続菓子泥棒
棚の菓子?
知らんよ?
あんな歯が浮くほど甘いもの私は食べんよ
私は酒と酒と酒があれば良い
それより大樹の葉でものめ
美味しく無い?
まあそれはそうだな
煮ようが焼こうがビクともしないからな
刻んで飲み込む位しかない
しかしお前の様に菓子が好きなやつを見るとリヨを思い出すよ
ん?ああ違う違う、あのリヨではなく先代のリヨさ
リヨだけはな。先代の名を継いだ二代目なのだ
いや別に血の繋がりはないぞ
同じ一族でもない
アレがリヨの名を継ぎましたと紹介された時は先代とのあまりの違いにそれはどうかと首を捻ったものさ
先代?
ほっそりとしたヤツで甘いもので酒を飲むのが大好きだったよ
武器は二枚の盾
それが変わったヤツでな、その盾で相手をぶん殴るのさ
投げつけたりもしていたぞ
第一盾たるものが盾で身を守るなどあり得ん
まあ面白いヤツだったよ
うん、死んだ
焔の魔女から私達を守ってな
ヤツが盾を盾として使った最初で最後だったな
ああヒバナさ
別人なのだろうがな
あの顔を見るとどうしてもな
ん?ああ、ワンワン様のいぬ間を狙い主人様のお命を狙ったのさ
ワンワン様は大森林にあって主人様など知らぬ我こそこの世の主人よとぬかすトカゲ供に心底頭に来られていてな
特に四竜と名乗るトカゲの奴らを見つけては狩り殺していたのだ
何万年も逃げ回っていた最後の一匹、黒トカゲをついに見つけたとワンワン様が飛び出したところをな
己の力に溺れた焔の魔女が主人様のお命を奪いに来たのだ
主人様はあの様なお方だ
ああ良いよと殺されてやると言いかねん
その上、不意を打たれたとは言えシジュウ様達も焼かれてしまったのだ
もちろんシジュウ様が本気を出されれば焔の魔女など木っ端の如くなのだがいかんせん急すぎた
主人様の前に残されたのは私達盾の七人
トウ、ジツ、リヨ、シャ、私、ヨウ、オキ
シャとヨウの話は聞いているな
アレは寝床から起き上がれずとも夢と現の狭間になってしまっても盾として主人様のお命をお守りし続けているのだ
オキは跡目が決まらぬがここではないところで永久に主人様をお守りしている
まあその三人もまだ元気一杯だったんだが
それでも焔の魔女は恐ろしく強い
ワンワン様に討たれた赤トカゲ《赤竜》の力を受け継ぎその残党を引き連れていた
火トカゲ供はまだ何とかなったが
今のヒバナはヒトの姿をしているが焔の魔女は炎なのだ
まさか十万年経ってまた姉達と戦った赤トカゲの生まれ変わりの相手をするとは思わなかったよ
いや苦戦どころではない
ワンワン様を呼ぶ声を上げる隙もない程だ
一瞬でいい、隙を作るぞと声をかけた時だ
おう!と叫んだリヨが両手に盾を構えそれで焔の魔女を抑えたのだ
リヨは燃えながら捕らえたぞ!と叫び燃えおちた
しかしリヨが命をかけたその一瞬でワンワン様をお呼びする声を上げることができた
次の瞬間には灰になったリヨに良くやったと膝をつき声を掛けるワンワン様がそこにいらっしゃった
殺してもらえると思うなよ
ワンワン様は焔の魔女にそう吐き捨てると真っ赤に焼けるリヨの盾を手に取り焔の魔女を殴りつけたのだ
十万年振りに炎が飛び散る光景を見たよ
まさか魔女も炎の身で殴られるとは思わなかったろうな
後はもう話にもならなかった
やろうと思えば一撃で焔の魔女を仕留めることも容易いのだろうが、ワンワン様は焔の魔女を逃げることも許さず馬乗りで殴り続け
どれ程殴ったのか焔の魔女は動かなくなり
まだ燃えて居たから死んではいないのだがワンワン様はそれを引きずり主人様のもとに引っ立てるとベコベコに歪んだ盾をかかげこう仰ったのだ
盾が一人、リヨが焔の魔女めを討ち取りましたと
主人様はそうか良くやったと仰られ
リヨは美しかったかとワンワン様に聞いて下さった
ワンワン様は美しく安らかにと答えて下さった
盾が欠けることは珍しいことではない
しかし主人様は私達に葬いとして盾の中にその名を永遠に残せと仰って下さったのだ
私がその名を継ぎますと答えたのだが
お前にはもう継いだ名があろうと許されず今のリヨか加わるまでその名のみが盾としてお主人様をお守りして居たのさ
さっきも言ったが今のリヨを見た時これが?と首を捻ったが菓子作りが好きだと聞いて成る程と笑ったよ
先代は食べるのが好きで次は作るのが好き
次のリヨにもぜひ菓子が好きであって欲しいものだ
ん?私の名?
そうだよ、母である姉からもらったものだ
いや、間違って居ないよ
私を産んだのは私の一番上の姉さ
昔は血が濃くなると言ってそういうのを喜んで居たのだ
前に話したろう?
私達エルフは男なら父の名を
女なら母の名を頭に頂く
私なら【ジン】の娘【ミン】その娘【セン】その子【セン】と言った風に
あまり長くなってくると自分の親あたりで仕切り直す
ん?なぜ姉母と同じ名か?
【セン】とは私の郷の言葉で【姫】という意味でな
姉母が私が産んだ時この子こそが姫だと言ってその名を下さったのだ
なんせ私はエルフ王だからな
ああ、リヨの話だったな
盾が欠けたのは今の所リヨが最後だ
昔は主人様のお命を狙う者が多くてな
まだ習っては居ないだろうが、大森林の法の何処にも主人様のお命を害してはいかんとは書かれて居ないのだ
主人様の事を街の真ん中で口汚く罵っても誰も咎めん
それが主人様が望まれた事だ
ちなみに《大樹》で私の悪口を言うと死罪だぞ?
ああすまん
リヨだな
リヨの事はワンワン様も大変気にかけて下さった
私の落ち度だと
ワンワン様はあの日以来甘い物を断っていらっしゃる
昔は食べていたのだぞ
いや、誰かにそれを言ったわけではないがあの日から甘味を断たれた
いつぞやワンワン様が氷を召し上がられただろう?
アレは氷菓の代わりなのだ
だから菓子を食べたのはワンワン様と言うことだけは絶対に無い
それは大樹に誓える
酒を賭けてもいい
私はヒバナが怪しいと思うが
あいつはいつも蛮族館で菓子をつまんでいるからな




