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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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二十二話(ぬ)

おふくろ様に部屋を追い出され

仕方なく屋敷を出て外界を歩く事にした


汚く何とも救い難い世界だ

スズは貧民街が様変わりしたとよく言うが何が変わったのだ?



アレは二年前だったか?

スズが十五になる年だから二年前だな

確かこの辺りだったか


その日は正堂にスズを迎えに行く途中だったか

フラフラと道を歩いていると悲鳴が聞こえた

まあ私で無ければ聴こえまい

何せ声がしないのだからな


ちょっと寄り道のつもりで声のする方にむかうと、薄暗く汚い部屋の中で数人の男が女に馬乗りになって下半身を晒そうとしていた


「勝手にあがらせてもらった上に勘違いだったら済まんのだがな、大森林の法では強姦の現行犯は確保の為の私刑も許されていてな、一応聞いておきたいのだがそう言う嗜好であるならそう言って欲しいのだ」


跨る男達は私が突然現れたとでも思った様で唖然とバカ面を並べ

女は声なき声で助けて下さいと叫んだ


「ああ、わかったわかった。諸君、やめたまえ彼女は嫌がっている、素直に役人のところに出向き罪を」


男達は人の話の途中で私に小刀の様な物を私に突き立てた

一体こいつらは何がしたいんだ?

私はワンワンだぞ?

