二十二話(え)
「シミン、久しぶり」
「これはレーレンお嬢様」
「やだ、貴方ももう同じ貴族でしょう?」
「ああいや、その名前ばかりの貴族でして、領地も原っぱがひとつあるばかりです」
「勝利の丘でしょう?」
「ええ・・まあ」
「やだ、気にしないで、貴方がそこを望んだわけでも無いのだから。それに兄達の慰霊碑を建ててくれた事も感謝しているわ」
「お兄様方をお救いする事が出来ず」
「貴方が悪いわけでは無いって言ってるじゃ無い。むしろ魔法使いに兄達も兵達も皆殺しにされた丘を貴方が納めてくれてホッとした」
「ありがとうございます」
「だから貴方も貴族でしょう?面白いわね、ほんと昔から変わらない」
「お恥ずかしい」
「聞いたわよ?【百人斬りのシミン】と【仁王立ちのシミン】の話し」
「百人などと大袈裟な!私が百人も倒せていたなら正堂の若者は骸で帰る事もなかった・・」
「正堂は貴方を正人の列に加えるって言ってるじゃない」
「お断りしました、それは姫騎士の如き方がいただくもの」
「姫騎士と言えば、憧れの人に弟子入りできたのね、おめでとう」
「はい!ヒバナ殿のお許しを頂き!この鎧も祝いに頂きました!」
「これ、何でできてるの?あとヒバナって誰?」
「これは失礼しました、姫騎士の恩名はヒバナと申されまして、私の領名もそこから頂きました、それとこの鎧はヒバナ殿の御家族から祝いに頂きました。何か木と金属の間の様なものらしいのですが、私も詳しくは知らぬのです」
「姫騎士に家族が居たの?」
「ええ、お国元に姉上とその家族が」
「やはり姫騎士のようにお強いの?」
「それはわかりませんが姫騎士が仰るには自分が十人居ても百人居ても勝てる気がしないと」
「ねえ」
「何でしょう?」
「姫騎士ふとったってほんと?」
「ふとってなどおりません!母の如き慈愛を纏われたのです!」
「つまり?」
「ふくよかに」
「面白い!」
「ヒバナ殿は私に手ほどきもして下さいます!それはもう熱心に!」
「ひとつ聞いて良い?」
「姫騎士の悪口で無ければ」
「怒らないで、本当に姫騎士が好きなのね」
「愛しています!」
「聞いていて恥ずかしくなるわ」
「で、何でしょう」
「姫騎士も魔法使いだってほんと?」
「答えられません」
「ありがとう、じゃあ見渡す限り焼き払う【炎の魔女】や触れるだけで傷が癒える【慈悲の魔法使い】の正体は姫騎士なのね」
「答えません」
「答えてるわよ?ほんとうに面白いのね、シミン侯は」
「おそろしい・・レーレン嬢、貴女は昔から私を掌でもてあそぶ」
「貴方がわかりやすすぎるだけだと思うわよ?、それじゃあもうひとつ」
「何です?」
「姫騎士と結ばれた若者がいると王都では専らの噂ですが、真相は?」
「なっ!はっ!そっ!誰が!そんな事を!」
「貴方のお父様」
「ちちうぇ」
「残念ね」
「ううぅ、コレでは王都を歩く事もできません、ヒバナ殿と私だけの秘め事でしたのに」
「王都では子供でも知ってるわよ?」
「だからか、だから皆『おめでとうございます、それとおめでとうございます』と二度祝ってくれていたのか」
「私は残念に思います」
「姫騎士の相手が私では、私を昔から知る貴女にすれば残念なのは分かりますが」
「そうではなくて、ほんとうにシミンは面白い」
「?」
「昔約束してくれた事を忘れたのかしら?姫騎士にフラれたらその時は私に支えてくれると約束したでしょう?」
「あー、しましたね、覚えています」
「シミンは私の騎士になるモノと思っていましたのに、乙女の純情を踏みにじられました」
「コレは申し訳ない」
「では詫びとして今日は私の屋敷に泊まりなさい、こんな立ち話では無くゆっくり話したい」
「ああそうですね、では昔話でも、と言ってもイジメられていた事ばかりですが」
「あら?私は私の騎士を鍛えていたつもりでしたのに」
「何とも勿体無い、今の私があるのはレーレン嬢のおかげだったとは」
「感謝なさい」
「ええ、それでは後ほど」
シミンは笑顔で王の元へ向かう
王の誘いを断りに行ったのだろう
本当に昔からシミンは面白い
前しか見ていないから横から話しかければ直ぐにこうなる
それでは私の初恋の人
その調子で私の刃になって下さい
白の屋敷に住む魔法使いスズを貫く刃に




