誠の御姿すら見たことがないと言い
まあ主人様がこの世の主人なのだからそれで良かろうと言ってアカリちゃんの手を引き、おねえちゃんと氷菓を食べようと言って、はしゃぐアカリちゃんと浴室を後にした
その日、蛮族館で行われた祝賀会で口にしたお酒はひどくキツく
見ればエルフ達がいつも飲んでいるもので
優雅に飲み干し淑女として振舞って見せるはずがあまりの醜態に笑いが起き
セン達にお酒をすり替えられた腹いせに貴方も早く身を固めなさいとシミン君をしこたま絞り、それを見たシャンにおお怖いとまた笑われてしまった




