十五話(え)
ぼんやりと目がさめる
枕代わりの暖かくフワフワの毛が私の息に合わせて揺れている
指先で毛をいじり目が冴えるのを待った
紙をめくる音が聞こえ
私はよいしょと起き上がる
枕はやれやれと言いながら姿勢を直し
早く行けと呟く
“おはようございます”
「うん」
私はワンワンの小言を無視し主人様に朝のご挨拶をすると油断しているワンワンに倒れこんだ
グエっと悲鳴をあげるワンワン
「早く行けと言っているだろう」
ワンワンは私をひょいとつまむ様に持ち上げまた小言を言った
主人様に一礼をし部屋を出ると浴室を目指す
昨夜ワンワンを枕がわりにしたせいでそこら中抜毛だらけなのだ
昨日の夜は私の十七回目の生まれた日で、今年からは子供の日ではなく生誕の日と名前を変えお祝いが行われた
館の皆にヒバナさんとそのお姉さん
とても楽しかった
最後ははしゃぎ疲れ主人様のお部屋でワンワンを枕に寝てしまった
皆は夜遅くまでお酒を飲んで騒いでいたがアレで今日も大丈夫なのだろうか
今日は街の人達が私の誕生日を祝ってくれる日なのだ
十四の子供の日に主人様に願いを聞かれ
ここにシャンやフウも居たらなと思い
主人様に街の方にも一緒に祝っていただけたらなと思いますとお願いしたところ、笑って今年には間に合わないから来年からねと聞き届けてくださった
そして明くる年、文字通り【街の方にも一緒に祝って】貰う事になってしまった
街は領主の号令の下、祝う祭りの準備に走りそれを見たシャンがお前なぁと私を見て呆れていた
言葉って難しい
シジュウ様は祭りは大いに結構と言っていらっしゃる
何にしてもお金が動く事はいい事らしい
お金と言えば《館》は大変な赤字で有る
シジュウ様曰く、この地の収入は私が納める十分の一税しかなくこのままでは私がこの地の長に任じられた瞬間、他所に合併される事になると言われた
私は庭で畑でも始めましょうかと言ったしヒバナさんのお姉さんの所と一緒になるのなら別にそれで良いのではとも思ったが、主人様の僕が二代続けて土地無しでは格好がつかないと言われてしまった
シジュウ様は庭の畑は構わないが自分に考えがあると仰られた
「お前の名でこの国中から銅を集めます、なに簡単で原始的な貿易です、蛮族との小さな取引は昔からありましたから問題ありません」
シジュウ様曰くこの国で使われる銅貨は交ざり物だらけの屑銅なのだそうだが、大森林で溶かせばちゃんとした銅になるらしく、全くの無価値ではないそうで
私はシジュウ様が用意なされたいくつかの書類にサインをし
数日経つと大量の荷物が庭に飛行で届けられた
それをシジュウ様は正堂と領主に銅貨で売り捌かせ
それと同時にスズ札と書かれた大量の綺麗な模様の紙を銅貨や金銀貨の代わりに流通させろと命じた
何とも恥ずかしかったがどうせ街の人は森の文字が読めないのだからと割り切る事にした
シジュウ様はこの国から全ての銅貨を吸い上げるまではコレで問題ないと仰られ
私が銅貨が無くなったらと聞くとその時また次の事を考えますと仰られた
脱衣所で服を脱ぎ姿見を覗く
自分の裸を見て主人様の僕に相応しい女にならねばと毎日自分に言い聞かせる事にしている
その時鏡の中に光るものを見た
何だろうとその辺を覗くと宝石が落ちている
若いエルフの誰かのものだろう
