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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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二十五話

「勘弁してくれ、もう私は関わらない、第一私はハンディに目をつけられているし国境で続く聖堂派の諸国との小競り合いで手一杯だ、援軍だと言って王国軍もきているがどっちを向いているのかなど考えたくもない」


「口と手を動かしてくださればそれで結構、『白姫様の御行幸を願いたい、正堂の一行を迎えたい』とさえずっていくださればそれで結構」


「貴女に関わったのが間違いだった」


「どうせ王もご存知です」


「だとしてもあの魔法使いの相手をもう一度など御免だ」


「それは私の役目」


「そうしてくれ」


「喜んで」




私は魔法使いに支配された街から戻ると、まず私の中にいる清廉で正義感の強い私に魔法使いスズとシミンへ手紙を書かせ

次に私の中の慈愛に溢れた私に薬学を学ぶ者を領内に求めさせた


二年かける

うまく行かねば三年でも四年でも

レーレンとスズ姫の仲はそれ以前と違うのだと皆に想わせるのだ


ドゥクディモ大公は王や魔法使いと今一度刃を交えるくらいなら聖堂諸国と国が滅ぶまで戦った方がマシだと言う

まさにその通りだ


王国に刃を向けたイッディモは滅び王領となり

魔法使いの遊びに付き合わされたドゥクディモは犬よりも忠実なしもべとなり

うまい汁を吸おうとしたダリトゥディモは領内になだれ込んだ王国軍や貴族達と、それを迎え撃つべく〈援軍〉として乗り込んできた聖堂諸国との終わらぬ戦場になってしまった


私は魔法使いと聖堂の戦さを取り持とう

和議の使者

良いじゃない

どうせ勝つのは魔法使いの威光を嵩にきた王国なのだ

上手いところをいただきましょう



薬学者求むの触れをだして半年

集まった者達を正堂の医院へ送り込んで四月

送り込んだ者達から送られてくる報告書を目に通すにつれ頭が痛くなる


魔法使いスズの医師は薬棚を端から順にコレは何の薬で何に聞くと一通り説明すると仕事に戻り

質問にもろくに答えないらしい

それはまるで犬や猫にたいする様な扱いだと書かれており、誇り高い彼らを大いに傷つけているのが伝わってきた


私は返書にシャン嬢を頼るべしと書いた

あの女は私の問いにしどろもどろと答えたが知識は確かなものだった

あんな年頃のこんな体格のそわな症状の奴ならこれくらいと、使い慣れぬ敬語をたどたどしく使っていたのを思い出す


あれは良い

門前の小僧が経を読んだと言うわけだ


次に父の死後、レーレンの元を離れた者達からの返書に目を通した

色よい返事のものが多い

レーレン領は王から加増を受け、父の頃より幾分にか大きくなっていた

ハンディ王があのにやけた笑顔で戦さに遅参した幾人かの貴族達の領地をイッディモの地に加増してやったのだ

そして空いた領地の一部を内政に力を注ぐレーレンにと下さった

レーレンが父の代の頃の様な力を取り戻すにはまだ十年では足りないが

レーレンの名は日毎に高まっている


最後に正堂に送り込んだ間者からの手紙を広げた

上手くやっているようだ

随分と楽しんでいる



季節ごとに白姫参りを重ね

やれ太鼓持ちだなどと言われながら

私はドゥクディモ大公の力を借り王にひとつの提案を言上した


我等がダリトゥディモ領内に巣食う賊に痛恨の一撃を加えたのちの和睦

勿論ダリトゥディモの土地は一片たりとも渡しはしない

王はさも名案と喜んで見せたが

左様に上手くいくのかねと笑い、居並ぶ諸侯を見回す

