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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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二十二話(こ)

今日から貴族だと言われた戦勝祝いの席より数日


私は王からコレで屋敷を建てなさいと荷馬車に山積みの銅貨と抱えきれない様な金貨を頂いた

それを使いフッツ殿から許可をいただいた地に屋敷を立てることにした


正堂組にこの銅貨と金貨で小振りな屋敷をと頼むと正堂から今回の戦の祝いに館を建ててやってくれと頼まれてるからお代は結構

二重取りがバレたら尼様にどやしつけられてしまうと大棟梁に笑われ

何か希望はあるかい?と聞かれ

私は思いつく限りの事を並べ

大棟梁は城でも追いつかんよと笑いながら組員に図面をスラスラと書かせて行った

二階建てで見晴らしのいい部屋と風呂場が有り小さくとも狭くはならぬ様にと頼み

数日後に仕上がった図面を見せられ

これで頼みたいと舞い上がった


取り敢えずの領地として与えられたのは、この街で勝利の丘と呼ばれる私達が死の恐怖に怯えたあの丘だった

開墾して畑にでもしようか

家でも建てて人でも住まわそうかと悩んだが

相談しに言った正堂で尼様に正地を耕すなどもってのほかと叱られ

これでは私は早々に干からびると頭を抱えてしまった


尼様はあなたは正堂では五本の指に入る正人、特に正堂隊の若者からは絶大な信頼があると言われ

私は自分が未熟なばかりにたくさんの若者を死なせてしまったと言うと、尼様はあなたに救われた若者はその倍はいると言われ

正堂隊の教練をしてくれないか

白札で良ければ生活の足しになるくらいは用意させてもらうと頼まれてしまった


私は騎士としても見習いも良いとこ

人に教えるなどとんでもないと答えたが

その様に遠慮深い所が良いと言われ

押し切られてしまった


私はその事をヒバナ殿に話し

どうしたら良いかと教えを請うと

ヒバナ殿は至極簡単に解決してしまった

誰か教えれる奴を雇ってそいつにやらせればいい

なんと素晴らしいと感嘆し、ヒバナ殿の手を取ると仕事中だとそのまま腕を決められ


ではヒバナ殿にそれをお願いしたいと言うと

顔面を鷲掴みにされ、これ以上仕事を増やすなと怒られてしまった

私は悲鳴をあげる我が脳髄に耐えろと叱り

ヒバナ殿の暖かな掌の感触と軋む頭蓋骨の板挟みの中で気を失ってしまった



気がつくと私は迎賓の一室で目を覚まし

これはいかんと部屋を出るとそこでゴブリンの長とそれを守る兵に出くわした


「これは失礼」


私のとっさの声にゴブリンは


「おきをつけなさい」


と答え立去る

そこで私の頭の中に稲妻が走った

これもヒバナ殿が私の頭を絞り上げて下さったからに違いない!

私はゴブリンの長を呼び止めた



十日の後、私は篝火や光石が輝く中、正堂の裏庭に立ち、居並ぶ正堂隊の若者達を見回していた

若者達は緊張した面持ちで此方を見ている


それはそうだ

私の後ろには、私が雇ったゴブリンの傭兵達が五十人も並び

その精悍さは王国戦士にも引けを取らない


「同志諸君、今君たちの前に並ぶ彼らは先の戦いで皆手柄を立てた猛者達だ。あの戦さ場にいたものならば彼等の精強さに疑いを持つ者もおるまい」


私は精一杯偉そうに振る舞い

話を続ける


「私は先の戦さで諸君に足りないものを彼等の中に見た、彼等の手により諸君らは明日は百人のゴブリンの様に、一年後には千人のゴブリンの様に逞しく生まれ変わるだろう。それでは白く掲げた旗のもとに集った同志諸君、今夜はうたっておどりたまえ」


