二十二話(く)
「だから領地全ての村や町が同じでは立ちいかないの。ここまではいい?」
「はい、大変ためになります。さすがレーレン嬢」
私は王より領地が草むらだけでは干からびるだろうと村をひとつ私の納める領土として任された
その帰りレーレン嬢に領地経営のいろはを教えて頂けると言うことで、こうしてご享受頂いているのだ
レーレン嬢は幼い頃より利発で
暇さえあれば棒を振り回していた私とは貴族として比べ物にならぬ方なのだ
「では王領を例に見て見ましょう、王領の税は?」
「五公五民かと」
「30点、基本はそうだけど商地などは税額が固定されていて稼げは稼ぐだけ商人が潤う用にしてあるし、逆に痩せた寒村なんかは多くても四公六民ね」
「為になります」
「でヒバナ侯、貴方の新しい領土は何処かしら?」
「はい、レンクルと言う外れの村だそうで。戻り次第検地に向かおうかと」
レンクルの名を聞くとレーレン嬢はふむふむと頷き
では昔馴染みのシミンの為に当家の宝物殿を開きましょうと言って棚から一冊の分厚い台帳を取り出した
私はレーレン嬢のその姿があまりに危なっかしく思わず手を貸す
「あら?紳士になったのね」
「これはどうも」
「でコレに・・・コレ」
レーレン嬢は台帳を開き私に見せる
「当家がレンクルを管理していた時の記録です」
「なんと!」
其処には過去数十年の税収や出来事などが見事に記されており
さすが大貴族と言った所だった
「まあ代官の送って来たものを書き写しただけだけどね」
「それでもすごい」
私は目を皿の様にしてその文字を追った
追ったが
「頭に入って来ません」
レーレン嬢は笑って書き写して行きなさいと紙とペンを差し出してくださった
しかし
しかしこれは
「酷い所でしょ?」
「ええ」
「税は良くて二公八民、無税の年もチラホラ」
「コレでは・・・」
絶句する私にレーレン嬢は一度に取るもの取って離村されるよりは小銭でも毎年入る方がマシよと厳しい顔をされた
「しかしレンクルねぇ」
レーレン嬢は王様も意地悪ねと笑う
「ああ、いやイッディモ領の十分の一をやるから何処でも好きな所を言えと言われたのですが」
「何それ⁈」
「白の街を離れたくないのでお断りしまして、そうしましたらその代わりにレンクルを任せようと言われまして」
「分かりやすい見せしめにされたわね」
「はあ、しかし遥かイッディモの地に行かねばならぬくらいなら」
「そんなに姫騎士のおそばがいいの?」
「はい!」
レーレン嬢は呆れたと笑い
貰うだけ貰って代官でもおけばよかったのにと仰り
私は成る程と唸った
「まあ終わったことは仕方ないわね。他に何か王に言われた?」
「それが・・」
「何を言われたの?」
「はあ、白姫様御生誕の地だと言われまして」
「魔法使いスズの?」
「はあ、私も何をバカなと思いましたが」
レーレン嬢はしばらく黙り
何かを口にしたり黙ったりを繰り返し
意を決した様に私に向かった
「検地に向かったら村長に過去帳を見せてもらいなさい、恐らくだけどスズと言う娘の記録はあるわ。そしてその娘とその家族はある時忽然と村から消えている、かわいそうに」
「一体何の話を?」
「いい?シミン、あの魔法使い達はある日突然現れあそこに住み着いたわ」
「はい、まるでお伽話です」
「そうね、そしてその魔法使いはスズなんて何処にでも有る名前をしているわ」
「はい、私の行きつけの洗濯屋の婆様もスズさんでした」
「そうね、なつかしいわね。さて置き何でスズなの?召使いはシジュウなんて聞いたこともない珍しい名前なんでしょう?」
「その、レーレン嬢、私は聖堂でも居眠りばかりしていましたので。あまり遠回りに話されても」
