十五話
目がさめる
んーと伸びをして寝床を降りた
石壺を覗き込んで火箸で火石をつつき小さなカケラを取り出す、少し大きかったかとも思ったが桶に張った水に火石のカケラを落とした
直ぐに桶から湯気が立ち上がる
桶の中のお湯で顔を洗い身体を拭う
もう毎日の習慣だ
フウの奴がスズはいい匂いがするとか気持ち悪い事言って以来続けている
火石に小さめの薪を押し当て火がつくのを待ち竃に投げ込む
割れ薪が少なくなってきたから今日あたり買って帰るか、なんて考えながら湯を沸かし
その間に着替えてしまう
竃で温め直した買い置きのパンと豆のスープ、それにスズからもらった葉で入れたお茶で朝飯を手早く済ませる
身なりを整えストッキングを履き財布の中身を確かめて家を出た
道々白の街をながめ思う
私が家を出て一人で暮らしを始めたのが二年前
二年前、17になった私はおっさんに言われた
若い衆の中の誰かを婿にしないか
それなら俺も安心出来るって
その時は冗談じゃねえって突っぱねた
でも、あんまり毎日しつこくて
こっちもなんだかんだ言って居候だし
悩んだ挙句スズに頭を下げ白の街に家を用意してもらった
仕事も見つけた
見つけたって言うか声をかけられた
スズの所のリヨとか言うでっかいエルフの手伝いだ
毎日ストッキングを履けるぞって言われ飛びついた
給料は白札でも金貨でも好きな方で良いと言われ白札にした
今じゃ金貨はスズ達がこの街に来る前の半分の価値しかない
思えばスズがこの街に来た最初の年が変わり目だった
レーレンとの戦のあとフッツは辺りの領地を与えられ、街も広がることになった
貧民街の裏手が開拓される事になりその一帯を貧民街も合わせて白の街と呼ぶ事になった
貧民街は領主のテコ入れであっという間に変わったし
スズが国元から持ち込ませた、私が今住んでいる白家って呼ばれる四角い積み上げても繋げても使える家は住む事自体がこの街のステータスだ
軽くて頑丈で窓もあってガラスもハマってる
スズも最初の数日はこれで過ごしたって言ってたな
今じゃ犬小屋らしいけど
白の街の先は耕作地として正堂が管理している
領主が貧民街の住人に仕事を与えようと荒地の開墾に乗り出すとスズの所のゴーレムが一月もかからず岩も木の根も掘り出し、耕し土を肥やし、井戸を掘り、そこまでしてから入植者に明け渡した
白家も最初は入植者向けに用意されたものだった
元からある街みたいに壁はないが特に問題も無い
なんせ今じゃエルフもオークもゴブリンもみんなスズの所にひれ伏して人里を襲う様な事も無い
もちろんお互いの住む場所が近づいたからそいつらとのいざこざは有るがそれだけだ
よその街じゃ信じられないが、この街じゃ薪の配達を夜のうちはゴブリンが、昼のうちは人間がやっている
耕作地の人手不足解消だとか言ってオークが畑を耕しているのも珍しくない
さすがにアイツラも街中に来るのは嫌がるけど
白の街の辺りでその姿を見ても誰も驚きゃしない
正堂の門をくぐると薪屋へ向かう
シジュウはあの戦の後、正堂に火石を取り扱わせた
石の姿をした炎の固りだ
これが瞬く間に街中に広まった
薪を押し付ければ直ぐに火がつき
カケラを水に放り込めばお湯が沸く
コレのおかげで街の生活はガラリと変わった
火事も増えたが、だから火石を使うのをやめようという奴はいなかった
起こった問題は薪の不足
みんなボンボン火を炊くもんだからいくら薪があっても足りやしない
そこで正堂はシジュウが持ち込んだいくらでも生えて来てあっという間に伸びるスカスカの木を砕いて薪として売り始めた
正堂が始めた商売のふたつ目だ
ヤニが多くて煙突が汚れるが背に腹は変えられない
割薪一袋が安いパンひとつと同じ値段
三袋あれば私みたいな独り者なら結構持つ
この薪を正堂のガキかゴブリンあたりが家の前まで届けてくれる
手間賃がいるが便利だ
「薪を三つ、家の前まで」
店先で店番の小娘に声をかける
「火石も一緒にいかがですか?」
「それはまだあるからいいよ」
抜け目のない商売だな
「それと届けるのは明日になってしまいます」
「まあ今日はそうだろうな」
「医師の助手様の所に三袋、配達代も合わせて、あ、支払いはどっちでします?」
「白札で」
「はい、では小札五枚です」
私は白札を五枚取り出し娘に渡す
店の奥では何台も並んだ薪砕きにガキがせっせと木をぶち込んでいる
ここで暮らすガキ達が最初にやらされるのがコレだ
薪割、メシ、説教
それをみっちり三月
まあ救済院の頃の百倍マシだな
札入れの中を覗き込みながら店を出る
この白札だってそうさ
シジュウが正堂と領主の店で取り扱わせたのが始まりだ
