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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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十五話(い)

目が覚める

昨日は早めに店を閉めれたから家に帰ってゆっくりと寝ることができた

お客が遅くまで粘った日は店の奥にある休憩室兼仮眠室に泊り込む

だからあんまり家には帰れてない

商売は酔っ払いの皆さんに支えられているのでギリギリ赤字の線の一歩手前で踏みとどまっている


顔を洗いヒゲに剃刀を当てる

父ちゃんと母ちゃんに挨拶をして朝ごはん

リンは一足先に白のお屋敷へお勤めに出た

普段は三日休んで一日働いての繰り返しなんだけど、今日はお屋敷でスズの生誕祭を開くので臨時のお勤めだ

お勤めの日は三食出てたっぷり休みもあるので家でご飯を食べずに勤めに向かう


もう結構前かな、お屋敷が広がって迎賓館ができた時、もう屋敷守としてヒバナさんが決まっているのにリンが拗ねて駄々こねて、可哀想に思ってくれたスズがシジュウ様と相談してくれて

お屋敷の使用人では無くスズが個人的に雇う形として受付の仕事をもらった

給金は金貨かその時は出回り始めたばかりの白札かどちらが良いって言われ

母ちゃんが金貨にしとけと言って金貨にしてもらった

母ちゃんは今でもあまり白札を信用して居ない

いくら価値が下がってもいざという時は金貨が頼りだっていつも言ってる


ちなみに屋敷守のヒバナさんは給金の類はもらってない

タダ働きするためにせっせと故郷から通っているらしい

誰もそれを見た人はいないけど


その割にヒバナさんは仕事が終わると白札を握り締め僕の店に友人と来てくれる

ただヒバナさんは白札をよくわかっていなくて、大札も中札も小札も区別できてなく

ある時は大札の束を渡して来たかと思うと次は小札の束を渡してくる

多すぎたり足りなかったり毎回メチャクチャなので、大札を渡された分を取っておいて、足りない日は其処から引いてってふうにしている


リンが言うにはスズの屋敷から白札を失敬しているとか

スズにそれとなく聞いたが別に息抜きに少しくらい持って行くくらいなら構わないって気にした様子もなかった

個人的にはちょっと性格がアレな人かなと思うが大切なお客さんだ


朝ごはんを片付け

ちょっと身なりを整える

うーんムダだね

いっそのこと正装で来いって言われれば諦めがつくのに


結局いつもの格好で家を出た

これもつい、いつもの癖で領主の店の前で配られる白札と硬貨の今日の交換表を一枚手に取った

金貨は変わらず

銀貨は少し値下がり

銅貨は値上がりしたけど気にするほどの動きじゃない


なんに使うかは知らないけど領主も正堂もスズの屋敷のために銅貨をせっせと集めている

よその街がこぞって欲しがるスズの国元から取り寄せた塩や砂糖、それに高いお酒を銅貨の支払いを条件に取り扱っている

レーダの街では硬貨が減った分だけ白札が出回るからあんまり気にならないけどよその街では銅貨をせっせと鋳造して取引に備える事までしているそうだ


店につくと鍵を開け狭い店の中を見回る

食料庫の中は冷石で程よく冷えている


この冷石は優れものだ

レンガほどの大きさで二日は冷やし続ける、昨日二個置いておいたからしばらくは大丈夫だろう

これのおかげで生肉の日持ちが格段に伸びた

冷たい飲み物も広まった

水を凍らせるほどでは無いがとても便利な物だ


スズの国元の材料とゴブリンの祠で行われる儀式が合わさり出来上がるものらしく、ゴブリン達だけが取り扱っている

もちろん僕らはゴブリンの言葉がわからないから正堂を経由して注文をする

翌日には街中に入る事を嫌がらないゴブリンが店先まで届けてくれる

ある日、いつもありがとうとお礼に豚の臓物を渡したら僕の胸をツンツンとつついた

正堂で配ってある他種族との手引きによると【ありがとう】と言っていたようだ


もともとゴブリンの祠と街とはエルフの森を挟んでいたので襲われたとかさらわれたみたいな話はなかった

むしろエルフとゴブリンは昔から険悪らしい

スズがエルフ王という人と鬼の姫という人を連れて来てエルフとゴブリンの手打ちをさせたらしい


鬼の姫ってなんか怖そう


手引きを読むと結構面白い

例えばゴブリンは好きな相手に噛み付くそうだ

猫みたい

ちなみにゴブリン達も同じような手引きを持っていて、ある日ゴブリンが持って来た冷石が一つだけで、僕が頼んだのは三つだよと手引きを見ながらやって見せると向こうも手引きを見ながら自分を指差してから指を一本立てそれから正堂を指差した


