二十二話(き)
大変だ!大変だ!
頭の中はその言葉で埋め尽くされ
焦る私は街を駆ける
実家に戻り母ちゃんに預けておいた金貨を受け取り、母ちゃんも逃げる用意をしとけと叫んですぐに実家を飛び出し
正堂を駆け抜け人波を縫いフウの店に駆け込んだ
「おいバカ!呑気に下ごしらえしてんじゃねえよ!」
フウは今度は何さと私の肩を抱く
「逃げる支度しとけ!金と金目のもの掻き集めとけ!」
フウは戦の話?と落ち着いた様子で
それがまた腹が立ち
「私ら聖敵だぞ!王様も負けちまってもう逃げるしかねえだろう!」
「僕はそうは思わないけど」
「良いか、仮にシジュウ達に聖堂の連中が手も足も出なかったとしても、囲まれちまえば私ら干上がるだけだからな!スズんトコの塩と砂糖だけじゃ人間生きていけねえんだぞ!」
フウは分かったよと困った様に笑い
準備だけはしておくからと言って私を落ち着かせ、一旦家に帰る様に笑い水を差し出した
私はそれを飲み、金ならあるからな、今すぐ逃げても一年や二年どうにでもなるからなと言って一旦家に戻った
噂はその日のうちに町中に広がり
白札は紙屑の様に値を下げ
物の買占めが始まった
翌朝、ゴブリンの伝書屋に【午前臨時休診 リヨ】と書かれた紙を渡され
焦ってスズの屋敷に向かったが、受付のリンに王様やお客がたくさん来ているから午前中は誰も会えないと追い返された
リンにも逃げる準備だけはしておけと言ったが
何言ってんのと鼻で笑われた
この兄妹はどこか抜けてやがる
王様一行が迎賓を後にすると
ちょうど出て来たリヨに捕まり、さあ仕事だと病院へ引きずられた
「ちょっと待てよ!大軍が攻めてくるんだろ!お前も呑気にしてないでなんかしろよ!」
叫ぶ私にリヨは、だからこうやって働いているじゃ無いかと笑い
私の出番はなさそうだしなと言って、医師様医師様と取り囲む子供達を見て喜んでいた
「いしさま!ボクもせいどうたいにはいってあっかんをやっつけます!」
一人の男の子が声を上げると僕も私もと次々とガキが声を上げる
リヨはさも感動した風にして見せると
よし同志諸君!では私が体長だ!
今から命令するぞ?
早速持ち場につき泣く子や恐れる子を勇気付けてやれ!
それが終われば皆んなで風呂に集合だと叫び
喜声を上げる子供達に菓子を渡し解散させた
「お前にもやろうか?」
リヨは私にも包みを渡し
それでは仕事だと診察室へ向かった
待合室は病人で溢れかえり
それはそれで良いんだけど
皆んな薬をたくさんくれと
中には賄賂をちらつかせる奴までいやがる
全く世も末だ
日が暮れる頃
リヨは子供達を連れ風呂へ向かい
私はフウのところへ向かうと我が目を疑った
あの野郎呑気に商売してやがる
しかも稀に見る大繁盛だ
近づくと【白札歓迎!】とデカデカと掲げ
この一日で紙屑並みになった白札で商売をしてやがる
「何やってんだ!」
私が怒鳴り込むとフウの奴はニコリと笑いチョット賭けをしてみたくなってねと爽やかに言いやがる
「こんな紙屑集めてどーすんだよ!」
フウはまるで牛でも落ち着かせるみたいに私に向かってドードーと言って空いた箱に詰め込まれた白札を見せた
「値段をいつもの三倍にしたのに飛ぶ様に売れる」
フウは休憩室に白札の山があるから纏めてくれと言い
私は頭を抱えながら紙屑を纏めて束にした
早々に売り切ったフウは紙屑を抱え正堂に向かい
買えるだけ物を買い込んだ
「なるほど!やるじゃねーか、此処は意地になって白札を何時も通りに扱ってるからな、物にしておこうって考えたわけだ」
私がフウの行動力に感心していると
配達の手続きをしているフウは明日の仕入れだよと笑う
そして明日はもっと稼ぐんだと頭の痛いことを言いやがった
