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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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三十話

〈輝〉を訪れるのは五年ぶり

今年もまた行きたいとせがみ二年続けて訪れて以来だ


では三度目は家族旅行にしましょう

シジュウ様はそう仰り、あそこには何も無いからと乗り気ではないワンワンも連れ保養地を訪れた

キイも、一緒では無いが娘一家と来ているそうで

後で落ち合い浜遊びなどを約束している


私もこの日の為に、欲しい物はワンワンに買わせお給金を貯めて来た

シジュウ様はワンワンの事をお前は打出の小槌かと叱っていたが

ワンワンもこの程度なら嫁達にもしておりましたと珍しくシジュウ様に口答えをし、お前に給金などやらねば良かったと嘆かれていた


ワンワンは寝て遊んでいるだけで私の何万倍もの給金を頂き

そのほとんどを主人様にお返しして尚、大金を受け取り

目の眩む様な貯えに手をつけることもなく

新報の代金と年に何度か高い服をしつらえる以外に給金を使う事はないのだ


ワンワンの着る服一揃えが私の動輪より高いと知った時は本当に呆れたが

ワンワンに言わせるならば主人様のお側に置いて頂けるのだから給金など要らないのだそうだ


ワンワンが言うには

昔主人様のお側で暮らし随分経った頃

シジュウ様より給金を渡すと言われ

はあそうですかと答え

それからまた暫くのち、お前の給金の管理で手間がかかるとシジュウ様に言われ

また、はあそうですかと答え

それまで頂いてそのまま放って置いた給金を全て主人様にお返し

その後はそれの繰り返しを億万年の間繰り返しているらしい


なので私は何か欲しいものがあれば何時もしょうがなくワンワンに買わせてあげる事にしている


さて置きワンワンの尻尾をニギニギと掴みながら《島》の飛行場に飛び

客車の乗合いへは向かわず動輪の日貸し窓口へと向かった


「予約してある《館》のスズ一行だ」


ワンワンは窓口にそう告げると窓口の女性はこちらですと私達を案内し動輪の並ぶ一角へと誘った


今回は皆で連れ立って動輪を借り保養所を目指すのだ

勿論途中で色々と立寄る


私は乗り馴れた自分の動輪と同じ物を選んだ

ワンワンとシジュウ様が私にくださった動輪は大森林の若者に大変人気で

この日貸し動輪でも沢山用意されていた


シジュウ様が選ばれたのは私にはさっぱりわからない競技用の、抱きついて乗る様な動輪

話によれば私の動輪の倍も速いらしく

一体そんなに急いてどうするのかと首をひねる


そして我が毛深い兄なのだが


”ワンワン、ふざけているのですか?”


「私はこれで良いのだ」


“シジュウ様も何か言ってやってください”


シジュウ様は笑ってアレは昔からあの動輪で主人様のお供をしていたのだと言って何か懐かしそうにしていらっしゃる


私はワンワンが跨る動輪を見て首を傾げる

ワンワンが跨る動輪はどう見ても子供用だ

勿論子供は動輪に乗れないのだから子供用という事はないのだろうけれど

それでもせたけの小さい種族が乗るものではないのだろうか

ワンワンは獣人としては小柄だが、それでも私達と比べれば背の高い方だ

シジュウ様も背はお高いが、耳の先まで入れればワンワンの方が少し背が高いくらいだ


「それからスズ、ここでは余り私をその名で呼ぶな、これでも私は有名人なのだ」


気取っておもちゃの様な動輪に跨るワンワンは軽快な音を立ててくるくると八の字を描きながら走ってみせた


“では何と呼べば?バンバン?”


「お兄様で良かろう?」


兄様

何か口が痒くなる響き

何か言いたい気分でシジュウ様を見たがそれで良いと笑われ

シジュウ様がそう仰るのならと諦めた




“遅い!”


三人連れ立って走るが

ワンワンはふざけているのかゆるゆると走り

私に何度文句を言われても動輪とは風と流れる景色を楽しむものだとキザに言うばかりで

シジュウ様もそれを咎める様子もなく

途中何度他の動輪に抜かれたことか

それをワンワンに言っても

速さを競っているわけではあるまい?としたり顔で言われる始末


意地悪をしてやろうと途中立ち寄った《冷獄》でも


「私に分からん言葉はないぞ?」


と言って涼しげな顔だった

仕方なく海や滝などを見つつ《輝》を目指し、日暮れの少し前に到着となった


案内された部屋は広めだが相変わらずシジュウ様の寝所は無く

何度私がその事を言っても自分は眠らないの一点張りで

眠るお前達を眺めていればそれで幸せだと言われると何も言い返せなくなってしまう


「しかし変わりましたなぁ」


ワンワンがしみじみと部屋を見回し呟いた


“ワンワンが前に来た時とですか?”


私の問いにワンワンはああと答え

前に来た時は露天の温泉と掘っ立て小屋が有るばかりで本当に何もなかったと呟き

変わるものだと言った


私はそこで少し気になった


“ワンワンが前に来たのは何年前なのです?”