彼女達は体のあちこちに、それはもうそんな所にと驚く様な所にまで小さな宝石で飾り立てている
私はそれを鏡台に置くと浴室へ向かった
森の中では宝石が工場で作られると知った時は驚いたなあと思いながら湯を被る
ある日シジュウ様が抱える様な大きな宝石をまるでただの板の様に木箱に並べているのを見て私が驚いていると、不思議そうな顔をしてから、言ってませんでしたねと言って、森の中では宝石は掘り出すものではなく工場で作るものだと仰られていらっしゃった
スズ札はシジュウ様が用意された大量の宝石に裏付けされて発行される
ただの紙切れでは無い
少なくともこの地ではなとシジュウ様はおっしゃっていた
コレで経済を学べとシジュウ様は仰るが、迎賓に作られた蔵の中で山と積まれた札と宝石を見てしまうと何とも
風呂でワンワンの抜毛を落とし身を正す
今日もしっかりと午前中はお勤めがあるのだ
私は大森林の法の定めにより十二年学ぶ事を勤めと定められている
森の中の同族は皆そうしている
ちなみにエルフ達は学ぶ事の量は決められているが何年でと言うことは決まっていないそうだ
そのことを聞くとテイは口ごもり
キィは十二年で済ませたと言うし
リヨは四十年かけたと言う
センは昔過ぎて覚えていないと答えた
地理と三角形について学ぶと昼になり
今日のお勤めはここまでとなった
昼食はしっかりと食べる
今日の夜はゆっくり食べる暇はないと思ったからだ
昼食の後、今日着るドレスをキイと二人、仮当てして選ぶ
キイはなんと言っても四人の中で一番のお洒落さん
並べた服を見てこれとこれだなとスパッと選びそれがまたとても良い
見えないところまで気を使えと言って下着の色にまで口を挟む
ドレスが決まると温室で果物を摘みリヨの病院を目指した
昨日祭りの手伝いをすると約束したのだ
お屋敷を出ると正門からは広い大通りが街の真ん中まで続くのが見える
領主が二年をかけて建物を退かし道を敷き作ったのだ
もう私が逃げ惑ったあの裏通りも無くなってしまった
私は大通りを横目に正堂へと向かう
これも昔と違い行き来しやすい道が出来ている
数歩も歩かぬうちに姫様だと言って子供達が付いてきた
最初は姫様はやめてと言っていたのだがもう疲れてしまい最近ははいはい姫様ですよと笑う事にした
「姫様、しゃべる犬は?」
小さな女の子がワンワンはいないのかと残念そうに聞いてくる
“ワンワンはお留守番です”
私の答えを聞き女の子は肩を落とした
ワンワンはその見た目からなのか子供達にとても人気があるのだ
子供達はワンワンの事を家畜や旅人を襲い食い殺す恐ろしい獣人では無く
人と大して背丈が変わらないく何だかいつも難しい事を喋る魔法で立って歩く犬だと思っている
ワンワンは子供の言う事に一々腹を立てていてはいかんよと笑う
ある時など自分の犬を連れた子が、この子にも魔法をかけてくださいとやって来た
私がさてどうやってごまかそうかと悩んでいるとワンワンがやって来て、私は喋れたから立って歩く魔法をかけてもらえたのだぞと言い、それを聞いて落ち込むその子の犬を覗き込み、この犬はお前の言うことが分かるのに主人のお前はわからないのか?私の主人はいつも私の話をよく聞いてくださる、私はそれだけでとても嬉しいぞと言い、まずはその犬の言う事をよく聞いてやれ、それを十年続ければもう言葉が通ったのと同じだと言ってその子を返した
