十九話
「ダリトゥディモだったか?」
「よく覚えているな」
私の問いにセンは感心した様に答える
「私が斬る愚か者の名だからな、覚えておこうと思って」
「お前が斬るのか?」
「横取りはするなよ」
「しないよ【さむらい】」
「頼むぞ【血煙】」
私達はお互いを二つ名で呼びコレが戦であることを確かめた
「で、テイ、策は?」
「力攻めで行こうかと」
センはそうだろうなと頷く
私がシジュウ様から預かったさむらいの歯車だけで四十体
センが率いるゲテモノ軍団を足せば六十体だ
わずか数万の蛮族相手にあれこれするのも可哀想だ
それにしてもと御屋敷を出てから一度も蛮族に出くわさん事を私は愚痴る
「ゴブリン達が張り切って掃除をしている様だな」
センはそう答えると仕方のない奴らだと笑う
「ゴブリンは律儀で勤勉だ、鬼姫の言葉も効いている」
「お前、鬼姫と仲が悪いのだろう?」
「悪いがそれとこれは別だろう」
鬼姫とは何かと反りが合わない
お互いのグループも仲が悪く
私をみると自分がエルフに生まれていれば盾の一人は違っていたのにねなどと私に聞こえる様に言って回る様な女だ
腹の立つことだが奴は優秀だ
その血筋も本物
その力も本物
頭もキレる
奴はそれを生かし政の世界を目指している
その点では脳味噌が干からびて久しいエルフ王とは比べ物にならん
そして私が奴のことで何より気に食わんのがあいつの血筋だ
悪魔将軍六騎が一人【鉄輪】の系譜なのだ
その鬼姫の言葉を受けたゴブリン達は励みに励み、街や御屋敷に尽くしている
全く腹がたつ
「おかげで旅の楽しみも半分だな」
私の顔を見たセンはそう言ってにが笑う
「砦が囲まれているのだろう?」
私は気を取り直しセンに言う
「そこに押し込めてやるか?」
「いや、味方とは言わんが砦はな、それはよそう」
私は見分けがつくかなと笑った
日頃から備えているだけあって砦の守りは堅い
寡兵を持って良く戦う
敵ながら見事だ
しかしこちらも国元からそう離れてはおらず、この砦を囮に魔法使いの軍勢をおびき寄せ叩く
その手筈だ
その隙をついてドゥクディモのやつらがレーダとか言う魔法使いに乗っ取られた街を攻め滅ぼす
王国の主だった貴族達は動かん
王家は王都に釘付け
勝った後には王家の所領を切り取り次第
それは良いのだが
他家との連絡が昨日からつかない
狼煙すら何処かで途切れる
出す物見はことごとく行方をくらまし僅かに帰ってきたものは日が暮れればそこら中から湧いて出て来たゴブリンが襲い森に近づけば射殺されると口を揃える
ゴブリンやエルフなど力押しでどうにでもなるのだが
今はその余裕がない
間も無く日暮れだ
今日の城攻めもここまでか
ん?
あれはなんだ?
火の玉が次々と空に昇って行く
その火の玉が空で破裂し空を舞う我が竜兵を巻き込んだ
「良いのか?」
「いいぞ、始めてくれ」
センは引き連れた歯車の一体を使い空を舞う目障りなトカゲの掃除を始めさせた
見る間にトカゲ達は姿を消す
「それでは始めよう【血煙】」
「それでは日の出まで競争だ【さむらい】」
私達はその言葉を皮切りに駆け出し、それに歯車が続く
フサに跨り突き進む私は一人呟いた
「悪魔将軍テイ見参」
火球が打ち上がった方に兵を向け陣を構える
しばらくするとその方角に小勢が見えた
小勢は二手に分かれこちらへ向かっている
一つは見たこともない生き物に跨りおかしな格好の戦士を引き連れた女だ
もう一方は恐ろしげな大蜥蜴の上に立つ子供とそれが率いる異形の軍団
「賢人!火炎砲!ゴーレムは大蜥蜴を!騎馬もそれに続け!弓引け!」
矢継ぎ早の命令
おかしな格好の戦士達は少数、こちらの兵達であしらえるだろう
警戒すべきはあの大蜥蜴だ
異形の軍団は瞬く間に迫り
火炎砲は弾かれ
ゴーレムは木っ端の如く
騎馬は踏み潰され
弓兵と賢人は焼き殺される
何という事だ
再び控える弓兵に弓を引かせようとした時
誰かが私の肩を叩く
なんだこの忙しい時にと振り返ると、私の肩からぼとりと誰かの腕が落ちた
そして私の視線の先には津波の様に何もかもを切り刻み突き進む先程無視を決めた戦士の集団が駆け抜けていく
奴らが通った後には身体が四つや六つに刻まれどれが誰だかわからぬ死体が転がっている
「そんな馬鹿な」
惚ける私は先程まであれ程警戒していた大蜥蜴に丸呑みにされた
地から火球が昇り天で弾け目障りなダリトゥディモ竜兵は消し飛んだ
しばらくすると白い旗を掲げた小勢がこちらへ向かってくるのが見える