【自分が頼まれたのは一つだけで文句は正堂に言ってくれ】


会話が成立するんだからすごい

ちなみに間違えたのは正堂で次に冷石を持って来た時に謝ってみると向こうも気にして無いよと僕の腕をポンポンと叩いた

お酒を勧めたこともあるけど仕事中だからダメって感じの事を言われて断ってきた

多分エルフなんかよりよっぽど真面目なんだと思う


さてさて

酒蔵も大丈夫

騎士や正堂隊が夜の見回りを欠かさないから昔ほど盗みの類いも多く無い

それに薪の配達や夜間農作業でゴブリンが結構夜に出歩くのも一役かっている

むしろ在庫自体が心配だ


ウチは有難いことに白のお屋敷のお酒を取り扱わせてもらっている

シャンが事あるごとにニセモノだとか水で薄めてるとか商売の邪魔をするけど


店を出した祝いの日

シャンとスズのほかに御付きのエルフ達とワンワンさんにヒバナさんがやってきて

用意していたお酒はマズイだぬるいだ言われながら全部飲まれ

肉の類はワンワンさんが骨ごと食べきりすまんこれしか無かったのかと謝られ

おつまみは試食と称した女達の悪口に費やされてしまった


その他にもいろいろあって途方にくれた次の日の朝

泊まっていったシャンと入れ違いにシジュウ様がやって来て、馬鹿どもと出来の悪い者が迷惑をかけたと謝り、これを使えといってゴーレムに引かせて来たお屋敷のお酒とチーズや燻製肉を置き、明日の仕入れに支えと言って白札のレンガみたいな束を置いていかれた


さすがに白札の束はお返ししたけど

お酒は使わせていただいた

白のお屋敷、その国元から取り寄せた銘酒だと言って呼び込むと、どこのパチモンだいと冷やかすように何人かが釣れた

スズの国元でしかできない上等な作りの瓶を見せグラスに注いで見せる

初めての客は一口飲んで目を剥く

なんだいこりゃ⁉︎この世のものとは思えねえ!

そんな事を口々に叫び

時間が三つも進む頃には狭い店は満席御礼


お酒は頂いた物なので値段は普通の酒と同じで出した

急いで買いに走った普通の酒は一本も口を開けぬままその日は閉店になった

狭い店の片付けはあっという間に終わり、売り上げを数え明日の仕入れの分とシャンに返す分の積立を引くとなんと黒字だった


ホッと胸をなでおろし翌日を迎え、お屋敷のシジュウ様に御礼に伺った

シジュウ様は酒がなくなれば言うと良い、タダとはいかないがスズがいつも世話になっている分くらいは色をつけると言って下さった


数日経ち流石にお酒も心許なく、お屋敷のシジュウ様にお酒を分けていただこうとありったけの硬貨と白札を抱えて行くと銅貨だけ置いて行けと言われ、酒瓶を木箱ごと下された

なので僕の店は銅貨歓迎だ

もちろん白札も

流石に金貨で払う人はいないが銀貨で払う人には白札でお釣りを渡すことにしている

瓶ごと売ってくれと言う人も多いが一応断っている

お屋敷から瓶を渡していいとは言われてませんと言うと大体相手は黙るし

空いた瓶はお屋敷で引き取ってくれる


さてさて

まあお酒も心許ないとは言え今日明日と言うほどでも無い

休憩室をちょっと覗いて店を出る事にした

それにしても休憩室を見てしまうとシャンのほっそりとした身体を思い出してしまう


ほんの一年前まで

店を始める前までは姉貴分というかそんな存在だったのに


開店前祝いのあの日

散々な事になりながら残ってくれたシャンと二人店の後片付けを終わらせ

夜も遅いのでシャンが泊まると言い

寝床は一つだよと僕が冗談で言うと

何でかシャンはおとなしくなった

やだな、今更意識しないでよと思ったけどそんな態度を取られると何だかコッチもおかしくなって

シャンにお前女知ってるか?言っとくけど私は男を知らないぞって突然言われ

僕がウンとかなんとか戸惑っていると

一回やっとくっのもアレだよな、お互い、な?とかなんかそんな訳分からない事言い始め

私とお前なら大丈夫だって言われた所からはよく覚えていない


覚えているのは安物の光石が薄暗く照らすシャンのほっそりとした身体


それからはお互い何も無かったように振舞っているのだけど

以来シャンはたまに遅くに飲みに来ては泊まっていき

酔ったからってその度にそんな事になっている

お互いお酒なんかちょびっとしか飲まないのに


誰にも喋っていないのに僕らの関係は白街の商店では知らない人は居ない

何でだろう?