ワンワンは優しいのねと感心すると猿を連れて来たらお前が同じ事を言えば言いと笑ったので追いかけ回して毛をむしってやった
正堂にはすぐに着き門前の店で飴をもらいそれを子供達にあげ、そこで別れた
人を捕まえリヨの居場所を聞こうとすると正堂隊の人が駆け寄って来て正しい方よどうぞこちらへと私を正堂長の所へ連れて行こうとするので今日はリヨに用があるのと言ってリヨの所へ案内してもらった
ここで一番偉いのは救済院の院長
その次が正堂長
でも皆んな院長に代わり正堂長が取り仕切るので正堂長がここの長の様に扱われている
途中叔父さんやフウを見かける
叔父さんはシャンのおじさんの所で皮職人の棟梁として働いていて、姫様御用達の鞄と言う商品を当て大忙しだよと笑っていた
お前が異国の姫様とは、姉さんも喜ぶよといつも我が事の様に喜んでくれている
だから私も街を出歩くときは叔父さんから頂いたかばんを持ち歩くことにしている
叔父さんに手を振って別れ、フウにいつシャンと所帯を持つのとからかい、また後でねと言って別れた
大食堂と呼ばれる大きな厨房へ通されると、そこはまるで戦さ場の様で
リヨは大きいからすぐに見つかるだろうと足を踏みいれると、姫様、白姫様と料理番の女性達に囲まれ、それを正堂隊が正しい方がお困りだと押し留めた
“リヨを探しています”
私が一人の料理番に声をかけると医師様はこちらですと連れられ
料理長にここは私達の城だと言われ正堂隊は追い払われる
リヨはシャンを助手に祭りで振るうたくさんのシチュー相手にに汗を流し
シャンはこっちを見て手を振ってくれた
それでは私も手伝うと言うと、リヨに果実水を頼むと言われ、シラップの大きな缶を渡された
缶を受け取ろうとすると直ぐに料理番の人がそれを受け取り、さあ参りましょうと私を樽の前に案内した
並んだ樽を数えシラップの缶に書いてある作り方を読む
何だ余るんだ
私がそう呟くと、缶を抱える料理番の人がさすが姫様、魔法文字が読めるのですねと嬉しそうに言い
別の料理番が当たり前じゃない姫様なのよと言い
また別の料理番がでは姫様ご指示下さいと計量碗を持って来た
“樽ひとつに四百です”
私の言葉を聞き計量碗を持つ料理番は恥ずかしそうに何処までが四百なのでしょうかと碗を差し出して来た
畏れ多いことですが私達には魔法文字は読めないのですとどこか嬉しそうに言いながら
もちろん知っていて言ったのだ
そうしないと何もさせてもらえない
“では私が”
私は料理番の手の中の計量碗をヒョイと手のひらに引寄せる
それを見た私を囲む料理番達が目を見張った
いけない、つい横着してしまった
コレをシジュウ様やワンワンに知られればお小言を言われてしまう
取れるものは手で取れ、科学の利器とはその様なものではないぞと
私は焦りリヨを見たが、リヨもシャンも鍋に掛り切りで気が付いていない
よし
私は私を囲む料理番達を見渡すと今のは内緒ですよと笑って見せ
料理番の皆は何故かハイと嬉しそうに笑った
ひとつ目の樽に決められた量のシラップを入れよくかき混ぜ味を見た
いい味に出来たがひとつ問題がある
樽の中は氷水
氷が溶けたら薄くなるのでは?