「ん?ついこの前だ、二百・・あいや三百年前か?」


私は呆れたと言ってワンワンの尻尾を手で叩き

シジュウ様はそれを見て笑われた


何故か女湯について来ようとしたワンワンの毛を毟って追い返し

湯を浴びてサッパリすると、一休みして夕食へ向かった


大食堂に着き、席の案内を受けるとシジュウ様が彼処の席で良いかと一角を指差し

そこを見てみると、キィがおーいと手を振っていた

キィの席には空いたグラスが並び

それを見つめる私を見てまだまだこれからだよとキィは笑った


私達がキィの隣の席に着くとまずシジュウ様のお酒を頼み、ワンワンが今日は私も飲むかと言ってお酒を頼んだ

そのお酒が届く頃、キィの席に私くらいの年頃のエルフと少年のエルフが料理を手に戻って来た


「紹介させてくれ、私の娘アコと男としては初孫のアコヤだ」


キィはアコヤと紹介された男の子をこっちへお座りと自分の隣に腰掛けさせ

可愛い可愛いと怪しい手つきで撫でていた


「アコヤは良い男になる、死んだ亭主の子供の頃にソックリだ」


アコヤと紹介された男の子は私を見てペコリと頭を下げ

それを見たキィがこれは賢いと嬉しそうに抱き締めた


「キィやめて下さい」


アコと紹介された女の人は恥ずかしそうにキィを窘める

そうかいと答えたキィはアコヤを見つめながら酒をひとくち飲むと

あちらがババがお世話になっている《館》の長、スズだと言って私を紹介した


「初めましてスズさん、ババがお世話になっています」


アコヤ君はキィの孫とは思えぬしっかりした挨拶をして

すっかり感心してしまった私はアコヤ君のお年はと聞くと、キィがようやく3桁を迎えたばかりさと笑い

アコさんに百十です間違えないでと叱られた


「ババ、あちらのお二人は?」


アコヤ君がシジュウ様とワンワンを紹介してくれとキィにせがむ


「ああ、あちらの方はシジュウ様、スズのお母上様だ、それから彼方は・・・」


キィは暫く黙り、アコヤ君の耳元で何かを囁くとアコヤ君は目を剥いて驚き、何度も本当ですかとキィに聞き、恐る恐るとワンワンに近づくと どうかこの手を握って下さいとワンワンに震える声で手を差し出した

ワンワンは笑ってその手を握ると皆には内緒にしてくれよと声をかけ肩を叩いた


何やら得意げなワンワンを連れ料理を取りに行く


“ひと口ずつ頼めば色んな料理が楽しめます”


私の言葉を聞いたワンワンはほうと感心し、食いしん坊のお前がよくそんな事を思いつくなと笑い

私は味の濃いものを食べないからお前の分を持ってやろうと言って私の注文を盆に持ってついて回った


“ワンワンも何か食べないと勿体無い”


私がそう言うとワンワンはじゃあそれとそれ、と言って野菜と生肉を指差し

味付けはいらないから油をかけてくれと言ってそれを盆に乗せた


席に戻るとアコヤ君がソワソワした様子で、スズさんはその、其方の方の姫様になられるのでしょうかと話しかけて来て

私はなんのことかしら?と首を捻る

するとワンワンがお前は私の嫁かと聞いたのさと笑った

私はワンワンのスネを蹴りアコヤ君に向かい私達は兄妹なんですよと言うとアコヤ君は目を丸くし

毛人と耳無が?と驚き

残念な妹だがなとワンワンが笑った


「なあスズ、嫌でなければ明日一日アコヤと遊んでやってくれないか?どうも私とではつまらんらしい」


キィの申しでに良いですよと答え

これも付いて来るけどいい?とワンワンを指差す

アコヤ君は緊張してハイと答え

また私達を笑わせた



食事が終わり

広間で今年も民族舞踊を見物し

もう一度湯につかって寝床に入った


「お前の寝床はあっちだぞ?」


“わかっています”


つい、いつもの癖でワンワンの上にもたれかかり

やれやれと呆れるワンワンの毛をいじり眠くなるのを待って自分の寝台に移り目を閉じた

シジュウ様は私達の様子を飽きず眺め

私も久しぶりにババと呼ばれたいと笑われていた



茶の香りで目が覚めるとワンワンとシジュウ様が窓の景色をつまみに茶を楽しんでいた

私は目をこすり起き上がると、ワンワンの耳をつまみワンワンも茶を飲むの?と声をかけた


「香りを楽しんでいる」


ワンワンはそう答えると顔を洗っておいで、散歩に行こうと笑う



散歩から戻り軽く支度を済ませ大食堂で朝食をとる

キィ達はもう済ませたのか姿は見当たらず三人で朝食を楽しんだ


朝食が終わり、待ち合わせのロビーへ向かうとそこにはアコヤ君が一人で待っていて、ワンワンを見ると目を輝かせて駆け寄り、よろしくお願いしますと言って頭を下げた


“本当によく出来ていて”