私の声を聞き、ゴブリン達が前に出て棒で若者達を叩き姿勢を正し整列からやり直させる


それはもう見事な光景で

ゴブリンの怒声に合わせ、若者達が歌う様に悲鳴をあげ、踊る様に駆けずり回る

私の横に立つ傭兵の長が私に話しかける


「おまえもたたきなおしてやろうか?」


「結構、私はヒバナ殿にシゴかれることが生き甲斐なのです」


ゴブリンはそうかいと肩を竦め

まあこれから頼むと私の尻を叩き

私も彼の尻を叩いて返した




私の館の工事が始まり二カ月が過ぎた頃

私はまたひとつ問題を抱えた

間も無く屋敷が形になる

そこに住むのは私一人なのだ


毎日の様にヒバナ殿をお誘いしてはいるのだが、ここが嫌で帰ったのにおまえは馬鹿かと罵られ

私はヒバナ殿をお迎えするのに何が足りないのかと日々頭を抱えた


そして思い当たったのだ

使用人がいない


これは大変だ

私は急ぎ正堂で使用人求むと人を探した

直ぐに紹介され幾人か話を聞いたが皆若い女ばかり

若い男の家に住み込みで若い女中が居ては、きっとヒバナ殿も良い顔をされないだろう

私は通いの者の他に住み込みの御婦人を求めたが

御婦人で住み込みでとなると中々見つからない


これは困ったと教練中の傭兵長に愚痴ると、一人心当たりがあるがどうだと言ってきた

私は、構わんが私は昼間起きているぞ?と言うと傭兵長も年寄は昼もよく起きてるよと笑った


二日ののち、傭兵長の紹介で一人のゴブリンの御婦人と顔合わせとなった

どうやら名家の方らしくしっかりとされた方で、私は是非お願いしたいと頼み

ゴブリンの御婦人は私はゴブリンだが良いのか?と呆れていた



それからさらに一月後

屋敷が出来上がりゴブリンおばばと2人、屋敷に住まうことになった

新築祝いの席でヒバナ殿や御屋敷のエルフ様達がゴブリンおばばの話を聞き

このおばばが傭兵長の乳母だと言う事をそこで知らされた


口さがない連中は私の事をゴブリン侯だとか言うが気にはならない

おばばはテキパキと働き、通いの女中達もおばばの言う事をよく聞く

おばばはあっという間に私達の数字を覚え簡単な文字も読める様になってしまった

計算などは私の何倍も早く、女中達も舌を巻くほどだ

料理も味見こそしないが、私が食べる物も女中に頼らず作ってしまう

流石に昼食は作り置きをして仕事は女中に任せ昼寝しているが

夜中は繕い物や庭の掃除などをして過ごしている


私はその勤勉さに、なせおばば達は私達と同じか、少なくとも私より賢いのに洞窟でオーガやオークと暮らしているんだいと聞く

自分達はお前達より力が強く指先も器用だからそこそこなんでも出来てしまい、それ故他種属に頼られ

それで石の街や木の家を作る事なく生活を送ってきたからさと、さらりと答えた

私はおばばの御先祖達がその気になっていたら私達が洞窟で暮らしていたんだねと言うと

あんたらに洞窟は勿体無いと笑った


ある日傭兵達を屋敷に招待すると、いつもは正堂隊から鬼と呼ばれる傭兵長が、おばばの前で叱られては子供の様に謝り

私がそれを笑うと傭兵達がこれでもマシな方さと笑って教えてくれた


また別の日、おばばがものを見るとき手元から離して見ていることに気に付き、おばばに病院に行き見てもらおう、噂の鼻ガラスも頼んでみようと言うと、あそこは病人が行くところだと渋ったが女中達にも是非一度と言われ、渋々私に付き添われ病院へ向かった