うん、だからこの缶には多めに入っていたのか
私が三杯目のシラップを入れようとするとひとりの料理番が
「姫様、医師様は二杯とおっしゃっていらっしゃいました」
とかしこまられた
“安心して、大丈夫です”
私がそう答え三杯目を入れると皆うろたえたので、かき混ぜた樽の中身を飲んで見てと皆に渡した
「あの姫様、ほんの少し、本当に少しですが濃いのでは、いえ私がその様に思うだけだと思うのですが」
年かさの料理番にそう言われ私も味見をする
確かに少し甘過ぎるが
“氷が溶ければ丁度良くなります”
私の言葉を聞き料理番達は顔を見合わせ、ではここからは私達がと言い出したのでこれは私が頼まれたのですと言って次々と樽にシラップを入れて回る
「あの、姫様・・・」
そうして回るうち、樽はまだあるのにシラップが無くなってしまった
まあそれは分かっていた事だ
“次をもらって来ましょう”
私がリヨのもとに向かい、缶をポンポンと叩いて足りないと言うと、何故かリヨは樽と料理番達を交互に見つめ、お前達は何のためにと言葉を詰まらせ
料理番達は口ごもる
とにかくもうひとつ頂戴と言うと、リヨはここからは私がやるよと何故か満面の笑みで、それを見るシャンはヒーヒーと声を枯らし笑っていた
それからしばらく樽の前を行ったり来たりするリヨをシャンと眺めていた
シャンに何でフウと暮らさないのと言ってやりたいのだがいつもそれを口にすると、うるせえとすごい巻き舌で怒鳴られる
きっとフウからそれを言われるのを待っているんだろう
じゃあ私はひとつ余計なお節介というやつを焼いてあげる事にしよう
体に似合わず几帳面なリヨが樽の前を走り回るのをやめ、お酒が届いた頃、リヨは子供達を連れ汗を流すと言うので、私はシャンと共に先に御屋敷へ戻った
シャンと迎賓館の門をくぐり受付で働くリンを二人でからかう
ここは本当は蛮族館と言う名で、今日招待した蛮族用の迎賓施設
領主からさしだされた土地をシジュウ様は租界として使う事にしたのだ
シジュウ様はお金の無駄だと嘆かれたが出来て仕舞えばそれはそれで使わねばと国中から銅貨を巻き上げる場所として使われている
蛮族館に入るとすぐにヒバナさんを捕まえ、キィにいいオモチャがあるから直ぐに来る様に伝えてもらう
オモチャにされるとも知らないシャンはヒバナさんを見て遠回しに太ったなと言う様なことを言う
確かに
私がお腹のおにくを掴もうとすると怒るくらいだ
本人は気にしてない様なことを言うがお姉さんが言うには二言目には痩せなきゃと言っているらしい
二人でお風呂に入り、しばらくすると脱衣所に人の気配を感じ直ぐにそれは居なくなった
ヒバナさんがシャンの服を持って行ったのだろう
後はキィの到着を待つだけだ
私が水玉で遊ぶのをシャンは不思議そうに見つめる
昔、私がシジュウ様より頂いたガラス玉達をようやく自在に操れる様になった頃、それを見たワンワンがお手玉か?上手いじゃないかと言って通り過ぎ、追いかけて毛をむしると何故褒めたのに毛をむしる!と悲鳴をあげていた
本当に乙女心を分からない兄だ
キィが嬉しそうに剃刀を持って現れ、観念したシャンの体を磨く
それはもうフウがたまらなくなるくらいに仕上げるのだ
風呂から上がると、服はともかく財布は何処だよとあきらめ顔のシャンを、女しかいないからと裸のまますぐそばの客室へ押し込む
シャンはキィの用意した下着を見てお前達は絶対におかしいと抵抗したが、キィも見せるものでもあるまいよ!と逃さず、それとも誰かに見られるのか?と小声で言われシャンは急に無えょと開き直った
その後もブツブツと文句を言っていたが私はその一切を聞こえないふりをし、とても飲みやすい果実水を飲んでいた
うん、さっきのは少し濃かったかもしれない
ドレスに着替えたシャン
キィがそのドレスはお前にやるよと言う様な事を言うと、シャンはとても嬉しそうに返さないぞと言っていた
腕輪でテイとセンがそれぞれエルフとゴブリンの所の祭りの準備から戻った事を聞き