この前なんか商店街の顔役さんにお前好みの店に連れて言ってやるって裏通りにあるエルフの女がやっているいかがわしい店に連れて行かれて

どおだ?お前さんこんな女が好きだろう?って言われてすごく返事に困った


何思い出してんだかと考えながら休憩室を出かけて引き返し、光石がまだ足りているかを確かめた


この光石もゴブリン達の祠で作られたものだ

賢人様の物より薄暗くて光も濁っているけど何と言っても安い

祠でトロルやオーガが力任せに作るらしくとても安い

まともに光らない不良品も多いが一山いくらで取引されるので問題は無い


光石の残りもまだ足りているのを確認して改めて休憩室を出た

そしてあちこちに鍵をかけ、よしと独り言を言い店を見上げた


もう一生シャンには頭が上がらないなぁ

そんな事を思う


最初は屋台を始めるつもりだった

それで安く作ってもらおうとシャンに相談に行ったんだ

何たって家出娘とは言え正堂組のお嬢さんだからね


話を聞いたシャンは仕事を休んだり午前中で切り上げたりして色々付き合ってくれた

役人への届け出とか

白街商店の顔役への挨拶とか

店を出そうと思う広場の下見とかそれはもう我が事のように

本当に姉御肌だなと頼もしく思った


そんなある日、シャンは僕を連れ白街の一角へ行きここでどうだと聞いて来た

場所は申し分ないけどこの小屋の人がなんて言うかな

僕がそう答えるとシャンは何言ってんだって顔で、この小屋でどうだって言ってんだよと僕の頭を叩いた

そんなお金はないって言うと、金の事は心配しなくて良いと言ってそのまま役人の所へ連れて行かれて小屋の権利金と役人への手数料を金貨でポンと払い僕に権利書のサインを書かせた


役人からはお前いい女捕まえたなとからかわれた


小屋の改築は私の知り合いに頼んだとシャンは言って、僕を正堂組から独立したばかりの大工の所へ連れて行き、図面と見積りを見せられこれでいいなと言われてサインを書かされた

ここの支払いもシャンが金貨で見積り額を一括で払ってしまった

若い大工はお嬢さんを頼みますと僕に頭を下げ僕は訳も分からずこれはどうもと返事をした


もちろんシャンに叩かれた



家に帰り冷静になるととんでもない事になったと今更焦り出し

市場から帰ってきた父ちゃんと店から戻ってきた母ちゃんに事情を説明した

二人は流石にそれはまずいと、僕と三人正堂組の大棟梁の所へ行き事情を話す

大棟梁はあいつが良いって言うなら自分は良いんだがそんな大金渡した覚えはないって言って、シャンのおばさんも加わって五人でシャンの家に行く

シャンはうるせえなあ疲れてんだぞとだらしのない格好で出迎え、とにかく入れと僕らを中に入れるなり金の事だろと向こうから切り出した

シャンが言うには昔シジュウ様からスズと遊んでくれてありがとうと言われて貰った金だと言った

僕はそんなもの貰った事がないと呆れると、お前の分も私が預かっておいたと面白そうに笑う

確かにシジュウ様は昔からシャンの事を気に入っている風ではあったけど

とにかく確かめようとシャンを引きずり六人でお屋敷を訪ね

めんどくさそうに出てきたシジュウ様に事情を話すと確かにそれに駄金を渡した、足りなければいくらでもやるがと言ってそれがどうしたみたいな顔をされた

もうこちらは黙るしかなく

シジュウ様はシャンを見て傅けば城の様な店を建ててやるぞと言われ、シャンは十分城だよと言い返していた


その後大人達も交えとにかく今回のお金は働いて返しておけと言う事になった

シャンもやったんじゃねえぞ貸したんだと言って金貨じゃなくて白札で返せよと笑った


だから僕は身分不相応な店を必死に切り盛りする

お金を返してもシャンに頭が上がらないのは変わらない気がするけど



今日は白街の商店総出で正堂の手伝いをする事になっている

僕も正堂でお祭りの準備の手伝いだ


顔役に言われ正堂の人達と準備をしていると病院へ向かうシャンに会い、他愛のない何時もの様な会話をして別れた


立ち去るシャンの後姿を見つめ思う

僕がスズの髪は風になびく草原みたいで綺麗だと言えばシャンは意地になり、髪を伸ばさず

スズはいい匂いがすると言えば明くる日からシャンも石鹸の香りが漂う様になった

そんな意地っ張りな彼女はきっとずっと僕といるんだろうなと思い笑う

何だよ、これじゃあまるで僕がシャンに惚れてるみたいじゃないか


正堂のひとがそんな僕を見て溜息をついていた


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