シジュウは身近なものを正堂で取り扱わせる代わりにあいつの国元から運ばせた塩と砂糖を領主の店だけで取り扱わさせた
雪みたいに真っ白な砂糖と砕いた水晶みたいな塩を
街の奴らには、白札を持っている奴優先にそれを売った
まあそんなのはちっぽけな事で、デカイ取引相手はよその街の商店
そいつらにシジュウの言い付けで銅貨で支払う事を条件に取引をさせ
その銅貨を領主からシジュウが引き取り代わりに白札を渡す
領主はタダでもらった塩と砂糖を元手に金をたんまりと溜め込む
あいつは銅貨以外も手数料と言っていろいろ受け取ってるからさ
シジュウがなんでそこまでして銅貨を集めるのかは知らない
白の屋敷に納められた銅貨は奴の国元に送られているってスズに聞いたが、使い道はスズも知らない
シジュウから渡された白札を領主は街の奴に正堂で使える金として給金や支払いの一部をそれですませる
正堂も白札の方が割りがいい様な値段で物を売っている
だからみんな白札を欲しがる
あとはお察しくださいだ
薪屋を出て直ぐ隣のパン屋へ入る
リヨは一度仕事を始めると午後過ぎに診察を打ち切るまで休まない
おかげで私も休めない
だからパンを買っておいて手の空いた時に口に放り込む
「しっかし今日は何にもねえなぁ」
パン屋の棚はスカスカで
貧民用のパン以外はロクなものがない
「夕べから掛り切りですからね、我慢してください」
パン屋のガキが仕方ないですよと笑い
これ嫌いなんだよなと言いながら私は売れ残りの豆でかさ増ししたパンを買う
白札を一枚払いオマケにバター片をひとつ入れてもらい店を出た
しかしでかくなったよな
正堂は救済院の時の十倍くらいの規模になったよな
病院に向かっていると知った顔に会う
「よう、お前店はいいのか?」
「今日は休み、どうせ酔っ払いしかこないよ」
「せっかく店を出したんだから頑張れよ」
「うん」
「じゃあな」
「夜、どおする?」
「このまま行く」
「その格好で?」
「誰も気にしねえよ」
「それもそうだね、分かった」
フウの奴は下ごしらえの手伝いにでも来たんだろう
あいつも去年、親元を離れて白の街にちっこい軒先だけの店を出した
開店資金は私が立て替えてやった
別に懐は痛まねえ
シジュウから押し付けられた金貨が増えて邪魔になったからフウの奴に押し付けただけだ
必ず返すって言うから白札で返せって言っといた
フウの出した店は安い酒とマズイツマミや惣菜を売る屋台に毛が生えた様な店で
材料の仕入れは正堂の農場
鶏肉と豚肉もそこからだ
酒の出どころは知りたくもねえ
肉といえば正堂は牛飼いの手配が済めば牧場も始める予定だって言うから笑っちまう
救済院ってこんな所だったっけ?
正堂組と書かれた看板の前を足早に歩いていると仕事場に来た見知った奴に捕まる
「あねさん、今からですか?」
「ん、ああ」
「戻ってこないんですか?」
「いゃあ、おっさんがうるさいから」
「心配してますよ」
「分かってる、じゃあな」
「行ってらっしゃい」
いつの間にかおっさんは白の街で五本の指に入る男になっちまった
正堂の手入れを一手に引き受け
大工以外の職人もバンバン雇い
今じゃ棟梁たちを束ねる大棟梁だ
ちなみに尼さんが去年産んだ赤子がおっさんそっくりなので大棟梁の株は絶賛大暴落中
かあちゃんがこのバカ兄貴って嘆いてた
病院につくと、玄関にハラワタ抜き取られたイノシシが転がっていた
「またかよ」
私は人を呼びそれを正堂の台所番の所へ運ばせた
中へ入ると蜘蛛みたいに手がたくさん生えたゴーレムが出迎える
こいつが本当の助手って奴
医師の指示を聞いて働くすごい奴だ
それに医師が帰った後の急患や薬泥棒退治まで何でもあれのすごい奴
私はゴーレムのケツをポンと叩いて挨拶すると白衣に着替える
私の仕事は医師様の手伝い
本当に意外だがあのデカブツエルフのリヨは医者で
シジュウの指示で、正堂と名前を変えたばかりの救済院で医者の仕事を始めた
最初はその見た目にビビっていた救済院のガキどももすぐに医師様医師様ってつきまとう様になり
リヨの奴もコレは天職かもしれんって顔を真っ赤にしながら言ってた
子供に囲まれるのが嬉しくてしょうがないらしい
私はその変態医師様の雑用係と言うわけさ
リヨが来るまでに支度を済ませ、待合室に患者を入れる
診察開始直前にリヨが入って来た
ギリギリまで自分の趣味に浸ってからの御登場だ
「さて、今日は忙しくなるぞ」
リヨが白衣に袖を通す
「今日も一頭転がってたぜ」
私は朝のイノシシのことを伝えた
「貰うわけにはいかんしな」
病院は報酬を受け取らない
受け取ると金塊抱えて私を先にって奴が出て来るから
ここは来たものを順番にがルール
急患は別だぞ?