十五の祝いにエルフ達からもらったレジナルドを取り出し時間を潰す
もう最近は言われなくなったが、私の鼻歌を聴きシャンにお前音痴か?とよく言われたものだ
その事をワンワンに話すと、僕たる私達と蛮族では聞こえている音が違う
だからそれは仕方ない
安心しろ、私もお前と同じ様に聞こえていると言われ、そんなものかと納得したものだ
馬車の音が聞こえ、そろそろ来始めたなと窓の外を見ると、宰相一行が受付を済ませている所だった
どうでもいいやと一休みし
飽きたのか寝台に転がるシャンを、折角の服がシワになるとたしなめた
さて、そろそろかと私は立ち上がり
窓の外をもう一度見ると、受付の横でたむろする青年正堂隊が見えた
尼様の警護で来たのだろう
“ああ、嫌だ”
思わず口に出してしまった
最近少しヒバナさんの気持ちがわかる様になって来た
どちらに言っても無駄なのだ
人の上下は学んだか努力したかで、産まれは二の次三の次なのだ
だから私はあなた達に【姫】と呼ばれるのを我慢しているのだ
いつか誰かが言うだろう
アレは売女の娘
誰が父とも分からん娘と
私は待っている
誰かが居並ぶ王や貴族が私の前で跪く中でそう叫ぶ日を
生まれや親が関係あるのかといった顔で見返してやる日を
私はシャンの手を取り青年正堂隊の所へ向かうと、ついて来なさい、私に侍りなさいと言い、汚れもそのままに開場に引き入れた
私の意図を汲んでくれたシャンが青年正堂隊の面倒をみてくれる
興味もない来客の挨拶
宰相は挨拶が終わると、姫様先程のお連れの方は何処ぞの姫なのでしょうかとシャンの事を聞いて来た
“鬼姫やエルフ王、姫騎士と同じ私の友人です、シジュウ様に何度城をやると言われてもそんなものはいらないと受け取らず困っています”
「これはこれは、お名前はなんと?」
“女性の名を聞き出せぬ様では宰相の名が廃りますよ”
私の返事に宰相は、ごもっともですと笑い引き下がった
その後は尼様の赤子をいつまでたっても自分の子だと言い出さないシャンのおじさんをだらしがないと叱り、貴族を蹴散らしやって来たリンに私のドレスは!と文句を言われた
領主は私に疲れを感じたのかおめでとうございますと一言で済ませてくれた
後は何処かでみた様な
覚える気のない人達の挨拶を一通り受け、それが終わるとワンワンが壇上に立ち、ここに仕事で来れなかったヒバナさんのお姉さんと知らない誰かの名を上げ最後に主人様の御言葉をくださった
そして驚いたのが主人様より御真影をいただいた事
それも昨晩の物をだ
寝巻きでワンワンに寄りかかる姿などたくさんの人に見られる事の恥ずかしさより、形ばかりとはいえ私の父になって下さった方と母として育てて下さる方の御姿を頂ける事の嬉しさ
これに勝る宝など無い
誰かに何かを聞かれたが御真影を前に胸が熱くなる私の耳には届かない
多分返事はしたと思うけど
これを何処に飾ろうと浮かれていると、ワンワンがコレにてと部屋を出ようとする
捕まえ兄が妹の祝いの席を外すのですかといったがそれは昨日済ませたろうと笑われ、余計な毛無ばかりだがお前に関わるもの達だ、しっかり相手をしてやれと言って行ってしまった
それを少し残念に思っているとセンが祝いの品をくれる
エルフ達からは夕べ一度貰っている
何だろうと包みを破り耳まで赤くなった
つい先日、エルフの皆とシジュウ様と共に海の保養地を訪れた時の光画だ
皆で水着を選び海で遊んでいた時のものだ
コレが昨日祝いの席で渡されたのなら何も気にならなかった
だがここは蛮族館
たくさんの見知らぬ男がひしめいている
私は急いで光画を隠し、覗こうとした男を必死に追い払った
とにかく光画を下げようと、ワンワンを呼び出そうとしたその時
シャンが光画を覗きこみああという顔をしたのだ
騒ぎを聞きつけ戻って来たワンワンが光画を下げ、騒動は収まった
シャンのおばさんやフウのおばさん達と少し立ち話をし、シャン達の所へ向かう