ああそうか、此処は大森林では無かったな


私は毛に阻まれた小さな刃物を摘まみ取り、その男の腕にほらと言って突き立ててやった


「人の話は最後まで聞け、それとな、刃物は刺さると痛い、覚えたか?」


その後女を盾にしたり棒のようなものを手にしたり男達はその足りない頭で色々考えた様だが

今思えばあのシャンだったか

あいつは賢かった

石を待って投げて来たのだから

投擲とはどんな相手にも大変有効な手段だからな


私はいつの間にか足元でうずくまる蛮族のオス達に、見つけたのが私でよかったぞ、役人なら今頃牢獄だと言って小屋だか家だか分からない所を後にした

後にしたのだが


「済まんが離してくれないか、歩きづらくてな」


私にすがりつきガタガタと震える蛮族の女

このまま置いていく訳にもいかんし

全く


女はあーとかうーとか唸るばかりで


「済まんが普通に喋ってくれ、私にはそれで」


女は自分の口を指差す


「だから喋ればいいのだ、私にはそれでちゃんと聞こえる」


女は目をパチクリとしそんなバカなと呟いた


「馬鹿とは何だ、助けてやったのだぞ」


〔私の考えていることが分かるのですか⁈〕


「だからそう言った」


〔ありがとうございます〕


「怪しい男や知らん奴にはついていかないことだ、スズにも何時も良く言っている」


〔ありがとうございます、あなたは白の御屋敷の忠犬様ですか?〕


「犬・・では無いのだがな、まあお前らには分かるまい、役人のところに連れて行ってやる」


〔お待ち下さい、私はその役人に・・先程の小屋に連れられ〕


「全く、どこの世にも馬鹿と腐った奴はいると言うことか、なら家へ戻れ」


〔家に居ても私は厄介者です・・だから何か出来ないかと役人に世話を頼んだのですが〕


「春を売る事も立派な仕事ではあるがそれは望んだ事で無ければな。お前、喋れぬのと片耳が聞こえんのだな」


女は驚き方耳を押さえた


「それは隠して来たと言うことか、まあ良い、ついでだ付いて来い、ああ、歩けるか?」


女はハイと答えよちよちと私の後を追って来た


まあどうせ方向は同じだ

私はこの厄介者を蛮族医院へ連れていく事にした

黙ってはいるがこの女先程の男達に怪我をさせられている

正堂とか言うおふくろ様が作り出した機関で、リヨが期限の切れた薬を使って蛮族の治療しているはずだ

大森林で期限の切れた薬を僅かな廃棄費だけで引取りそれをここで蛮族に使い恩を売る

まことにおふくろ様らしい無駄のない事だ


蛮族医院ではシャンだったか、有望な蛮族の娘がリヨにこき使われていた


「よう毛玉、毛生え薬でも欲しいのか?」


「相変わらず口のきき方を知らん奴だ、リヨに用がある」


「一応順番待ちなんだけど、ここ」


「すぐにすむ」


「それでもちょっと待てよ、今の診察が終わったら呼ぶから」


シャンだったかは奥に消えしばらくすると蛮族の親子と入れ違う様に奥に呼ばれた


「これはワンワン様、スズに毟られた毛の相談でしょうか」


ふざけたリヨは私の横でオドオドと周りを見回す女を見てオヤツですか?と首を傾げた


「こんな不味そうなモノ食わんよ」


「分かっていますよ、スズには言いません」


リヨは女の手を取り座れと言って座らせると一目見てああと呟いた


「声は生まれつき、耳は熱が原因ですな、その後放置したのも良くなかった。再生浴をさせれば声も治りますがここでは」


「分かった、怪我を見てくれれば良い」


リヨは女の怪我に薬を塗り、医療用の歯車に耳の手術を命じ麻酔を打った


「うるさそうなので」


「喋れんぞ?」


「私達には聞こえます」


「そうだな」


リヨは昏倒する女を診察台に寝かせ、殺菌と消毒を済ませると青ざめるシャンだったかをよそに女の耳を捌き骨董品の医療器具をそこに埋め込んだ


「聴こえると言うだけです、元通りではありません」


「十分だろう、世話をかけた」


医療用の歯車が傷を塞ぐ

蛮族相手なので随分と雑だ

医療器を埋めた傷も残ったままだ


私は眠る女を担ぐとリヨにあまりスズを甘やかせないでくれと言い

それはあなたが言うセリフではありませんとリヨに笑われ蛮族医院を後にした


正堂でスズを待つ間、途中で渡された不味そうな瓜をかじる

ああ不味い

私は生まれついての浅ましさで恐ろしく不味い物でも出されれば取り敢えず食べてしまう自分を呪った


「これは万能のお犬様。白姫様はまだ少し土いじりを続けるそうで」


また犬かと嘆きたくなるが蛮族には分かるまい


「姫はやめてくれとスズがいつも言っているぞ」


「天地がひっくり返っても姫は姫です」


まあこいつらから見れば《館》と言う大赤字の小領主でしかも未だその予定は未定のスズでも姫みたいなものではあるが、なら私も王とか呼べば良かろうに


「ところでそちらは」


「ああ、あまり美味くないので残した」


「いえ・・ああ・・そうなのかもしれませんが、お連れ様なのかと」


「ん、ああこっちか、ちょうど良い、お前に聞きたいことがある」


「万能の方を前に私でお答えできる事ならば」


「お前は正堂の尼だな、その長だったか」


「長は救済院長様です、正堂の長は私ですが」


「御託はいい、目が見えぬ者耳が聞こえぬ者声が出ぬ者手足のかけた者身体を自由に動かせぬ者、これらは何のために生まれた」


「それを乗り越えるために」


「それだけか?」


「恥ずかしながら」


「ふむそれも正しい、だが私がおふくろ様に授かった知恵で我が問いに答えるならば、それはそれらが満足なものは足りぬものを助けるために在るからだ、アレらが足りぬのではなく我らが与えられているのだ、私から見ればお前達などからしてあれも足りぬしこれも足りぬ、しかし私は私に授けられたものでそれを持たぬ者の踏台になるためのものと弁えている」


