三十三話(う)
憎っくき王国
悍ましき魔法使いの女
青石の御名において呪いあれ
私は御聖堂の御名の下に一国を預かる身として文の最後にそうしたためた
図体ばかり大きくなった王国など其処彼処からチクチクと攻めてやれば直ぐに崩せるのだ
しかしその一撃のどれかが魔法使いを怒らせれば国を耕されてしまうかもしれない
皆それを恐れている
中には王国に内通している者も
全く情けない
諸国各地でゴブリンが移住を始めたのは良い
勝手にしてくれ
闇夜に奴等を恐れなくて良くなるからな
しかし奴隷狩りの相手が居なくなる事もまた同時に起こっているのだから頭が痛い
奴らは我々人間が掘れぬような坑道をスイスイと掘り進む
諸国の各地でその奴隷ゴブリン達が脱柵を繰り返している
奴隷は減り
奴隷狩りもままならぬ
しかもその脱柵を手引きし各地で騒ぎを起こしているのが王国にいるゴブリン侯爵とか言うふざけた奴だ
何でも噂ではあの忌々しい姫騎士の後継者だと言う話
明日脱柵されると分かって居ても止められぬ様な手口を使われ
逃げ道を塞いでいる筈のもの達が先に骸にされてしまうのだ
坑道の回りに兵を裂けば出城や代官屋敷が襲われる
それを避ければ脱柵される
ジリ貧だ
生き残りの話では姿の見えぬ軍団に襲われ火をかけられ皆殺しにされると言う
しかも奴等は終生の仇であるエルフが住まう森を使い逃げる
腹が立つ
エルフ供はクズだが怒らせると手強い
本気でエルフと戦さをするのなら森を燃やしてしまう覚悟が必要なのだ
何と忌々しい
私は各国へ向けた王国への決起と魔法使いは呪われた禁忌を操る者だとしたためた文にサインをし従者を呼んだ
「全くくそ忌々しい魔法使いめ、スズとか言ったか、犬にでも犯されて仕舞えばいいのだ」
私は冷めてしまった茶を手に取り吐き捨てる
しかし遅いな
女中も従者も何をやっている?
私は揺れるランプの炎を眺め彼奴らも忙しいからなと呟いた
「あら?お優しい」
私は声に驚き辺りを見渡す
「誰かいるのか?」
そして目の前が明るくなり言葉を失った
立っているのだ
炎が
「初めまして、私〈炎〉のレーレンと申します」
「何処から入って来た!魔法使いの魔法か!」
「あら嫌だ、私の親友の悪口がそこから聞こえたので飛んで来ましたのよ?」
炎はランプを指差しケラケラと笑い
書状の束に手を伸ばすとそれは全て燃え上がった
「嫌だ、読む前に燃えてしまったわ」
炎は残念そうにすると冷めた茶に手を伸ばす
茶碗の中の茶はグラグラと沸き上がり
炎がそれを己の口に運ぶと注ぐ先から蒸発していった
「かかってこい!魔法使いの手先め!」
私は剣を取り炎に切っ先を向ける
「私、産まれた時からスズさんとは大親友なの、産まれる前から大親友だったの、だからスズさんの悪口が聞こえると居ても立っても居られないの」
炎は両手を広げ部屋の中にあるありとあらゆる物を燃やす
私は窓を蹴破り庭に逃げ
庭の小池に陣取った
炎はまるで貴族の娘の様な淑やかさでこちらへ向かい、小池の前で止まった
やはり此処にはこれぬらしい
「その目立つ姿では直ぐに人が来るぞ!観念するのだな!」
私の声に炎はまあ恐ろしいと怯え
館を振り向いた
その瞬間
館は枯れ木のも様に燃え上がり
石もレンガも全て炎に包まれていた
炎は笑ってこちらへ向き直ると
小池に躊躇わず足を運び
小池は瞬く間に沸騰し私は小池から飛び退いた
「魔法使いめ!呪われた禁忌め!」
私は怯まず剣を構え炎に立ち向かう
「あら怖い」
炎は笑って私に歩み寄る
覚悟と私の振るう剣は青石の加護無く炎の中を素通りし
私はそのまま炎に抱きしめられ灰となった