フウとシャンの手元にあるお酒は気がつかないふりをし
リンに来年のドレスを約束させられる
シャンとフウを少し羨ましくも思うが、二人は昔から仲が良くお似合いだった
フウは私と同じ十七だしシャンは十九、もう所帯を持ってもいい年だし二人ともとっくに独立している
なのにこの二人は本当にもどかしい
シャンと乙女の会話を楽しんでいると宰相達が別れの挨拶にやってきた
「姫様、お楽しみのところを失礼致します、大変お名残惜しい事ですが夜も更けました。私共はコレにて」
“今日はとても楽しい一日になりした、ありがと、お見送り致します”
「これは勿体無い、そちらの美しいお嬢さんもまたいずれ、ああ失礼、私はこの国で王の手伝いをしているものです。皆は私のことを宰相と呼んでいます、どうぞお見知り置きを」
これはどうも御丁寧にと惚けるシャンとそれを少し心配そうに見守るフウ
私は宰相達を玄関まで見送る
そこにはガラスのゴーレムが並び、その手には貴族達への手土産が用意されていた
貴族達が溜息を漏らす
ゴーレムの手には見事な作りの宝石がそれぞれ置かれているのだ
「《館》の娘スズよりお前達に手土産である、各々好きなものを持ち帰れ」
私を囲むシジュウ様の声が響きそれに貴族達のざわめきが続いた
「では私はこれを」
宰相が慣れた手つきで一番大きな、手のひらから余る様な宝石を選び私に一礼をし馬車へと消えた
貴族達はそれを見て我先にと少しでも大きな物をと奪い合う様に選び、同じ様に馬車へと消える
中には私への礼を忘れて馬車へ急ぐ者もいたくらいだ
本当に笑ってしまう
“宰相はちゃんと青石を選びましたね”
「アレは分かっていてそうしたのでしょう」
シジュウ様はそう仰ると私を連れ広間へと戻る
未だ内密ではあるが、今や王国は掃いて捨てるほどの青石を抱え込んでいる
シジュウ様がその様に仕向けたのだ
王も喜んでそれを受け取り国中のあちこちにそれを隠している
シジュウ様はその内見ものになると仰るが
広間に戻るとヒバナさんに次の手はずを確認する
“それでヒバナさんは?”
「今日も私は朝帰りね、本当に困る、男なら誰でもいいと思われてそうで」
“お姉さんに?”
「昨日も言われたんです、役場で働いている良い人がいる、真面目な人で、一度会って見ないかって。私がいやちょっとって答えると、あなたが蛮族と寝ている方がいやちょっとよ!って怒られました」
“シミン君じゃダメなの?”
「冗談でしょスズさん、蛮族よ?たまにゾッとするわ、こいつ本気なんじゃないかって」
“本気なんじゃない?”
「やめてください、寒気がする」
“あはは、とにかくお願いします”
「まかされました」
ヒバナさんと別れ、フウと微妙な距離で座るシャンの横にワザとピッタリと腰掛け少し世間話をする
シャンは明日も仕事だと愚痴り私達はそれを笑う
さて頃合いか
私は二人が泊まっていくのを確かめると、お酒のことを注意し御屋敷へ戻る事にした
「楽しめましたか」
太鼓橋の辺りでシジュウ様に声をかけられた
“疲れました”
私の答えを聞き、シジュウ様はそれはそれはと笑われ
私もですよと仰られ
二人、声を上げて笑った
部屋に戻ると寝床に倒れ込む
先ほどの光画は立てかけられていて、それを見て、この御真影は何処に飾ろうと悩む
この部屋に置けないことはないが、どうせなら食堂や談話室の方が
うんそうしよう
起き上がり、どちらにしようかとまず談話室に向かうと其処にはワンワンがくつろいで新報を読んでいた
私はそれを取り上げるとワンワンに寄りかかり、御真影をここか食堂に掲げようと思うと相談する
ワンワンはこちらの方が静かで良かろう、流石に主人様の御姿の前で酒盛りするバカもおるまいと言って、あそこはどうだと壁を指差す
“ではあそこへ、それと”
「なんだ?」
“疲れました、浴室へ連れて行って”
ワンワンはやれやれと言い、私を犬か猫の様に持つと脱衣所に向かい、まさか脱がせろとは言うまいなと溜息を漏らす
“見たいのですか?”