私が感心するとお前も見習えとワンワンが笑い

毛を毟りますよと睨むとおおこわいと肩をすくめ

それを見たアコヤ君は声を出して笑った


まず宿のすぐそばにある川で魚の遡上を見物し

動輪に乗って峠を目指した

動輪に乗れぬアコヤ君はお前の後ろに乗せてやれとワンワンが言ったので私の後ろに乗ってもらい


“では兄様、峠の上の見晴し台まで競争です”


私の言葉を受けワンワンは構わんが吠え面かくことになるぞ?と笑う

そんな小さな動輪で何を言いますかと私も言い返した



結果から言うと鎌首をもたげ稲妻の様に九十九折の道を駆け上ったシジュウ様が一番につき

その後をスイスイと小さな動輪で付いて行ったワンワンが二番

私は最後までワンワンに追いつけなかった


きっと負けたのは二人乗っていたからだと言ってワンワンに屋台の売り物を買わせ

ワンワンはどうだ?お転婆だろう?とアコヤ君を笑わせていた


その後も熊や鯨を見物しに行き

海水浴をする頃にはすっかりアコヤ君とも打ち解け

夕暮れを残念に思いながら保養所に戻り

アコヤ君はワンワンと

私もシジュウ様と温大浴場へ向かった


大浴場にはキィもおり、どうだいうちの孫はと嬉しそうに声をかけてきた


“キィの孫とは思えない良い子です、明るくて真面目でお酒も飲まない”


「そうかい嬉しいねえ、どうだ?後百年も経てばもっと良い男になるぞ?」


“百年も経ったら私はお婆ちゃんでは済みませんよ?”


本当にキィは面白い事を言う


「何を言うか、アレだけ毎日の様に大樹の葉を飲んでいれば百年くらいは何ともないよ」


私がまたまたと笑うとキィはいやいやと笑い

そうなのですかとシジュウ様を向くとシジュウ様もそれはそうだろうと仰られた

あんな葉を幾らか飲んだだけで百年も若いままなど、まるで実感がない


「お前が老いる代わりにお前の中の大樹の葉が枯れるのさ、お前はそれを何百枚もあのババアから飲まされているからね、千年位はヒョイと生きるさ」


キィは面白げに笑い

シジュウ様はその話に加わろうとはしなかった


“ねえキィ、人がその寿命を超えて生きてはいけないのでしょう?”


「その話は前にもしただろう?エルフ王のセン婆が良いと言って与えたんだ、あいつもたまには良いことをする」


実感がないなあと思いながら湯船で足を伸ばす


「お前のありとあらゆる願いは大概は叶う、だがひとつだけどう足掻いても叶わんモノがある、だから」


キィがそこまで言ったところでシジュウ様がそれは良いとキィに言い

キィも出過ぎた真似を致しましたと言って話はそこで終わった



夕食はまたキィ達と一緒に取り

肉を食べる私やワンワンを見てアコヤ君も自分もひとつと言ってそれを口にし、微妙な顔をして皆の笑いを誘った

数日前から来ていたキィ達は明日には帰るらしく、アコヤ君はそれをとても残念そうにし

ワンワンから今生の別れでもあるまいよと声を掛けられ目を輝かせていた

私は何時でも《館》に来てね、何も無いところだけどと声を掛る

キィは、おいおい一般の《館》への飛行は認められていないぞと笑い

シジュウ様が私が許すと笑われた



翌朝、朝食を済ませると、アコヤ君とはお別れとなった

保養所の車寄で最後の別れを惜しんでいると、ワンワンがほれと言ってアコヤ君に昨日海水浴場で撮った光画を渡す


「人には見せるなよ?騒ぎになる」


ワンワンはそう言って笑い

アコヤ君ははい!と元気に答えた


「では少年、また何時かどこかで」


ワンワンが差し出した手を嬉しそうに握り、アコヤ君は客車に乗り込みキィ達は飛行場へと向かった



私達はそれから数日を〈輝〉で

走ったり溺れたりといろいろ楽しんで過ごした

出立の日、最後に土産物屋で買物をしていると懐かしい物を見つけた


木剣だ


あの時は何でこんな物を欲しかったのだろうと思いながら手に取ってみる

懐かしいなぁ


「欲しいのですか?」


シジュウ様がワザと呆れた様な言い方で声をかけていらっしゃった


“いいえ、これを見ていればまた真珠の首飾りを頂けるかと思って”


私の言葉を聞きシジュウ様はそれは大変と笑い

今日は木剣にしておきなさいと楽しそうにされた


私の胸元にはあの日以来真珠が揺れている

これはどんな素晴らしい宝石にも変えがたいものだ

本当に私が千年生きるのなら千年後もこの胸に真珠が揺れているだろう


私はそう思い木剣をワンワンが抱える土産物の山の上に置く

おい、いい加減にしてくれと嘆く我が兄上に、まだ皆の土産が有りますよと言うとワンワンは勝手にしてくれと大きなため息をついた


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