二十二話
白姫の凱旋は熱狂的な歓迎で迎えられた
地を埋め尽くす竜の群れに空を埋め尽くす天使
出迎いに現れた領主はそれを見て腰を抜かさんばかり
街の門の手前で竜達は冥府へ帰り天使は天に戻る
正堂を騙る者達がそれを見てこれぞ正しい方の御業だと声高に叫び
邪宗は地に落ちた正堂が唯一の道だと声を張った
私達と言えば
降伏を許され、兵は国許へ、私と数名の者が虜囚としてレーダと呼ばれる魔法使いの街へと引っ立てられた
などと言えば何やらカッコがつくのだが
魔法使いスズ嬢に、腰の物を捨てたのちに街へ招待を受けたのだ
勿論断れるはずもなく晒し者にされる覚悟もしたのだが
全く拍子抜けだ
街のものにアレがドゥクディモかと言われはしたが石持って出迎えられることもなく
白姫凱旋の添え物にされた程度だった
白姫は主人に凱旋の報告があると屋敷に向かい
私達は領主邸に預けられた
領主はご自由にとは申せませんが、何なりとお申し付けください、それと外出は白姫様のお許しが頂けるまでは御遠慮をとにこやかなもので
あてがわれた客室もまあ田舎貴族にしては上々かと言えるもので
その夜、酒も振舞われそれがまた美味かった
日が開けると領主に少し付き合ってほしいと言われ、正堂を名乗るもの達に先日の戦と言うには余りにも浮世離れをしたお伽話の様な話をせがまれた
正堂の記録係や尼達は冥府の竜や天使の話を聞き目を輝かせ
何をしても傷一つつけられぬゴーレムや人を縊り殺す事が生きがいの様な肌の浅黒いエルフの話を食い入る様に聞き、それを書き留める
「真金様や白姫様のご活躍は?」
記録係は興奮した声でまくし立てる
「白姫は」
「様をおつけなさい!」
記録係の横に座る尼が私を金切声で叱り、これは失礼と笑ってみせる
「白姫様はゴーレムの腕に乗り涼しげな顔でこちらへいらっしゃり、私共が仕掛けた罠や騎士達の攻め手もまるでそよ風の様に、ああそうでした、コレならばと放った火球砲が全て姫様の手前で砕け散りましたぞ、あれを見てこれはいけないと思いました」
記録係はふむふむと頷きその様子をもっと詳しくと聞き
尼は、それでは真金様はと聞いた
「真金様とやらはどなたかな?」
私の返答を聞き尼は御屋敷の魔法使いです、黒装束のお方が白姫様のお側に付き従っていたでしょうとしかるような口ぶり
「ああいましたな、黒装束に黒仮面の、双子なのでしょうか、4本腕の恐ろしく腕の立つ強者でした」
記録係と尼が4本腕?と顔を見合わせる
「腕が4本に見えるほどと言うことですか?」
「いやいや、4本の腕にそれぞれ棒を持ち此方の兵も賢人も滅多打ちにされました、何やら魔法のような術も使っていましたがそれより何よりあの体術と腕に驚かされました」
記録係は尼に伺いを立て、コレはいいと言われ書き取った文章から4本腕の文字を消していた
「此方からもひとつお伺いしたいのだが」
「お答えできる事なら」
「それでは、あの白姫様に付き添っていた獣人は一体何者なのでしょう、私が見る限りでは矢も火球も何もかもあの獣人より先へは届きませんでした。白姫様と言うよりはあの獣人が魔法か何かを使っているように思えましたが」
尼と記録係は笑う、あれは獣人ではなく姫様がお国で飼っていらっしゃった犬でそれを国許からお連れになったのだと
それが証拠にあの犬は喋るし躾もなっている、人など襲うこともない
獣人を思い出しなさい
しゃべりますか?
