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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
23/100

十四話(い)

もうめちゃくちゃだ

ついこの前、街の中で戦騒ぎがあったってのに、今度は前の領主が大軍連れて攻めてくる

それもこれも全部スズのせいだ

いや、言い過ぎた

シジュウのせいだ



おじさんは寄合から戻るなり白の御屋敷が迎え撃って下さるからもう安心だと言って笑ってやがる

それでも市場からは物がなくなり値は上がる

逆に貧民街は救済院がパンを相変わらずのある時払いで売り続け、作る量も日に日に増やしている

街の正門はスズにぶっ壊されたままで

その瓦礫を積み上げ騎士達に守らせている



街は日に日に重い空気に変わり

救済院の尼さんは毎日大通りに立って近づいているのは戦では無い、正義の日だ勝利の日だって叫んでやがる

レーレンが進軍を始めたって噂が広がり街の雰囲気が一層おかしくなっちまうと、寄合に泣き付かれたスズん所からゴーレムが見張に貸出され壁の外を見回る

街に立つ尼さんは、白の御居館より一頭千軍の強者が遣わされた、万の敵など最早子供の使いと変わらないと説いて周る

尼さんの辻説法を聞く人集りの中から俺も見たぞ!あの日レルの軍勢は白の御居館のゴーレムの前に羽虫の様に蹴散らされていた!と声が上がる

こりゃ仕込だな



雄叫びが街中に響く夜が明ける

かあちゃんは金と身の回りのものを袋に詰めいざという時逃げ出す支度を始めた

何処に逃げるところがあるんだよと私が呆れると真顔で睨まれた

おじさんは若い衆を櫓や物見の遣いに朝から走らせている

嫌になる静けさの中、ジリジリとした時を過ごしているとフウが飛び込んで来て私に抱きついた

おいよせバカと焦る私


「勝った!スズの大勝利だよ!」


《スズ》の一言を聞きフウの頭にゲンコツを落とす

このやろう、街を抜け出して戦見物に行ってやがったな

外でも大勝利大勝利と叫び回る声が響き始め、若い衆も親方大勝利ですと駆け込んで来た


「で、どんな具合いだ?」


私はフウを引き剥がしながら聞くと

レーレンは総崩れさと胸を張る

お前が胸張ってどうする


フウに手を引かれ正門へ向かうと騎士達が威勢良く駆け出して行った

逃げるレーレンに追い打ちをかけるらしい

門の前では下るからと命乞いをする男達が身包みを剥がされていた


昼にはお祭り騒ぎが始まり

夕暮れ前には戻った騎士達が百人討ったとうそぶく

私たちはそこら中で振舞われる食い物で腹を満たし、コッソリと酒も飲んで見た

酒を舐めただけで大人になったつもりのフウがスズはもう戻ったかなと呟き、腹が立ったので餌を食うトカゲでも眺めてるんじゃねえか?と嫌味を言ってやった


フウが何か言い返そうとしたところで役人に声をかけられた


「ああお前、お前だよ、なんだっけ?御屋敷に出入りしている大工の、そう、お前、こいつを馬小屋に運ぶのを手伝ってくれ、いやぁ牢にもう入らないってんで馬小屋にも押し込んでるんだが、人手が足りなくてな、水も飲まさん訳にもいかんし、死なれたら身代金も取れないんだ」


