二十一話
嗚呼懐かしの我が王都
民は熱狂で王の帰還を讃え
兵は勝利を収めた王家の旗を振る
私の脇を固めるのは賴き四剣がひとりケシミ率いるフッツと正堂隊の混成軍
「いや、コレは素晴らしい」
私の言葉を聞き従兄弟殿は溜息を漏らす
「ひとつ間違えば瓦礫の街に凱旋も有り得ました」
「いやいや、従兄弟殿があればこそだ。私は瓦礫の街に凱旋する心算もしていたのだよ?」
従兄弟殿はまたひとつ溜息を漏らす
我が領国へ足を踏み入れた三公国のひとつイッディモは今や国境の砦まで退き、我が貴族諸君の群勢に取り囲まれ
領内に雪崩れ込まれるのも時間の問題となっている
私の激励を受けた貴族諸君はイッディモを討ち倒さんと涙ぐましくも必死の働きを見せてくれる
従兄弟殿は私の激励の言葉をなんと悪趣味なと言って楽しそうに笑っていたが
馳せ参じてくれた貴族諸君、皆には感謝したい。この戦が終われば諸君には新たな屋敷と豊かな領地をと思うと伝えただけなのに
まあその新しい豊かな領地は何処だとは言わなかったが、貴族諸君は顔を真っ青にしてタダ働きをさせてくれと口々に申し出てくれた
私はイッディモの地も悪いものではないと思うが
それにしても、殊勲賞たる姫騎士の姿がここに無いのは返す返すも残念だ
何度も王都への同道を願ったのだが
行きたく無いし会いたく無いと断られてしまった
まぁ良い
姫騎士があの街に居てくれるのならばそれで十分だ
「ところで従兄弟殿、明日から息子に使えてくれんか」
「今度は何を?帝国への道はまだ始まった所では?」
「いやなに、先日訪れたレーダの街がいたく気に入ってな」
従兄弟殿は、ああと呟く
「きっと私が思うより帝国への道は太く短いのでしょうね」
王都への同道など冗談じゃない
そんなのはケシミに任せとけば良い
あいつだって四剣とか言う有名人なのだからそれで十分だろう
井戸を見つけここらで休むかと馬車の車列を止めた
イッディモ軍の残りカスから巻き上げた馬車や荷車
其処には怪我人達が戦利品のかわりに乗せられていた
街道を使い街へ戻る事は危険だと宰相や王国の騎士達から言われたが
昼は私が夜は彼らが居ると言って私が草むらを指差すと宰相や騎士達は首を捻って居たが、ケシミがそれもそうですなと笑い、この中に昼は姫騎士に闇夜でゴブリンに敵うものはいるかと言って楽しそうに笑っていた
途中見かけた村も襲われた様子はない
コレはイッディモの残党は随分辛い目にあっていると見える
森は使えず
夜道は狩場のうさぎの心持
昼間は貴族達が血眼になって残党狩り
逃げるのに精一杯で村を襲う余裕も無い
まあ知った事じゃないけど
「なにをなさっているのです?」
汲んで来させた水を大樹の枝でよくかき混ぜるのをシミンの坊やがあほヅラで覗き込む
「良いからお前も怪我人の手当てを手伝ってきて」
坊やはハイと嬉しそうに返事をすると桶の水で絞った布を抱えて馬車へ駆けて行った
良いかなあ
良いのかなぁ
まぁこれくらいなら良いかなあと軽い気持ちで大樹の枝を使い正堂のガキ共や領兵の怪我を見てやった
奴らは姫騎士の魔法だとか言って驚いていたけど、とりあえずその姫騎士って言うのをやめないともう一度怪我する羽目になるぞと言って怪我人達を黙らせた
そりゃあね効くでしょうよ
大樹の枝を使えば
別に私はなりたくないけど、この枝のかけらでも飲み込めば不老位にはなれるんだから
それをやった奴らの末裔がエルフな訳だし
大樹の枝の力を入れた水で傷を拭われた奴らは、出血が治り痛みが和らぐ
後はお前らで勝手にやれって感じで任せ、私は犬達とおやつの時間
「ヒバナ殿もお顔を拭われては」
いつの間に戻ってきたのか
シミンの坊やが立っていた
「帰ったらね、この子達も洗ってあげなきゃ」
私は灰まみれ
犬達は血塗れ
ああ早くお風呂に入りたい
「なに?」
シミンの坊やは何かを期待する目で此方を見ていて
「はい!まだ私の傷の手当てが!」
「自分でやりなさい」
「ヒバナ殿!」
なぜ泣く!