「己が怠慢を恥じる御言葉です」


「私はコレを今日ここに置いて帰る、私からは何も言わん、これの目が覚めたのち全てはお前が考えお前が決めろ」


「至らぬ私達に機会を与えて下さった事を感謝いたします」


「ああそれとこれはお前に言うことではないのだがな、不埒者の類を闊歩させる様ではいかんな」


「御言葉肝に命じます」


私がうむと答えるとそこに鍬を引きずるスズが現れ遊んでいるなら開墾を手伝えと土いじりの手伝いをさせられ泥だらけにさせられてしまった


うむ

ろくな思い出ではないな


ふらふらと歩き、側ばかり大きくなった正堂を見上げ鼻で笑う

何故かいつの間にか私を取り囲んでいた蛮族の子供達がそれの真似をする


「私はしは忙しいのだ、お前達は家に帰れ」


蛮族の子供達は私の言葉を聞き鸚鵡返しをして喜び騒ぐ

ついた溜息まで真似をされ仕方なく門前の店で不味そうな菓子を買い与え追い払う

コレならば刃物でも持った輩の方が余程楽だ


正堂の中を歩き見て回る

とくに気を引くものはないがまあ時間つぶしだ


途中、スズの叔父に声を掛けられ、あなたを打つ鞭を作れとスズに言われてしまったと聞き頭を抱え

なるべくゆっくり作ってくれ、アレが飽きて忘れるくらいと答え二人苦笑いをしてしまう

そんな姿を正堂隊とか言う棒を持っただけのガキが神妙な面持ちでこちらを見ており

まあ頼んだとスズの叔父と別れた


あいつらが棒を持って歩くだけでいくらかでも治安の類が良くなっているのだからまあそれで良いのだろう

奴らの印が犬なのが気になるが


竹をせっせと狩る男にそれを機械で砕く子供

あんな物竃に焼べて薪がわりかと呆れてしまう

まあ足りぬのだから仕方がないな

せいぜいその油分に苦しんでくれ

汚れるのはお前達だ


突然袖を引かれまた子供かとうんざりすると、そこには正堂女見習いの服を着た女が男を連れて立っていた

これは誰だったかと思うが一々蛮族の顔など覚える事もなく、何か用かと声を掛けた

赤い帯を結び首から笛を下げ肩から板を抱えるその姿

何だったか

ああスズに赤い帯を見たら手助けしてやれと言われたことがあったな

不具者か


「何か困っているのか?」


〔やっとお会いできました〕


「すまんが私に覚えは無い、私はお前達の見分けがつかん」


〔構いません、いつか御礼を申し上げたいとずっと想っていたのです〕


「『想う』が間違っているぞ、『思う』だ」


〔いえ、はい、貴方様にとってはそうなのでしょう〕


「良くわからんが、暇ではあるがお前達に興味があるわけでは無いのだ、手助けが欲しいのなら言ってくれ」


〔ではどうか私達の仕事場をご覧になってください、それだけで私達には大変な励みになります〕


「構わんが見るだけならスズにでも頼め、アレは何かを眺めるのが大好きだ」


〔貴方様でなければ〕


「そうか、まあいい、では案内してくれ」


〔はい!〕


口の聞けぬ女は肩から下がる板に文字を書き同じ様に赤い帯をした男に見せ

それを見た男は笛を吹きながら走りだした


「わからんでも無いが騒がしいな」


〔貴方のその声をこの耳で聞くことが出来ました〕


何のことやらと思い女を見ると耳の辺りに傷跡が見えた

怪我でもしたのか?


女に連れられ戸に正堂隊が立つ建物に入ると中では不具者達がスズ札の仕分けをせっせと行なっていた

擦り切れたものや古くなったものなどを選別し束にしては選り分けている

まあコレならば不具者でも問題ない仕事だ

まあ働くのは良い事だ

自慢したくもなるだろう


私が見回すと、先程の男が光石の入った箱を開け閉めしたり長椅子を叩いて回ったりして作業を止めさせた


「なんだ、選り分けたボロ札を屋敷に運んで欲しいのか?新札との交換の時では間に合わんのならば構わんぞ」


目の見えぬものも含め皆が私に注目する


〔ここは私達の城です、貴方様が下さいました。再びこうやってお会いできるその日を想い続けて参りました。正堂長のお許しは頂いております、どうかこの城に貴方様よりお名前を頂きたい〕


「ああ、職場に名前をつけろと言うのだな、ここがお前達の城なのだろう?ならば我城とでも名乗っておけ」


私の言葉を聞き誰かが【我城!】と叫び別の誰かが【我城】と文字を書いて皆に見せた


声やそうでないもので酷くうるさいその場を見渡す

何故こいつらは騒いでいるのだ?


私は腕を引かれ入り口に戻されると、女はそこに立つ正堂隊を退かせここに名を彫ってくれと私の手を握った


「全く、爪が汚れる」


私はボヤきながら【我城】と掘り、しまったと思う

ついうっかり大森林の文字で彫ってしまった

女は私の彫った文字を撫で、コレでようやく出来上がりましたと涙を浮かべている

今更書き直させろとも言えんし

まあ良いだろう、固文字混じりだ

どうせ何も分かるまい


「コレでいいか?私は暇だが忙しい。用が済んだのなら散歩に戻らせてもらう」


〔では最後に一つだけ〕


「ああ」


〔万能の方、お慕い申し上げております〕


「ああ、すまんな、私は毛無に興味はないのだ。それに前妻と死に別れてまだ六十万年しか経っていない、あと四十万年は妻を娶る気はないのでな、諦めてくれ」


〔はい、戯れ言と流して下さい。この想いを伝えられただけで私は満足です〕


「ああ、それではな」


女はいつ迄も私を見送り

その横に立つ男は複雑な顔でそれを見ていた


さて、そろそろ戻ろうかと足を向けると銀輪に乗ったスズがこちらにやって来た


「お使いか」


“ええ、シジュウ様に頼まれて”


まあそのおふくろ様がお前の後ろに居るのだが

それは言わん約束だしな


“コレを私の手で正堂長に渡せと”


スズに出向かせ渡させるのだから何か面白いものなのだろう


“それとワンワン”


「なんだ?」


“さっきそこで落書きを見ました”


「そうか」


“固文字なんて古臭いモノを使うイタズラ者が居るようです”


「待て!違うぞ!」


“往生際がわるい!”


「アレは頼まれてやったのだ!」


“本当に?”


「私は嘘は言わん!」


“この間ゲジゲジが居ると私を騙しました”


「嘘と冗談は別物であろうが!」


“で、何なのです?あの落書きは”


「私もよくはわからんが、大まかに話せば私はモテると言う話だ」


私の話を聞いたスズは酷く蔑んだ顔をし

その後ろに立つおふくろ様は残念な子を見る顔をされる


「分かった、スズ、私の一番最初の妻の話から順にしてやる」


“長そうなので”


スズは銀輪で走り去ると

おふくろ様もその後に続く


大森林では幼子が読む絵本にすら描かれる私が妹とは言え毛無にこの様な扱いを受けるとは

まだまだ私は道半ばと言うことか


私は頭の上に置かれた一輪の花を摘む

先の子供達が私に差して行ったものだ

そう言えばあの蛮族の幼子も私の嫁になるとか言っていたな


うむ、やはりモテるではないか


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