「そうね、なつかしいわ。では私の思う所を言います。魔法使いスズはこの地で何かをなす為レンクルの娘スズと入れ替わりあの街に居ます、本当の名前では困る事があるか村娘のスズが何かを見てしまったか、そんな所だと思う」
「何となく分かりますが、だからと言って名前一つで何か変わるものでしょうか?」
「ではシミン、私の名ががレーレンでは無くヒポポタマスだと言ったら」
「誰ですか?それは」
「ええ、そうなります。しかしスズならば『ああスズさんね』とすんなりと通るものなのです。魔法使いであってもね」
「考えすぎなのでは?」
「そうだと良いと私も思いますよ、だから確かめて来てください。それと」
「何でしょう?」
「魔法使いスズと一度会ってみたい」
「いや、それは」
「違う違う、どっちかと言うと手打ちをしてわだかまりを無くそうかと、兄達を殺されたのは許せないけど、殺しに行ったのも兄達ではあるし」
「それならば」
胸を張る私に
レーレン嬢は頼もしいわねと喜んでくださった
私は白の街に戻ると直ぐにレンクルに向かい検地だと言って村長からいろんな話を聞いた
村はレーレン嬢から見せて頂いた物よりは随分とマシに思え
それを村長に聞くとフッツ家が随分とこの村に力を注いだそうで
昔に比べれば十倍はマシになりましたと嬉しそうにしていた
それとなくを装い過去帳をめくるとそこには【スズ】の名が刻まれていた
このスズとは?と私が聞くと村長は困った様に白姫様ですと答えた
村娘が?と私が聞くと
ひとり者の女がある日、子を孕み産まれたその子が白姫様でして
スズの産まれる一年くらい前、不思議な人が訪ねて来たと言っていましたのでその時の子かと
魔法使い様が子種を残されていったのでしょう
スズが十の時に母は流行病で死にまして弟夫婦が面倒を見ていたのですが
村長はそこで言っていいものかと少し悩み
意を決した様に続けた
ある日スズは忽然と消えました
程なく弟夫婦も
それから一年ほどして一度だけスズがこの村を訪れましたがまるで別人の様で
瞳の色も少し違う気がしました
私はもう言いと言って話を打ち切り
税については追って沙汰すると言い
急ぎ白の街に戻る
「開門!開門!」
勝手口と呼ばれる御屋敷の一角で私は叫び
何事と顔を覗かせる白姫様
「コレは運命か!白姫様にお伺いしたい事が!」
白姫様は何でしょう?と小首を傾げ、取り敢えずどうぞと勝手口の中へ案内された
そこにはシャン嬢もおり、どうしたものかと迷ったがここは男らしく口を開いた
「白姫様、私はこの度レンクルの領主になりました、そこでお伺いしたい、貴女は誠にレンクルの村娘スズなのでしょ」
「はい!」
私の問いを最後まで聞くこともなく白姫様は嬉しそうに答えられ
まくし立てる様に己のことを話し始め
それを聞くシャン嬢はまた始まったと呆れた顔をした
「なので、私の産みの母は【マイ】父は主人様なのです!」
「あ・・その・・お話をまとめますと【あるじさま】・・魔法使い様が貴女の母と一夜を過ごし貴女が・・と言うことでよろしいのでしょうか」
「一夜では有りませんが、私のこの目で見たので間違いありません」
白姫様は訳の分からぬことを言い
それから叔父が聖堂組にいるから会ってやってくれと嬉しそうに答えられた
「なあスズ、お前時々禁制品やってねえか?」
シャン嬢は私もチラリと考えた事をズケズケと言い、私にこのあと人さらいにさらわれてここに来る話始めるから聞き流せと言って手をヒラヒラとさせ
白姫様を怒らせた
落とし胤だと言うのならそれで良いかと自分を納得させ
あれ?まだ何かあったぞと悩みむ
そうだ!
「白姫様、白姫様にあって頂きたい方が、私の昔馴染で」