リヨの口癖さ
「正堂に寄付しといた」
「それでいい、ゴブリンの子供を診察するたびにコレなのだから諦めるしかないな」
リヨはそれでは最初の者と言って診察を始めた
ゴブリンの親子が入りウゴウゴギーギーと叫ぶ
リヨはふんふんと頷き、ちっこい方のゴブリンの口の中や耳を覗き腹の音を聞く
ゴーレムにちっこいゴブリンを触らせひとり頷くとでっかい方のゴブリンの手を取り話し始めた
リヨが手を取って話せば言葉が通じるらしい
仕組みはわからん
私はリヨがスラスラと書いた紙を受け取る
こいつらの書く文字は相変わらずよめないが数字は読める
何番をいくつと書かれた紙を見ながら薬棚まで行き、そこからそれを取り出し戻ると、小さいゴブリンがゴーレムに針を刺されて叫び声をあげていた
私は持って来た薬をリヨに渡す
リヨは薬の半分をその場で飲ませ残りの半分を持って帰らせた
ゴブリンは泣き止む気配のない子供を抱え病院を出る
私が戸を開けてやるとゴブリンは指で私の胸をトントンとつついた
奴らが感謝した時の仕草だ
私は診察室に戻るとすぐ次の患者を呼び込んだ
今日の診察は昼飯過ぎまでと何日も前からふれて回っていたせいか、虫歯から死にかけまで引っ切り無し
急患で《ゲカ》とか言う人の身体を切り裂いて治す奴も二人きた
パン食う暇もなかったね
「さて、今日はここまでだな」
ヘトヘトになった私を見てリヨが元気にしてやろうかと笑いながら薬針を摘んで見せる
あれを打てば元気百倍だがどっかおっかなくて断った
「なあ、森やゴブリンの洞窟にもこいつは居るんだよな?」
私はそう言って助手ゴーレムのケツを叩く
「ああ、ちゃんと薬もあるし施術用の小屋も有るぞ」
「じゃあ何であいつらワザワザここまで来るんだ?」
「私が渡す薬の方が効くそうだ」
「なんか違うのか?」
「一緒だよ」
分かりきった答えを聞き溜息が漏れる
リヨはそれも医者の勤めだと笑いながら手を洗った
ああ疲れたと愚痴りながらパンを咥える私にリヨが余計な事を言いやがった
「まだひとりなのか?」
「そーだよ、炊事や洗濯に大忙しその上仕事は安月給」
「所帯を持てば良いだろう?ホラあの何時も一緒の」
「うるせえ」
あれだけフウに御執心だったこいつは、フウに毛が生え揃うにつれ興味を無くし、そんな意味じゃ今は安心だ
「寝たのだろ?」
「うるせえ!ちょっとどんなもんか試しただけだ!」
リヨはキョトンとした顔をしてそんなものか?と首をかしげる
そうさ、ちょっと試しただけださ
だいたいあの日はおかしかったんだ
フウの店の開店祝いでスズに変なまっずい草食わされて
そっから調子が狂って
全く
ん?まてよ?
私は誰にも言ってねえぞ?
「誰に聞いた」
「お前からだよ」
「嘘つけ!」
「私は医者だぞ?」
「だからなんだよ」
「見ればわかるって奴だ」
最悪だ
「さて、もう少し手伝って行かないか?私は今夜振る舞う施しを手伝ってから戻るんだが」
「金くれるんなら」
「交渉成立だな」
正堂の厨房に樽みたいな鍋が並び
その中で野菜や肉が煮込まれていた
パン釜では絶え間なくパンや菓子が焼かれている
「まるでお祭りだな」
「祭りなのだろう?」
「どうだか」
祭りさ
この街にとっては
王様の使者も来る
祭りなんだろうな
釈然としないけど
リヨは鍋を覗き込み水の量は間違いないかと料理番に確かめ、私達には読めない文字が書かれた袋を持って来させその中身の粉を計っては鍋に入れ、かき混ぜた
コレも魔法なんだろうな
あら不思議、粉を入れた鍋の中身はシチューに変わりました
千人分だか二千人分だかのシチューが出来上がる頃、外が少し騒がくなる
姫様!白姫様!