私とフウは桶を渡され元代官屋敷の馬小屋へそれを運んだ

そこには男達が押し込まれ黙り込んでいた


「水、ここに置いたからな」


馬小屋の中に桶を下ろし戻ろとすると一人の男に声をかけられる


「姫騎士殿が何処にいるか知らんか?」


男は私の腕を取り小声で話す


「姫騎士ってアレか?王様のところの」


「ああ、今日の戦で私達に一言もなく魔法使いの下に走られた、せめて一言頂ければ付き従ったのだが、知らんか?」


「いや、知らねえけど、魔法使いに聞いてやろうか?」


「出来るのか?」


男は驚く


「ああ、スズ姫様の御友人ってやつだからな私」


「すまんが頼めるか、それと何か食う物を持ってないか?」


しょうがねえなぁ

私はお祭り騒ぎのさなか、袋ごと失敬した酒を男に渡す

男は驚き、まだ早かろうと私を見て叱る様なことを言う


「いらねえんなら返せ」


「いや、ありがたく受け取るよ。とにかく頼んだ、私はケシミ、姫騎士殿の従者だ」


フウと牢番にまだか?と急かされ私は馬小屋を出た


「よし、スズんとこ行こうぜ」


嬉しそうにそうだねと返すフウのケツを蹴っ飛ばし白の屋敷へと向かう



スズの屋敷では戦勝祝いの使者が引きも切らさずってやつで随分と待たされた

スズは使者の相手で少し疲れた様子で

それでも今日は晩御飯をたかりに来たの?と笑って出迎えた

フウの奴はデレデレとして、おめでとうとか抜かし

スズもこれはご丁寧になんて笑う

私はこれ以上大ごとにはならないんだろうなと言ってやった

スズはうーんと首を傾け、それを見てると頼むぜと泣きたくなっちまう


「まあそれはいいや、お前んとこに《姫騎士》居るか?」


私の言葉を聞きスズは姫の次は騎士と言ってウンザリしやがる


「お前じゃなくて、女の騎士」


スズはエルフの事?と不思議そうな顔をし

フウが少し顔をヒクつかせる

まどろっこしいなと思い馬小屋での事を話すと、スズは多分ヒバナさんねと言い、少し待ってと言って壁に手を当て独り言を始めた

私達には聞こえないがアレで屋敷の中と話ができて居るらしい


スズは壁との話し合いが終わると

今着替えて居るから少し待ってと言って椅子に腰掛け私達にも座れと席を勧める

まるで私達が座るのを待っていた様に大柄なエルフが現れ、残り物だがと言って湯気の立つスープを差し入れた

勝手口って呼ばれるここは日が暮れてもボンヤリとあったかい不思議なトコだが、腹からあったまりそうなコレはこれで有難い

スープに沈む白い団子を口に運ぶ

なんだこりゃとフウと二人顔を見合わせる


「うまいんだけどよ、これいつ呑み込みゃ良いんだ?」


私の横でフウもウンウンと頷き

スズはそれを見て飽きたら飲み込んでと笑う

変なもの食ってんなと言いながら次の白い団子を口に放り込む

スズは、リヨはとても料理が得意なの、きっといいお嫁さんになると思うわって言い出し、そう思わない?とフウに話を振る

フウはそうだねと反応に困っていた


「それより戦はどうだった?」


話を変えようとスズに声をかけると、うーん、それはワンワンが一人でしてたから。私は鳥を見たり山賊焼を食べたりしてたわ、もちろん主人様のお世話もしていたと胸を張る


なんかもうどうでもいいよ

本当にそんなに気にさせてくれるお姫様だよ

お前は


スープを食べ終わる頃、戸が開き一人の女が現れた


「私に話があるって言うのは君かい」


現れた女の格好を見て、とりあえずフウをぶん殴って横を向かせた


「ああ、この格好か。風呂をいただき着替えをテイ様にお借りしたんだが」


現れた女はまあ裸ではないよなって格好で


「あんた本当に姫騎士?」


嘘だろと呆れる私に女は、昔の恥を聞かされた様な顔で、そんなふうに呼ばれてたわねと嫌そうに笑った

半信半疑で馬小屋での事を話して聞かす、疑っていたので男の名前は伏せた

すると


「ケシミかしら?ミップじゃ無さそうだしモツチなら泣きながら命乞いしてそうだし、子供だった?もしそうならケシミの息子のシミンなんだけど」


こりゃ本物かと思い

私はケシミって名乗ってたよと答える


「私は死んだってって言っておいて」


姫騎士は明日の朝一番に故郷に帰るからと嬉しそうに笑う


「ちょっと待ってて」


姫騎士はいったん戻ると鎧を抱えてきた


「形見だって言ってこれでも渡しておいて」


仮面と白い鎧

もうここには戻らないし捨てていくつもりだったからと嫌に嬉しそうだ


「紙とペンは無いかしら」


姫騎士が私に聞くがそんなもん持ち歩くかって話で

大柄なエルフがこれしか無いがと言って菓子の包み紙とペンを渡す


包み紙の中身?

