十六話
勝てるのではないか?
勝ってしまうのではないか?
王国深く入り込んだ三公国の一角、イッディモ公国軍はこちらの策に乗り平原に引きずり出され、もうひと押しで先陣が総崩れになる所まで追い詰められている
王国巨人兵団はストーンゴーレムを並べ公国のゴーレム達を蹴散らしている
どだい岩石で出来た巨大なゴーレムを木人や鉄人でどうにかできるものではない
火炎砲を受け崩されるものも有るが大勢は変わらない
騎兵は敵の進路を塞ぎ竜兵は空から矢の雨を降らせている
この戦いに集められた王国軍は四万
王国十万と言われるが、各備えや砦の守兵を考えればこんなものだ
対するイッディモ軍は国境を越えた時は四万を超えていたが、彼方此方に兵をさき、磨り減り三万にも届くまい
地の利、精強さを勘定すれば負ける要素が見つからん
このままここですり潰せば、いつもの様に戦支度が間に合わなかったと言って日和見を決め込む貴族達も駆けつけるだろう
暑い盛り
王は王領各地の蔵を調べさせた
王家の蔵から大量の青石が見つかったからだ
各地の蔵からも同じように青石が、それも大きな青石がゴロゴロと見つかる
王はそれを各村や町の聖堂に【御返し】した
それは国中どころか隣国まで巻き込んだ大騒ぎとなる
何せ王家から【返還】された青石は、どれもが抱えるほど大きく
大聖堂にあるアレは一体何だったのだとの騒ぎになったのだ
大聖堂は直ぐにこの度王国から出た青石は全て偽物である
その証拠もあると触れをだした
時を同じくしてレーダの街の正堂が青石など全てまやかしだったのだと言い出した
聖堂は己の権威の為に見つけては隠していたに違いないと
それが証拠に白のお屋敷の国元では青石などいくらでも取れると言われこれを頂いたと言って人の頭程はある青石を街の真ん中に晒したのだ
王都でも広場に聖堂より突き返された青石が飾られた
王領各地でも同じ様に
それを受け大聖堂はハンディ王家は邪道に堕ちたと触れをだす
邪教正堂
聖敵ハンディ王家
それらを誑かす白の屋敷なる異邦人
これらを諌め国を静めよと各国各聖堂に触れをだしそれを受けた各国が青い旗をなびかせ国境を超えたのだ
青い旗を掲げた一つイッディモは今目の前におり
ダリトゥディモ公国は国境の砦で立往生
ドゥクディモは国境を抜けたはずだが行方が知れない
知れない?
まあそうしておこう
聖堂青兵団は安全な所で旗でも振っているのだろう
まあいいさ
たとえ王の描いた通りとなってもイッディモの連中は半身不随だ
気楽に行けばそれで済むのではないか?
などと考えていたのがいけなかったのか
「背後より青旗!続くはドゥクディモの旗!レーレン領を抜けてきたようです!」
あーあ
そうだろうな
そうだろうよ
分かっていたさ
レーレンが手引きしたのだからな
待っていたのだから
「レーレンは守兵も事欠く有様、抜かったか」
私はわざとらしく驚き己の不手際をなじる
「後詰めを回せ!抜かせるな!正面の敵はもう虫の息だ!」
そうは問屋がおろさないのは分かっているのだが
このあと程よく追い詰められ
潰走を免れた本隊は王都を目指し
はぐれた王はやむなく敵中を抜けレーダを目指す
出来るかな?
私は出来るだろうが
王は本番に弱い
その時は私が王か?
いやいや冗談じゃない
街の全体が騒がしい
シャンが言うには隣国との大きな戦が始まったそうで
それは大変ねと言うと狙われてるのお前のとこだぞと睨まれた
領主も出兵こそ言付かっていないが兵馬の準備はしているらしい
私はそんな事よりフウとはどうなの?うまくいってるの?とそちらの方が気になって
シャンは赤い顔してうるせえと怒鳴る
そんな勝手口の午後に乙女の語らいを邪魔する無粋な客が現れた
「開門!御開門!」
男達のどら声と馬のいななき
私はうるさいなぁと思いながらも顔をのぞかせると、そこには見覚えのある男が馬に乗っていた
「これはこれは姫様ではございませんか、私ですハンディでございます」
“ああ、宰相の・・・王様のハンディでしたね、どうしたのです?随分と汚れて、狩りでもされていたのですか?”