そんな声が聞こえてきた
「そう言えば手伝いに来ると言っていたな」
リヨは子供に汗を拭われ御満悦顔で呟き
私は酷く不安になる
「大丈夫なのか?」
「シジュウ様に手ほどきは受けているよ」
何で苦笑いしてんだよ
全く
白姫様がいらっしゃったぞと言われスズが厨房に入る
スズは案内したガキにありがとうと言って辺りを見渡した
「よお」
「シャン、手伝ってるの?」
スズは笑いながら駆け寄る
「小遣い稼ぎしてんだよ、こいつがやっすい給金しかくれないから」
私の言葉にリヨは首をすくめ、スズは声を上げて笑った
「それじゃあ私も手伝うわ」
スズがリヨに何かさせてと言い
リヨは氷水が入れられた樽を指差した
「じゃあアレにこれを二杯ずつ入れてかき混ぜてくれ、果実水の元だ」
スズは任せてと言って金物で出来た容器を受け取り、料理番の女を何人も引き連れ樽へ向かった
「あれなら間違う方が難しい」
リヨは小声で私に呟く
リヨは焼きあがったパンを器のようにくり抜かせそこにシチューを入れ、こぼれないかを確かめた
くり抜いたパンはもったいないから横に添える
「問題ないな、よし」
リヨは満足し、あとは上手くやれよと料理番達を見渡す
やれやれってところだ
ところが
「リヨ!足りないわ!」
スズの声が響いた
「何?余るはずだぞ?」
リヨは驚いて氷水の入った樽を数えその中を覗き込む
「スズ、二杯ずつと言ったじゃないか」
リヨは、泣きそうな顔でスズの後ろで畏り、お止めしたのですがと呟く料理番達を見渡した
「たくさん入れた方が美味しいじゃない」
スズはポンポンと空になった果実水の元を叩き
リヨは泣きそうな顔で樽の中を移したり戻したりして味を整えた
今日の祭りで振舞われる安酒を担いだゴーレムの到着を見届けると、リヨはこの子達の汗を流してから戻るよと言って正堂のガキ達を連れて嬉しそうに湯場へ向かった
それを見送ったスズは本当にリヨは優しいと笑う
まああいつが湯場でガキに何してるか知ったらそんなこと言えなくなるけどな
「シャンは今日来てくれるんでしょう?それなら一緒に帰りましょう」
スズは嬉しそうに笑って私の手を引く
白祭り
白姫様の御生誕を街をあげて御祝いする日だ
白の街だけじゃなくレーダ全体
それどころかエルフの森や
ゴブリン達やオーク達の窖でも
スズが十五の年に始まり今年で三回目
今年は半月も前から街中で準備が始まってた
これじゃそのうち終わったその日の夜に次の年の準備が始まるな
私は白の屋敷の裏手に領主がどうかもらってくださいと傅いてスズに差し出した土地に立った迎賓館とか言うところで開かれるパーティーに呼ばれていた
今日、そこに集まるのは寄合の面々に王様の使者、貴族と正堂の尼さん達に領主親子と騎士達、私とフウとリンは特別枠
自慢じゃないが目立つぜ
スズに手を引かれ正堂を出る
正堂の奴らは皆んなスズ姫様に頭を下げ
スズもそれにいちいち応えその度に相手が畏る
「手でも振っとけよ」
「挨拶は大事よ?」
こいつから見たら皆んな大して変わんねえんだろうにさ
そんな事を思い正堂を振り返る
救済院の頃の十倍はデカく
門前に店が並び
田畑を構え
家畜を飼って
何も知らねえヤツにここが領主様のお屋敷ですよって言っても疑わねえな
みなしごやワケありを際限なく受け入れ読み書きを教え
それ以外の時間は交代で自分の所の店や畑の手伝いだ
ワイワイと女達が布を縫っているのを見ていると、ここって何処だっけと首を捻りたくなる
その上よその街の救済院から面倒を見きれなくなったガキを押し付けられても断りゃしない
おじさんのところの若い衆だって大半は正堂の出だ
そいつらの前でシジュウやスズの悪口なんか言えば、姉さん!それはいけない事です!私らがガキの頃は毎日食うや食わずの奴隷みたいな生活で、それをお救いくださったのが姫様と真金様です!ってお決まりの説教から、初めて腹一杯食っていいって言われたあの日で始まるってなっがい苦労話聞かされちまう
まあ、私もおじさんが居なかったら救済院の世話になってたかもしれないんだけどな
白の屋敷に近づくと、もう見飽きた背の高いフードの女はいつの間にか居なくなっていた
アレで隠れてるつもりなのかね
まあスズの視界には絶対に入らない位置に居るのは凄えと思うけど、はたから見たら子供のお使いを後からついていく親と変わんねえよ
白の屋敷を過ぎ、迎賓館の門をくぐる
領主が差し出した屋敷の裏の土地に建った屋敷だ
白の屋敷の裏手を流れる小川を挟んでいて
同じような広さで
屋敷とは太鼓橋で繋がっている
絶対に屋敷に外の人間を迎えないスズの偏屈主人が私らの相手をする為に、渡された土地を使って建てさせた建物だ
勝手口がバカでかくなったってワケだな
スズが言うにはシジュウが無駄な出費だって嘆いてたらしいが
ココを使うのは、つまり外の奴らの相手をするのは四日に一度