私の腹の中に入れといたよ


姫騎士はそれにサラサラと文字を書くと、スズさんここにサインをしてとペンを渡し、スズはなんて書いてあるの?と聞きながらも私が読めない文字でサインを書いた


「ありがとう、《姫騎士従者ケシミ他三名の放免を命ず》これでいいわ、ありがとうスズさん」


お前私の時はサインしなかったよなとスズを睨むとスズは舌を出してみせた


姫騎士はその紙を私に託し

これはあなたにあげると言って自分のしていた指輪を私の指にはめた



鎧全部はもちきれない

私は仮面を持ち、胸当てだけをフウに持たせ屋敷を後にした

忘れてたがフウは私が姫騎士と話しているあいだ、コッチを向かせようとするスズの誘いに乗るたびに私のゲンコツを受けていたので割とボコボコだ

ガタイのいいエルフが別れ際に薬を塗ってたから大丈夫だろう



馬小屋に戻り役人に菓子の包み紙を見せる


「それ、読めねえけどスズ姫のサインな」


私の言葉に役人はうろたえ上役を呼ぶがそいつもサインが読めるわけでも無い

何人目かの上役が領主のところに走り

大工のところの娘ならば本物だろうって事になった


よし、あのサイン覚えておこう


紙は役人が預かり

そいつが馬小屋の中に声をかけた


「ケシミ、三名を選んでここに来い。放免だ」


馬小屋の中で俺を俺をと一悶着が起こるが、しばらくして四人の男が現れた


「腰の物は返せん、路銀は放免の定めに従い渡す」


役人はケシミのおっさんに小銭を渡すと早く行けと言って椅子に腰掛けた


「姫騎士殿の姿が見えんがどちらに?」


男達は辺りを見渡す


「死んだって言ってくれって言われた、コレは形見だと」


男達に胸当てと仮面を渡す

ケシミのおっさんはそんなって呟き

フウの顔を見て驚いた


「危ない事をさせてしまったのだな、すまない」


フウの奴が私をにらむので

お前頑張ったなと肩を抱いてほめてやった


「故郷に帰るってさ、餞別にコレくれたぜ」


私が姫騎士から貰った指輪をケシミのおっさんに見せると

おっさんはガクリと膝をついて私の指を見つめた


「そうか《故郷》か、姫騎士殿はいつ?」


「明日の朝一」


「私達の事など知らぬと見捨てれば良いのに、あの人は」


おっさんは自分の手を見つめると

そこに姫騎士から貰った指輪と同じものがあった


「我らは五指のごとくとこの指輪に誓い合ったのに、あなたが望むのなら我らはエルフの里でも何処でも喜んで付き従ったのに」


おっさんはまるで指輪に話しかけている様で


「娘、姫騎士殿は何処の誰に売られるか分からんか?」


こいつ何言ってんだ?


「姫騎士殿は帰る故郷など無いと常々仰っていた、何故レーレンを手に掛けたのか分からんが姫騎士殿の命乞いで私達は死の魔法から逃れる事が出来たことは間違い無い。何せ私達のすぐそこまで死が迫ったのに、わずか手前でその波が止まったのだ」