「これは手厳しい、どちらかと言いますと狩られる方でして、お話が御座いますので少しよろしいでしょうか」
“明日なら、迎賓でゆっくりとお茶でも飲みながら”
「それはいいですな、では今日は手短に。森の魔法使い様を害さんとする輩が青い旗を立てこちらへ向かっております、これを防ごうと私供は奮戦したのですが敗れました」
“分かりました、伝えておきます。しかし何故主人様を?”
「青い石が大好きな連中が愚かな妄想に取り憑かれたのでしょう」
“では明日迎賓で。ところで今日の宿の手配は?”
「これが急いでいたもので」
“では正堂に間借りされるといいでしょう”
「そう致します、姫、それでは」
でシャン、フウとはと言いかけたところでシャンに肩を持たれガクガクとゆさぶられながらお前どーすんだよ!どーすんだよ!私ら聖敵じゃん!とシャンは気が触れたように叫ぶ
そんな事明日決めればいいでしょう?
慌てるシャンを落ち着かせようとしたが
お前んとこゴーレムなんぼいるんだ⁈なあ!勝てるよな⁈見捨てて国に逃げ込んだりしないよなと涙を浮かべ
こっちはまだフウから何も言われてないんだ!と泣きつかれた
“逃げないわよ?だってここが私の家ですもの、それよりフウとの事だけど”
シャンはスズぅーと泣きつき
誰かに呼ばれたフウが迎えに来るまでいやだーとか死にたくないーとか叫ぶシャンのお守りで大変な思いをした
「主人様を害する?蛮族ごときが?」
自分の事が書かれた絵本をめくるワンワンが何の冗談だと笑う
「しかしその思い上がりは許せんな」
絵本を静かに閉じ、立ち上がろうとしたワンワンをシジュウ様が抑えた
「明日、蛮族館にて沙汰を申付ける、今は盾共々備えておけ」
ワンワンはおふくろ様がそれで良いのならと言って絵本を開き
私はシジュウ様に言われ外のエルフとゴブリンに明日蛮族館へ来るように言ってくれとセンに頼んだ
「何だ、蛮族相手の戦か?」
テイは出掛けるセンに声をかけ、センはさあなと答えた
その夜は蛮族館の手入れに来ていたヒバナさんも夕食に呼び
お前太ったぞ、いーやこの前より太ったとヒバナさんをいじめるセンにシジュウ様がゲンコツを落し、縮むではないですかと涙目になるセンを見て皆で笑った
朝になりシジュウ様が、ワンワンや盾の皆を連れ蛮族館へと渡られた
なぜか私も同行せよと言いつかりそこへと向かう
着いた先には蛮族館の門前を固める騎士達と正堂隊
戦支度の森のエルフとゴブリンやオーガがひしめいていた
皆が傅く中、蛮族館に入り、先日宴が催された広間へと向かう
そこには既に通されていた王様一行、領主とその家来、エルフの族長にゴブリンの代表が座っていた
私は傅く一同にシジュウ様より御言葉が御座いますと告げ、皆は姿勢を正した
「何処ぞの誰かが青い石を見て気が触れたか」
その言葉を受け王様がそのようでと答えた
「主人様を討つと?」
シジュウ様は嘲るように笑いわたしを座らせた
「いいでしょう、全く面倒ですがスズにもいい経験となります」
シジュウ様はポンと私の手を取る
「誰が?」
「私が。若年での戦、古今例がないわけではありません、お任せを」
シジュウ様の言葉を受けワンワンはそう言うとにこりと笑い手を上げる
何のことだろう?