病院ではシャン嬢が、お?浮気かとからかい、おばばはヒバナよりあの女の方が良いぞと余計な忠告をしてくれた

エルフの医師様は、おばばの目を覗き込み手が何本もあるゴーレムを呼ぶとおばばの目を少しいじり、帰りに鼻ガラスを受け取って帰れと言い

シャン嬢が枠に医師様が指示したガラスをはめておばばに渡し

胡散臭げにそれを鼻に乗せたおばばは驚いて辺りを見渡し

コレはすごいと言って驚き

私を見てあんたはこれが無い方が男前だねと笑ってくれた


鼻ガラスをする様になってからのおばばは、刺繍を女中として見たりと随分と喜んでくれ

傭兵長にもおばばが昔の様にハツラツとしていると感謝された


しいておばばの困ったところを挙げるとするならば、鼻が効くので私がヒバナ殿と睦ごとなどが有るとその度に私の匂いを嗅ぎあの女はやめておけと口うるさく言ってくる事か


レンクルを私が任せられれば

これはない方がマシだと嘆き

モッチとミップ達が来てからは上女中として辣腕を振るう

レーレン嬢を見ると利用はしても深入りはするなと失礼な事を言ったりもした



レーレン嬢と言えば

白姫様はいともあっさりお勤めのない時ならと言って面会を許され、肩透かしを受けた気分だが

それをレーレン嬢に話すととても喜んで下さり、これで兄の仇が撃てますと冗談も仰っていらっしゃった



これもまた別の日のことだが

ヒバナ殿がいらっしゃる日なので迎賓へ向かうと、ヒバナ殿に今日は帰れ頼むから帰れと言われ

しかし帰れと言われて帰る私でもなく

いやいやそう仰らずと、いつもの様にお手伝いでもと付き従っていると、初めましてと若い女性に挨拶をされ、ヒバナ殿が泣きそうな顔をされた

私は此方こそと頭を下げた

ここに居て

見知らぬ方で

不思議な召し物をされている方といえば魔法使いの国からいらっしゃられた方と決まっているからだ

女性はしっかりした人ではないですかと言い、ヒバナ殿はモゴモゴと口ごもっていらっしゃった

私はヒバナ殿に此方の方はと御紹介を願うと女性の方からご挨拶頂いた

私はハナビと申します、ヒバナがいつも御迷惑をお掛けして居ますと頭を下げられ

私はハナビ嬢をみてその口振りからヒバナ殿の姉上の御家族だなと見てこれはこれは御丁寧に、ヒバナ殿の姉上にも是非宜しくお伝え下さいと頭を下げる

笑って私がその姉です、ああ気にしませんよ、良く妹だと勘違いされますからと仰られた


私は驚きこれは失礼致しました、余りにもお若く見えましたのでと失礼を詫びた

ヒバナ殿はもういいだろうさあ帰れ頼むから帰れと力任せにグイグイと押され

ハナビ嬢はそれを見てやめなさい恥ずかしい!と叱るとヒバナ殿はしかし姉さんと懇願顔で

折角ですからお茶でも御一緒にとお誘いを受け、是非お受けするというと、ヒバナ殿が目に涙を溜め頼むからやめてくれと私の耳元で小声で囁かれ

ハナビ嬢に聞こえてますよと叱られ、シュンとした姿などとても新鮮なものであった


ハナビ嬢は数度御屋敷に来て魔法使い様にご挨拶とヒバナ殿の不出来を詫びているそうで

今日も魔法使い様と白姫様にご挨拶を済ませヒバナ殿の仕事ぶりを見て帰ろうとした所に私が現れたそうで

ヒバナが随分と可愛がっている様で安心しましたと言って頂き

この様な蛮族とヒバナ殿が言うと、私も元はその蛮族ですとヒバナ殿を叱り黙らせた


私はその話に興味を持ち、ハナビ嬢の御生れは魔法使いの国の外なのでしょうかとお伺いした

そうするとハナビ嬢は自分の産まれた村はそれは貧しく

森にへばりつく様にして暮らし

そのおかげで周りの領主からも手を出されなかったがその何倍も酷い目にも合わされていた

そんなある日、村の余りの窮状を見かねた魔法使い様に此方へおいでと御慈悲を受け、村を森で包み、魔法使い様の国の一部となり、ハナビ嬢はその村の村長としてお勤めを受け今に至るそうで