あいつにとっちゃ王様だろうが街の商人だろうが変わらねえから、その日以外は王様の使者が来ても勝手口であしらう
まともに相手して欲しかったら明日来いって訳で
開門日の前日になると屋敷守が手入れして
当日に受付の案内でご入場って寸法さ
迎賓館には入れても太鼓橋を渡って白の屋敷へは行けない
橋の前に4本腕のごっついゴーレム達がやばそうな物持って通せんぼ
橋を渡ろうとした奴も居たが道に迷ったらしく未だに帰ってこない
スズと二人、迎賓館の門をくぐり受付によおと手を振る
「真面目にやってっか?」
受付は私の声にやる気なさそうに手を振って応えた
「おいスズ、あいつクビにしちまえよ」
スズは笑ってそうねと応える
受付小屋にすわるリンはわざとでかい声で、だいくのむすめー、入り、ひる三つぅーと言って帳面に筆を走らせ
それを見たスズはまた笑った
シジュウのツラを見るたびに自分もここで働かせろと言っていたリンだが、念願かなって白の屋敷でご奉公
私に会うたびにやりたかったのはこれじゃないと文句を言ってはいたが
一日の給金が金貨一枚
仕事は三日休んで一日出ての繰り返しで、やる事は人の出入りを帳面につけ順番が来たら迎賓館の談話室へ通す
日が暮れたら仕事はそこまで
変わってくれよと言いたいがシジュウの下で働く事になるのでまっぴらだ
三食昼寝入浴付きには引かれるけどな
迎賓館は見た目だけならスズの屋敷よりデカイ
平屋造りだが広い待合室と金のかかってそうな面会室
今日も使われる広間
奥には客間が並びその先には大きな浴室もある
「私達も汗を流しましょう」
スズが先に立ち浴室へ向かう
「いやイイよ」
「さっぱりして着替えましょう?」
「着替え持って来てねえし」
「貸すわ」
「いや、いいって」
人の話なんか聞きゃしない姫様は、屋敷守を見つけて声をかけ、二人の着替えとあとエルフをひとり呼んできてくれと言いつけ私の手を引きズンズンと進んだ
「人って変わるよな」
スズは何がと言って私を見て、私の視線を追い苦笑いすると60年ぶりだからと笑った
私の視線の先には姫騎士の頃の倍くらいにふくよかになった屋敷守のヒバナが重そうに走っていた
故郷に帰りふるさとの味に舌鼓を打っていたらいつの間にかああなったらしい
迎賓館が出来たての頃、屋敷守だと言って紹介された時は誰かわかんなかった
故郷から通いできているらしいが誰も屋敷から出て行くところを見た奴はいない
あとリン曰く性格悪いらしい
脱衣所で裸になるスズを呆れた目で見る
羨望の目で見るって言うと悔しいだろ?
細いって言うかスラットした体にいい感じに腰がくびれ胸は程よく張り出している
フウが見たら死にそうだな
あの野郎私の裸見て言うに事欠きエルフみたいって言いやがったからな
殺そう
ん?なんであいつエルフの裸知ってんだ?
よし殺そう
「しっかしお前のその下着何なんだ?」
「エルフ達の国ではコレが普通、慣れれば結構良いのよ?」
「慣れたくないね」
色柄は綺麗だけど
どうかしてるぜ
溺れそうに広い浴槽に浸かる
スズは浅く腰掛け魔法で水の玉を作って遊んでいる
「なんでそれ人前でやらねえんだ?」
「見せるものじゃないってシジュウ様が仰っるわ」
「はーん」
「本当はワンワンに、なんだ?曲芸か?って言われたから。もちろん毛をむしってやった」
私腹を抱えて笑っていると色の浅黒いキーだかイーだか言うエルフが入ってきた
「おもちゃにして良いのはその耳無か?」
「遊ばないでね?」
スズとキーが物騒な会話を初め
キーが刃物を手に私を手招きする
「さあ来い耳なし」
「シャンだ、良い加減名前覚えろ」
「お前こそ」
スズに捕まりキィの前に引き立てられ
全身の無駄毛を剃られ髪を洗われる
風呂から出ると汗が引くのを待って着替えが始まった
私の脱いだ服は絶賛行方不明
「服はいいけどコレはムリだ」
私はエルフが用意した下着を突きかえす
「何だ?下着をしない特殊な趣味か?安心しろ直ぐになれる」
スズはと言えば私のことはまるで気にせずよく冷えた果実水で喉をうるわせていらっしゃる
頭のおかしい下着の上から見えてもいい下着とか言うやはり頭のおかしい物を着せられ死にたくなったが、それ以外の用意された服は案外普通でホッとする
髪を整え化粧をすると、キィはまあこんなものかと言って私を鏡の前に立たせた
嫌になるね
本当に
何笑ってんだか
お前だよ、お前
鏡の中のお前だよ
ところで
「なあ、スズ」
「なに?」
「なんでこのスカート横が切れてんだ?」
「それはお洒落」
やっぱこいつらおかしいわ
キィにその服はやると言われ
後で返せとか言うなよと言うと耳なしが着た物なんかいらないよと笑われる
「ところで耳なし」
「何だよ、あと、せめて少しは名前覚えようとしろよ」
「百年生きたら覚えてやる、それよりお前、本当に血族にエルフはいないのか?」
「いないぜ?多分だけど」
「その体つき、とても耳なしとは思えないがな」