フウは使いきれない山の様な白札を正堂に預けると
スズの屋敷に向かいシジュウを呼び出す
「お金は必ず払います、山の様な銅貨をお持ちします、ですから後払いでお酒を売ってください」
フウはやって来たシジュウに土下座で頼み込み
シジュウも祝儀の前払いだと言って酒を荷車ごと持っていけと差し出した
「ところで何の御祝儀なんだろう」
楽しそうに荷車を引くフウが鼻歌交じりでそんな事を言い
私はスズが無事に国元に逃げ込んだ祝いじゃねぇのと嫌味を言って
フウはかもねと笑って話し始めた
自分の店にはお屋敷の人も来る
センさん達やヒバナさん
たまにだけどスズやワンワンさんも
聞いたことがあるんだ
誰が一番強いんですかって
皆んな口を揃えてワンワンさんだって言ったよ
で、ワンワンさんが来た時に聞いたんだどれくらい強いんですかって
そしたらシジュウ様やあるじさま以外ならお屋敷の人達全員纏めて相手しても片手で足りるって
残りの片手はって聞いたらスズに毛を毟られない様に押さえつけるのに使うって笑ってた
で、ついでに聞いたんだ
王国十万の軍勢相手ならどうですかって
笑いもせずに百万でも勝てるって言って
それよりも何時も私の毛を狙うスズの方が恐ろしいぞって笑ってた
「だから何だよ」
私は少しイライラしながらそう答えると
フウは真顔で言った
「スズ達には僕たち人間じゃ勝てないんだよきっと」
その顔を見て私は黙り込む
「覚えてる?ワンワンさんが獣人退治した時のこと」
忘れねえよ
「血飛沫上げて倒れる獣人を見てもスズは顔色一つ変えずにさ」
私はちびりかけたけどな
「だから僕たちはスズ達の暮らすこの街で生きていこう?魔法使いが僕たちを気にしているうちは僕たちもそれで良いじゃ無いか」
ちょうど店のある広場に着くと、見たことのないゴーレムが街のあちこちに立ち、槍を持ったゴブリンや正堂隊がそれに付き従っていた
何体いるんだろうね
フウはそれを見て呟き私は黙り込んだ
店に酒を運び込むと
少し味見をしようと奥に誘われ
いや今日は湯浴みして無くてと私が口ごもる
フウは構わないよと言って酒とグラスを持って休憩室に私を誘う
「僕がシャンと一緒に居たい日だってあるんだ」
私はその言葉に頷くと小娘みたいに手を引かれ寝床に横になった
朝になり外を見回すと正堂の奴らが出陣式だと言って駆け回っている
私はフウの手を引き見にいこうぜと声をかけ
フウは仕事はいいのと聞いて来たので
今日はサボると答えると、じゃあ見物の後は僕の店を手伝ってよと笑い
いいぜと答え手を取ったまま大通りを目指した
最初に現れた王様の軍隊はそのあまりの数の少なさに皆これで勝てるのかと不安になった
次に駆け抜けた魔獣に乗ったエルフが率いるゴーレム軍団も強そうではあったけど数は更にすくなく街の皆んなが悪い意味で騒めく中それは起こった
空から竜の大軍が舞い降りスズの屋敷に陣取ると黒金の巨人を引き連れたスズが竜の大軍を従え進軍を始め
正堂の仕込み達が万歳を連呼し
街の奴らは唖然とそれを見上げる
スズは私を見つけたらしく手を振って来た
私はフウの手を握り締め叫んだ
「おい!魔法使い!私達の為に絶対に負けんじゃねえぞ!」
スズは聞こえているのかいないのか
笑って手を振り
フウは竜の軍勢を見て今日は昨日より少し値下げしなきゃいけないねと呟いていた
それから二日
フウは紙屑を稼ぎに稼ぎ
3日目に
王軍圧勝
ダリトゥディモ壊滅
ドゥクディモ降伏
聖堂撤退と次々に知らせが届き
その度に白札が紙屑から紙幣に値を戻し
正堂に預けた白札を見たフウがお城でも買おうかと私に冗談を言い
シジュウに支払いがあるの忘れるなよと私に言われ二人で笑った