立って歩きはするでしょうが服は着ていないでしょう
だいいち白姫様や真金様の言うことをよく聞き、一度として一人として迷惑を受けたと言うものもいません
私達はアレを姫様に習いワンワン様と呼んでいます
多少の魔法は使うでしょう
あなたは白姫様のお側に付き従うワンワン様をみて恐怖のあまりそのように見えてしまっただけでしょうね
私はそうですなと笑う
バカな尼め
戦さ場でそんな見間違いなどするものかとはおくびにも出さない
「今日は有難うございます、そうそう、先程姫騎士様もイッディモ征伐より戻られ、王都よりの使者もあったとの事。次は戦勝祝いの席でお会いしましょう」
「それは是非、それとイッディモ公については今の御言葉に感謝いたしますがダリトゥディモ公は」
尼はああと言うとそちらへ向かった御屋敷のゴーレム達ももう戻っていますよと笑う
「それは有難う」
「いえ、それでは」
成る程、三公と呼ばれた男は私一人となったわけか
それから何度か尋問めいた事は受けたが、私も共の者も特に何かされるでもなく十日ほどを領主の館で酒を飲んで過ごし
そして十一日め
戦勝の祝いが迎賓館で行われると言われ、私達もそこに向かうことになった
これはいよいよ晒し者になる日が来たかと覚悟を決め
自分と共の身代金を思い、そら寒い思いをした
領主の馬車で連れられた館は、大きさはそれほどではないが作りは立派で
受付の小娘が生意気ではあったが館の庭を闊歩するゴーレムをみて、あそこで降らねばコレが国許へなだれ込んでいたのかと血の気が引いた
「これはこれはドゥクディモ公では無いか」
車寄で声をかけた主を見て驚く
「これはハンディ王」
ハンディは戦場で会って以来ですね、ようこそ我が国へ、歓迎しますよと笑う
いやいや、何せ私の頼もしい貴族諸君は今イッディモ公の城を取り囲んでいて此処へは来れないのでね、私一人かと不安だったもので、見知った顔を見て安心したよと笑う
此方もですよと笑顔で返し、それではと館へと足を踏み入れた
館の中は天井全てが光石なのかと驚くほどの明るさ
そして心地よい涼しさ
コレが魔法かと思わず唸る
それをみたハンディ王も私も驚きましたよと愉快そうに笑う
透明なゴーレムの案内で広間に通されるとそこは中々に面白い所で
見覚えのある尼や領主
椅子に腰掛ける怪我人と思しき男達
忙しげに走り回る下女とそれに付きまとう若い騎士
それで恥ずかしく無いのかと首を捻る格好ですでに出来上がっているエルフ
そしてその中には先日戦さ場で見た褐色の肌をした彼女の姿も
それを取り囲む正装のエルフ達とそれを遠巻きに眺めるゴブリン
やあ同胞諸君とハンディ王は笑顔でゴブリンに話しかける
全くここはなんなのだ
惚けるように眺めると奇妙な服を着たゴブリンがこちらにやってきた
「そちらのへいはぶじにくにへかえした、つぎはない」
は?
ゴブリンが喋る?
唖然とする私にハンディ王が耳打ちする
「声石と言う魔道具らしいですよ」
私は魔法使いは万能かと笑う
そこへ扉を開き正装を着こなした獣人が入り皆の前に立った
「この度はご苦労、これより《館》次代の祝いの席となる、控えよ」
その声に会場の皆が姿勢を正す
それに合わせるように六人の女中を引き連れた白姫が現れ皆の前に立った
立ったのだが急に踵を返し戸に戻ると一組の男女を引きずり中に連れ込み、出来上がったエルフの横に立たせてから改めて皆の前に立った
「この度は私の拙い初陣を皆様が祝ってくださるとのこと、感謝します」
姫の言葉に皆が深々と頭を下げ
それを受け姫は。では楽しみましょうと
その言葉に合わせるように酒や料理を持った透明なゴーレムが雪崩れ込む
姫はひとりひとりに声をかけ
笑ったり怒ったりしながら楽しげに回る
なぜか酒を飲み始めた下女にも声をかけ、怪我人と思しき男達にも同じように声をかけていた
そして白姫は私の前に立つと笑顔でお久しぶりですと言い
次の一言で我が耳を疑った
こちらにはいつ迄いらっしゃるのですか?
彼女はそう口にしたのだ
虜囚のこの身に何をと思うが、次はハンディ王が口を開いた
イッディモとダリトゥディモの事が落ち着けば直ぐにでもご帰国させて差し上げられるのですが、何とも申し訳ないと
あとひと月とかかりはせんと思いますがどうかご辛抱をと
白姫は二人は御友人で?と言い
ハンディ王は剣を交えれば心も通うものですと笑った
白姫はまあ羨ましいと笑い
それでは楽しんでくださいと言って純白のドレスをひるがえし獣人の横に戻った
「さて、身代金の話でも有るのかと思っていました」
「祝いの席ですよ?」
ハンディ王は愉快そうに笑う
「貴方は白姫様初陣のお相手を任されその大役を果たしたのだ、来賓として楽しみたまえ」
「降ったのですがね」
「ダリトゥディモの諸君は降ることも許されなかったそうですよ」
「何とも」