よし殺そう
パーティーは夜六つから
六つって言ってもこのお屋敷の数え方だけど
今五つだからまだゆっくり出来る
控室がわりの客間でスズと2人、くつろぐ
今日はお堅い集まりじゃないことになっているから皆んな時間より早く来る
あまりに楽しみだから早く着いちゃったってのがマナーらしい
お堅い時は支度に手間取りすぎたって事で遅れて来るのがマナー
貴族供のルールは分かんねえな
「今日って誰がくんの?」
「さあ?」
「さあ?ってお前」
「私が招待した外の人はシャンとフウとリン、後はシジュウ様が選ばれたから」
「大変だなお前も」
「挨拶するだけよ、名前も覚える気は無いもの」
「言うね」
音楽でも聞きましょう
スズはそう言ってポケットから音のなる板を取り出す
どこか遠くで奏でる音楽を聴かせる板から流れる音とスズの絶望的に音程のおかしい鼻歌を聞きながら窓の外を覗くとごっつい馬車が見えた
旗は王家の物と分家の物が並ぶ
王家の使者として分家のお偉いさんが来たってことか
その後ろは三大貴族
そこまで見てバカバカしくなりベッドに倒れこんだ
スズがシワになるよと顔をしかめるが良いじゃねえか
私なんか誰も気にしねえよ
六つの少し前
広間が開け放たれ来賓が流れ込む
主賓のスズ姫様と私はそろそろ行くかと立ち上がるがスズは外を見て何かをつぶやいた
「ちょっとだけ遠回りして広間に行きましょう」
時間をほんのちょっぴり過ぎてスズは広間に現れた
万雷の拍手の中の、スズに手を引かれて一緒に入室する場違いな私
どっかの貴族があれは何方だなんて言ってるのが聞こえてきてもう泣きそう
そんな中スズが振り向き手招きをした
私は良いのかねぇと思ったけどこいつらしいっちゃらしい
キョロキョロオドオドと槍がわりの棒を持った正堂の奴らが広間に現れ部屋が静まる
スズは一瞬嫌そうな顔をしてから笑顔に戻り部屋の隅に立つ毛玉を見ると毛玉が拍手を始め
エルフの達やシジュウ達がそれに続いた
それをされちゃ、ここじゃ王様だって右に倣えさ
広間には再び万雷の拍手が響いた
あの時スズが見たのはこいつらで
正堂の尼さん達の護衛でやって来たが中に入らず、受付小屋の横でたむろしていた
スズはそいつらのところへ向かうと、あなた達もどうぞと言って畏る元みなしご達を有無も言わさず引き連れ
そんでコレ
案外こいつちゃんと考えてんのかもって思うよ
たまにだけど
スズはまた後でねって言うと貴族や大商人達の挨拶を受けに行き
私は知った顔を見つけ、そいつらとスズに媚びへつらう奴等を眺めることにした
「それどうしたの?」
「スズの着せ替え人形にされてたんだよ」
「似合うよ」
「おう」
フウの奴は私をチラッと見てそう言うと次々と運び込まれる菓子や料理に視線を移した
「今日はスズの好物が並ぶんだって」
「じゃあ酒はないんだな」
「あるんじゃない?大人もきてるし」
「飲むか?」
「このお屋敷の中では22才になるまでお酒は御法度って何回も言われてるじゃないか」
「言っただけだよ」
ガラスのゴーレム達が料理や飲み物を運び込む
スズは偉そうな誰かの挨拶を遮ると、もうどうして良いか分からなくなって固まっている正堂の奴らに向かって、さめてしまうわって声をかけ挨拶に戻る
まあこんなトコでそんなこと言われても困るよな
しょうがねえなぁ
私は正堂の奴らの前のテーブルまで行きチーズの乗っかった何かをひとつ口に放り込む
「食っちまえよ」
正堂の奴の一人がそれを見て驚いた様に助手様ですか?分かりませんでしたってホッとした顔になった
お前普段どこ見てんだよって言ってやるとあまりにお綺麗で白姫様がお連れになられたのでどこかの姫様かとって照れやがる
「とりあえず食っとけ、そのためにあんだから」
奴らはハイって言って恐る恐る手を伸ばし、そっから先は食欲が仕事してくれるから私はフウのところに戻った
「ほれ」
「ありがとう」
「コレ、お前のところの串焼きだろ」
「うん、かあちゃんが朝からヒーヒー言って用意してたよ」
「朝から?まだあったかいぞ?」
「魔法じゃないかな」
「そーだな」
私の視線の先ではおじさんがスズに叱られている
きっと尼さんが産んだ子供の事だな
当の尼さんは、かあちゃんと赤ん坊あやして笑ってやがる
そんな中少し遅れて入ってきたリンが私を見てシャンだけずるいとふくれっ面
お前は普段からいいもん着せてもらってるじゃねえかと言い返すと、私もそう言うのが着たいとスネながらテーブルへ向かった
おじさんの所の若いヤツで腕も良く独立間近なヤツが私を見て驚いた様に声をかけきた
「姉さんお綺麗ですよ」
「褒めても戻らねえぞ」
「戻り辛くなりますよ?」
「わかってるよ」
それじゃあと言って若いのはおじさんの所に戻る
まあ確かに尼さんの赤ん坊が大きくなってから私が戻ったんじゃめんどくさいだろうな
スズを見ると挨拶の列に割り込んだ挙句文句を言うリンにれ困り顔だ