ドゥクディモ大公は私は国境での小競り合いで手一杯、とてもと首を振る

素晴らしい

打ち合わせしたってこうは行かない

他の貴族達もこれ以上こき使われてたまるかと、私も手一杯でと口を揃えた

それは困った

王はまるで無能の様な顔をし

そこで私が一案がございますと名乗り出た


「御正堂に異端聖堂征伐のお力を、正堂隊をお借りいたしましょう」


私の言葉を受けた王は

まるで我が劇団の一人の様にそれは良い!と膝を叩き

では是非レーレン嬢にその使者をと仰せられた


成る程

王は端から戦さの為に私を利用するつもりだったわけか



正堂へ幾度も足を運び

話を重ね

魔法使いスズの元へ向かい

旗の一本でいいから貸して欲しいと願い出

旗くらいならと

あの恐ろしい笑顔で快諾された

魔法使いスズが旗を貸すと知ると正堂はそれまでの態度をひるがえし

半年待って欲しい

千人の正堂隊を揃えるからと言い

喜んで待つと伝えた


それまでの間

商人などを使い魔法使いが正堂隊を率い貴族連合を連れダリトゥディモ領に雪崩れ込むと噂を流させた



三公国が王国になだれ込んだ日から2年目

魔法使いスズの19の生誕祝いを済ませた正堂の街は異様な雰囲気に包まれ

活気立つ

私は正堂隊を率いるシミンと共に魔法使いスズの屋敷の前に立つ

門の前にはあのいけ好かない魔法使いの六姉妹が並ぶ


「旗をお預かりに参りました」


私は膝をつき、あのいけ好かない六姉妹に頭を下げる

六姉妹が二手に分かれると其処にはこの二年で益々妖しさに磨きがかかった魔法使いスズの姿があり

大役ですねと私に笑顔で声を掛けた


屋敷からは続々とあのおぞましい白い旗を掲げたゴーレムが現れる


「コレは《館》の旗である、コレは降ろすことも倒すことも許さん」


六姉妹の一人が偉そうに声を張り

掲げた旗を見上げた


「そしてこの度、レーレンにこの旗を貸し出すと聞き、旗を護りたいと申し出るものがある」


旗を掲げたゴーレムを割るように数人が前に出

シミンはそれを見て目を輝かせた


「《村》長ハナビとその家人である」


ハナビと呼ばれた娘は皮鎧を纏い

罪人のような鉄球を腕から下げていた

そしてその横に立つ女


「姫騎士は死んだと聞いていました」


「他人の空似だ」


其処に立っていたのはデブのヒバナでは無く

精悍な姿をした姫騎士と呼ばれたあの女だった


「それではみなさんお気をつけて」


魔法使いスズのその言葉を受け

正堂隊は喉も裂けよと万歳を連呼し

私は行ってきますと笑顔で答えた



「ところで姫騎士」


「そんな奴は知らん」


旧市街地を正門へ向かう道すがら

私は気になることを姫騎士に聞いた


「あちらの方々は?」


私はハナビさんが引き連れる

干からび骨と皮だけになったような綿の鎧を纏った一団を見た


「私の仲間です」


答えたのはハナビと呼ばれた娘だった


「皆何年も前にこの世を去ったのです、魂は次へ旅立ちましたが、せめて身体は私のためにと言って残して行ってくれました、私の大切な友人達です」


ハナビと呼ばれた娘は干からび骨と皮の顔を愛おしそうに見つめる

その瞳には在りし日の彼らが映っているのだろう


素敵なお話ですねと、私は君の悪い動く死体を見つめ、ああ気持ち悪いと心の中で呟いた


正門を抜け虐殺の丘と私の中で名付けた原っぱを見渡す

其処には雑多な

諸侯が勝馬に乗るため供出した諸侯連合

それを率いる男が爽やかに笑っていた


「それではひとつ勝鬨でも」


王は王国戦士団を率いストーンゴーレムを並べ一万二千の連合軍を後ろに

美味しいところはいただきますとばかりに笑っていた


「それは殿方のされること、私は優雅に」


私は王の申し出を断り馬車に乗り

笑顔で手を振り皆に答えた


私に代わり勝鬨をあげるシミン