「イヤイヤ、おっさん、死がどおとかは知らねえけど姫騎士は本当に帰るだけだと思うぜ?」


確かに聞いたのか?とおっさんが疑う様に聞くもんだから


「本人から聞いてみる?」


「会えるのか⁉︎」


「朝一って言ってもスズの所はゆっくりしてるから多分会えるぜ」


おっさんはフウのボコボコな顔面を一度見て


「場所を教えてくれれば良い」


「あー、いや、私がいないと追い払われるのがオチだから」


「君は大物なのだな」


おっさんは笑い

皆も覚悟は良いのだろうと言うと仲間は頷いた



救済院におっさん達を預け、日の出前に迎えに行くよと言って別れた

家に帰るとウチのおっさんは若い衆と酔いつぶれ大いびき

かあちゃんは私を見ると早く寝ちまいなと言って寝床へ消えた

私はテーブルに転がるイモをひとつ口に放り込んで寝床に転がり込んだ



目が覚め救済院へ向かうと、フウが門の前で待っていた


「よお、そんなに殴られたいのか?」


「うるさいなぁ」


ほら行くぞと声をかけ救済院に入るとおっさん達は外に出て待っていた


「来てくれたか、しかしこの街の救済院は何処ぞの貴族がやっているのか?救済院にしてはえらく贅沢だったぞ」


「その金の出どころに今から向かうから期待しときな」


「魔法使いの館か、覚悟は出来ているさ」


私達がスズの屋敷の勝手口へ向かうと、おっさん達は忍び込むのでは無いのか?騙しているのでは無いのかとうるさく


「その魔法使いの主人と私達は友達だから」


「信じられんが」


私が勝手口で声を上げ

少しすると誰も居ないのに門が開く


「入ろうぜ」


私とフウが中に入るとおっさん達もおっかなびっくり付いてくる

門が閉じしばらくすると毛玉の兄貴がやって来た


「まだスズなら寝ているぞ」


とそこまで毛玉が言ったところでおっさん達がとびのき


「やはり罠か!騙したな小娘!」


「待て待て!こいつ大丈夫だから!ペット!魔法使いのペット!」


騙されんぞと吠えるおっさん達

気がつきゃフウは腰を抜かしてる


「一体なんなのだ全く、お前達は礼儀というものをあまりにも知らん」


「怒るなよ毛玉、いきなり来たお前も悪いんだ。悪いんだけどヒバチ呼んでくれよ」


「ヒバナだな、待っていろ」


まったくとか何とかブツブツ嘆きながら毛玉は館に戻り、完全に腰が抜けたフウとにらむおっさん達に囲まれ待たされる


針のむしろを堪能した所で毛玉が姫騎士連れて戻ってきた

姫騎士は昨日の格好の上にストールを羽織って、あらまあって顔で此方を見た


ヒバナはどおしたのとへたり込んだままのフウに手を貸し椅子に座らせる

そんなヒバナの姿を見たおっさんは


「姫騎士殿・・・なのですか?」


「そんな人は死にました」


「その声、やはり姫騎士殿なのですね、お顔を始めて見せていただきましたな、てっきりエルフの類と思って居ました」


「人違いです、私はこれから故郷に帰るの、だからあなた達もお元気で」


そこでそれまで黙っていた若い男が声を上げた


「姫騎士!何処へともお従いいたします!その格好の訳も聞きません!たとえ純潔を失っても姫騎士は姫騎士です!」


それに続いて声が上がる


「父と母も姫騎士のお帰りを待っています」


「ついに姫騎士の顔を見たぞと嫁や息子達に自慢させて下せえ」


さあ姫騎士殿!とおっさんが手を差し出すとヒバナはその手を押し戻す


「その呼び名が嫌で仕方なかった、この国が嫌で仕方なかった、お前達が嫌で仕方なかった。だから私は帰る」


だから姫騎士は死んだともう一度笑った

そんな押し問答を眺めていると、毛玉が肩をつついて私に籠を渡してきた


「おふくろ様が持って行けと、有り難く受け取れ」


「気がきくじゃねぇか」


中身をテーブルに並べる、朝飯にはちょうど良い

茶を入れパン取り出し柔らかい鳥の燻製にかじりついた

フウはすごいなぁコレと鳥の燻製に感動しきりだ


「最後の最後にあなた達を見る羽目になった、まったく」


姫騎士は、膝をつき力なくうなだれるおっさん達の肩を叩き私は死んだと王に伝えておいてと笑って館に戻り

私達もちょうど朝飯を食い終わった


おっさんはうつむいたまま震え、魔法使いを呼べ!姫騎士にかけたおかしな術を力ずくで解かせてやる!と唸りだした

ついさっきまで、メシを食う私に行儀がなっていないとか何とか小うるさく口を出す毛玉が、とびきりのバカを見た様な声を出す


「誰を呼べと?」


あ、コレヤバいやつだ

毛玉が真顔だ


「魔法使いだ!」


「それは魔法を使える者を呼べと言うことか、それとも畏れ多くも大森林の魔法使いたる主人様に対するお言葉か?」


おっさんの返事を遮り、私が焦って割って入り毛玉に、シジュウだよ!この街で魔法使いって言えばシジュウ!と飛び上がる様に叫んだ


「おふくろ様か?おふくろ様は朝の支度で忙しい、第一貴様ら如きにいちいちおふくろ様がお相手下さるわけがなかろう、慎め」


そーだよなー私もそー思うよーと毛玉をなだめ、おっさん達を連れて帰ろうと振り返るとおっさんはおっかねぇ顔で毛玉を睨みつけ、そこをどけ!と叫び

後頭部から地面に叩きつけられた


何が起こったかって聞かれれば毛玉がおっさんの顔を掴んでそのまま地面に叩きつけたんだけど、こいつ今の今まで私の横にいたよな?