私はなんとかガラスのゴーレムが振る舞う酒を手に入れようとするが、ヒラリヒラリとかわされ、舌打ちして果実水を手に戻る
「異国とは言え掟だからな、一杯だけにしておけ」
見れば姫騎士を追いかけ、この街で仕官したケシミのおっさんが酒のグラスを二つ、私とフウに渡してくれた
「あのブドウも美味いぞ、なぜか凍っているが」
ケシミのおっさんはそう言って元姫騎士の所へ戻り、息子と二人楽しげに元姫騎士と話を始めた
挨拶の列が終わると毛玉がスズの横に立つ
「本日所用により欠席された三名からは謝状が届いている、まずレーレン領主、次に《村》長、最後に我らが主人様。それでは今より大森林の主にして《館》当代である主人様から頂いた御言葉を《館》次代へ申し渡す」
スズは一歩下がり畏まる
シジュウや館のエルフ、それにゴーレム達が一斉に頭を垂れた
毛玉はこほんと咳払いをし
「スズ、おめでとう」
スズは言葉を受け頭を垂れた
それに合わせゴーレムやエルフ達が手を叩き私達もそれに習う
「それからコレは主人様がお前を驚かせようと仰られて密かにご用意されていた物だ」
毛玉の言葉に合わせゴーレムが人の背丈ほどの額縁を抱え現れた
それを見たスズはまあ!と声を上げ
私達は目を疑った
そこには椅子に腰掛け本を読み聞かせる様なそぶりの男と、ソファー代わりの獣人にもたれかかりその話を聞くスズ
そして茶を淹れるシジュウの姿が描かれていた
それはもう絵と言うよりその空間を魔法で切り取った様に鮮明な鮮やかさ
きっと魔法で描いた絵に違いない
スズはいつの間にと言って嬉しそうにその絵を眺め
その場にいる偉い奴らは別の意味でその絵に釘付けになった
「白姫様、こちらの絵の方は?」
勇気を出し、王の使者が口を開く
「私の主人様です」
スズが絵を見たまま振り向きもせず答えると、おお!と言う声が一斉に上がった
私もだけど、こいつの、この館の主人の姿を
それが絵だとは言えみんな初めて目にしたんだから
個人的なことを言うともっと何かこう凄い奴を想像してたから拍子抜けだね
皆んなが絵に釘付けになる中、毛玉が広間を出る
それを見たスズが毛玉を捕まえ何かを言うが毛玉は笑って首を振り部屋を出た
「これは私達からだ」
スズを振り向かせる様にガキみたいなエルフがスズに声をかけ、小脇に抱えた包みを渡す
中からは額縁が現れたが、それを見たスズはパッとそれを隠す様に抱きかかえ、ありがとう、でも後で話があるわとガキみたいなエルフを睨みつけ
エルフ達はそれを見て揃って声をあげ笑った
「白姫様、それは?」
貴族の一人が隠す様に壁に立て掛け更に前にゴーレムまで立たせた額縁を覗き込もうとする
「コレを見た方とは戦です!ゴーレムとワンワンとセン達と魔獣とヒバナさんに麦藁一本残さぬ様に頼みます!」
スズは顔を真っ赤にして睨み
変なサーベルを腰に二本持ったエルフが誰から始める?とスズに笑いながら話しかけた
そんな事されたら逆に気になるじゃねぇか
私はスタスタと額縁に近づきヒョイと覗き込んだ
うーん確かにこれは此処では見せれんわな
振り返るとスズは真っ赤な顔に涙目で私を睨む
「早く片付けて下さい!」
半泣きのスズの叫に焦って戻ってきた毛玉が額縁をチラッと見た後溜息まじりにそれを抱えて出て行った
そのあとは取り乱しましたと言ってスズか頭を下げ、宴は続いた
フウの所に戻るとぷりぷり怒りながらスズも付いてきた
もう!本当にもう!
そんな感じてずっと怒るスズをなだめる
あれやこれやの相手はシジュウ達がこなし、エルフ達は誰かを捕まえてはさあ飲め飲まぬのなら戦だと言って回っている
スズの怒りの隙をつきフウが私に何だったの?と聞いてきたので男が見たら戦になるモンだよ答え
フウは何となくわかったと言って立ち上がると、スズに挨拶がまだだったねおめでとうと笑い少しスズの機嫌も和らいだ
まあアレはいかんよな
エルフ達と一緒に裸と変わらない格好で何処かの浜辺で何がおかしいのか笑いながらエルフ達と並んでいる絵だ
しかも魔法で描いた奴だろうな
肌や髪の濡れた感じとか妙に艶めかしかった
時が八つを過ぎた頃、私はこの国の宰相だよと挨拶され、私を唖然とさせた男が名残惜しい事ですが私達はコレでと引き上げ、大貴族達がそれに続き
九つになる頃宴は御開きとなった
「深く酔った者、夜道になれぬものは泊まっていけ。風呂とそこにある飲物は勝手とする」
シジュウが残った酔っ払い達にそう言い捨て、次に正堂の一行を呼びつけると山の様に残ったご馳走を邪魔だから皿ごと持って帰れと言いつけた
それも食い残しって量じゃねえ
皿が空くたびに新しい料理が絶え間なく運ばれてたんだからな
正堂一行じゃ持ちきれず領主一家の馬車を借りて持ち帰る
赤ん坊を抱えた尼さんは夜道は危ないからと、おじさんと赤ん坊の三人で客室へ消えた
おいおい、一人でも騒がれたのに二人目とかやめてくれよ?