「冥界と天界の者を使役した魔法使いが満足したと言うのですから、お気になさるな」
「そうかもしれませんな」
「それに公は青い石に惑わされ操られていたのだ、そうだろう?」
「そうですな」
「そうですとも、そうなのです、そうでなければ貴方の国も明日からは更地だ」
「恐ろしい」
「青石が?」
「ええ」
「こんな所で何ですが、我が国の一部になりませんか?今なら国王に次ぐ大領主ドゥクディモ公の地位もお約束しますよ」
「私の国はどうなります?」
「もちろん貴方の領国は貴方のものだ、もしよろしければイッディモかダリトゥディモの焼け野原もお分けします?私の賴き貴族諸君は皆遠慮深く今の土地で十分だそうなので」
「いやいや、焼け野原は貴方にこそ相応しい。それで私は貴方を何とお呼びすれば?」
「今まで通り王と、私は貴方を親しみを込めてドゥクディモと呼びましょう」
「それでは我が王、私に明日を授けて下さい」
「ええ、それではこちらへ」
ハンディ王は私を伴い酒を飲む下女の所へ向かう
何の冗談かなと思うが王の言葉に耳を疑った
「こちらはヒバナ殿、ドゥクディモ公には姫騎士といった方が馴染みが有るかと思う」
目の前の体格の良い下女が王国の剣と言われ幾度も苦渋を舐めさせられたあの姫騎士だと言うのか
下女は嫌そうにどうもと一言だけ喋る
「中々に愉快な人なのだよ」
王は笑うと今度はその横で姫騎士にへばりつく様に座る若者を紹介した
「彼は四剣最強の男ケシミの息子シミン君だ、君と同じ私の頼れる貴族の一員だよ」
シミンと紹介された若者は目を白黒させ飛び上がる
「お・王!私はただの騎士で!」
「たった今から貴族だよ、先の戦での見事な働きは三大貴族に勝るからね、取り敢えずの領地はほんのすこしだが許してくれ、領名は何にするね?」
「それならば、それならば!『ヒバナ』で!」
「ああ、ヒバナ侯」
「侯⁈何かのお間違いでは⁈男爵ではなく⁉︎いきなり侯爵⁈」
「三大貴族に勝ると言っておいて彼らと同じ侯爵で申し訳ない、用意する領地もすずめの涙だ、すまないね」
「その!私にくださる所は遠いのでしょうか⁈ここから私は離れたくないのです!」
「ああ、覚えておこうヒバナ侯」
若者はありがとうございますと言いかけた所で姫騎士に死ねと殴り飛ばされ幸せそうな顔で昏倒した
次はこの街の領主に私を紹介する
彼と盛んに取引などをしてやってくれと言い
ついでですまんが街と領地の端っこを彼に少しだけわけてやってくれと姫騎士に今にも踏み潰されそうな新貴族を指差し、領主は分かりましたと苦笑いした
王は、すまんね、そのぶんは倍にして別の領地を用意するよと笑い、次は尼のもとに向かった
この度の戦で彼は聖堂の愚かさと青石のまやかしに気付き救いを求めてまいりましたと
尼はそれは正しいと満足げに笑い
貴方もこれで救われますと偉そうにぬかした
次に紹介された一組の男女
見事なドレスに着られている様に感じる女は何処か言葉がおかしく、私は首を捻る
王はシャン嬢は白姫様の御友人で、城でも国でも欲しい物をやると此方の御屋敷の方に何度も言われているのだが頑なに首を縦に振らんのだよと笑った
少し離れた所に移り、アレはただの街娘だ
ただしアレに何かあれば国が更地になるではすまんぞ
白姫様にとっては私なぞ名も覚えて頂けていないからなと脅す様に耳打ちされた
王はその後も幾人かと話す
街の商人達やゴブリン
そしてエルフ
全く可笑しくなる
王国は確かに大国では有るがヒトの国ではなかったか?
まあいいさ
今日からは私の国が
私の領地が最前線だ
集まった魔法使いの手先達の中に少しでも既知のものを増やすかとハンディ王に付いてヘラヘラと愛想を振りまいていると王は再び白姫のもとに向かった
白姫は何故か尼が抱える赤子に指を握らせ、町娘の様にきゃあきゃあと笑う
姫様、正堂長、少しお話が御座いましてと王は話し掛け
「いくさいくさで少し疲れまして、暫くは息子と従兄弟殿に政を任せ此方で骨休めでもと思いまして、大変図々しい事と思うのですが正堂の一画に小さな屋敷でも建てさせては頂けないでしょうか」
白姫は考える様子もなく、良いのではと答え、尼は騒がしい所で良ければと笑った
「ありがとうございます」
王は朗らかに笑う
恐ろしい事だ
聖堂相手の戦はまだまだこれからも続く
王は王都の他に難攻不落の要塞にして億万の軍勢の後ろ盾まで手に入れようと言うわけだ
呆れる私を見て王はなに君は少し先、聖堂までの道を貸してくれればいいよ
レーレンの様にと笑う
いつも私をいじめる三公国とも仲良くなれた事だ
その先にある聖堂とそれを取り巻く聖国家公国諸君ともなれるだろう
ああ、公はなるべく早く領地に帰れる様手配するから、そしたらなるべく多くの銅貨を用意する事をお勧めするよと仰り
私はハンディ王に深々と頭を下げて見せた