それは大変でしたねと私が言うと

お前が思う様なそんな簡単な話ではないとヒバナ殿に睨まれたが、ハナビ嬢がよしなさいとヒバナ殿をたしなめた

私はそれを見てまるで借りて来た猫ですねと笑うと、ハナビ嬢は今でこそ大人しいが最初は図体ばかり大きい赤ん坊で、とても苦労させられたと笑い

私がヒバナ殿とハナビ嬢が出会われたのはどの位前なのでしょうと聞くと、もう二千年以上前ですと溜息をつき

二千年も有ればエルフでももう少し大人になるのにとヒバナ殿を見て溜息をつかれた


私は驚き

ヒバナ殿が何千年も生きていると言うのは聞きましたが、ハナビ嬢も不老の魔法使いなのですかと聞くと、その様ですと茶に写る自分を見つめていらっしゃった

ヒバナ殿が姉さんは【破壊の魔女】と呼ばれ恐れられていると言い

恐れているのはお前だけでしょうとハナビ嬢に叱られた

【破壊の魔女】なんて大袈裟なんです、私が主人様より授かった鉄球だってワンワン様はお手玉だなと笑っていましたと言うと、ヒバナ殿はお手玉で城や砦が潰れますか?と言い返した

私は魔法使いともなると私達とは違うのだなと頷く

私がまだ畑を耕していた頃、主人様からヒバナを託され真人間に育ててくれと頼まれたのですが、未だにこの様ですとハナビ嬢は嘆かれていた


ハナビ嬢はそうだと言って、貴方はこの地の御生れなのでしょう?ハンディ国の、と申され私がハイこの度国王より貴族位を頂きましたと此処ぞとばかりに胸を張った

では王国の秘密を教えてあげましょう、絶対に他人に話してはいけません

親兄弟恋人にもと言われ

私は親にも言いません

想い人はヒバナ殿ただ一人ですと答え、ヒバナ殿に殴られハナビ嬢に笑われた


そそしてハナビ嬢は口を開く

あの日森へと答えたのが私達《村》の住人

ここに残ると答えたのがハンディさん

私達は元は同じ村の仲間なのです


ですからどうかハンディさんの御子孫を助けてあげて下さいと頭を下げられ

貴族様になると仰ってましたね、何かお祝いをさせて下さい

あ、妹を下さいと言うのはダメですよと笑われ

私は、いえヒバナ殿もいつか私がこの手でと答え

まあ頼もしいと笑い、それでは何かお役に立つものを今度ヒバナに持たせますと言われ

今日は楽しかったと言って席を立たれた


去り際にハナビ嬢が私を見る

ヒバナとの事は反対はしません

ただし賛成もしません

そう仰られ、それではと立ち去られた


私はコレは一人前になればと言う事ですねとヒバナ殿に聞くと、黙れ蛮族と殴られ、姉は身を弁えろと言ったのだと言われ

同じ事では?と聞いたがもういいと溜息をつかれてしまった



数日の後

ヒバナ殿より姉からだと言われ白一色の鎧を頂いた

手に取って見るとそれは枯れ木の様に軽く氷の様に滑らかであった

これは宝具でしょうかと興奮して問うとヒバナ殿は知らんと言われ、私に剣を一振りもってこいと仰り、手に取ったそれを振り下ろした


剣は鎧に弾かれて折れ

鎧には傷の一つもない


ヒバナ殿は見合った働きをしろと言って戻り、私はその鎧を飽きずに見つめていた


これに見合った男にならねば

ハナビ嬢に認められる男にならねば

私は鎧に傅きそれを心に決めた人に見立て臣下の礼をとり心に誓った


王国も

ヒバナ殿も

この街も皆私が守るのだと


そんな私におばばが声をかける


「さめるまえにたべろ」


「分かったよ」


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