十七話
ガサリと音がし足元を見ると斥候に出した男の首が転がっていた
悲鳴をあげる間も無く槍を突き立てられ
隣の男は口を押さえられ喉をかき切られる
薄れる意識の中、自分を覗き込む不思議な鎧を纏ったゴブリン達を見た
ゴブリン達は指で何かのやり取りをすると闇の中に消えていった
「誰も帰らぬ?斥候がか」
ドゥクディモ軍はただ街に立てこもるだけのレーレン領を自国の街道のように抜け、ハンディ軍を挟み撃ち、逃げるハンディ王を追ってレーダと呼ばれる街を目指していた
五万近い大軍から小隊をいくつか放ち街を脅かし火などを放つ
田畑を青田刈りしてやるのもいい
そんな思惑で放った小部隊が次々と消えて行く
森を抜けよと命じた隊は矢でハリネズミの様にされ木から吊るされていた
夜襲を命じた隊は未だ行方知れず
それどころか隊の見張りが次々喉をかき切られ
彼方此方で火をかけられている
コレではあべこべだ
コレでは眠る事も出来ん
先鋒を仰せつかったのだ
手柄を挙げ放題だと喜んでいたのだが
コレは一体何が起こっているのだ
コレが魔法なのか?
『しつれいします』
聞き覚えのない男の声が天幕の外から聞こえ副官が誰だろうと顔を出すとそのまま倒れ込んだ
乱破か!と叫ぼうとすると何かが飛んできた
副官の頭だ
『こんばんは』
今度はその声が耳元から声が聞こえ
振り向くと頭巾を被り不思議な鎧を着たゴブリンが立っていた
『こんばんは』
ゴブリンは首からぶら下げている石を掴みながらそう喋る
バカな
何故ゴブリンが喋る
何故ゴブリンがここを襲う
『さようなら』
私の首は胴体とさようならしていた
「先鋒が壊滅?先鋒が壊滅させたのではなくか?千人だぞ?ひとかたまりでは無かったろうがそれが壊滅?」
ドゥクディモ本隊は先鋒壊滅の知らせを受け混乱の極みに陥っていた
青い旗を掲げ大聖堂から遣わされた聖堂隊まで加わったこの大軍
負けるはずがない
先鋒ごときが打たれただけだ
五万のドゥクディモ軍と五千の聖堂隊
魔法使い何するものぞ!
必死に聖堂隊長とドゥクディモ公が動揺する兵に説いて回る
動揺がようやく落ち着いて来たかという頃、
再びざわめきが聞こえる
ドゥクディモ公はまたかと声のする方へ向かい
公はその目を疑った
そんな馬鹿な
そんな馬鹿な
そんな事があってたまるか
竜の軍勢を率いる小娘などいてたまるか
「用意はできたか?」
ワンワンの声にまだですと返す
「入るぞ」
着替え中の乙女の部屋に立ち入る不埒者にシーツを投げつける
「まさかその中から選んでいたのか?」
ワンワンはシーツを丸めながら並んだ服を見て溜息を漏らす
“もう何を着ていいかわからないの”
ワンワンは街へお出掛けではないぞと言って先日大大都で買った可愛い帽子を摘む
“その帽子にはこのワンピースが似合うと思うの”
私は焦り淡い黄色のワンピースを見せた
「わかったわかった、キィを呼んでくるから少し落ち着いてなにか着ておけ」
ワンワンと入れ違う様にやって来たキィがドレスで戦場も悪くないなと笑い持って来た服を差し出した
「ワンワン様が嘆いていたよ、裸ではしたないと」
キィが用意した服は戦装束と言うには少し緩やかで、襟元で結んだストールも地味な感じが素敵だった
ハンティング風だよとキィは笑い兜をくれる
先程の件もあり、このままではハゲてしまうとぼやくワンワンが私を見て様になったじゃないかと頷く
シジュウ様もいらっしゃり似合うと褒めてくださった
軽く食事を済ませ、主人様に出立のご挨拶をさせていただく
「出かけるのかい?気おつけて」
“はい主人様の恩名を汚さぬ様勤めます”
「そうするといい、スズ、私の僕、何かあればワンワンを頼るといい。では行っておいで私の娘」
私は深く頭を下げありがとうございますとお礼を申し上げた
「それではスズ、お望みの竜の軍勢のお出ましだ」
庭に出るとワンワンが天を指差す
「竜百匹は流石にかさばるが小さいのも入れれば百匹だ」
天から次々と竜やトカゲの類が舞い降り
その威容に御屋敷を取り囲む群衆も声を上げた
“ワンワン!これは一体⁈”
「お前が言ったのだろう?」
“そうではなく!”
「ああ、実はな」
ワンワンは私の耳元でこいつらは泥人形だと囁き見ていろと言うと地面に腕を突き刺した
するとそこがみるみる盛り上がり一匹の大トカゲが現れた
「まあこんな所だ」
“大丈夫なのですか?”
「蛮族相手なら竜と変わらんよ」
ワンワンは笑い
姫!竜十匹、眷属九十一匹を姫のお命じにより揃えましたとかしこまって見せ
私は大義と答え、お互いを見合わせて笑った
出陣式は街の人が見守る中、盛大に行われる
第一陣としてハンディ王とその家来
それに領主の軍勢に魔犬と呼ばれる様になってしまった犬を連れたヒバナさん、それと正堂隊
それに続いてテイとセンが率いるゴーレム軍団
テイは大喜びでさむらいのゴーレムを根こそぎ借り受け、自分もさむらい風に着飾りフサにまたがる
センはなるべく見た目がおどろおどろしいゴーレムを選び、それを引き連れる
もちろんハヤも連れて
そして私の番が来た
私の後ろには荷物持ちのゴーレムが四体と、一応と言って付いて来る事になった黒装束に黒仮面のシジュウ様が二人
その後ろはワンワン率いる泥人形軍団
キィは上機嫌で金棒を担ぎサゴにまたがる
率いるゴーレムはまだ内緒らしくド派手に行くのでよろしく頼むと言われている
荷物持ちのゴーレムが手を下し
シジュウ様が頷かれた
私はゴーレムの腕に腰掛けるとゴーレムは立ち上がり御屋敷の門を出る
そこには不安な顔をした街の人たちと
姫様万歳を叫ぶ正堂の子供達
私に向けて何かを叫ぶシャンの姿も見えた
私はシャンに手を振る
なんだ、ちゃんと隣にフウが居るじゃない
思わず笑ってしまう
街に残るリヨは朝、普通に病院に向かったからシャンにはサボってここに居る事になる
帰って来たらからかってやろう
私は朝までに比べれば随分と落ち着きレーダの街を進んだ
どうせ後はワンワンに任せるだけだ
私は鳥でも眺めていよう