噂の白姫様の手下だろうか
あの姫騎士もそのひとりだったと聞く
近づく小勢は二手に分かれダリトゥディモに襲いかかった
魔獣と異形のゴーレムを引き連れた一団は悪夢の様な光景を作り出し
不思議な格好の戦士を引き連れた巨獣に乗った女の軍団は手当たり次第斬り裂いた
「打って出るぞ!開門!開門!」
日が暮れる中、砦に号令が響く
砦に閉じこもっていた我々は、魔法使いが来たぞと興奮し皆の目が血走る
重く閉ざされた門扉が上がるとそこには先程狭間から見た巨獣に乗った戦士が不思議な反りの入ったサーベルをこちらに突き立て、私達を見て声を上げた
「手出し無用!此方はあれもこれも区別できん!日が昇るまでそこで見ておれ!」
声で戦士は若い女と分かった
よく見れば見たこともない鎧の下は一枚羽織っただけの半裸の様で
またがる巨獣は馬が猫に見える程大きく
恐ろしげな角を持ち鎧に覆われた様な体をしている
「寡兵とお見受けする!合力を申し出たい!」
此方の大将が声を上げる
「皆殺しの支度で来た!手出しは無用!」
女は翻ると巨獣を操り次の敵を求め震えながら槍を構えるダリトゥディモの一団へと戦士達を引き連れ駆け出し、それを埃のように消し飛ばす
後には肉塊と血煙しか残らない
「巻きこまれたくなくば朝まで待て!」
私達は冷や汗を流し頷くと
次の獲物を求め駆け出した一団を見送った
アレでは身代金も取れませんね
誰かが肉塊を見て力なく笑う声が聞こえた
まだ千人も斬っていまい
うん
次はあの大きな集団にするか
センは?
ああ、派手にやっている
燃やして潰して楽しそうに
そういう歯車を選んで借りて来たのだからまあ楽しかろうなぁ
それは此方もか
ああ笑いが止まらん
各隊を文字通り消し飛ばす巨獣に跨る女に率いられる戦士達
奴らが上げる白い旗が恐ろしげに揺れる
此処を本陣と知ってだろうか
奴らは手前で止まり
巨獣に跨った女は笑い声を上げている
若きダリトゥディモ公は笑い声に向け火球砲の一斉射を命じる
これを受ければたとえ相手がゴーレムでもひとたまりもない
一列に並んだ攻城用の火球砲が女の率いる戦士達へと火を吹く
そして我らは目を疑った
女も戦士達も
襲いかかった火球をまるで木の葉のようにはたき落したのだ
「構えろ!」
若きダリトゥディモ公は声を張り上げ分厚い鎧と盾を持ち巨大な剣を構える一団を前に押し出す
ダリトゥディモ公が心血を注いだ重装騎士団
それこそ火球砲の雨の中を突き進む選りすぐりの強者達だ
女は重装騎士団を見ると己の率いる戦士達を押し留め
単騎巨獣でかけて来る
そしてダリトゥディモ公が誇る重装騎士団は盾ごと鎧ごと剣ごとまるで熱したナイフでバターでも切るように斬り刻まれ巨獣にはね殺され踏み潰された
「こんなものか?」
瞬く間に重装騎士団を鎧と肉塊の山に変えた女は首を傾げる
「まだ次があるからな、手早く済ませる」
女が合図を送ると控えていた戦士達が一斉に駆け出しダリトゥディモ本陣に殺到する
地獄だ
若きダリトゥディモ公は雑兵のついでに切り捨てられた
ゴーレムもおかしな格好の戦士達が殴るだけで粉微塵になってしまった
「お前、記録係だな」
巨獣に跨った女が私の前に立ち声をかける
「ではしかと書き留めろ、今、お前達が戦う相手は大森林が盾の一枚にして【さむらい】のテイだ。此処にいる貴様ら蛮族を皆殺しにするものだ」
女は言い終わると三千を数えたダリトゥディモ本陣を瞬く間に平らげ次の獲物へと駆けて行った
三万とも四万とも思われたダリトゥディモ軍は一夜にして消えた
斬り刻まれたか
見るも悍ましい異形の集団に血祭りに上げられるか
降るから助けてくれと砦に縋って来るものもいたが皆雑兵ばかりで
それも夜更け頃には無くなり
日が昇る頃には白かった旗を血で赤く染めた戦士の一団と異形の集団が酒盛りをする二人の女を囲んでいるだけだった
戦士を引き連れた年かさと思われる女はイヤイヤ負けた、楽しみすぎたと笑い
子供のように見える、異形の集団を率いていた女はさむらいごっこが出来たのだから良かろうよと言って笑っていた
本当に皆殺しにしたわけではないのだろうが転がる死体を片付ける捕虜位は残しておいて欲しかった
そんな事を思ってしまう位現実離れした光景が広がる
日が昇ったからか
酒がなくなったからか
女達は後は任せたと言って引き上げた
埋めるにしても焼くにしてもこれは大仕事だと隊長は呆れたようにダリトゥディモ軍の死体で作られた光景を眺めていた




