二十六話
私は自ら名乗り出る形で和平の使者としてダリトゥディモ領内で白い旗から逃げ回る聖堂諸国の元へ赴いた
場所は片田舎の聖堂
居並ぶ聖堂諸国の領主
私は僅かな供回りと護衛に〈駆け付けて〉下さったドゥクディモ大公と共にそこに赴いた
私達が薄暗い聖堂に足を踏み込むと
この外道め売女め裏切者めと罵声を持って出迎えられた
「やあ諸君、久し振りではないか」
ドゥクディモ大公はさも嬉しそうに大きな声を出し
どかりと椅子に腰掛けた
「レーレン嬢もお掛けなさい」
笑って席を進めるドゥクディモ大公
「しかし此処は薄暗い、此れでは何処からゴブリンが襲いかかるかわかりませんなぁ」
ドゥクディモ大公は心配した様に辺りを見回した
「ほざくな!裏切者!お前達は今や籠の鳥なのだ!」
そうだそうだと叫ぶ声にドゥクディモ大公は友人諸君何と恐ろしい事を言うのかねと悲しげにして見せた
「私は諸君らも御聖堂も裏切ってはいないよ?古い友人のハンディに声をかけられ、一緒に領国経営を手伝ってもらっているだけさ。それに何故か君らの仲間が私の領国を荒そうとするので止む無く国境を守っているだけじゃないか」
ほざくな裏切者!お前など領民共々冥界の川に突き落としてやる!
一人の男が声を上げた
「もう其処はみて来たよ、白姫様が見せて下さった」
聖堂諸国の男達はその言葉を聞き
一斉に黙り込んだ
「殺しても殺しても死なぬ不死の竜、其れが百匹もだ、私が手塩にかけた五万の兵達の内家にたどり着いたものは二万だ、其れとて白姫様のお目こぼしのおかげだからな、白姫様はただ真っ直ぐ私の陣を目指した、それだけで三万の兵が消えたのだ」
ドゥクディモ大公は一度言葉を切り
一同を見回し
私は白姫様が諸君の領国へ〈真っ直ぐ〉行幸などされねば良いと心底思うよ
聖堂諸国最強と言われ
黄金に輝くと言われたドゥクディモ軍
それがどの様な運命を辿ったかは皆の知るところだ
「脅しか!」
一人の男が吠え返し
ドゥクディモ大公は肩をすくめた
「この中で先日の戦さの場にいたものは?」
幾人かのものが目を伏せた
「よろしい、あの光景が諸君らの城下でと言う事だ、あぁ言っておくよ、このすぐ近くで白い旗を掲げる一団は白姫様の兵ですらない、アレはただの旗持ちだ」
騙されんぞと男の一人が叫ぶ
「試してみるといい、私の首をはねてもいいな、きっと君が領国に戻る前にそこは獣人も住まぬ所になっていると思うよ」
ドゥクディモ大公は、私に君はどう思う?と話を振った
「よろしいでしょうか?」
私の声に小娘がと吐き捨てる様な声が聞こえ
それに笑顔で答えた
「ありがとうございます、それでは」
私は帳面を開き走り書きを読み上げた
街を出た正堂隊は千人
途中、怪我や病で隊列を離れた者が有りダリトゥディモ領にたどり着いた者は九百八十人
先日の戦さの後の点呼に答えた者
同じく九百八十人
今朝までに武具の手入れや爆ぜた薪が目に入ったなどの怪我で戦列を離れた者が三人
悪くなったものを食べて戦列を離れた者が十人
「これが聖堂諸国の皆さんが数万と言われた兵で押しかけた、あの丘で上げた戦果の全てです」
私はぺこりと頭を下げ
そう言えばハンディ王率いる連合軍が追い討ちなどを仕掛けていましたねと言うと男達の唸り声が響いた
「夕べは何人の方が寝首を掻かれたかな?いや、馬鹿にしているのではない、白姫様が手懐けたゴブリンの軍は明かりさえなければ無敵なのだ、諸君はそれらとこれから毎晩戦わねばならんのだよ、私もそれは経験した」
何処までだ
一人の男が観念した様に呟く
「何も、ダリトゥディモの地から離れてくれればそれで良い、ああ、年老いたダリトゥディモ公も連れて行ってくれ。それと諸君らがこの二年であちこちに建てた砦の中にある食い物と金を置いて行ってくれるとありがたい」
追い討ちをかけぬと約束は出来るかと別の男が言う
「それは心配無い、王国に余裕はない、今はね、私もだ。そもそも白姫様はこの度の戦さに興味が無い」
和議の条件はと一人の老人が問うた
「ハンディ王家にダリトゥディモ領を荒らした迷惑料でも払えばそれで結構、お代は銅貨で支払うと喜ばれる」
私はそこで言葉を引き継いだ
「それと皆さんは白姫様にご挨拶の一つもされては如何でしょう?」
男達は一斉に唸った
それは出来ないと言う事だ
「では聖堂と正堂の手打ちに手を貸して下さい、このままでは皆足腰が立たなくなるまで戦さに明け暮れてしまいます。それで喜ぶのは何処の誰か」
皆さん、私は皆さんと仲良くなりに来たという事と
私は白姫様ととても仲がいいという事
この二つを覚えて帰って下さい
私の言葉を引き継ぎドゥクディモ大公がそれではまた明日にでも、あぁ、次回、皆さんの誰も欠けることなくお会い出来ればと思いますよと言って席を立った
帰りの馬車の中でドゥクディモ大公は不思議そうに私をみていた
「よほど白姫がお嫌いなのですな」
ドゥクディモ大公は私に分かりきったことを聞く
「魔法使いを打つには数では有りません、その場が必要なのです。私はそれを作り出したい」
「そんな事私の前で言ってはいけませんな」
「どうせ貴方は王に殺されるか、魔法使いに殺されるか、一生彼奴らの靴を舐めて生きていくかしか無いのでしょう?」
「靴を舐めると腹は決まっている」
私はお好きにと言うと先程別れた男達を憐れんだ
あの中で一番大きな声を上げたものは今頃弓の雨に襲われた己の陣地を眺めて呆然としているだろう
あの中で一番最初に声を上げたものは明日の朝、目己以外一晩で皆殺しにされた陣内で目を覚ますだろう
最初からそう決まっているのだ
交渉が纏まるまでそれは毎日続く
まああの様子だと次回にはこちらの要求が通流だろう
後はあの荒地を押し付けられる誰かに同情するだけだ
そして私は、魔法使いスズが酒の味を知る前にその首を落としてやる