「王よ、敵を述べよ」
「はっ、先ずはイッディモ、此奴らは私共との戦で深手を負い、我が王都へ攻め寄せるのもままならぬ有様」
「ならばそれはお前が討て。領主、正堂の者と共に王を手助けしてやれ」
領主は、はっはい!と飛び上がる
「して兵馬は如何程か?此処まで付いてきた私の供回りは三百なのだが」
王の言葉に領主は根こそぎ集めまして千と少々と消え入るように答えた
「これは心強い」
王は朗らかに笑う
シジュウ様はお茶を入れて回るヒバナさんを呼び止めた
「お前、確かその男と旧知だったな」
王様はヒバナさんを見て誰だっけと言う顔をし
ヒバナさんは口ごもる
「姫騎士が加わるとなれば最早勝ちは見えましたな!」
突然領主の横に座っていたケシミさんが立ち上がり手をパンと叩いた
「姫騎士⁈」
王様はヒバナさんを見て信じられない様子で
「久し振りです、クリナ」
ヒバナさんは諦めたようにペコリと頭を下げた
「いや、何と言いましょうか、逞しくなられた」
「ありがとう」
ヒバナさんは王様の言葉を受け流し、姉の許しをいただきたいとシジュウ様に申し出た
「許す」
シジュウ様の言葉を受けヒバナさんは遠話へ向かう
シジュウ様の次はとの声に王様は
「ダリトゥディモ、コレは国境の我が砦を囲み虎視眈々と御屋敷を狙っております」
「盾よ、この度の頭は誰か」
シジュウ様の問いにリヨが私ですと名乗り出た
「ではお前は此処に残りこの地を守れ、その上で二名を選び先の者を滅せ、その二人は歯車も好きなように使え」
リヨはそれではテイとセンをと言い二人が前に出た
「必ず滅せ」
「残らずでしょうか?」
「好きにせよ」
好きにせよと言われたセンはニヤリと、テイはクックックと声を抑えて笑っていた
「最後にドゥクディモ、一撃を加え足を鈍らせましたが狙いはこの御屋敷、コレはその後ろに首魁たる大聖堂も控えております」
「それが狂元か?」
「左様で」
王の言葉を聞き、シジュウ様は私の手を引き立ち上がらせた
「ではその愚か者は主人様が僕にして《館》の娘たるこのスズが、主人様に代わりそ奴等に裁きを下す」
とんでもないところで自分の名が飛び出し私はギョッとする
“シ、シジュウ様!私は戦など”
「案ずるな、目付けにワンワンを付ける。キィ、スズの手足となり存分に働け。ワンワン、スズの足りぬところはお前が支えてやれ」
ワンワンとキィがお任せをと胸を張る
“シジュウ様、私は戦など”
「安心しなさい、お前はああせいこうせいと言って入ればいい、後はキィがやるし足りねばワンワンが手を貸す」
シジュウ様はそんなに心配するなと笑うように仰り
ワンワンとキィは任せろと笑った
「出陣は明日、堂々たる縋って威容を見せつける」
「王が主人よ」
エルフの長が手を上げた
「何か」
「私達は何を」
「愚かな蛮族は乱破間者の類を送り込む、それらを皆殺せ」
「見分けは」
「合言葉を聞け、答えれば討て、答えぬ者も討て、逃げ出す者だけを見逃せ」
「仰せのままに」
次にゴブリンの代表が石に手を置き喋り出す
『おにひめさまのともよ、わたしたちはだれとたたかえばいい、えるふといっしょはいやだ』
石を通して聞こえる声にエルフが舌打ちをする
「お前達は闇夜に紛れてこの街に近づく輩を討て、闇夜を使い敵を苦しめろ」
『はたけやはこのいえにすむひとはまもらなくてもいいのか』
「白の街はこちらで守る」
『かおとにおいでまちのひとかそとのやつかはわかる、みなごろしでいいか?』
「刻んでやれ」
シジュウ様の返事にゴブリンはグエグエグエと笑い、自分たちはエルフより頭がいいからとエルフをからかい
エルフは飛んでくる矢に気をつけろと吐き捨てた
では明日とシジュウ仰ると散会となった
私はシジュウ様に幾度も無理です戦など無理ですと言ったのだが、主人様に代わり賊を成敗するのも僕の勤めですと言われ
お前は散策気分でいけばいいと笑われてしまった
次にワンワンを捕まえどうしましょうとワンワンの周りをウロウロとしているとワンワンは面白そうにどうして欲しい?と聞き
私が竜を百匹!と答えると笑いながらわかったよと私の頬を摘んで笑った
それを見ていたキィがなら私も歯車をお借りするかとシジュウ様に声をかけ
ド派手にしてやろうかと思いますと楽しそうにシジュウ様と語らっていた