魔法使いの館に忠誠を誓うゴブリン達は夜のうちにダリトゥディモへと向かい

同じくエルフ達は森を駆けている

そして白い旗を掲げるゴーレムの一団と姫騎士率いる動く死体


始まる前から勝負はついた

聖堂諸国には悪いが私の踏台になってもらう

白い旗が血に染まり

青い旗の下に山と骸が積まれてからが私の願った舞台



数日の退屈な進軍を経て連合軍は泥沼のような戦場と化したダリトゥディモへとたどり着いた

若き領主を失い

年老いたその親が最後の一人までと抵抗を続け

聖堂に駆り立てられた諸国が好き勝手に援軍と称して暴れる


王国と言えば

遅参した貴族達や何時ものように遅れてきた大貴族達に活躍の場をと、王の優しい思いやりで彼等は地獄を這いずり回っていた


そこに現れた私達は此処が前線ですと焼野原の小高い丘に連れられ

そこに白い旗を掲げ陣取った

そしてそれから数日、丘を囲む青い旗は日増しに増え

各地で喘ぐ王国諸侯の兵達は遅参遅参と何時もの如く

結局、王が率いる一万二千で青い旗を相手取ることとなった


それを取り囲む青い旗は、日があるうちはいつどこから飛んでくるか分からぬ弓に怯え

日が沈めば今日は誰が寝首を掻かれるのかと怯えた


王は王国戦士団と四剣ケシミの助言を受け

連合軍は丘を下り野戦を挑み

正堂隊は丘の上で旗を掲げることとなった


王が率いる連合軍は勇ましく敵中へ進むのだ

と言えば聞こえは良い

実際の所は白い旗を囮に使うだけの話なのだ

連合軍が丘を下りれば青い旗は砂糖に群がるように丘を登るだろうという算段


私は正堂隊と共に丘の上に残った


「此処が一番安全なんでしょう?」


私の問いに姫騎士は、はん!と答え

嫌われたものねと笑った


丘ににじり寄る青い旗

槍を構え待ち受けるシミン率いる正堂隊

その後ろには白い旗を掲げるゴーレム達

そのゴーレムが背負う太い筒や細い棒はシミンの話によれば火球砲の比ではないという

そして姫騎士


つまり私はゴブリン侯率いる正堂隊と

数百門の火球砲に匹敵するゴーレム

そして両手に剣を構えた、ジャージとやらを纏った姫騎士に守られているのだ

ハナビと干からびた死体は数に入れて良いか分からないが

コレは最早勝ちだろう


そして結果はやはりそうなった

槍を構えにじり寄った青い旗を見た姫騎士が、槍を向けたなと呟くと

旗を掲げるゴーレム達が四方の青い旗に向け光の矢や光の粒を放ち、それを粉微塵に打ち砕く

それを見た姫騎士は剣を両手に駆け出し青い旗の中に消え

その先々で炎と血飛沫を上げた


そして何より驚かされたのが干からびた死体とハナビだった

ハナビは八面六臂のヒバナを見て我慢できんとばかりに鉄球を振り回しながら駆け出し死体もそれに続く

それはストーンゴーレムなど可愛く見える様な光景で

鉄球が進む先は、人も物も全て破壊され

干からびた死体もとても死体とはおもえぬ剣さばきで全てをなぎ払った


王や連合軍は出遅れたどころではなく

逃げる方向もわからぬ有様の青い旗に手当たり次第に襲いかかり

自分達も戦さに来たのだと張り切っていた


ゴーレムが光の矢を放ってからわずか数時

残敵を打った正堂隊が勝鬨をあげる中

姫騎士はそれらしい奴を適当に斬って来たと行って首の山を見せ

それを見たハナビは目につくもの全部壊してしまい首など残って無い、先に言ってくれと言わんばかりの顔をした


「まだ何かするのだろう?」


王は私に話しかける


「和平の使者が必要でしょう」


「引き受けてくれるのかね」


この男は何を今更


「王国のためなら」


私は私の中にある王国のためにと心の中で呟いた


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