フウを見ても自分もわからないと首を振る

なんだよこの毛玉


「とっととこの毛無を連れて帰れ」


毛玉はおっさんを男達に投げて渡すとフウの顔を見て吹き出した


「スズから聞いていたより酷いな、お前、女は選んだほうがいいぞ」


フウは怯えた様にコクコクと頷いて

だから取り敢えず一発引っ叩いといた


毛玉はそれを見てこれはヒドイと笑い私の耳元でささやいた


「おふくろ様から言伝だ、望むなら城を建てて金貨を敷き詰めてやる。どうだ?少しはその気になったか?」


私はこれが返事だと言ってフウのケツを蹴り飛ばし

なんで蹴るんだよとフウは悲鳴を上げた

毛玉は城で足りなくば国でもいいぞと笑い、空になった籠を持って館に戻った



取り敢えずおっさん達を救済院へ連れ寝床を借りて休ませた

救済院はちょうど朝飯の時間らしく、皆さんもどうぞと甘い粥と塩とバターの効いたパンを貰う

もちろん食べたさ、朝飯は一回って決まりはないからな


「おい娘、お前、館の主人の友達だと言っていたな」


気がついたおっさんが頭を押さえながら身体を起こしてそお言う


「一応な、聞かれる前に言っとくけど無理だぞ」


「お前を人質にしても無理か?」


「無理だな」


おっさんはそうかと言って粥を見つめた


「湯も水も食い物も人に分けるほどあり、こぎれいな身なりをし外に働きに行かされているようにも見えない。コレが救済院だと言うから驚いてしまう」


「変わった奴らだからな、今の領主なんかシジュウに言われて国中から金貨集めて納めてたぜ、その金貨が今度はスズの屋敷から街中に吐き出されてんだ。このまま何年か経てば貧民街のコジキが銅貨なんか見向きもしなくなるぜ?」


「魔法は禁忌だ、隠れて学ぶ者も多いが我々の理の外にあるものだ、王国も敵対する隣国でさえも御聖堂を崇め奉っている、それにこの度は魔法使いとその姫が貴族を討ち、その土地を奪ったのが事の始まりなのに王は喜んで新しい貴族をそこに立て魔法使いの姫のご機嫌とりに躍起だ」


「キンキンだとかコトワリとかよく分かんねえけどさ、街中に金がばら撒かれて、みんな腹一杯で、新しい領主になった途端に都から物が流れ込んで、税も今までと比べりゃ無いみたいなもんだ。そりゃ皆んな目の前で何百人も殺されようが大蜥蜴が人食って歩こうが姫騎士が売女よりひでぇかっこさせられようが誰も気にしねぇ、それが私ら下々ってヤツさ」


「真理だな」


「昨日の戦も酷かったんだろう?知らねえけど」


「ああ、始まる前に皆殺しにされていたよ。あとはコノザマだ、姫騎士殿が何故あの様な事をされたのかは皆目わからん」


「それだけどさ、多分姫騎士はスズの国の間者だったんだよ、話に聞く姫騎士みたいな事が出来るエルフが何人もあの屋敷には居るんだ。もう仕事は終わったから帰って来いとでも言われたんじゃ無いかね、あの格好も嫌がってなかったし、屋敷にいるそのエルフ達もいっつもあんな格好してるしよ。だから本当に故郷に帰るんじゃ無いかな」


姫騎士殿が何人もかとおっさんは呆れた様に笑う


「一応街の一人として言うとさ、屋敷の主人は姿見せねえし、その娘は抜けてる世間知らずだし、お付きの魔法使いは私らの事なんか野良犬程も見ちゃいない、ペットに至っては喋る獣人で、何しでかすか分かんねえエルフが朝から酒飲んでふらふらしてる、どこに隠してんだか分かんねえけど魔獣も居るしゴーレムなんか百体どころじゃねぇ、それでもなんかされた事っては無い。街のガキが門から覗いても菓子を渡して追い払うだけだ、あそこに魔法使いや魔獣がいるなんて事は街のやつなら赤ん坊でも知ってるさ、だからあんまり魔法使いって目くじら立てないでくれ」


「姫騎士殿の事は諦められんが、お前達がそれでいいのなら私達がとやかく言う事では無いのだろうな」


おっさんは世話になったと言って立ち上がり、大人しく引くことも姫騎士殿の教えだと言って仲間を連れて部屋を出た


「おい!」


私は立ち去るおっさん達に声をかけておいて散々迷い

財布の中から金貨を一枚取り出し投げ渡した


「路銀だよ、やるんじゃねえからな!貸すだけだからな!」


おっさんは金貨を見て笑うと必ず返すよと言って救済院を出て行った

置物かと思っていたフウが口を開く


「いいの?一月分の手間賃だろ?」


私は利子つけて返してもらうからいいと答えた

別にあの金貨は良いんだ

シジュウから持ってけって言われた菓子の包みの中に入ってたやつだから

もう寝床の下に何十枚もねじ込んである

悩んだのだって金貨が惜しいからじゃなくシジュウがよこした金に手をつけるのが嫌だからで


だからフウを蹴っ飛ばした


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