全くこのガキは
私が手拭いを受け取ると、坊やは喜んで服を脱ぎ傷をさらした
「ヒバナ殿のお陰でこの命救われました」
坊やは私に傷を拭わせながら大げさなことを言う
「何度も言うけどこんなんで死なないからね」
「いえその事ではなく槍のことです」
ああ、そっちか
姉さんに、必死に揉み消したのに今更持って帰ってくるなと言われ処分に困って送りつけただけなんだけどね
「この戦が終わればお返しせねば」
「ああ、しばらく預かっておいて」
「まだまだ戦は終わらぬと言うことでしょうか」
「いや、それは知らんけど」
「では?はっ!もしや私を男と認めて!」
「いやそれは無いから」
「ヒバナ殿ぉ」
「必要があれば取りに行く、それまでお前が使えばいい」
「それはつまり私を末長くお側にと言う意味ですね!」
「違うから」
「お任せ下さい!不肖シミン!この命果てるまでお側にとこの指輪に誓いました!」
「何だっけ?その指輪」
「姫騎士ぃ!」
その後もあまりにうるさい坊やの傷をひっぱたいて追い払い車列を進める
一刻も早くお風呂に入って美味しいもの食べて自分の部屋で寝たいんだから
「ところでヒバナ殿」
こいつも懲りない
「ヒバナ殿が不思議な術を使う事は知っていましたが、全てを飲み込むような炎やこの様に傷を癒す力をお持ちとは知りませんでした」
「ん、ああ。元魔法使いだからね」
「白姫様やシジュウ様の様にですか?」
「スズさんは別に魔法使いじゃ無いと思うけど、それとシジュウ様はもっと恐ろしい方よ」
「はあ」
分かってないんだろうなぁ
こいつ
「それでヒバナ殿は魔法使いなのでお年を召さないのですか?」
「まあそれはそうだね、私の中の魔法使いのカケラが無くなれば普通に年老いて死ねると思うけど」
シミンの坊やはそれは?と首を捻る
「私が魔力を使い切れば普通の人間として死ねるって事」
シミンの坊やは驚き目を剥いた
そんな驚くことか?
「今の私の願いは普通の村娘に戻り年老いて家族に見送られる事」
故郷で姉の一家に看取られ墓の下へ向かう事
私より先に死ぬなんてと姉に小言を言われながらなら最高だ
「いけません!」
突然坊やが大声をあげたのでびっくりする
「私が至らぬばかりに!どうかどうか私をお許し下さい!今の千倍!いや億倍強くなってみせます!ですからどうかそれ以上お力を使わないで下さい」
坊やは突然泣き出し私の手を取り大声を上げ
何事かと怪我人達がこちらを覗く
「いつか必ず王国一の!いや!天下一の騎士になってみせます!ですからどうかその様な事は仰らないで下さい」
本当に何なんだこいつは
私はシミンの坊やの頭をはたき、この力がそんな簡単に果てるのなら世話ないと蹴り飛ばした
「ああもう早くお風呂に入りたい!蛮族館で良いから早く寝たい!お酒飲みたい!」
「お供いたします!」
「何処へ供をするって?あと言っとくけど御屋敷で怪我人がお酒飲んだら死刑だから」
「茶で!それと」
「それと?」
「『蛮族館』とは?」
「それは忘れろ」
「はあ」
「あとこの際だから言っとくけど私二千歳超えてるから、ババアだから」
「私の瞳にはいつでも可憐な少女の如きお姿に」
「それと私体温バカ高いからね、血液とかお前らだったら沸騰して死んでる温度だから」
「はい!ヒバナ殿の抱きしめた肌は燃えるように、痛い!」
「お前ここで死ね」
怪我人達は呆れた様に首を引っ込め
私は溜息を漏らす
何としても今日中にお屋敷に戻ろう
このまま夜を迎えることだけは御免だ