かあちゃんは一度くらい帰っておいでと言って帰り
馬車を取り上げられた領主一家も酒を抱え客室へ向かった
リンは明日も早いと言って泊まると言い出す
お前明日休みじゃん
リンのおばさんは一緒に泊まっていくよとおじさんを帰し、私に頼むわねと言ってリンと客室へ
一体何を頼まれたんだか
未だに酒盛りの終わりを知らないエルフ達とヒバナにケシミ親子はほっとこう
泥酔したケシミの息子がひめきしどぉのぉーって泣きながらしがみついて、エルフ達がやんやと囃し立ててるのは一体何なんだ?
「ヒバナさん達も今日は泊まっていくって」
スズが見送りから戻り、私達の横に腰掛けた
ん?
ヒバナ達?
ヒバナと誰よ?
まあいいか
「シャン達も泊まっていくんでしょう?」
「そーだな、リヨの奴が明日も休まずだからなーあー休みてぇー」
私の声を聞いたリヨがこちらを向いてダメとやって見せる
「だってよ、私って可哀想だろ?」
スズはあははと笑い、じゃあ一緒にお風呂でもどお?と誘われたがなんか疲れたから朝にしとくよと断った
「じゃあ私は今から主人様に御礼を申し上げに戻るから、ゆっくりしていってね」
スズはシジュウ達を連れ、名残惜しそうに何度か振り返りながら屋敷へと消えた
スズは別れ際に見逃すのは今日だけだからねと言って私の手元に置かれたグラスを指差ていた
珍しくシジュウの奴が何にも言ってこなかったななんて思いながら、フウにお前も泊まってくんだろ?と聞くとウンと答え、じゃあ部屋でコッソリだなとそっと置かれた酒瓶を指差笑った
酒を持って取り敢えず空いている部屋を目指そうと立ち上がると、ケシミの息子をおんぶしたヒバナは、もう部屋が足りないからあなた達はそこの部屋ねと指差し、ひめきしどぉのぉーと叫ぶ背中の男に分かった分かったと答えながら別の部屋に消えた
一緒に飲もうとは言ったが
一晩同じ部屋となると
寝台もひとつきり
まあ今更だから良いけど
「綺麗だったね、スズ」
「そうだな」
他愛の無い話
フウは酒に少し口を付けだだけ
私もちびちび舐める
「なんか昔は可愛いなって感じだったけど今じゃ本当にお姫様みたいで口きいて良いのかなって思っちゃうよ」
「姫様だよ、昔っから。それよりよ!あいつ誰かに似てきたと思わないか?」
「シジュウ様?」
「ああ、話し方とか物腰とかそんなんじゃなくてよ、見た目とかふとした仕草とか」
「そうかもね」
「あいつら本当に親子なんじゃねえの」
「そうかもね、ねえ」
「何だよ」
「さっきの絵、どんなだった?」
「スズの裸」
「やっぱり」
「裸っても下着見たいのはしてたけどな」
「へー」
「どんなだったか教えてやろうか?」
全く私も酔ってるね
着ていた服を脱ぎ、あの頭のおかしな下着姿を見せる
「こんな感じ、感想は?」
「綺麗だよ」
「うるせえよ」
私は寝床に腰掛けるフウに覆いかぶさると耳元で可愛く囁いた
「ところでなんでお前はエルフの裸知ってんだ?」
もう朝なんだろうなぁとか頭のや片隅で思いながら、暖かでちょっとゴツゴツした抱き枕を抱きしめているとノックもなくドアが乱暴に開く
びっくりして飛び起きるとヒバナがズカズカと部屋に入り行方不明になっていた私の服を椅子の上に置いた
「ノックとか何とかあるだろうが」
私がグチるとヒバナは面倒くさそうに振り向きリヨさんはもう出られたよ、それと子供と子供が子供を造っても私は気にしないけど、静かな夜だと案外聞こえるから注意しなと言って消えた
「うるせえ、お前の方こそよく聞こえたよ」
裸のまま飛び起き、水と間違えて酒を飲んでしまい思わず吹き出す
「汚いなぁ」
のそのそと目覚めたフウが裸の私をジッと見つめる
なんか
何だよ
「悪かったなエルフ並で」
「いや、エルフより綺麗だよ」
昨夜エルフ女がやっている店の事を洗いざらい吐かせてやったのにまだこいつは、本当に
「綺麗だよ」
「ありがとよ」
「もう医師様出られたんでしょう?」
「良いんだよ、それは」
医師様はその日お召し上がりになるガキを物色する為に日の出と共に飛び出すだけだし
「正堂の食堂で朝飯でも食べてくかな」
「お風呂はいるんじゃなかったの」
「んーいいや、それとよ、その服、お前んとこに置いといてくれよ、後で取りに行く」
「分かった」
エルフから貰った服をフウに預け
自分の服に袖を通す
しっかり洗ってあってストッキングは新品になっている
御苦労なこった
フウを手招きすると、あいつは何さって顔でこっちに来た
裸のフウに締め付ける様に抱きつき肩口に噛み付いてやる
「痛いって」
「ゴブリンなら喜ぶぜ?」
「訳わかんないよ」
そんじゃあ行くわと言って部屋を出た
風呂に入りたい気もするが余韻まで流しちまいそうで
まあ今日はフウの奴がゴブリンの求愛について知らないってことがわかりましたって感じ
よし!
今日も変態医師様にこき使われるか!