「毛無の裸ではなあ」
ムッとしたので軽く毛を引っ張ってやり、文句を言われつつ脱衣所で下ろされた
湯に浸かり汗を流す
部屋に戻り、今頃シャンは睦まじくしているのだろうかと思うと笑いがこみ上げてきた
幸せになって欲しいなぁ
そんな事を思いながら眠りに落ちる
目覚めると、朝の支度を済ませ談話室へと向かう
其処には御真影が飾られており、見ているだけでとても嬉しくなる
相変わらず其処で新報を読んでいるワンワンに、ありがとうと言うと、ワンワンはああとだけ答え、付いて来いと言って立ち上がった
私は御真影に一礼しワンワンの後に続く
そのまま車寄せに向かうと、そこにはシジュウ様達が何かを隠す様に並んでいらっしゃる
新しい銀輪だろうか⁈
先日保養地で速そうなかっこいい銀輪を私が食い入る様に見ていたのを覚えておいて下さったのだろうか
「私とおふくろ様からだ」
ワンワンの言葉を受けシジュウ様がたが道を開ける
“コレは!コレは動輪ではありませんか!”
シジュウ様は驚く私を満足げに眺め
ワンワンはコレもなと言って動輪用の兜を差し出した
私は犬の様に動輪の周りをぐるぐると回る
「それと乗る時はこれを忘れるな」
ワンワンが一枚の札を差し出した
「お前の運転免状だ、まあこの地で乗り回すぶんにはいらんのだがな」
“コレは?コレはいつの間に⁈”
「何度も試験をやり直すので頭を抱えたぞ」
ワンワンはそう言って笑う
“もしや勉強しては同じ様な試験を受けさせられていたアレですか?”
シジュウ様は頷き、ワンワンに任せたのですがまさか三月もかかるとは思いませんでしたと笑う
“毎日同じ様な事を教えられ、それが終われば毎日同じ様な試験を受けさせられて、私は毛のむしりすぎでワンワンが少し足りなくなってしまったのかと心配していました”
ワンワンがコラと言い私の頭をコツンと叩く
“それにしてもコレは?”
「昨年より動輪の自家用販売が許されたのはお前も知っていますね」
“新報で見たと思います”
「大森林のそれぞれを繋ぐ道や街の中の隅々まで整備が終わり、それにあわせ動輪の自家用販売が許されました、今、各動輪工場では月に三万台の生産を目標に動いています」
シジュウ様の言葉を受けるようにワンワンがそれでも注文から半年待たねば手には入らんと笑う
「それは主人様の僕だからと言って変わるものではありません、この日のために八月前に注文をしていました」
“動輪は大人の乗り物と思っていました”
「ではそれまで預ろうか?」
もう!と軽口を言うワンワンを叩き受け取った兜を被る
「では簡単な説明とその後に乗り方を教えましょう」
シジュウ様とワンワンからの生誕祝い
白く輝く動輪
斬りつける様な二つの前輪に逞しい一本の後輪
昼は陽の光を力に変え
夜は油を燃やし車輪を回す
それは銀輪の十倍も早く百倍も力強い
頂いた兜と黒革の乗車着
早速走りにと思ったが、朝食の後にしろとワンワンに笑われた
「銀輪も今まで通り大切にしろよ」
ワンワンの言葉にはいと頷き、朝食へと向かう
夜中に主人様と御屋敷を抜け出し大森林の中を動輪で駆け巡ったり
白の街の大通りを駆け抜け【姫様の車輪魔獣】と呼ばれたり
後ろに乗せてあげましょうかと誘ったワンワンに真顔で私の方が早いと言われたり
これまた乗せてあげようとしたシャンに怖いからヤダと怯えられたり
そんな事が沢山起きるのだけど
それは青石戦争とか呼ばれるめんどくさい事の後の話




